シュタイナー教育とは|特徴や問題点、日本の小中学校を紹介
従来の日本的な教育とは異なるオルタナティブ教育への関心は年々高まりつつあります。中でも、シュタイナー教育は、モンテッソーリやイエナプランなどと並び、世界的な教育法のひとつです。今回は、その特徴や理念、学びの内容を紹介します。
目次
シュタイナー教育の歴史
ノーベル賞受賞化学者から有名企業の創業者やCEO、ノルウェーの元首相など、また『はてしない物語』『モモ』で知られる児童文学作家のミヒャエル・エンデ、俳優の斎藤工や村上虹郎、坂東龍汰などが創造力を育んできたことでも知られるシュタイナー教育。
世界的に有名な教育法のひとつですが、どんな教育なのでしょうか。
特徴的な例を挙げると、下記のようなものです。
- 7歳まで文字を教えない
- 有機栽培の素材を使った食事や手作りおやつ
- 本物の自然に触れる
- テレビを見せず、キャラクターやプラスティックのおもちゃで遊ばせない
以上を重視することから、自然派育児やスローライフ系育児を目指す人からの支持も高いのですが、シュタイナー教育の本質や理念はこのような表面的な決まりごとが目的ではありません。
世界60ヵ国以上で実践されている教育法
理解を深めるために、まずは、シュタイナー教育の歴史から解説していきましょう。
シュタイナー教育という呼び名は、創始者のルドルフ・シュタイナー博士(1861〜1925年)の名前に由来します。彼は、オーストリアやドイツを中心に活躍し、人智学(自然科学と精神科学を統合させた学問)を確立した思想家であり哲学者です。30冊以上の書物を執筆しており、医学や農業、建築など多方面に精通し、現在に至るまで各界に影響を及ぼしています。
シュタイナー教育を実践した初の学校は、第一次世界大戦直後の1919年に南ドイツのシュツットガルトで創設された「自由ヴァルドルフ学校」。ヴァルドルフ・アストリア煙草会社の工場で働く労働者の子どもたちによりよい教育を提供する目的で建てられました。
第一次大戦の敗戦国としてドイツ国内に不満と不安が渦巻く中、シュタイナーはこの工場で理想的な学校について講演。労働者が過剰な搾取を余儀なくされる時代に、本当の自由を求める教育として「自由ヴァルドルフ学校」が創設されたといわれています。
シュタイナー教育の理念を解説している文書などには、“自由への教育”というキーワードがよく使用されていますが、誕生した背景にはこのような社会状況があったということも影響しているのかもしれません。
それから約100年が経過した2019年現在、シュタイナー教育が実践されている学校は、最初に学校が創立されたドイツを中心にアメリカやオランダなど世界60カ国以上に1182校(フリースクールを含む)にまで広がりました。
ちなみに日本では「シュタイナー教育」と総称されていますが、海外ではどちらかというと「ヴァルドルフ教育(Waldorf Education)」の名前で知られています。ちなみにヴァルドルフはドイツ語圏での発音、英語の発音表記はウォルドルフです。
出典:
Waldorf World List – Directory of Waldorf and Rudolf Steiner Schools, Kindergartens and Teacher Training Centers worldwide 2019 April
Waldorf World List – Freunde Waldorf
【シュタイナー教育の特徴①】目的・理念
それでは、次にシュタイナー教育の根幹となる教育目的を紹介していきましょう。
まず、一般的な日本の教育制度と大きく異なるのは、既存の社会の仕組みや文化に子どもたちを合わせようとするのではなく、子どもたちが自分で考え、感じることを大切にし、意思に基づいた行動ができる人間を育成しようとしている点です。
個々の発想を尊重しながら、子どもたちがもつ本来の可能性を伸ばしていくこと。それが、人間的な社会を作っていくと考え、人間の本質的な能力を育成を目的にしているのです。
また、子どもの年齢に合わせた教育方針は下記のようになります。
- 第一7年期(0〜7歳):乳幼児期、意思(身体)を育てる時期
- 第二7年期(7〜14歳):学童期、感情(心)を育てる時期
- 第三7年期(14〜21歳):青年期(思春期)、思考(頭)を育てる時期
シュタイナー教育では、前述の通り、意思と行動が結びついた人間の育成を目的としていますが、そのためには、思考と感情と意思の調和が必要だと考えます。
そこで、“思考”“感情”“意思”という3点を7年周期でそれぞれ育て、21歳(成人)を迎えたときには、バランスよく自立した人間に成長していることを目指すのです。ちなみにこの7年周期は9回分まであり、人間の成長の頂点は63歳とされているんですよ。
上記を見れば分かるように、日本の教育制度の小中学生にあたる7〜14歳(第二7年期)では、感情面をを育てる時期。豊かな心や感受性を育む時期なので、知識をただ詰め込むのではなく、美術的・音楽的な要素を通して、「世界は美しい」ということを感動や喜びと共に学んでいくことを重視しています。
【シュタイナー教育の特徴②】教育芸術
シュタイナー教育を説明するうえで、もうひとつ欠かせないのは“教育芸術”です。
“教育芸術”とは、日本の小中学校で学ぶ図工・美術のように、芸術の技法を教えるというものではありません。創始者であるシュタイナーが「教育は芸術の域にまで高められるべき」だと考えており、シュタイナー教育では、教育そのものが総合芸術であるという思想が根幹にあるのです。
“芸術”というと分かりにくいかもしれませんが、“芸術=自分の考えや感覚を何らかの方法で表現できるようにする術”だと捉えるとどうでしょうか。
シュタイナー教育では、頭だけで理解する知的な学習は教育の一部分でしかないとしています。子どもの感情や意思は、表現をしようとすることによって培われ、創造力と知的理解力がよいバランスで育っていくことを望みます。
そのため、すべての授業には、知的な学習だけでなく、芸術的な活動も同時に含まれているのです。
シュタイナー教育の授業内容とは
それでは、教育芸術の思想が取り入れられた授業とはどんなものなのでしょうか。特徴的なカリキュラムや内容を紹介します。
エポック授業
国語・算数・理科・社会などの教科内容からひとつのテーマを毎日100分間ずつ2〜3週間連続して学ぶ授業です。その期間は徹底して集中的にそのテーマの学びを深めます。
とはいえ、教師が一方的に行う授業ではありません。身体を使うリズム活動や感覚を大事にする体験的な遊びと理論的な学びを融合させた総合的な学びの時間です。既存の教科書は使わず、エポックノートというノートに授業で学んだことを絵や文字で書きこんでいき、それが生徒自身の教科書になります。
オイリュトミー
音楽と言葉を身体の動きで表現する身体芸術のカリキュラムです。シュタイナー教育では、すべての学年で必修科目となる特徴的な教科です。個人、またはグループで作品を作り上げていきます。
にじみ絵(水彩)
濡らした画用紙に水彩絵の具をおき、滲ませていく手法で、美術の授業で行われる色彩体験のひとつですが、単に技法を学んだり作品を仕上げたりするのが目的ではありません。1年生では紙の上に広がっていく色の重なりを味わうなど色彩体験を重視し、4年生からはエポック授業の内容と連動させて具象的な絵も描くなど発展させていきます。
フォルメン線描
直線や曲線、図形や模様を線で描く授業です。1年生では文字を書く前に、文字に含まれる要素をフォルメン線描として描き、その後文字を絵から派生させる方法で学んでいきます。また、5・6年生では幾何学に繋がっていきます。また、植物や鉱物、物理に続く要素も学びます。
ほかにも、運動遊びを含む体育や外国語、生活、遊戯や音楽、美術などの科目があります。編み物などの手芸や手仕事、園芸などのカリキュラムも特徴的です。また、9歳になると生物や文法の勉強を始めるなど、段階に応じて科目は多岐にわたっていきます。
シュタイナー教育の課題や卒業後の進路
体と心、頭脳を使って創造力を養うことができるシュタイナー教育ですが、一方で保護者としては心配になってしまう点もあるようです。
【課題①】食事や遊び方など家庭への負担
記事の冒頭部分でも挙げていますが、シュタイナー教育には、下記のような特徴があります。
・有機栽培の素材を使った食事や手作りおやつ
・テレビを見せず、キャラクターやプラスティックのおもちゃで遊ばせない
これらの特徴を魅力的に感じる人は多いものの実際に家庭生活でも徹底しようとすると一緒に暮らす家族も合わせなければなりません。上手に取り入れられる家庭ならよいのですが、各家庭ごとに事情があります。ルールに縛られすぎると本人だけでなく、家族も息苦しい思いをすることになるかもしれません。
【課題②】地域によっては通える学校がない
現在、文科省が認定しているシュタイナー教育の学校は全国で2校(北海道と神奈川)。フリースクールを加えても全国どこでも学べる教育にはなっていません。住んでいる地域によっては「通わせたくても学校がない!」というもどかしい状況のようです。
【課題③】将来、社会に溶け込むのに苦労する!?
いいか悪いかということではなく、子どもは児童期、青年期をシュタイナー教育という独特な環境で過ごすことになります。“大多数の人とは違う時間を過ごしてきた”ということをどう捉えるのかは、その子によりますが、全員がポジティブに捉えられるとは限りません。
例えば、大人になったときの雑談で“子どもの頃に流行ったゲームやテレビやお菓子”などの話題になったとき、「知らないから教えて!」と屈託なく言える人もいるでしょうが「知らないなんておかしいと思われるから黙っておこう」と会話に入らない人もいるかもしれません。
ほかでは学び難い自己表現力や創造力を手に入れられることを考えれば些細なことかもしれませんが、卒業後、本人が社会へ出たときに何を思うのかという点も考えておきたいものです。
卒業後の進路は?大学進学はできる?
文部科学省の定めた学習指導要領にとらわれず独自のカリキュラムで学んでいくシュタイナー教育。気になるのが、卒業後の進路です。
例えば、文科省認定の学校法人「シュタイナー学園」のホームページを見てみると、在学中にAO入試・推薦入試などで進学を決める生徒がいるほか、卒業後の1年で受験対策をしたり、海外へのボランティアや語学留学をしたりして進路を決めているようです。
また、教育研究家・征矢里沙さんは、下記のように話しています。
多くの生徒が大学に進学する一方で、職人に弟子入りするなど独自の進路を選ぶ子もいます。進学の目的も、偏差値ではなく、自分が学びたいテーマに沿って大学や学部を選ぶ傾向がある
さらに、フリースクールの中にも在学中に高卒認定を取得でき、大学進学へつなげているところもあります。このあと、各学校についても紹介していくので、気になる教育機関がある人は、ぜひ調べてみてください。
シュタイナー教育の学校だから進学できないというわけではなさそうです。むしろ、自分の意志で将来を進路を選択していく力は身に付きそうです。
ただし、学校に受験対策を求めたり、偏差値を意識した学習もしてほしいという家庭にはシュタイナー教育の学校は向いていないのかもしれません。
シュタイナー教育の学校の仕組みとは
学校としての教育制度は、7〜18歳までの12年間一貫教育体制が基本です。便宜上の初等部・中等部・高等部という区分けはありますが、基本的には、第1学年〜12学年までの学年制で、それぞれの学年に定められたカリキュラムがあります。1クラスは、約25名という少人数制。クラス分けはない学校が多いようです。
また、1〜8年生(中学2年生)までは同じ教師が担任となります。点数評価をしないので、テストや通信簿などはありません。
このように日本の教育制度とは大きく異なります。中学校受験や高校・大学受験といった進学システムに合わせていないため、進学を考えた際はリスクも考えておきましょう。
そのほか、日本ではシュタイナー教育を受けられる学校の数に限りがあるため、途中で転勤や引っ越しなどで教育を公教育に切り替えた場合は、子どもに困難が強いられる可能性があります。
シュタイナー教育を受けられる教育機関
日本では、1970年代に広まり始め、80年代頃から注目されているシュタイナー教育。現在、日本国内でシュタイナー教育を受けることができる教育機関は下記になります。
文科省認定の小学校・中学校・高校
「学校法人シュタイナー学園」(神奈川県相模原市)
1987年に新宿で小さなフリースクールとして始まり、2005年に小中一貫教育を行う学校法人として認可を受け、2012年に高等部も設立されました。
文科省認定の小学校・中学校
「学校法人北海道シュタイナー学園(いずみの学校)」(北海道虻田郡豊浦町)2019年に創立20周年を迎え、小中学校は学校法人、幼稚園と高等部はNPO法人として運営されている。北海道ならでの自然が生きた教材となって豊かな学びが実践されています。
そのほかの教育機関
<東北>
「おひさまの丘 宮城シュタイナー学園」(宮城県仙台市)
2016年に設立された東北初のNPO法人立小中学校。校長や特定の運営者がいるわけではなく、保護者、教職員と支援者によって運営されており、大人と子どもが一緒に学ぶ場、学ぶ内容を作り上げています。
<関東>
「東京賢治シュタイナー学校」(東京都立川市)
宮沢賢治とルドルフ・シュタイナーの共通する理念に基づき、伝統芸能や季節の行事など日本ならではの文化も大切にしながら小中高の教育を行っています。
「NPO法人横浜シュタイナー学園」(神奈川県横浜市)
横浜市街地や都内へのアクセスも便利でありながら、横浜随一の里山やのどかな田園風景の近くに位置する小中一貫のフリースクール。
「東京シュタイナーこどもの会」(東京都渋谷区)
東京・代々木を主な活動拠点として、小学生のための土曜クラス(月3回)を運営。毎回、エポック90分とオイリュトミー30分を行なっている。
<中部>
「愛知シュタイナー学園」(愛知県日進市)
全日制シュタイナー学校の設立を望む親や教師の集まりから生まれた小中高のフリースクール。独自のカリキュラムに基づいた学校教育を月曜から金曜まで毎日行っています。
<関西>
「京田辺シュタイナー学校」(京都府京田辺市)
シュタイナー教育を受けさせたいと集まった保護者による小中高生を対象にした週1回の「土曜スクール」から始まったフリースクール。日本のNPO法人で初めてのユネスコスクール加盟校です。
<九州>
「福岡シュタイナー学園」(福岡県福岡市)
2009年に開校した小中一貫のフリースクール。年2回行われる本学園主催の「大人のための体験授業」で子どもたちが受けている授業を体験することができます。
「どんぐり自然学校」(鹿児島県鹿児島市)
小中学を9年制で学ぶ全日制のフリースクール。学園内の学びだけでなく、農業・漁業・林業・鉱業・酪農に携わる人々との交流を通して豊かな感性と行動力を育みます。
日本ではまだ学校数が少ないことや、卒業以降の進路の問題などで、ハードルが高いと捉えられがちなシュタイナー教育ですが、既存の学校教育や仕組みに疑問がある人や、子どもの身体と心の成長に合わせた学びを考える人には興味深い教育なのではないでしょうか?
学校によっては、編入・転入などの問い合わせや見学の申し込みを受け付けています。まずは、自分の目で見て、知ってみることから始めてみませんか?
<参考文献・サイト>
新訂版・シュタイナー教育(クリストファー・クラウダー)イザラ書房
シュタイナーの子育て30のヒント(岩橋亜希菜)河出書房新社
シュタイナー教育ハンドブック(ルドルフ・シュタイナー著、西川 隆範訳)風濤社
世界7大教育法に学ぶ才能溢れる子の育て方最高の教科書(おおたとしまさ)大和書房
日本シュタイナー学校協会
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北海道教育大学卒業(中・高の美術工芸教員免許取得)。出版社でモバイル関連雑誌の編集職、携帯コミュニティサイト編集長などを歴任後、2007年スペイン留学、2008~2012年メキシコで旅行情報と日本文化を紹介する雑誌で編集長。帰国後は旅行ガイドブックや料理本の編集も担当。現在は東京で子育てをしながら世界の子育てや教育、食、地域情報などを主なテーマにwebを中心に多数の媒体で取材・執筆活動を行う。