その頭痛、SOSのサインかも? 子どもの“熱なし頭痛”を医師が解説します
子どもが「頭が痛い」と訴えてきたけれど、熱はない。「本当に痛いのかな?」と思う反面、痛みの原因が分からないと心配になりますよね。年々、増加傾向にあるという子どもの“熱なし頭痛”。親は、どのように判断すべきなのでしょうか。総合内科専門医・精神科専門医の波多野良二先生に教えてもらいました。
子どもの熱なし頭痛には2パターンある
子どもに「頭が痛い」と言われて親がまずすることといえば、熱を測ること。けれど、測ったものの平熱だった場合「熱がないのになぜ頭が痛いの?」と心配になったり、あるいは「何か嫌なことがあって、学校に行きたくないだけかも」と仮病を疑ったりすることもあるでしょう。
ではなぜ、熱はないのに頭痛がするのでしょうか。
子どもの熱なし頭痛は、何が原因で頭痛が生じているかによって大きく2つのタイプに分かれるそう。
“頭が痛い”といっても、その背景にはさまざま原因があります。それぞれの特徴や親の対応法、予防法も合わせて見てみましょう。
子どもの熱なし頭痛①「一次性頭痛」
一次性頭痛は、主に神経が原因となって生じます。
特徴として挙げられるのは、
- 脳に異常がない。
- 原因となる病気があるのではなく、神経そのものが痛みを発していたり顎の筋肉が緊張したりすることが原因。
また、神経の痛みには心因性のものもあります。
子どもの熱なし頭痛②「二次性頭痛」
一方、二次性頭痛は頭痛の原因が別にあることで生じるものです。
特徴は、
- 脳の異常が原因。
- 風邪やインフルエンザなどの感染症、帯状疱疹の後遺症などの病気が原因。
二次性頭痛の場合は脳内出血や脳炎などの重篤な病気が隠れていることもありますが、熱なし頭痛で受診する子どものほとんどは一次性頭痛。緊急を要する場合は、ごくまれであると波多野先生は話します。
脳に異常のない「一次性頭痛」とは
子どもの熱なし頭痛の大半は、脳に異常のない一次性頭痛。では、一次性頭痛とはどのような頭痛なのでしょうか。
“一次”は医学用語で“primary”、特発性・原発性といいます。特別な原因が見当たらないのに、発病することを指します。一次性頭痛は脳に異常がなく、神経の痛みや顎の筋肉の緊張などによって引き起こされている頭痛です。
一次性頭痛の原因① 神経によるもの
頭の中には、痛みを感じる神経があります。それが痛みを発している場合は一次性頭痛と診断されます。神経そのものが痛みを発しているのであって、他に病気が隠れていたり血管が破綻していたりするわけではありません。
神経が痛むのは、心因性や睡眠不足などさまざまな要因が考えられます。
例えば、新学期。クラスや担任の先生が変わり、慣れない環境で過ごすことになります。そのことが子どものストレスになり、頭痛を感じることがあります。普段、私たちはどこか調子が悪くても、その不調を感じずに暮らしているもの。しかし、ストレスがたまってくると、普段は何でもないことでも痛みを感じやすくなるそう。
痛みが出る・出ないの境界は「閾値(いきち)」といわれ、痛みの閾値が下がると痛みを感じやすくなり、痛みの閾値が上がると痛みを感じにくくなります。
心因性が原因の場合、頭痛は子どもからのSOSのサインかもしれません。さりげなく学校の様子や友達との関係を聞いてあげることで、しばらくすると頭痛がなくなることはあるそう。
一次性頭痛の原因② 顎の筋肉の緊張
一次性頭痛の大半は神経によるものですが、中にはゲームなどに集中するあまり、同じ姿勢で無意識に歯を食いしばって顎の筋肉が緊張してしまうことが原因の場合もあります。
スマートフォンやタブレットの普及で、大人と同様にストレートネックの子どもが増えています。本来であれば、人間の首の頸椎はゆるやかなカーブを描いているはず。ストレートネックは、首の頸椎がまっすぐになっている状態です 。それでは首が頭を支えにくいのですが、そんな状態でも何とか首は頭を支えようとします。その結果、首の筋肉が緊張してしまうのです。首の筋肉の緊張が強ければ、頭痛が生じます。
子どもがゲームやタブレットを見ている時、正しくない姿勢で長時間やっていることはありませんか? 疲れ目もまた、頭痛の原因になります。ゲームをしているときは夢中になっているため気付きにくいものですが、ゲームが終わった後に頭が痛いとなれば要注意です。
一次性頭痛の痛み方と受診の目安
頭が重いような感じが、一次性頭痛の痛み方。けれど、何かに集中することで気がそれて頭痛がなくなり、いつの間にか普通の生活に戻っていることも多いのだとか。その場合は、病院に連れて行く必要はありません。
子どもが頭痛を訴えたら、2週間ほどは様子をみても良いでしょう。神経性の頭痛が心因性であることも多いので、その間に学校生活や友達のことなど、心にストレスを抱えていないかどうかじっくり話を聞く機会を作ってあげてください。何かストレスを抱えていることが分かれば、解決するように親子で話し合ってみてもいいですね。ストレスとなっていることが解消すれば、自然と頭痛は治まるはずです。
また、市販の頭痛薬を使用するのも一つの方法。「治療的診断」という言葉があり、一般的な治療薬で症状が改善したのであれば“大したことではなかった”という結論になります。
ドラッグストアで市販されている、「カロナール」や「アセトアミノフェン」の入っている頭痛薬を飲んでみるのも良いでしょう。それが効いたら、またしばらく様子を観察します。
脳の異常が原因となる「二次性頭痛」とは
二次性頭痛は、別に何らかの原因があって頭痛が起きているケース。脳腫瘍や脳出血、打撲が原因で頭痛が生じます。また、風邪やインフルエンザといった感染症が起因の二次性頭痛もあります。
風邪やインフルエンザであればすぐに原因が分かりますが、脳腫瘍や脳出血はすぐに判断することはできません。
医療の現場ではまず、脳内出血・脳腫瘍など二次性頭痛を除外すべく診察や検査を行います。血圧は要注意。特に後頭部痛では高血圧が原因のことがあるのです。しかし、子どもにCTやMRIを撮影することは容易ではありません。診察で頻回の嘔吐や意識障害といった重大な疾患がなさそうであれば、経過観察とされることがほとんどでしょう。
ただし、一次性頭痛の治療をしながらも脳腫瘍や脳出血の可能性を頭に入れて診察が進められます。二次性頭痛を“ゼロ”としてしまうと、重篤な病気を見落としてしまう可能性もあるため並行して診察が進められます。
波多野先生のクリニックでは、一次性頭痛と二次性頭痛の判断に迷った場合にはMRI検査を行うことがあります。けれど、MRIは動くのはNGで分厚い扉に閉ざされた狭い空間で行われるため、子どもに恐怖心が生まれてしまうことも…。MRI検査が難しい場合は、まずはCTで異常があるかどうかの判断を行います。
MRIの撮影時間が20分ほどなのに対し、CTは約5分。検査が子どもの負担にならないよう、子どもの性格や状況を考慮しながらその都度、判断するそう。
二次性頭痛の痛み方と受診の目安
二次性頭痛は、“ズキンズキン”と脈打つような痛みを感じるのが特徴。一次性頭痛と違って、痛みの強さは関係ありません。
受診の目安は一次性頭痛と同様、二週間くらいが目安。しかし、親が一次性頭痛か二次性頭痛かを判断するのは簡単ではありません。
原因が重大なものであれば、頭痛はどんどんひどくなっていきます。今までに頭痛を訴えたことがないのに2週間くらい続くようであれば、受診するのがおすすめです。また、年齢の低い子どもほど親に自分の痛みをうまく伝えることは難しいものです。もし、嘔吐や意識障害が起きているのであれば迷わず受診しましょう。
子どもの熱なし頭痛に親はどう対処する?
子どもの熱なし頭痛の大半は、神経の痛みによるものです。子どもの様子がおかしいと思ったら、まず話を聞いてあげましょう。家庭でできるのは、頭痛の原因を探ること。
その上で、受診をした方が良いと判断するのであればかかりつけ医に相談しましょう。子どもの普段の健康状態やこれまでのことを知ってくれている先生であれば、安心して話をすることができます。
二次性頭痛の可能性を除外して、命に関わるような問題でないと医師が判断すれば「神経痛の頭痛」と診断します。二次性頭痛が否定的でも慌てず、消炎鎮痛薬などで様子をみることになります。効果がなければ、抗てんかん薬などの鎮痛補助薬を処方。また、漢方薬を処方することもあります。治療をしても頭痛が良くならなければ、原因は心因性の場合も…。
かかりつけ医がない場合は、総合診療を行っていて、小児の対応に慣れている医師がおすすめです。
何かあれば、不調のサインが出ます。心因性の場合は話を聞き、何によってストレスを感じているかをカウンセリングしてくれる医師もいます。「話しているうちに、原因が分かってくることもあるんですよ」と波多野先生。
改善の糸口が見つからなければ、医師から紹介状をもらった上で小児の頭痛外来を行う大学病院を受診しましょう。
子どもの熱なし頭痛の予防策は?
これまで解説したように、子どもの熱なし頭痛にはさまざまな要因が関係していることが分かりました。では、子どもの熱なし頭痛を予防する方法はあるのでしょうか。
予防策として波多野先生が教えてくれたのは、①生活サイクルを整える、②記録をつける、③子どもの話をしっかり聞くという3つのポイントです。
子どもの熱なし頭痛の予防策①:生活サイクルを整える
子どもの熱なし頭痛を予防するには、生活サイクルを整えることが大切です。頭痛を訴える子どもの多くに、生活習慣の乱れがみられるそう。
まずは、良い睡眠・バランスの良い食生活・適度な運動で生活のリズムを整えましょう。
【睡眠】
十分な睡眠を取ることは大切ですが、睡眠時間を気にして「寝なきゃ寝なきゃ」と焦って寝られなくなることはあるでしょう。また、忙しい今の子どもたち、特に受験や大事なテストを控えている場合には十分な睡眠時間を取ることが難しいこともあります。けれど、大切なのは、睡眠の質。
目安は、ノンレム睡眠とレム睡眠のリズムの3時間に合わせた“3時間×2セット=6時間” 。また、眠れなくても横になって目を閉じているだけで体の疲れは和らぎます。
睡眠の質を高めるには、大豆が効果的。大豆の栄養素の一つであるイソフラボンは、睡眠の質を高める効果があるそう。大豆に含まれる栄養素は他にも、
- タンパク質
- 脂質
- 糖質
- ビタミンB1
- ビタミンE
- 葉酸
- カリウム
- マグネシウム
- カルシウム
- リン
- 鉄
- 亜鉛
- 銅
などが豊富に含まれ、バランスの良い食生活にもつながります。
【バランスの良い食生活】
子どもの熱なし頭痛を予防するためには、バランス良く食べることも大切です。子どもが大好きなジャンクフードは極力、控えるのが良いでしょう。
給食も心強い味方です! 給食を残さず食べることで、一日一回はしっかり野菜を摂取することができます。
【適度な運動】
適度な運動も、頭痛の予防につながります。週に何回も激しい運動をする必要はありません。週に1回、ゆっくりジョギングをするだけでも良いでしょう。
太陽を浴びて外の空気を感じ、気持ちをリフレッシュさせるのもおすすめです。
子どもの熱なし頭痛の予防策②:頭痛のリズムを記録する
子どもが頭痛を訴えてきた日を、手帳やカレンダーに書き込むのも効果的です。
しばらく続けることで、「体育のある日は頭が痛いと言っている」「帰ってきて口数が少なかった翌日に、頭痛を訴えてくる」「生理の二日目に頭が痛いようだ」など、頭痛のリズムがあることに気付くことがあります。そこから、頭痛の原因が判明することもあるのです。
子どもの熱なし頭痛の予防策③:子どもの話をしっかり聞く
波多野先生によると、子どもの熱なし頭痛は年々、増加しているそう。学校を休みたくて「頭が痛い」と言う、いわゆる仮病を使う子は非常に少ないようです。
仕事や家事に追われて、子どもとのコミュニケーションの時間が少なくなっていることはありませんか? あるいは「宿題終わったの?」「部屋を片付けなさい」など、会話が注意や叱ることが多くなっていることはないでしょうか?
親子間の会話が、子どもの頭痛の予防策となることがあります。学校での出来事、わが子がいま感じていること、悩んでいることはないかなど聞いてあげましょう。思春期などでなかなか自分の悩みを打ち明けてくれない場合は、子どもの様子を普段からしっかり観察しておくことでちょっとした変化にも気が付くはずです。
子どもが何らかのストレスを抱えているのであれば、周囲の大人は受け止めてあげることが必要です。頭痛は、子どもが助けを求めるサインだと思います。子どもの熱なし頭痛は、痛みがひどくならないようであれば様子をみても構いません。けれど、学校を休みがちだったり気分がふさぎ込む日が続いたりといった日常生活に支障を来すことがあれば、何らかの対応が必要です。原因は何にせよ本人が困っているのであれば寄り添い、受容的に接してあげてくださいね。
<取材・執筆 黒澤真紀>
起立性調節障害に関しては、以下の記事をご覧ください。
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