親子で発達障害でも生きやすく、親子関係を安定させるためにできること
子どもの発達障害について調べたり、相談したりするうちに「私にも同じ症状、生きづらさがある」と気づき、ショックを受ける保護者もいます。「子どもをサポートしなきゃいけない」という親心や、「私にまともな子育てができているのだろうか」という不安。さまざまなことに思い悩む保護者に向けて心理カウンセラー神田裕子さんがアドバイスします。
子どもの発達障害は育て方のせいじゃない
子どもだけでなく親である自分にも発達障害があるかもしれないとき、驚きや不安と同時に、「子どもの発達障害は、私が育てたからかもしれない」と自分を責めてしまうかもしれません。
ですが、発達障害は脳の働きに違いがあるからであり、育て方に問題があるわけではありません。
また、一般的なきょうだいの発達障害発生率は2割程度、一卵性双生児の場合は7割とされています(※1)。発達障害には、遺伝的要因も関係ないとはいえませんが、脳や遺伝子の研究は発展途上にあります。今後、発達障害のしくみ究明がさらに進む中で、どう変わっていくかわかりません。親子で発達障害だからといって家族の人生を悲観的に捉える必要はありません。
当事者じゃないと本当の気持ちが分からないことは多々あります。ですが、親も発達障害であることで、子どもが抱える日々の悩みや生きづらさにを語り合うことだってできるかもしれませんよ。
さらに、共感能力に乏しいはずのASDが、ASD同士の集まる場では互いの感情を理解し合えるという珍しい研究データもありますよ(※2)。
※1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/47/3/47_215/_pdf
https://www.kaien-lab.com/faq/1-faq-developmental-disorders/causes/
※2:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2014-11-06
「親も発達障害だった」2つの体験談
子どもの発達障害をきっかけに、親も受診し、診断されるケースは実は少なくありません。いくつか実際のケースを紹介しましょう。
A家のケース
Aさん(40代・母親)は、息子(B君)が中学校に入学してからすぐ発達障害に気づきました。B君は小学校時代からやや落ち着きに欠けるところはありましたが、やんちゃで活発な子という評価で済んでいました。ですから中学校の担任に呼び出されて、発達障害(ADHD)の可能性を指摘されたことにショックを受けました。その後、心療内科を受診するとASDとADHDの併存型であることがわかりました。特性について調べると、忘れ物が多いことや長時間じっと座っていることができず、身体のどこかが常に動いているところが夫にそっくりだと気づきました。そして「もしかすると、夫も発達障害かもしれない」と推測するようになったのです。このことを夫に告げ病院へ行ってほしいと頼みましたが、「俺の頭がおかしいと言いたいのか?」と受診を拒まれてしまいました。そのため診断名こそついていませんが、心の中では確信しています。現在は、目立つところにキーケースを置く、決まった時間に忘れものの指差し確認をするようルーティン化することで、今のところ日常生活に支障はありません。
Aさんは今後について親子で話し合った時、互いの特性を紙に書き出して家族で共有するようにしたそうです。また、「普通とは何か」という難しいテーマについても親子で話し合う中で、Aさんは「実体のない普通や世間という枠組みは、自ら作り、縛っているものかもしれない。普通の家庭なんて幻に過ぎず、家庭が家族それぞれにとっての居場所となるように運営していけばいい、世間がどう見るかなんて関係ない」と思えるようになったそうです。
B家のケース
Bさん(40代・父親)は子どもの不登校とうつ病によって近所の心療内科を受診した際、子どもの発達障害を指摘され、専門医のいる病院への転院を勧められました。 紹介された病院へ行くと、発達障害の専門医から「お父さんにも似たような特徴がありませんか?」と質問されBさんは過去を思い返しながら次のように思ったそうです。 「自分は短気ですぐに相手先にクレームをつける傾向があり、妻からは『あなたの怒るトリガー(きっかけ)が分からない』と言われたことがある。他人の感情を汲み取るのが苦手だから、職場のくだらないおしゃべりには加わらないようにしているけれど、これも特性なのかもしれない…」Bさんは、すべてが発達障害に該当すると気づき、あ然としました。 そして、妻に言われた「あなたに違和感がある」「会話が噛み合わない」「どうして目の前にあるのに見えないの」などの言葉がようやく腑に落ちた気がしたそうです。
Bさんは、自分と子どもの発達障害特性を研究し、どのような言動が家族を苦しめてきたのかを冷静に把握することから開始しました。家族療法のワークショップに参加しながら、現在も改善トレーニングに励んでいます。
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神田さんへの相談ページを見てみる親と子がそれぞれ専門医を受診しよう
親子で似たような特性があり、発達障害の疑いがあっても基本的には、親と子はそれぞれ違う医師にかかるようにしましょう。
なぜなら大人と子供では、特性に対して注意する点や対応していくことも異なります。大人の場合は、それまでの経験によって身に付けてきた処世術などもあり、障害の現れ方が子どもと違ったりもします。子どもが受診したときのアドバイスが、そのまま親にとっても適切であるとは限らないので注意して、子どもは小児科や児童精神科、大人は精神科や心療内科を受診してください。
なお、親子がそれぞれに受診をしている場合は、その旨を各自で担当医に伝えて、連携できるかどうかを相談しましょう。
親子関係を改善していく「家族療法」
親子ともに発達障害であるとされる家庭ほど、カウンセリングにおいて効果的といわれているのが家族療法です。
家族療法とは、発達障害の当事者だけを問題として扱うのではなく、家族関係を一つのシステムととらえる心理療法です。
例えば、発達障害の家族に対して変わって欲しいところがあっても「何度言っても変わらない」というケースがあります。言う側が諦めて、言われた側はマイペースにそのまま過ごしていくと、ストレスを抱えてよくない関係のまま家族は暮らしていくことになります。
そのとき、家族それぞれの症状を見るだけでなく、日々のやり取りや関係性を見直していくのが家族療法です。
どんな言動によって、状況がどのように変化するのか、それぞれの目に家族はどう映っているのかなど、現状把握をするとともに問題解決に向かって対応策を講じていきます。
「家族療法」を受けられる機関、専門家とは
家族療法にはたくさんの手法があるため、どういった目的でどの方法を用いるのか見通しを立てることが重要になります。
そのため、家族療法を考えるのであれば、専門的な知識と演習を身につけた専門家に、依頼する方がよいでしょう。家族療法を受けたいと考えている場合や、かかりつけの精神科や小児精神科、心療内科に相談したり、カウンセリングを受けられる施設やサービスを調べたりしてみてください。
ただし、家族療法を行うことができても発達障害についての正しい知識がないカウンセラーなどの場合、特性に合っていないアドバイスをされてしまう場合があるので注意しましょう。
病院以外で親子の発達障害の相談先
「発達障害かもしれないけれど病院に行く勇気がない」「親子で発達障害なんて今後どうなるの?」「子育てに自信がない」などの不安を抱えている人もいることでしょう。その場合、下記のようなサービスがあることを知っておくと、いざという時に気持ちを落ち着かせることができます。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害児(者)への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。発達障害児(者)とその家族が豊かな地域生活を送ることができるように、保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携して、その地域における発達障害についての相談や指導・助言を行なっています。
民間のカウンセリングサービス
発達障害や親子関係についての見識があるカウンセラーに相談するのもよいでしょう。ソクラテスのたまごの姉妹サイトである「ソクたま相談室」にもさまざまな資格をもったカウンセラーが在籍しています。
カウンセラーには守秘義務があります。あなたの悩みや個人情報が漏洩することもありません。安心して相談してほしいと思っています。
「~してはいけない」「~であるべき」ということにこだわり過ぎると、最終的にひとりですべてを背負いこむことになります。妥協できる柔軟性をもつことで発達障害への不安やストレスは減っていきます。
頑張り屋の人ほど燃え尽きてしまうことがありますが、子育ては親だけが孤軍奮闘するものではありません。地域や社会全体が未来への人材を育てていくことを忘れずにいてくださいね。
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認定心理士、産業カウンセラー。嫁姑問題、発達障害、カサンドラ症候群などの家庭問題を中心にこれまでに3万件以上の相談に答えてきたカウンセラー。雑誌のコメンテーターとしてしても活躍するほか、心理カウンセラー養成スクールを開講し、カウンセラーの育成も行っている。