日々学び続け、変わり続けることができる教師でいたい/小学校教諭・二川佳祐
二川佳祐
都内の公立小学校教諭の二川佳祐さん。若手時代に経験した学級崩壊を機に新たな学びや取り組みにチャレンジし、自己変革を実現。今では公教育のフロントランナーとして走り続ける二川さんに、現役教員の視点から“いい先生”について語っていただきました。
目次
自分たちを信頼して任せてくれた恩師に憧れ、教育の世界へ
教員になり13年目になりますが、教員を目指そうと思ったのは、中学・高校時代に、いい先生との出会いがあったからです。
中学校は都内の公立校だったのですが、クラスの学級委員になり、イベントなどを企画するときに学年の先生たちと話す時間がすごく楽しかったんですよ。
”先生と生徒”という縦の関係ではなく”人間同士”という横の関係を重んじてくれ、僕たちにいろいろ任せてくれていることが伝わってきてうれしかったのを覚えています。
また、先生同士の仲が良く、「先生って楽しそうだな」と思ったことも記憶に残っています。休み時間になると、校内の休憩スペース的な場所で雑談している先生方に話しかけ、“世間話”をする時間も好きでした。
高校ではラグビー部でしたが、顧問の先生はとても熱心に指導してくださるだけでなく、部員の声にも耳を傾けてくださる方でした。
当時、指導方法に疑問を持ち、「もっと部員に任せてもらえるような練習体制にしてほしい」と思い切って提案したら、受け入れてくれたんです。最後の引退試合の前に、「お前たちは自分たちでチームを作ることができて素晴らしい!」という言葉をいただき、感動しました。
これらの先生方に共通しているのは、子どもたちを信頼して任せてくれること、先生としてはもちろん、人としても魅力的であることだと思います。
大学時代の教育実習では、現在の小金井市教育長の大熊雅士さん、メディアにも良く出ている”ぬまっち先生”こと沼田晶弘先生にお世話になりました。
従来のスタイルにとらわれず、人柄がそのままにじみ出るような授業を間近で見させていただき、「こんな風に、自分らしい授業ができる先生になりたい」という志を抱きました。
学級崩壊を機に、学校“外”とのつながりを求めて得られたもの
しかし、教師になり担任をもってみると、求められるのは、自分らしさよりも規律や型でした。
ジレンマを抱えながらも日々、僕なりに一生懸命子どもたちと向き合っていたつもりだったのですが、クラス運営がうまくいかず学級崩壊を起こしたこともありました。周りの先生も保護者も「先生のせいじゃないから」と言葉をかけてくれるのですが、子どもたちが安心して学べる環境をつくることができなかったのは、自分に(教師としての)力量が無いからだと思っていました。
「このままではいけない」「自分がもっと学ばないといけない」という気持ちでいたときに、高校の同級生で、アメリカで脳神経科学について勉強してきた青砥瑞人くんと再会する機会がありました。
教育や人材育成に“脳”からアプローチするプロジェクトの立ち上げを準備していた彼と定期的に話をしているうちに、自分を深く知ることや、学校の中だけでなく外に出て、さまざまな人とつながる必要性を痛感しました。
そして、2017年、教育と社会の垣根を越えて学びを追求するコミュニティ「BeYond Labo」を立ち上げたのです。
教育、環境問題、街づくりなどの分野のキーパーソンを招いて定期的にイベントの企画・運営をスタート。思考錯誤を繰り返しながら、活動を続けるうちに自分自身の学びにつながり、子どもたちが教室でのびのびと学べる環境を作れるようになるなど、成長を味わえるようになってきました。
先生はフィードバックがもらいにくい職業
僕は学校外の活動によって、いろんな意見や考えを取り入れる機会がありますが、基本的に先生は、教室にいる大人は自分ひとりですし、フィードバックがもらいにくい職業なんですよね。
特に新学期はクラスの立ち上げでバタバタしていて、前に進めている実感すら味わう機会を逸してしまうことが多いんです。
こんなとき、連絡帳に子どもがポジティブに学校に通えている様子を書いてくれるだけでメチャクチャうれしいですし、勇気づけられるんですよね。
運動会など学校行事のあとに、保護者の方にアンケート用紙を配るじゃないですか。実は、回収されたアンケートを先生たちは真剣に読み込んでいます。保護者の“声”をたくさん聞きたいんですよね。
学校行事や年に一度の学校評価だけでなく、学期末ごとにアンケートを作って配布するなど、保護者の方からのフィードバックをもう少し多くもらえるような機会があると、僕たち教員も途中で軌道修正ができたり、柔軟に対応できたりするようになるかもしれません。
保護者だけでなく、子どもの声ももちろんうれしいです。年度の最後に、担任したクラスの子どもたちから手紙をもらったりするのも、本当にうれしいんです。それだけで1年間の苦労が吹き飛ぶくらいうれしいです。
いい先生とは、日々学び続け、変わり続けることができる人物
ひと昔前の学校の先生って、ひとことでいうと“権威的で絶対的な存在”だったと思いますし、それで良かったと思うんです。
でも、今の時代は違いますよね。インターネットが普及して超情報化社会になり、世の中の構造が急激に変化してきています。加えて自然災害や新型コロナウイルス感染症の大流行など、「明日どうなるかわからない」といってもいいくらい、予測不能な世の中です。このような中、先生が旧態然とした権威をふりかざし、「私のいうことを聞きなさい」と上から押し付けても説得力がなく、子どもたちはついてこないですよね。
では、今のような時代の“いい先生”とは? と考えたとき、時代が変わっていくことに負けないぐらい変わり続けられる先生なのではないでしょうか。
年齢やキャリアに関わらず日々学び続け、変わり続けることができる先生。公教育では、まさに今、GIGAスクール構想の波が押し寄せてきています。「パソコンは苦手だから」「あまり使ってこなかったから」などといって遠目に眺めるのでなく、「まずはやってみよう」と自ら学び、変化を楽しめる先生。
チャレンジして失敗しても、その失敗も含め、ありのままの姿を子どもたちの前で自己開示できる先生の姿に子どもたちは安心し、のびのび学び続けることができるのだと思います。
だからこそ、僕はこれからも学校の内外でも学び続け、変わり続けていきたいです。教師自身が自分の人生を自分らしく生きる姿を見せていくことで、子どもたちにプラスの影響を与え続けることができればいいですし、より良い学びの環境づくりにつながっていくのではないかと思います。
二川先生の活動はこちらの記事をチェック
都内公立小学校主任教諭。東京学芸大学卒業卒。教壇に上がる傍ら、「教育と社会の垣根をなくす」「今までの自分を超える」をビジョンとするコミュニティー「BeYondLabo」、Googleを学ぶ教員グループ「GEG Nerima」を運営。2021年9月『いちばんやさしい Google for Educationの教本』(インプレス)を出版。2児の父親