ソーシャルスキルとは?12の種類や発達との関係、子どもとできるトレーニング方法
他者との関係性を築く能力を指す「ソーシャルスキル」。友達とトラブルが多い、自分の意見がなかなか言えないなど、わが子の学校生活や友達関係を見て感じたことはないでしょうか。発達支援現場での経験も豊富な社会福祉士・羽野こはるさんが、ソーシャルスキルについて解説します。
目次
ソーシャルスキルとは
ソーシャルスキルとは、直訳すると「社会的技能」のこと。
社会心理学的には
- 「良好な人間関係をつくり、保つための知識と具体的な技術やコツ」
- 「相手の気持ちや状況を尊重しながら、 自分の気持ちや状況を上手に伝えられるスキル」
と定義づけられています。
つまり、自分や相手が心地良く過ごすための社会的な力のこと。目に見えるわけでも、決まったルールがあるわけでもありませんが、社会や学校の中で必要とされる能力ですよね。
ソーシャルスキルは、成長とともに自然に身に着くタイプの子どももいれば、体験や練習によって身に着くタイプの子どももいると言われています。
子どものソーシャルスキルの種類とは
子どものソーシャルスキルにはどのような種類があり、具体的にどのような行動を指すスキルなのでしょうか。
学校での活動を通してソーシャルスキルを教える「ソーシャルスキル教育」で実際に利用されている、「4分類」・「12の基本スキル」を紹介します。
「4分類」「12の基本スキル」は、教育臨床心理学専門の小林正幸氏と社会心理学専門の相川 充氏による定義。子どもにとって基本的で重要なスキルを具体的に12個取り上げ、4つに分類したものです。
ソーシャルスキルの4分類・12の基本スキル
- 基本的な関わりスキル①あいさつができる
「だれにでも」 「自分から」「顔を見て」「笑顔で」「聞こえる声で」あいさつをするなど、人間関係をつくるための基本となるスキル。
②自己紹介ができる
「自分のことを知る」 「自分のことを話す」 「相手の顔を見て話す」 「聞こえる声で話す」 など、自分のことを相手に伝えるスキル。
③上手な聞き方
「話している人を見て聞く」 「あいづちをうつ」 「最後まで聞く」 など、相手の話に意識を向け、受け止めるスキル。
④質問する
「分からないことを質問する」「内容を明確にして質問する」「順序立てて質問する」 「相手の都合に配慮して質問する」など、相手から情報を得るスキル。 - 仲間関係発展・共感的スキル
⑤仲間の誘い方
「声をかける」「近づいたり手招きをしたりする」など、人間関係の形成や広がりを図るスキル。
⑥仲間の入り方
「自分から仲間に入れてと言う」など、新たな人間関係の形成や広がりを図るスキル。
⑦あたたかい言葉かけ
「ほめる」「励ます」「心配する」「感謝する」など、相手の気持ちを良好にして人間関係を深めるスキル。
⑧気持ちをわかって働きかける
「相手の気持ちを読み取る」「共感する」「相手に働きかける」など、人間関係を親密にするスキル。 - 主張行動スキル
⑨やさしい頼み方
「困ったときだれかに頼む」「頼みたいことを明確にして頼む」「相手の都合を考えて頼む」など、自分の要求を伝えるスキル。
⑩上手な断り方
「理由を言って断る」という、対等な人間関係を維持するスキル。
⑪自分を大切にする
「不合理な要求を拒否する」「感情をコントロールする」など、自分を守るスキル。 - 問題解決スキル
⑫トラブルの解決策を考える
「原因を考える」「解決策を複数考える」「解決に向けて行動する」「だれかに相談する」など、状況の改善に向けて複数の解決策を考え、自分に合った解決策を選択するスキル。
ソーシャルスキルは測定できる
ソーシャルスキルの測定には、医師や心理士などが行う尺度テストや社会適応スキル検査など、さまざまな方法があります。
対象の子どもにどの程度のスキルがあるかという全体のスキルだけでなく、スキルの中でも項目によって得意不得意がある場合の個人内差について測れるものもあります。測定は子どもの行動に対し、専門家が客観的な評価をして行います。
例えば、人とのやりとりでうまく振る舞えないことに子どもが困っていたり、自信をなくしていたりする。大人が教えても理解することができない。こういった場合には、専門家に相談してソーシャルスキルの測定を検討することがあります。“子どもの全体像”を把握することで、子育てや教育へのメリットは大きいと思っています。
相談先としては、
- 病院(発達外来、小児神経科など)
- 発達支援センター
- 教育センター
- スクールカウンセラー
などがあります。
ソーシャルスキルを習得する4つのメリット
子どもがソーシャルスキルを適切に身につけたり高めたりすることには、次のようなメリットがあります。
①人との適切な関わり方ができるようになる
ソーシャルスキルが低い子どもの多くはなぜ適切に関われないのか、どうやったら関われるのかが分からず困っています。人と適切に関わる方法を分かりやすく知ることで、理解し実践しやすくなります。
②授業の内容が身に着きやすくなる
授業中に“分かったら答える”、“分からないことを質問する”といったスキルがあると、勉強が身に着きやすくなります。また、グループ内で話し合いをしたり発表をしたりする授業では、「自分のことを話すスキル」「質問をするスキル」「問題を解決するスキル」など多くのソーシャルスキルが必要です。
③自分に自信が持てる
対人や集団間での適切な関わり方を知るだけでなく、自分の気持ちに対処するスキルが身に着くことで自信を持って人と接することができます。
④ストレスが軽減できる
年齢が進むほど対人関係や集団活動が活発化し、ソーシャルスキルを苦手とする子どもにとってはストレスが高まります。早めにソーシャルスキルを身に着けることで、こういったストレスを軽減できる部分は大きいでしょう。
ソーシャルスキルを身に着けたり高めたりすることは、単に友達との関わりを向上させるためだけではなく自分自身が生き生きと生活していくことにもつながるのです。
また、ソーシャルスキルは、大人になってから職場での仕事やキャリア形成の面でも必要とされる能力といえます。ソーシャルスキルを身に着けることには、人生を通してさまざまなメリットがあると言えるでしょう。
ソーシャルスキルが低いとどうなる? 「攻撃性」タイプと「引っ込み思案」タイプとは
ソーシャルスキルが低いと対人や集団での適切な振る舞い方が分からず、人間関係が構築しづらかったり、トラブルを招いたりということが多くあります。
ソーシャルスキルが低い子どもには、「攻撃性」タイプと「引っ込み思案」タイプがいるといわれています。
【攻撃性タイプ】
自分の思いを大声や罵声、暴力など攻撃行動で表現してしまうタイプ。“キレやすい”、“人の話を聞かない”子どもに多くみられる特徴です。人との距離感が近過ぎる、自分の主張を押し付けてしまうといったこともあります。
【引っ込み思案タイプ】
考えや意見を言えず、思ったように行動できないタイプ。人前で発表をする場面が苦手だったり、断れずに人の言いなりになったりすることがあります。本人の困り感と周りの大人の認識がずれてしまうこともあるようです。
このようなタイプの子どもは、叱られることが重なり自尊感情が育まれにくく、ますます攻撃性や引っ込み思案が高まるという悪循環になりやすいといわれています。また、自分自身を否定的に捉え、周りに合わせなければならない存在として受け止めてしまいます。
ソーシャルスキルが原因でいじめの対象や不登校、体調不良、自分自身を傷つけるなどの二次障害を起こしてしまう可能性もあるのです。
ソーシャルスキルと親の接し方や発達障害の関係
子どものソーシャルスキルの低さを感じている保護者の中には、「自分の育て方のせいではないか」「叱りすぎてしまっていたから」「もっと頑張らせるべきか」などと悩む人も多いかもしれません。
しかし、ソーシャルスキルの問題は基本的に育て方や本人の努力不足で生じるものではないとされています。
もちろんソーシャルスキルは人との関わりやコミュニケーションで身につくものもありますが、育ちの中で模倣や説明から自然に身につくタイプの子どもと、体系的に分かりやすく学ぶ必要のある子どもがいるため、決して育て方だけが原因とはいえないのです。
特に発達に偏りやでこぼこを持つ子どもの場合は通常の育児ではうまくいかないことが多く、体系的に分かりやすく学ぶ必要があります。
ソーシャルスキルを身に着けるのが困難な子どもとは? 発達障害との関係性
ソーシャルスキルをうまく身に着けられない子どもの中には、発達に偏りやでこぼこがある(発達障害がある)場合があります。
発達障害とは生まれつきの特性で、病気とは異なります。いくつかのタイプに分類されており、自閉症・アスペルガー症候群・注意欠如・多動性障害(ADHD)・学習障害・チック障害・吃音(症)などが含まれます。同じ人にいくつかのタイプの発達障害があることも珍しくなく、個人差があります。
ここでは、ソーシャルスキルと発達障害との関係を解説しましょう。
【自閉症スペクトラム障害】
自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害が含まれます。症状の強さに従って分類されますが、本質的には同じ障害単位だと考えられています。
ソーシャルスキルに代表される“自分の気持ちを伝える”、“人の気持ちを想像する”などの“相互的な対人関係”に困難があります。また、表情や場の雰囲気を読むことが苦手だったり、言葉通りに物事を受け取ってしまったりということもあります。
【注意欠如・多動性障害(ADHD)】
発達年齢に見合わない多動性や衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状があります。
多動・衝動性の症状には、席を離れる・しゃべりすぎる・順番を待つのが難しい・他人の会話やゲームに割り込むなどがあります。
不注意の症状には、課題や遊びなどの活動に集中し続けることができない・話しかけられていても聞いていないように見える・気が散りやすいなどがあります。
どちらの症状も、社会性や対人関係においてソーシャルスキルが低いとされます。また、注意の持続が短いと、聞き落としや見落としがあり失敗をしやすくなります。記憶が弱いと教わったことを役立てる力にもつながりにくいため、ソーシャルスキルが身に着きにくくなるのです。
【学習障害(LD)】
全般的な知的発達には問題がないのに、読む・書く・計算するなど特定の事柄のみが難しい状態を指し、それぞれ学業成績や日常生活に困難が生じます。
ソーシャルスキルとの関係としては、間接的に授業に困難が生じることがあります。黒板を読む・板書するなどが難しく、指示や説明が理解できなかったり、今何が起こっているのかが分からなかったりします。そのため、答えを発表したり質問をしたりすることができない可能性があります。
発達障害全体にいえることとして、何かを学ぼうとするためには情緒的な安定が土台となるため、感情のコントロールや行動のコントロールができないと主体的に練習に取り組むことも困難になるということ。これは、社会生活でソーシャルスキルを身に着けるためにも同様のことがいえます。
発達障害がある子どもにとっては、支援なしに自然にソーシャルスキルを身に着けさせるのは大変困難だということがわかります。
発達障害の診断がなくてもソーシャルスキルが身に着きにくい子どもがいる
発達障害の診断が付かなくても、ソーシャルスキルを身に着けるのが難しい子どもがいます。対人緊張が強くて上手く会話ができない、自分のことを話すのが苦手で人間関係が上手く作れない、言い方に配慮ができない子どもなどです。
例えば友達とのおしゃべりは好きだけれど、発言することが難しくそのような場面になると体が固まってしまったり、机に突っ伏して寝たふりをしてしまったりという子どもがいます。このような子どもは、人よりも考える時間が必要な可能性があります。従って、焦らせずに内容を区切って質問したり、事前に答えを考えさせてあげたりすると自己肯定感が高まり活動に参加しやすくなります。
家庭でできるソーシャルスキルのトレーニング方法
人との関わりや、家庭や学校におけるコミュニケーションの中だけではソーシャルスキルを身に着けることが難しい子どもに対して「ソーシャルスキルトレーニング」というものがあります。
ソーシャルスキルトレーニングとは?
ソーシャルスキルトレーニングとは社会生活技能訓練のことで、ソーシャルスキルを向上させ、生活や学習上の困難を解決させようとする技法。社会の中で想定される場面に対し、適切な対応を分かりやすく教えます。
子ども向けには、ルールを分かりやすく学べるように絵カードや写真を使ったり、楽しんで行えるようにゲーム形式にしたりといった手法があります。
【例:すごろくを使ったトレーニング】
「こんなときどうする?」(適切な答えのマスに進む)
- 友だちに借りた本のページを汚してしまった。
- わざとではないけれど、前に並んでいた子に手があたってしまった。
【例:自分の気持ちをコントロールするトレーニング】
- 自分のイライラ度合いについて、気持ちの尺度に表す。(1〜5、表情カードなど)
- どんなときに、どんな気持ちになるか、考えて言葉で表現する。
内容は機関によりさまざまありますが、主な技法としては以下の通りです。
- 説明する(教示)
- 手本を示す(モデリング)
- 練習する(リハーサル)
- 実行する
- 評価する(フィードバック)
- 日常的に定着させる(般化)
家庭で行えるソーシャルスキル教育
家庭でもソーシャルスキルトレーニングの考えを取り入れた対応をすると、効果的に家族間のコミュニケーションが取れることはあります。
例えば、
- してほしい行動や言ってほしい言葉は、抽象的ではなく具体的に見本を示して伝える。
- 学校で発表の場面があるときは、家で事前に練習する。
- 良い点は褒めて強化し、訂正する点は具体的に教える。
また、ソーシャルスキルが身に着きにくい子どもは、学校や社会の中で困ったり傷付いたりすることが多いものです。家庭で配慮する点のは一つとして、子ども自身が安心して自分らしく過ごせ、自分を受け入れて貰える実感を与えてあげること。
また、成功体験や家族に褒められた経験から自己肯定感を向上させ、意欲的にソーシャルスキルを身に着けられるようになることもあるでしょう。
家庭でのソーシャルスキル教育に使いたいツール
『発達協会式 ソーシャルスキルがたのしく身につくカード(1)どっちがカッコイイ?』公益社団法人 発達協会(合同出版)
さまざまな支援や研修をしている発達協会が販売している教材です。イラストがわかりやすく、家庭でも教えやすい内容です。
【五色ソーシャルスキルかるた スタートキット<読み札+取り札> 遊びながらルールとマナーを身につける!】TOSSオリジナル教材(東京教育技術研究所)
かるた式になっているので、遊びながら教えることができます。社会のルールとマナーがリズム良く書かれており、子どもにも覚えやすくなっています。
【ガストンのきぶんをととのえるえほん(おこりたくなったらやってみて)】オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ著(主婦の友社)
子ども自身の感情コントロールの絵本。自分の気持ちを色や天気に置き換えて理解したり、イメージと呼吸で整えたりする方法が書かれています。別シリーズ「悲しくなったらやってみて」「こわくなったらやってみて」もおすすめです。
ソーシャルスキルは、多くの人は育ちの中で自然と身に着けていくもの。しかし、中にはさまざまな理由から自然には身に着かず、教わったり練習をしたりする必要があるものです。
それは、決して努力不足でも育て方のせいでもありません。そういった子どもたちの中には失敗経験や叱られた経験から自信をなくし、悪循環に陥っている子どももいます。筆者が支援していたソーシャルスキルが身に着きにくい子どもの多くも、人との関わり方が分からずにストレスを抱えていました。
大人が特性に理解を示した上で、適切な振る舞い方を分かりやすく教えることが大切だと感じます。家族や学校がソーシャルスキルについて正しく理解し、子どもの特性を客観的に知ることが、社会の中で自分らしく過ごせるヒントになるこのではないでしょうか。
【参考資料】
- 『ソーシャルスキル教育で子どもが変わる 小学校―楽しく身につく学級生活の基礎・基本』小林正幸・相川 充著(図書文化社)
- 『先生のためのやさしいソーシャルスキル教育』小林正幸著(ほんの森出版)
- 藤枝暁静・相川 充「小学校における学級単位の社会的スキル訓練の効果に関する実験的検討」
- 石川芳子「ソーシャルスキルトレーニングの理論と実際」
- 日本ソーシャルスキル協会
- 安達知郎「子どもを対象としたソーシャルスキル尺度の日本における現状と課題」
- 足立文代・佐田久 真貴「ソーシャルスキルトレーニング実施が学級適応感や自尊感情に及ぼす効果について」
- 「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」(厚生労働省)
- 『発達障害を持つ子どもの心ガイドブック』(主婦の友社)
- 『その子、発達障害ではありません IN―Childの奇跡』韓 昌完著(さくら舎)
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