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現代のソクラテス
2021.12.24

「義務教育にお金の教育を」YouTubeで人気の税理士が語る”お金×子ども”の話

子どもにも分かりやすくマネーリテラシーについて解説するYouTubeチャンネル「マネリテ学園」。登録者数30万人以上を誇る、このチャンネルを運営するのは税理士の大河内薫さんです。全国の小~高校でも講演活動を行う大河内さんが「義務教育にお金の教育を導入したい」と目標を掲げる理由、子どものうちにマネーリテラシーを身に付ける意義について伺いました。

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大河内薫さん税理士

芸能・芸術/クリエイターに特化した税理士事務所・株式会社ArtBizを経営。税理士として業務を行うだけでなく、SNSやメディアでの発信を行い、登録者数30万人以上のYouTubeチャンネル「マネリベ学園」を運営するほか、学校などでも「お金の授業」を行っている。著書に「お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!」「貯金すらまともにできていませんがこの先ずっとお金に困らない方法を教えてください!」(ともにサンクチュアリ出版)がある。
Twitterアカウント:@k_art_u

お金の知識を学ぶ機会がない現実

税理士としての通常業務以外にYouTubeやTwitterなどでもお金の知識を広める”日本一発信する税理士”として活躍する大河内さん。大学の芸術学部を卒業後に税理士を目指した異色の経歴の持ち主です。

「実は、芸術学部に入学したのも税理士になったのも高い志があったわけではないんです。上京して名をあげたいという思いで日芸に行き、大学卒業後は何となくかっこよさそうなイメージで何か資格をとって“士業”に就こうと考えたんです」

候補に上がったのは、弁護士、司法書士、税理士、会計士。その中で働きながら最も取りやすいという理由で目指したのが税理士でした。しかし、働きながらの高難度の資格を取得するのは簡単なことではなく…。

「どれだけ大変なことか分かってなかったから挑めたことかもしれません(笑)。ただし『人より3倍やれば受かるでしょ。人の3倍はやる』という自信はあって、実際に食う、寝る、生理現象、仕事以外は全部勉強という生活を4年間続けました」

まったく違う世界からの転身。大変さは想像を絶しますが、税理士に向けて勉強をしていく4年間で気付いたことが今の活動につながっています。

「僕は税理士事務所で働いていたこともあり、税金の仕組みをどんどん知っていきましたが、一方で友達と話していると、ほとんどの人が税金のことを知らない。『社会に出ているのに知らないって大丈夫なのかな』と違和感があったんです。その『大丈夫かな』『知っておいた方がいいんじゃないの?』という思いが膨れ上がって今に至っています」

日本一発信する税理士としての活動

その後、税理士として独立開業。クライアントに対する仕事だけではなく、「多くの人がもっとお金のことを知っておいた方がいいのではないか」という以前から抱き続けてきた思いをSNSで発信するという形で徐々に実現していきます。

「当時、税理士の世界はメルマガを発行するだけで驚かれるような風潮でした。そんな中でクライアントではない人々に向けてTwitterで発信を始めた僕は宇宙人を見るような目でみられていたかもしれません(笑)。

でも、実際に発信をしてみたら反響がすごくよくて、やっぱり、社会で生きていく以上、自分がもらっている給料の明細くらい読めたほうがいいし、実際に知ってよかったと思っている人がいるし、税理士にとっては当たり前のことでも知識を届けていくことが求められていると実感しました」

大河内さんが発信したのは、「給料明細で天引きされているのは何か知っていますか?」ということや「健康保険料の料率は毎年4月に改定されて、実は消費税より上がっているんですよ」など、「納税の抜け道を教えます」というような、いわゆるお得情報ではなく、税金の基本的な知識でした。

にも関わらず、インフルエンサーという言葉もなかった時代に無名の税理士アカウントのフォロワーがあっという間に1万人を突破

さらに、著書を出版する際に意識調査などをすすめると「僕が思っている以上にみんな税金のことを知らないんです。なぜ、こんなにお金のことを知らないのかと考えたときに気付いたのが、『みんなが知らないのは税金の教育を受けていないからだ』ということでした」

義務教育でお金について学んで欲しい

大河内さんの発信する税金の知識に対して「誰も教えてくれませんでした」という反響があるたびにお金の教育の必要性を強く感じていく中、2019年にYouTubeを開始。動画の内容は、税金の話が中心だったものが、次第にお金全般についての発信になっていきました。

「税金から投資の話をしていくときに『あれ、税金だけじゃなくて投資や貯金についても分かっていないんじゃないの』と思ったんです。例えば『貯金にもリスクがあるんだよ』と言うと驚かれてしまう。もはや税金だけじゃなくてお金全般についての教育が必要なのではないかと強く思いました」

そこで2020年にオンラインサロンを開設。現在、約400人いるコミュニティで“お金の教育”について議論し、最終的に義務教育にお金の教育を導入すべく活動し、大河内さんは全国の小~高校へ行き、お金の教育を行っています。

「子どもたちにはお金とフラットに付き合える人間になってほしいんです。お金はあくまで道具なんです。スマホや車と同じように、もっていれば便利で人生を豊かにすることができるもの。目的もなくスマホを3台持っていても意味がないように、目的や計画もなく貯めるだけでは意味がありません

また、“お金=怖いもの”と思っている人もいるかもしれませんが、怖いのはお金ではなく、お金を使う“人”のほうなんです。

例えば、刃物による傷害事件が起きたとき、恐怖心は刃物ではなく傷つけた“人”にいきますよね。ですが、お金に限っては、怖いのはお金となってしまう。それは、刃物と違ってお金は正しい使い方を誰も教えてもらっていないからではないでしょうか。

子ども達は上手く使えなくてもいいから、せめて正しい知識・使い方を教えてから社会に出してあげたいですね」

大人もお金について学び直す必要がある

しかし、マネーリテラシーは子どもだけが学べばいいという話ではありません。

「一般の企業でお金を扱うのは経理など、お金の扱いを知っている方々ですよね。一方、家庭は一生で数億円のお金を扱うといわれているにも関わらず、管理するのはお金の勉強などはしてきていない主婦です。そう思うと少し心配ですよね」

しかし、不安を感じて家庭のお金の状況について知識を得ようと思っても相談できる相手は保険会社や銀行などのFPなど。どうしても説明に商品が絡んでくるため、『何か契約をさせられてしまうのではないか』と身構えてしまったり、将来への不安を駆り立てられるだけだったり、というケースも少なくありません。

どんな契約を結ぶにしろ、まずは基礎的な知識をもって納得した上で行うべきです。例えば、日本は公的保険が充実しているので、本来、医療保険を必要とする人が少ないのがお金の知識がある人の中では常識です。ですが、ほとんどの人は知らないで、前時代から続く『大人になったら保険に入るものだ』という認識に従っています。本当に必要かどうかというのは自分で確認しなきゃいけないし、そのためにはフラットなお金の知識が必要です」

だからこそ、親も一緒にお金の使い方や知識を学んでほしいと大河内さんは続けます。「人気のあるお金の専門書を1冊読むだけでマネーリテラシーはかなり変わると思います」

また、大河内さんのYouTubeチャンネル「マネリテ学園」では、「投資と浪費の違い」など親がうまく伝えられないことを小学生にも分かりやすく解説してくれているので親子で見て一緒に知識を得ていくにはぴったりです。

「子どもは純粋で吸収力が高いので、親子で一緒にお金について学び始めたら大人のほうが負けてしまうかもしれません。子どもに教えてもらうなんて恥ずかしいと思うかもしれませんし、今頭の中にある常識を壊していくことはつらいことかもしれません。

ですが、一般的に子どもに話しづらいお金のことを親子で話せるができるようになることは、親と子の間にある隔たりをひとつ乗り越えたことになります。ほかの話題についても話しやすくなり、家族というチームのまとまりも強くなるのではないかと思います」

家庭でできるマネーリテラシー教育

本やネット以外で家庭で実践できるマネーリテラシー教育のヒントを大河内さんに聞いてみました。

お金の失敗は子どものうちにしたほうがいい

親はつい子どもに「無駄遣いをしてはいけないよ」「そんなものを買うの?」と、子どものお金の使い方に制限をかけてしまいがちですが、「お金の失敗は悪いことではない」と大河内さんは話します。

「お金に限らず、何かの道具を初めて使うときは、失敗して当たり前なんですよね。お金だけが最初から上手く使えるわけがないんです。

だから、もし『子どもがお小遣いを全部使ってお菓子を買っちゃった』と言っても、怒る代わりに、『あなたの今の使い方は”浪費”というんだよ』と、きちんと説明してあげてください。さらに、『今回のお金の使い方ってどうだったんだろうね?』と反省会をしてあげられるとすごくいいと思います。

お金の失敗が社会に出てからだと結構痛いんですよね。なので、子どものうちに何回もお金を使わせて、いっぱい失敗させて学ばせるというのはすごく重要です」

子どもも家庭の経営状況の話に参加させる

家庭の経済状況を初めて子どもに話すのが、子どもの進路選択のとき、という家庭は少なくなはずです。ですが、もしもっと早い時点から子どもも現実的な家のお金事情が分かっていれば、子どもの進路への考え方も変わります。

「進路を決めた時点で『無理』と言われても、子どもは悔しい思いをするだけです。もし、もっと早い時点で話していれば、子ども自身が『じゃあどうしようかな』と考えるんですよね。そこで、親と一緒に『アルバイトしようか』『アルバイト以外の稼ぎ方もあるよね』といろんな選択肢を考えることができ、子どもも1員に加えたチームプレーができます

お金の本をリビングに置いておく

子どもに「さあ、お金の勉強をしよう」と言って、「分かった!」とノリノリになってくれる子どもってなかなかいないですよね。思春期になればなおさらです。そこで、大河内さんが提案するのは、リビングに読みやすいお金の本を置いておくこと。

「例えば、昨年出版した僕の本はマンガになっているので読みやすく、表紙もコミカルになっているのでお金に弱い人でも手を出しやすいんです」

大河内さんの元には、実際に『リビングに置いていたらいつの間にか知らないページにしおりが挟んでありました』という報告をSNSなどを介して3日に1度くらいもらうそう。本がコミュニケ―ションをとるきっかけになりそうです。

<大河内さんの著書はこちら>

「お金に対してちゃんと知識を持った日本人が増え、正しいお金の使い方が分かる人が出てくると社会は変わっていくと思います。お金の教育が義務教育に入り、誰もがマネーリテラシーを身に付けられるのが一番ですが、以外にも、興味があれば誰でも英語が学べるように、お金の知識も学びたいと思ったときに学べる環境をつくっていきたいですね」

浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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