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2023.07.28

中学校の受験問題に出やすい小説の特徴【ベテラン塾講師がおすすめ】

中学受験の国語では、漢字や語句・知識を問う問題、説明文の問題、小説の問題が出題されますが、国語の得意不得意の差が大きく出やすいのは、実は小説文の読解問題でもあります。小説文で出典として使われる小説には、共通する特徴があります。今回はその特徴とよく出題される作品についてお伝えします。

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記事を執筆したのは…

安永吉光さん

東京・岡山の進学塾・予備校で20年以上の経歴を持つベテラン塾講師。現在は、岡山県倉敷市に「能力開発塾 自学道場」を開校し、「自学力」を養成するための授業を提供している。

中学受験に出やすい小説の3つの傾向

中学受験の小説問題でよく出題されるパターンは大きく分けて3つあります。

1つ目は「成長物語」、2つ目は「多様性」、3つめは「愛情のすれ違い」です。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

1:成長物語

まず、1つ目の「成長物語」です。

これは中学受験では最も出題されやすいと言っても過言ではない「定番」の内容です。

受験生と同じ小学生や中学生くらいの主人公が、様々な出来事を通して大人の階段を一つステップアップしていく、という内容がよく出題されています。

過去の入試問題でも多く出題されたことのある、あさのあつこさんの『バッテリー』は、成長物語の典型例と言えます。

【あらすじ】

主人公の巧は甲子園出場校の名監督の父から受け継いだ非凡な野球センスを持つ少年。少年野球チームではピッチャーとして活躍していますが、巧には病弱の弟がおり、母親は弟につきっきり。そのため、母親の愛情を存分に受けられていないことが巧の成長には影響しています。

ある日、同じ野球少年の豪と知り合った巧は、野球を通して、お互いの信頼を高めることの大切さを学んでいきます。二人は野球のみならず、それぞれの家庭や学校の問題にも直面しますが、困難に立ち向かいながら、努力や友情を通じて成長しようとする様が描かれています。

ポイント

出題する中学の先生としては、自信家の巧が豪とのやり取りの中で、相手の気持ちを少しずつくみ取れるようになり、人間的な成長を見せていくという「出しどころ」の多い作品でもあり、過去に多くの出題がされています。

2:多様性

次に2つ目の「多様性」です。これは、主人公が自分と違う立場の人、例えば、日本人と外国人、健康な人と病気の人、裕福な人と貧乏な人などといった、バックグラウンドが違う人たちとの出会いを通して、相手との距離を感じたり、同じ出来事でのとらえ方の違いを知ったりして、新たな視点や感情を経験していくというストーリーです。

過去に浦和明の星や洗足学園でも出題された、朝比奈蓉子さんの『わたしの気になるあの子』は、多様性をテーマにした作品です。

【あらすじ】

ある日、主人公の瑠美奈のクラスに転校してきた詩音が坊主頭で登校してきたことをきっかけに、瑠美奈は自分の身の回りで「女の子らしく」「高校生らしく」「普通にして」と言われることに関して疑問を持つようになります。

詩音がなぜ坊主姿で登校をしてきたのか。男子たちから、からかわれ、クラスで浮いてしまった詩音を助けたいと思うようになり、「普通じゃないって、いけないこと?」と考えだします。

「ジェンダー」という視点をテーマにしつつ、人を思うこと、助けあうことについて、深く考えさせられる物語です。

ポイント

SDGsに注目を集める昨今では、小説文だけではなく、説明文でも、この多様性に着目した問題の出題も増えてきています。

3:愛情のすれ違い

そして、最後の「愛情のすれ違い」です。親と思春期の子の間での愛情があるがゆえのすれ違いであったり、男子と女子の間での片思いであったりというように、自分と相手との愛情の違いから主人公が思い悩み、そして成長していく内容です。

また、主人公が親の場合、思春期の我が子の反抗期に戸惑いながらも、その成長を受け入れていくというストーリーが描かれている作品からの出典もしばしばです。

2021年東洋英和女学院で出題された、橋本紡さんの『葉桜』は、高校生らしい健気な純愛ストーリー。

【あらすじ】

小学校の頃から通う書道教室の先生に片思いをしていることに気付く高校生が主人公。報われない恋心を抱きつつ、書道を通して思いを昇華していきます。

また、少し昔の作品とはなりますが、中学の教科書で一部採用されたこともある、椎名誠さんの『岳物語』『続・岳物語』は親子愛というジャンルでは最もわかりやすい作品の一つと言えるでしょう。それを象徴するのが『続・岳物語」の中にある「風呂場の散髪」というエピソードです。

【あらすじ】

父がそれまで風呂場で息子の髪を散髪してきたのを、息子が急に拒むようになりますが、この「散髪」を通して、思春期の息子の本当の気持ちに気付いていく父の様子が描かれています。

これまでに出題された本

以下はこれまでの受験で出題された作品の一部です。

これらの作品も、先ほどの3つの出題パターンに当てはまるものが多いです。

例えば、くどうれいんさんの『氷柱の声』は、東日本大震災をテーマに被災者である主人公が、他の被災者たちとの出会いを通じて、同じ震災の被災者であっても、捉え方の違いに気づき、震災にどう向き合っていくかを考えていくという「成長」と「多様性」をキーにしたストーリーです。

また、瀬尾まいこさんの「夏の体温」は病気のために入院している小学生の主人公が、同じく小児病棟に入院してくる同学年の小学生との出会いから始まる物語です。

このように、同じ境遇でも、違うバックグラウンドや価値観を持った人たちとの出会いから、自分の考え方や心境の移ろいを表現した作品は、中学校の先生も出題したいポイントと言えるでしょう。

カズオ・イシグロさんの「クララとお日さま」高度なAI(人工知能)をもったアンドロイドのクララと病弱な少女ジョジーが次第に心を通わせていく作品です。

クララがジョジーに買われ、二人は次第に親友と言えるくらいの仲に。人工知能と生身の人間とのやり取りの中で本当の愛とは何かを考えさせられる「愛情のすれ違い」の作品と言えます。

受験前に読んでおきたい作家

たくさんの作家さんの作品が実際に入試問題で出題されていますが、よく出題される作家さんの作品には、「短編集である」という特徴があります

問題を作る先生たちの心理として、長編小説は出題部分の前のストーリーをたくさん説明しなければならず、問題としては扱いづらい面があります。その点、短編集では場合によっては全編を出題に使えることもあり、問題を作りやすくなります。

また、前述の通り、小中学生が主人公の物語を多く書いている作家さんの作品は入試問題に使われやすくなります。

  • 瀬尾まいこ
  • あさのあつこ
  • 重松清
  • 谷瑞穂
  • 森絵都

これらの作家さんの作品は、これまでも多く出題されてきました。

ポイント

大まかな目安ですが、受験日の前年の6月くらいまでに発売された新刊は出題されやすいので、チェックしておくとよいでしょう。注目したい一冊をあげると、2023年5月に発売された有川ひろさんの『物語の種』という作品は、読者から物語の「種」を募集し、有川さんがその種を基にした小説に仕上げた短編集で、とても身近なテーマが取り上げられているので、今後、2024年度入試でも出題される可能性がありそうです。

読解問題として小説文を読むときのコツ

では、最後に実際の読解問題を解いていく際に気をつけておきたいコツについてお伝えします。小説の読解では、次の3つのことに気を付けておきましょう。

1:登場人物をよく確認する

小説問題では様々な登場人物が出てきますが、主人公を中心にその登場人物たちがどのような関係になっているのか、頭に浮かぶようにしておく必要があります。

いきなり本文を読み始めるのではなく、リード文や設問から、どんな人が出てくるのかという情報を拾っておくとよいでしょう。

2:何が起きているか把握する

小説文は「できごと」→「気持ち」→「行動」というパーツが繰り返されていきます。

問題が作られる(=傍線が設定される)のは、多くの場合、「行動」の部分です。なぜ、そのような行動をしたのか、その傍線の前の「できごと」から登場人物の気持ちを考えることが必要です。そのため、傍線の前に何が起こっているかを把握することが大事になります。

3:気持ちを表す言葉に線を引く

説明文よりも小説文の方が、文章が読みやすいぶん、つい、すらすらと読み進めてしまいます。ですが、先ほどもお伝えしたように、「登場人物の気持ちを考えること」が小説文の設問を解くカギになるので、気持ちを表す「心情語」に線を引きながら読みましょう。

例えば、ワクワクする気持ちでも「心が弾む」「胸を弾ませる」といった別の表現もあります。語彙の知識の幅は、小説文だけでなく説明文の読解にも大いに役立ちます。日ごろから気持ちを表す言葉を調べておくとよいでしょう。

最初に述べたように、小説問題は国語教科の中で差がつきやすい問題でもあります。「本を読みなさい!」と言ってもなかなか本を読む時間が取れないのが受験生。本を読むことで国語力が上がりますが、どうしても本を読むのが難しい時は、問題演習と塾の先生への質問を繰り返して対策をしていきましょう。

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安永吉光

東京都内や岡山県内の進学塾・予備校で20年の経歴を持つ塾講師。現在は、岡山県倉敷市に「能力開発塾 自学道場」を開校しているほか、通信制高校サポート校「安永教育学院」、保護者のための子育て講座「自学道子育てラボ」も運営している。

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