「出会いと憧れが人生を作る」孤独の解消に取り組む発明家が子ども達へ伝え続けていること
分身ロボット「Orihime」(オリヒメ)の開発・提供を手がける吉藤オリィさん。世界から注目されるロボット開発者となるまでの道のりには、3年半の不登校生活、そして友人との出会いがありました。彼が、次世代を担う子どもたちに伝えたいことについて話を伺いました。
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「孤独の解消」を自分の人生のテーマに
分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」は、さまざまな事情で外出困難な人が遠隔操作をして、その場にいるようなコミュニケーションを実現。離れた場所にいても会いたい人に会って感情を共有することができ、世界中から注目を集めるロボットです。
吉藤さんがなぜ、このようなロボットの開発に至ったのか。そこには、小学5年生から約3年半の不登校生活があります。
「小さい頃から体が弱く、祖父母を亡くしたショックで体調を崩し、1週間ほど欠席したのをきっかけに不登校になりました。ただ、理由は何かひとつというわけではありません。同級生の心の成長に追いつけなくて自分だけ置いてけぼりをくらった気がしていたのも一因です」
思春期になり、遊び方も興味をもつこともめまぐるしく変わっていく小学校高学年。その流れの中で徐々に浮き始めていった吉藤少年はどんな子どもだったのでしょうか。
「保育園・小学校時代から、みんなで一緒に遊ぶことができなかったり、“やらされる”勉強に全く興味がもてず、授業をじっと聞くことができない。周りに合わせることが苦手な子どもでした。
周囲からは『協調性がない』『わがままな悪い子』と思われ、私自身も『自分が間違っているんだろうな』と思っていました」
不登校中、自己否定をしながら自宅で天井を見続ける日々だったと話す吉藤さん。
そんな中、自室で没頭していたのは小さい頃から大好きな創作折り紙でした。そして、中学1年生の初夏、お母さんは「折り紙ができる人は、ロボットも作れる」と言って吉藤さんに「虫型ロボット競技大会」への参加を勧めます。
この「虫型ロボット競技大会」の優勝経験を機に、“人生の師”というべき久保田憲司先生に出会い、久保田先生が教鞭を取る高校への進学するために学校へも通い、積極的に勉強にも取り組むようになった吉藤さん。
その後、工業高校、高専、早稲田大学でさまざまな研究・開発を重ねる中で、障害者や高齢者が抱える悩み、ひきこもりや不登校の現状に直面。自身の不登校時代に味わった孤独感も糧となり、「孤独の解消」を人生のテーマに取り組むことを決意しました。
あらゆる人たちが社会参加できるように
吉藤さんが掲げる「孤独の解消」というテーマ。それがひとつの形となったのが、2021年6月にオープンした「分身ロボットカフェDAWN ver.β」です。
2018年から「あらゆる人たちに、社会参加、仲間たちと働く自由を」をビジョンに、企業などと提携をしながら期間限定店を各所で展開。実証実験を進めてきた一大プロジェクトの集大成でもあります。
「常設のカフェを作るという経験はこれまでの人生の中で初めてで、大変なこともたくさんありましたが、気づきや学びも非常に多く、とても面白い体験させてもらっていることを実感しています。
ただし、私が目指すのは、持続可能であり、再現可能なモデルの構築です。『分身ロボットカフェDAWN ver.β』をアップデートさせながら、さまざまな事情で外に出られない人たちが社会参加する“ツール”や“体制”を整えていきたい。
『自分が働きたいと思ったときに働ける』『寝たきりになっても行くことができる』場所として、分身ロボットカフェが全国、あるいは世界に増えていくことこそが、私の人生をかけたテーマである『孤独の解消』につながると思っています」
先に居場所を作ることで1歩目が踏み出しやすくなる
働く場のみならず教育現場でも、分身ロボット「OriHime」の導入は全国的に広がっています。
「OriHimeは購入だけでなくレンタルも行っています。『修学旅行だけ使いたい』『卒業式だけ使いたい』『不登校の子をOriHimeで遠足に連れていってあげたい』『入院中の子に登校やお出かけをさせてあげたい』など、いろいろな使われ方をしています」
ユニークなものだと、文化祭で不登校の子が「OriHime」を使って占いの館を開いたというケースもあったそう。
「そういうことが不登校の子でも学校に友達や居場所を作るきっかけになります。現状、学校では登校できない子たちの居場所を作るということがなかなかできていません。ですが、OriHimeを使って先に学校に友達や居場所を作った後なら、最初の1歩目が踏み出しやすくなるんですよね。(身体的に)大変だったり、人前が怖かったりしても、居場所があるという安心感で『行きたい』『行こうかな』となるのです」
先に居場所を作った後に、体が登校するというのは不登校への新しいアプローチです。
「不登校だった子が、OriHimeをきっかけに学校に行くようになったというケースはよく聞きます。『OriHimeでの登校ならお腹痛くなりにくい』という話も聞きますし、自分の顔を見られないということも安心感に繋がるのだと思います」
出会いと憧れが人生を作る
ロボットの研究開発に加え、カフェの運営など日々を送る多忙な吉藤さんですが、小・中学生向けの講演活動も行ってきました。
「講演活動は、4歳のときに交通事故にあい、寝たきりになってしまった私の親友・番田雄太と一緒に行っていました。私が初めて彼と会ったのは、彼が24歳のとき。彼は事故以来20年間学校に行けず、ほぼ病院のベッドで過ごしてきたのです」。
番田さんはオリィ研究所の社員で、岩手県盛岡市の自宅から「OriHime」でテレワークとして出社し、吉藤さんのスケジュール管理などの仕事を行っていました。
「人生の正解ってなんだろうって考えたとき、『勉強を頑張る』とか『部活動を頑張る』とかはもちろん素晴らしいことですが、それだけじゃないのかなと思うんです。
私や番田が『学校に行きたいけど行けない』『働きたいけど働けない』という孤独感と向き合いながらも、今こうやって社会と関わっている姿を見てもらい、明日死んだとしても今日やりたいことをやること、人と比べないこと、自己否定しないことの大切さを伝えていくことに意義を感じ、講演を始めました。
残念ながら、彼は2017年に亡くなってしまいましたが、生前のメッセージの録音をみなさんに聞いてもらいながら、今でも講演を続けています」
現在もひとりで講演活動を行う吉藤さん。かつての自分が「虫型ロボット競技大会」に参加し人生が変わったように、子どもたちが吉藤さんと出会うことが「ひとつの“出会い”になるといい」と話します。
「”出会いと憧れが人生を作る“というのが私の考えです。誰かと出会って『自分にとってこの人は合ってるな』という人を発見できると、自分にとって何がいいかということが自分で判断できるようになっていきますよね。そういう意味で、出会いと憧れというものによって、『これ好きだな』『かっこいいな』と思えるものを作っていってほしいですね。難しい話を聞かせるよりも、『かっこいい』という感情が人を動かすと思います」
また、”好き”や”かっこいい”を言語化する必要はないとも話します。
「かっこよさって言語化できないし、講演会では、難しい説明はしないでフワっとかっこいいものを子どもたちに見せるようにしています。
例えば、ドラマや映画が作り物だということはみんな分かっていますよね。だけど偽物だと分かっていても感情移入をするし、自分の見たい部分、感じたい部分で心を突き動かされますよね。
だから、下手に言語化をせずに、『かっこいいだろう』と思うことをします。例えば、目の前で折り紙でバラを折ったら子どもたちは、無条件に『スゲェー』て言ってくれますしね。言葉で何かを言うよりも通じ合えます」
<吉藤さんから子どもたちへのメッセージが1冊の本になりました>
どんな人にも、できることは必ずある
VUCA(ブーカ)やSociety5.0など、次代を担う子どもたちには、先行き不透明で予測困難な世界が待ち構えています。このような状況のなか、「自分は将来何をしたらよいかわからない」と悩む子、学校に行く価値を見出せず不登校になる子、そんなわが子の未来を思い案じる保護者も少なくなりありません。
「当たり前のことですけど、人って、一人ひとり違うんですよね。好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、苦手なことはその人によってバラバラ。親ができたことを、子どももできるとは限らないわけです。親御さんは、自分ができたことや『こうなってほしい』と思うことを、子どもに押し付けないで欲しいなと思います。
子ども時代は、『これをしているとワクワクする』とか、『楽しくて時間を忘れてしまう』ということが、少なからずあると思うんです。『なんかよくわからないけど、あの人かっこいい!と思う』とか。
お子さんのそんな様子をキャッチしたら、その世界で活躍している人や輝いている人の話を聞いたり、できれば会えたりする機会を作ってあげてほしいですね」
現代は、幸いなことにインターネットが自由自在に使える時代です。小さな世界中で周りに合わせて我慢する必要はない、と吉藤さんは続けます。
「学校で友達ができなくても、ネット上で友達ができればいいと思うし、これからは、そのようなネットワークを探し、選択するスキルも大切になっていきます。
世の中は常に不完全で、完成されているものはひとつもないんです。どんな人にも、できることは必ずあります。みんなと違ってもいい。まずは自分が思ったやり方でやってみることが大切です」
フリーライター、エディター、認定子育てアドバイザー。妊娠&出産、育児、教育などの分野の企画、編集、執筆を行う。PTA活動にも数多く携わり、その経験をもとに、書籍『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(厚有出版)などを出版。「PTA」「広報」をテーマに講演活動も行う。2児の母。