小学校の「キャリア教育」基本のキ。子どもの将来の役に立つ?どんなことをしているの?「実践例」も紹介
小学校でおこなわれている「キャリア教育」とはどのようなものなのでしょうか?その定義やねらい、実践例、家庭でできる教育サポートなどを解説します。
将来のため、子どもには良い学びを与えてあげたいですよね。そこで昨今注目されているのが、「キャリア教育」です。
小学校でもキャリア教育がおこなわれていますが、実際にお子さんはどのようなことを学んでいるのでしょうか? また、家庭でサポートできることはあるのでしょうか?
キャリア教育の特徴や実践例などを紹介します。
キャリア教育とは
まず、キャリア教育とは何かということから解説します。
キャリア教育と聞いたときに「エリートを輩出するための英才教育?」と思う方もいるかもしれませんが、昨今のキャリア教育は、もっと身近で将来的にも役立つ学びです。
キャリアの意味や、歴史や背景、育まれる力などを知れば、キャリア教育の全体像がつかめてくるでしょう。
キャリア教育の「キャリア」の意味と定義
2020年度に改訂された、小学校学習指導要領。その中に、「キャリア教育の充実」について書かれています。
キャリア教育とは、“一人ひとりにふさわしいキャリアを形成するため、必要な能力や態度を育てることを目指すもの”とされています。そこから考えると、キャリアは「経歴」という意味では使われていないようです。
文部科学省が定義する「キャリア」とは、子どもたちが将来自立して生きていくための学びのこと。刻々と変化する時代を生き抜くには、一人ひとりが「生きる力」を身につけることが大切です。そこで社会のつながりや働く意味などを身近に感じるように、キャリア教育の機会が設けられるようになりました。
【キャリア教育の定義】
中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」
一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育
キャリア教育導入の歴史と背景
キャリア教育の導入の背景には、いくつかの理由があります。
まず、社会環境の変化。子どもたちが社会に羽ばたいたときに、IT化やグローバル化などに対応しなければなりません。そのため、早くから社会の仕組みや課題について知る機会が設けられたのです。
また、生涯にわたる学習意欲を向上させたり、学校の授業と社会との関連性を知ったりなど、あらゆる角度から「生きる力」の養成を試みます。
社会に出ると、目の前にさまざまな課題が立ちはだかります。しかし「生きる力」を身につけていれば、柔軟に対応しながら生きていけるでしょう。
そこで、小学校では6年間を通して継続的なキャリア教育が実施されます。体や心の発達が著しい時期だからこそ、「生きる力」の“土台”ができれば将来的にも大きく役立ちます。
キャリア教育で育まれる力
小学校では基本的に「キャリア教育」という科目はありません。
学級活動やクラブ活動、学校行事といった「特別活動(特活)」の授業の中に散りばめられているので、子どもたちも肩肘張らずに取り組めるのです。
中央教育審議会によると、キャリア教育では以下4つの「基礎的・汎用的能力」を育むことを目標にしています。
- 人間関係形成・社会形成能力
- 自己理解・自己管理能力
- 課題対応能力
- キャリアプランニング能力
これらによって得られる能力は、他者の個性を理解する力、他者に働きかける力、コミュニケーションスキル、忍耐力、ストレスマネジメント、主体的行動、計画立案・実行力,評価・改善力、学ぶこと・働くことの意義や役割を理解する力、多様性を理解する力など。
学習の基本といえるような能力から、仕事に直結するような知識・技能まで、さまざまな能力アップが期待できそうです。
キャリア教育のねらい
キャリア教育のねらいは、小学校・中学校・高校で異なります。中央教育審議会の説明をもとに、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
小学校:進路の探索・選択にかかる基盤形成
心身の発達が著しい小学校の段階では、
- 自己及び他者への積極的関心の形成・発展
- 身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
- 夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
- 勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成
が主な課題とされています。
「校外の職場見学」「校内の当番活動」「町探検」などを通して「自分の良さに気づいて伸ばす」「社会のために働く意味を理解する」力を身につける時期です。
校外学習は、子どもたちにとって一大イベント。お友達と一緒に楽しみながら社会の仕組みが学べそうです。また、自分がしたいことやできることなどを知ることで、次第に社会との関わり方が見えてくるでしょう。
中学校:現実的選択と暫定的選択
現実を理解して、地に足のついた生き方をするようになる中学生の段階では、
- 暫定的自己理解と自己有用感の獲得
- 興味・関心等に基づく職業観・勤労観の形成
- 進路計画の立案と暫定的選択
- 生き方や進路に関する現実的探索
が主な課題とされています。
「校外の職場体験」「進路選択」などを通して、「自分の生き方や役割」について理解します。
学校の教育活動全体がキャリア教育の視点で行われますが、特に校外の職場体験では、事後に自身の体験を発表したり自己評価などをおこなったりなど、さらに理解を深めるよう工夫されています。
高校:現実的探索・試行と社会的移行準備
高校は、学校から社会に羽ばたくための準備期間です。そのためキャリア教育では、
- 自己理解の深化と自己受容
- 選択基準としての職業観・勤労観の確立
- 将来設計の立案と社会的移行の準備
- 進路の現実吟味と試行的参加
を主な課題としています。
「就業体験」「実際に働いている人の話を聞く」「卒業生の話を聞く」などを通して、職業や社会についての理解をさらに深め、社会にどのように関わっていくかを考えたり専門性を高める時期です。
社会に出る準備として、就業体験のような体験活動は貴重な機会です。実際に働いてみて「将来の夢が決まった」という方も多いでしょう。
小学校のキャリア教育の目標
キャリア教育は小学校から始まりますが、学年によって目標に差があります。低学年から高学年まで、それぞれのキャリア教育の目標について見ていきましょう。
どれも難しいことではなく、日常生活の延長線上ということがおわかりいただけるかと思います。
低学年(1、2年生)のキャリア教育の目標
まずは低学年(1,2年生)のキャリア教育から紹介します。
低学年のキャリア教育のコンセプトは、「好きなこといっぱい できることいっぱい 学校って楽しいな」。自分の得意なことや好きなことを中心に興味の幅を広げることで、自己肯定感やチャレンジ精神を育んでいきます。
達成例としては、
- 友達の気持ちがわかる
- あいさつや返事をきちんとする
- 決められたルールや時間を守る
- 働く人への興味関心を持つ
- 自分の役割や責任をきちんと果たす
などが挙げられます。
中学年(3、4年生)のキャリア教育の目標
中学年のコンセプトは「自分と 友だちと みんないっしょに」。他人を理解して、協力しながら活動することで、自分の役割やポジションを自覚するのが狙いです。
達成例としては、
- 職業にはさまざまな種類があることを理解する
- 世の中にはさまざまな生き方があることを理解する
- 他人(お友だち)と協力しながら活動する
- 働く=楽しいと理解する
- 自分の思いや意見をわかりやすく伝える
などが挙げられます。
高学年(5、6年生)のキャリア教育の目標
高学年のコンセプトは「挑戦する やりぬく 夢・希望を広げる」。成功体験を通して自己肯定感を高めたり、外国語活動で広い視野を育成したりすることを目的にしています。
達成例としては、
- 失敗を恐れずチャレンジする
- 思いやりを持ち相手の立場で考える
- 憧れる生き方や自分らしい生き方について考える
- 職業観や勤労観を育む(工場見学など)
- 社会との関わりから自分の持ち味に気づく
などが挙げられます。
キャリア・パスポートとは
キャリア教育に欠かせないものの一つに、キャリア・パスポートが挙げられます。
これはお子さん一人ひとりの学びの記録を重ねたもので、2020年4月より全国の小・中・高校で導入されています。
では、キャリア・パスポートの特徴についてさらに詳しく見ていきましょう。
キャリア・パスポートとは何か
キャリア・パスポートとは、キャリア教育に不可欠なツールのひとつです。
小学校、中学校、高校までの12年間で取り組んできた、キャリアに関する学びの数々。この記録をまとめたポートフォリオ的な教材ファイルを、キャリア・パスポートと呼びます。
このファイルに、学んだことや活動の様子などをお子さん自身がファイリングしていきます。このファイルを持っていれば、日本全国どの学校に行っても指導者にキャリア形成のサポートをしてもらえたり、お子さん自身が学びを振り返ったりできます。
キャリア・パスポートの目的と定義
キャリア・パスポートの目的は、ひとりひとりの成長や足跡を可視化することです。
文部科学省では、具体的にこのように定義しています。
【キャリア・パスポートの定義】
文部科学省「キャリア・パスポートの目的と定義」
「キャリア・パスポート」とは、児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。
なお、その記述や自己評価の指導にあたっては、教師が対話的に関わり、児童生徒一人一人の目標修正などの改善を支援し、個性を伸ばす指導へとつなげながら、学校、家庭及び地域における学びを自己のキャリア形成に生かそうとする態度を養うよう努めなければならない。
学校の授業内容はもちろん、運動会などのイベントやクラブ活動、習い事や家庭での取り組み、地域との関わりなど、お子さん本人が学んだことはシーンを問わずすべて記録可能です。原則として、お子さん本人が記録していき、卒業後は手元に返却されます。
小学校で実践されているキャリア教育例
小学校では、さまざまな形でキャリア教育が実践されています。低学年・中学年・高学年に分けて、それぞれの実践例を見ていきましょう。どれも、楽しみながら学べるように工夫されているのがポイントです。
実践例1(低学年)
山口市立大殿小学校の2年生では、「大殿まちたんけんをしよう」というキャリア教育がおこなわれました。
町探検を通して、自分の町にあるお店や公共施設を知ったり、仕事をしている人たちの思いを理解したり、働くことの意味に触れたりするのが目的です。
見学先を決めたり、道順を考えたり、〇〇係などの役割分担、ルール決めなど、子どもたちの自主性を尊重した有意義な活動になったそうです。
実践例2(中学年)
千葉県多古町の小学3年生は、地元の高校生と一緒に花の種を植える活動をおこなったそうです。
小学3年生と高校生では、年齢が7~8つも違います。きっと、高校生たちがリーダーシップを発揮して、小学3年生たちを引っ張ってくれたでしょう。また高校生のそうした姿から、小学生が得られたものもあったはずです。
年齢の垣根を超えたコミュニケーションはもちろん、自然との触れ合いも貴重ですし、地域への愛着心も育まれそうですね。
実践例3(高学年)
岡山県の小学6年生は、中学へ進学後に挫折しないために、「夢への授業」というキャリア教育をおこないました。
6年生に進級してすぐ、「将来の夢」についての授業を開始。その後、6年生最後の参観日で「夢作文」の発表をもって締めくくりました。
これは1年間かけた学習が特徴で、先生たちは国語・道徳・総合学習などあらゆる時間にキャリア教育を散りばめてきたそうです。6年生たちは、目標を持つことや努力の大切さを知り、希望を持って卒業していきました。
家庭でできるキャリア教育のサポートとは
キャリア教育は、学校でしか受けられないわけではありません。家庭でできる、小さなことがキャリア教育につながります。
例えば、お手伝い。「お皿洗いはあなたの担当ね」など役割を与えることで、子どもは自己管理能力やプランニング能力などを育んでいきます。そのうち、「何か手伝うことはある?」など他者の立場や状況も気にかけてくれるようになるかもしれません。
また、親子で外出するときは、世の中は“誰かの仕事によって成り立っている”ことを伝えてあげましょう。
スーパーに行ったら、品出しやレジ打ち、精肉加工などさまざま役割があることを教えてあげてください。レストランに入ったら、料理を運んでくれるウェイターや厨房のコックなど。
お店の人に質問したり、気になることがあったら調べたりして、お子さんが社会とのつながりに気づくようサポートしてあげられたらいいですね。
小学校のキャリア教育は、お子さんの将来の可能性を広げる大事な機会です。家庭でも実践できることはいくつもあるので、うまくサポートしてあげてください。
<参考サイト>
・文部科学省|学習指導要領「生きる力」ー児童生徒の発達の支援
・文部科学省|キャリア教育とは何か
・文部科学省|中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」<抜粋>
・文部科学省|キャリア教育の推進
・文部科学省|「キャリア・パスポート」の様式例と指導上の留意事項
・速読情報館|小学校でのキャリア教育~内容や導入背景は?~
・Far East Tokyo|キャリア教育とは?定義や目的、育成すべき能力、学校段階ごとのポイントまで徹底解説
・みらいい|小学校のキャリア教育の実践例とこれから
・山口県教育委員会|キャリア教育の推進・小学校実践事例集
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