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2021.11.01

通信制高校が普通の子にも過去最高で人気を集める理由とは?注目の高校も紹介

文科省の調査によると、高校進学者の15人にひとりが通う通信制高校。全日制高校に通えない子の高校というイメージは変わってきています。普通の子にも人気の理由や大学進学について愛知学院大学の内田康弘さんに伺いました。注目の通信制高校も紹介します。

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話を伺ったのは…

内田康弘さん愛知学院大学専任講師

専門は教育社会学。通信制高校・サポート校や定時制高校、全寮制高校を中心に、不登校・高校中退経験を持つ生徒の学校生活や進路選択について研究している。また、NPO法人の実施する学習支援など、多様な学びの場に関する研究も行う。著書(共著)に『通信制高校のすべて』(2017年、彩流社)、『ブラック校則』(2018年、東洋館出版社)など。

通信制高校が増えた理由とは

1980年代後半、全日制高校と同じく3年で卒業できるようになった教育改革をきっかけに右肩上がりで増え続けている通信制高校。1991年には私立18校、公立68校しかなかった全国の通信制高校数は、2020年には私立179校。公立78校にまで増えました。

「わずか30年で私立校が10倍増えた背景の一つとして、サポート校・サポート施設の存在が考えられます。通信制高校は基本的に自主学習のため自己管理が卒業のカギとなります。

私立の通信制高校の多くで、3年で卒業できるようにサポートする場所ができ始めたことは、1980年代後半から1990年代に起きた通信制高校における大きな変化であり、以降、私立の通信制高校に注目が集まるようになった一つの要因になっています」

そう語るのは、通信制高校についての研究を行う教育学者の内田康弘さんです。

「1980年代の教育改革では、高校の多様化がひとつの目的であり、その狙い通り、社会生活に不安がある子、毎日朝から夕方まで通学することに不安がある子、さまざまな理由で不登校経験や高校中退経験がある子などが、通信制高校に目を向けるようになっていきました」

このような背景を不登校の小中学生が増加傾向にあることと合わせて考えれば、通信制高校や通う学生が増えていったのは自然な流れといえます。

<通信制高校のシステムなどについての詳しい記事はこちら>

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<通信制サポート校についての詳しい記事はこちら>

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少子高齢化が進み、高校生の全体数が減少してる中、生徒数が増加しているのが通信制高校。不登校や勉強の苦手意識が強いといった、さまざまな理由で選択する人が増えている.....

あえて通信制高校を選ぶ子が増えている

先ほど、不登校経験や高校中退経験がある子とされた通信制高校の学生ですが、生徒のタイプは、保護者世代が学生だった1980~2000年代に比べると大きく異なるようです。

「現場の先生方の話を聞く限り、1990年代の私立通信制高校の数が増え始めた頃は、学校を嫌っている子や、いわゆるヤンキーやギャルと呼ばれる子が多く、子ども自身は『学校に行きたくない』けれども親御さんが『高校ぐらいは卒業させたい』と思って行かせている場で、どちらかといえば荒れている子が多いような印象でした」

一方、近年はやんちゃな子というより落ち着いている子が多いそう。

「調査のため全国の通信制高校を訪問していますが、『昔はやんちゃだった。でも最近の子は大人しい』というのが先生方の共通の言葉です。近年は、コミュニケーションが苦手な子、不登校や引きこもり経験のある子も増えていて子どもの傾向は大きく違います。環境的にも”落ち着いている”のが実情です」

ただし、不登校や引きこもり経験のある子ばかりかといえばそうでもありません。

「不登校・引きこもり経験のある子が多く在籍している通信制高校もありますが、なかには大学進学や専門職への就職など将来の進路選択に力を入れる通信制高校もあり、『不登校経験があるから通信制高校』というわけではなく自分の意思で入学するという子も増えています

一概にはいえませんが、”通信制高校は不登校・いじめ・中退・引きこもりの子ばかりが通う学校”というイメージは古くなってきています」

通信制高校は、(全日制高校に)入れないから親に行かされる学校ではなく、(自分の意志で)入りたいから入る学校になってきているようです。

通信制高校に通わせる親の気持ち

また、通信制高校の社会的認知も変わってきていると内田さんは話します。

「駅の看板や電車の中づりなどで通信制高校を見ることが増えてきて、通信制高校の認知度は徐々に高まっています

街中で日常的に”通信制高校”という言葉を見かける今の中学生・高校生と、限られた情報とこれまでの先入観で今の通信制高校を捉えがちな保護者世代では、通信制高校に抱くイメージは大きく違いそうです。

ですが、子どもから「通信制高校に行きたい」と言われてすんなり受け入れられる保護者は多くはありません。

「最初から通信制高校に通うことに肯定的な親御さんは少ない印象です。僕自身はお子さんが望む限り通信制高校に行くことを応援したいと思っていますが、まだまだ通信制高校は一歩踏み出しにくい選択肢と捉えられている側面もあります。

親御さんが通信制高校への進学に反対することを否定する気はありません。ですが、通信制高校も一つの選択肢に入れながら、そもそも高校に行くのか行かないのかということも含め、『どんな高校に行くのか』『どんな学校生活にしたいのか』親子できちんと話し合ってください

そして、通信制高校を選択するにしても、『何を目標にして通信制高校に進学するのか』ということを親子で決めておくことが大切です。

もし、『毎日必ず学校に行く』ことに価値を置くのであれば通信制高校ではないかもしれません。ですが、『子どもが楽しそうに通う姿を見たい』のであれば通信制高校は必ずしも消極的な選択肢というわけではありません

通信制高校の学費はサポート校による

また、保護者が通信制高校を選択肢を躊躇してしまうもうひとうの要因が学費です。

通信制高校への進学情報を提供する出版社「学びリンク」によると、2020年度の私立通信制高校の入学時にかかる学費の平均は下記のようです。

まず、2020年度の私立通信制高校の入学時学費平均を見てもらうと次のようになります。

入学金40,000円
授業料225,000円
施設設備費41,000円
教育充実費61,000円
【合計】367,000円
※20年度私立通信制高校129校平均、授業料は25単位履修の場合、学費の内訳・名目は学校により異なる場合があります。【学びリンク調べ】

「通信制高校は単位制という学校が多く、授業料は”1単位授業料×履修単位数”で計算します。私立について、20年度の1単位の授業料の平均は約9000円(8983円)です。また、選択するコースによって教材費も変わっていきますが、必ずしも通信制高校が全日制高校に比べて非常に高いというわけではありません

ですが、通信制高校の場合、3年間で卒業するためにサポート校も合わせて通うケースが多く、上記にプラスしてサポート校の費用が必要になります。

「平均でサポート校の費用が年間73万円かかるとされています。決して安い金額ではありませんので、納得して支払うためにも通信制高校に通う目的を親子で話し合ってください」

通信制高校卒業後、大学進学する子は増えている

通信制高校卒業後の大学進学率は高くなってきています。

「文部科学省が2020年に調査したデータによると私立通信制高校の場合、約20%が大学進学、専門学校への進学率と合わせると約43%が進学しているとされています。約70%が進学するとされている全日制高校に比べれば低いですが、保護者のイメージにある通信制高校と比較すると、約半数が進学するというのはそれなりに高い数値なのではないでしょうか」

進学率が高くなっている理由は、通信制高校の意義や課題が、”高校を卒業させる(高校の卒業資格を得る)こと”ではなく、”卒業後進路に接続させること”にあるからなのだそう。通信制高校によっては、有名大学の指定校推薦枠が用意されている学校も少なくありません。

「高校卒業資格はどの高校を卒業しても同じものです。通信制でも定時制でも全日制でも、その資格があれば大学進学や就職ができます。僕は大学で教鞭をとっていますが、講義やゼミを行うなかで目の前の学生が通信制高校卒業なのか全日制高校卒業なのかは分かりませんし、通信制高校出身だったからといって区別することは一切ありません

通信制高校に行ったから大学進学の道が閉ざされ、将来への選択肢が減るようなことはなさそうです。むしろ、高校卒業さえできればいいと思っていた子が、通信制高校で学校への印象が変わり、大学進学を考えるようになることもあるそうです。

「私立通信制高校の70%程度は、不登校の子どもを受け入れることを明言しています。学習サポート、通学日時の選択などさまざまなシステムがありますが、共通しているのは、子どもたちが思い描いている高校生活を送るためのサポートであるということです。

そして、思い描く高校生活とは、友だちと仲良くなること、学校行事をがんばることなど、親御さんからすると決して特別なことではないかもしれません保護者世代が考える”普通の学校生活”を、学校に対してあまり良くない印象を持っている子でも送れるように日々支援しているのが通信制高校です。

その結果、不登校や学校嫌いな子どもたちが『進学したい』と言うようになり、親御さんたちは『え?もっと学校に行きたいの?』といい意味で驚きます。

子ども達の多くは、『サボりたいから』『楽したいから』とか通信制高校を選ぶわけではありません。中学校までの生活とは違う『してみたかった学校生活』を求めて通信制高校を考えています。

中学までの学校生活との小さな違いを積み重ねていくことが、高校卒業時の大きな違いとなるようです」

子どもに合った通信制高校を選ぶ3つのステップ

2019年度時点で全国にある私立の通信制高校は175校。そのうち、109が広域通信制高校(※)になります。100校以上ある高校から、どうやって学校を選べばよいのでしょうか。内田さんは3つのステップを教えてくれました。

※居住地の近隣3県からしか進学できない狭域通信制高校とは違い、全国各地にサテライト校(サポート校)があり、広範囲から進学できるのが広域通信制高校です

【ステップ①】進学ガイドや学校案内で情報収集

都市部であれば30校以上から選べる通信制高校。どのように厳選していけばよいのでしょうか。

「まずは進学ガイドの購入や学校案内の取り寄せを行いましょう。ひとことで通信制高校といっても学校の特色はそれぞれ違うので、まずは情報を得ることが重要です」

例えば、下記のようなことが学校によって違うそう。

<学校による違い①>制服など服装について

制服があるかないか、文化祭・修学旅行・遠足があるかないかなど、子どもがイメージする学校生活と合っているかどうか考えてみましょう。通信制高校やサテライト施設の制服もありますが、自分で好きな制服を着ていいなど学校によって規程は違います。服装面は思春期の子どもにとっては大事なことです。

<学校による違い②>校則について

髪を染めていいか、バイトをしていいかなどの校則もチェックしておきましょう。

<学校による違い③>学習サポート

通信制であっても高校なので、もちろん遊んでいるだけで卒業はできませんし、しっかりと計画的に学習する必要があります。高校の学習についていけるための制度や補習があるか、ということは学校選びの大きな材料です。

発達障害傾向がある子への支援が充実している、臨床心理士やスクールカウンセラーがいる、中学までの学び直しサポートが実施されているなど、それぞれ独自の特徴があります。サポートがわが子のニーズに合っているか考えてみましょう。

<学校による違い④>卒業後の進路のサポート

大学進学を掲げる学校は多いですが、進路と直結するという意味で専門学校で学ぶような学び、目指す職業に直結する学びができる学校もあります。

【ステップ②】何校かを見学、体験をする

しかし、相性はどのように見極めればよいのでしょうか。

「通信制高校やサテライト施設のホームページを見ると、学校説明会や体験入学を実施しているところが多いので、できる限り利用してください。授業や生活の様子を見て、サポート施設も含めて雰囲気が分かるような事前の情報収集を念入りにしていただければと思います」

ただし、いくら冷静に学校を見ようと思っても、見学や体験入学は緊張していて雰囲気にのまれてしまうことがあります。

「大人でもそうですが、初めは先入観や学校へのイメージを裏付けようといいところ、悪いところばかりを見てしまいます。そのため、学校見学や体験入学は、可能であれば何回も行ってください。例えば、引っ越しや家電購入の際、複数の会社を比較するのと同じように、学校も何校かを比較してじっくりと考えてほしいですね」

【ステップ③】子どものフィーリングを大切にする

「全国の通信制高校やサポート施設を訪問していますが、子どもたちに『何でこの学校にしたの?』と聞いても、「フィーリング」と答える子が多いです。ここだけ見ればふわっとした答えだと思われがちですが、決して適当に選んでいるわけではありません。

例えば、学校一覧やパンフレットを見ていても、その情報から子どもは何かを読み取っていますし、実際に見学などをした後であれば、学校や生徒の様子、スタッフとのやり取りなどを見て、さまざまな要素を総合的に集約して判断しています。これを『フィーリング』と言っています

とはいえ、保護者としては、選んだ理由を納得したいですよね。

「子ども自身がそのフィーリングをどう伝えたらいいか分からない場合、意思疎通が難しくなることもあるかもしれませんが、そうしたときには、『なんでこの学校なの?』と聞くより、『どうしてこの学校がいいと思ったの?』と肯定的に聞いてあげると、『制服かわいかったから』など思っていることを言いやすくなります。

発言だけがすべてではありませんが、『実は制服着たかったんだな』など、子どもが学校に対して求めていることが分かるようになっていきます。子どもへの理解が深まっていけば、明確な理由に納得できなくても親御さんの気持ちも変わっていくと思います」

おすすめの学校は人それぞれ違う

通信制高校について選び方において「広告費にお金をかけている有名校や生徒数が多い学校に行けば必ずしも安心というわけではない」と内田さんは話します。

「生徒数が多い、認知度が高いから自分の子どもに合う、ということは一切ありません。なかには著名人を特別講師や顧問に立てている学校もあり、それも特徴の一つだと考えられますが、大切なのは日々直接子どもと向き合うスタッフや教員との相性です。それは、それぞれの子ども、家庭にとって違います。ほかの子が通ってよかったからわが子にも合うということはありません。子ども一人ひとりのフィーリングを大切にしてください。

大学進学率が50%を超えてより多くの人々が大学進学を目指すようになった現代では、大学を選ぶ際に初めて人生や将来について真剣に話し合う親子も多いのではないでしょうか。

通信制高校を選択肢に入れて親子で話し合うということは、そのタイミングが中学校の終わり段階や高校生活中に訪れたということ、つまり、人生や将来に対して話し合う段階が早まったということです。

型にはめた高校生活、生き方、保護者の価値観を過度に押し付けすぎないように考えてみてください。お子さんの意思に寄り添ってあげることは、通信制高校に関係なく教育・子育てを考えるうえで大事なことだと思います」

編集部が注目する全国の通信制高校

学校数だけでなく多様性も豊かになっていく通信制高校(サポート校)。新たな取り組みをしている学校を紹介します。

通信制女子高「英風高等学校」

2020年から開校した大阪の英風高等学校は、男性に苦手意識がある女の子が通いやすく、全国でも珍しい通信制の女子高です。

プロのスタイリストがメイク、ヘアスタイリング、コーディネートを教えてくれるビジネススタイリング講座や、ウォーキングレッスンなど、社会に出てから役立つ女子力アップの特別活動が行われています。

eスポーツに力を入れる「ルネサンス高等学校」

近年、eスポーツを取り入れる学校は大手を中心に増えています。そのひとつがeスポーツコースを設けている「ルネサンス高等学校」です。

eスポーツ界の甲子園といわれている大会で優勝、3位入賞などの実績があるeスポーツの強豪校です。

ほかにも、クラーク記念国際高等学校北海道芸術高等学校などもeスポーツに力を入れています。

特別支援教育に注力する「明蓬館高等学校」

日本ではじめて特別支援に特化したサポート施設を作った「明蓬館高等学校」。発達障害の支援スキルを持った職員(支援員)と心理師(相談員)が常駐し、特別支援付きの普通科高校教育を受けることができます。

いかがでしたか? 通信制高校(サポート校)は、「不登校だから」などという限られた子どもに対して魅力があるのではなく、ひとりずつが望む高校生活が実現しやすいよう多様性が広がっています。費用面など、理解しておくべきことはありますが、子どもの将来を見据えているならば、通信制高校は選択肢に加えてみてもよいのではないでしょうか。

浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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