HSCと不登校の関係は?敏感な子どもの特徴や不登校になりやすい原因、親ができる対応などを専門家が解説
不登校のお子さんを持つご家族のなかには「刺激に人一倍敏感な子ども」と聞いて、思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。このような子どもは「HSC」の性質があるかもしれません。
今回は、HSC傾向の子どもたちが不登校になりやすいといわれている背景や対策、不登校になってしまった際の対応策などを説明します。
目次
子どもの不登校の原因はHSCなの?
HSCはHighly Sensitive Childの略語で、日本語では「非常に繊細な子ども」と訳されます。1996年に、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱したものです。
アーロン博士の著書では、統計学的に人口のおおむね15~20%がHSCの子どもだと記載されています。約5人に1人と珍しくないものですが、医学的概念ではなく生まれながらの気質として分類されているため、病気でも障害でもありません。
しかし、近年注目されているのが、HSCの子どもたちと不登校との関係性です。HSCの子どもは繊細で几帳面で想像力に富んでいる反面、ストレスを受けやすい傾向があります。学校の雰囲気、教師や友達との人間関係、授業の進み具合など、さまざまな要因から刺激を感じやすいのです。その結果、不登校につながりやすいと考えられています。
とはいえ、子どもが不登校になる理由は、ひとつとは限りません。HSCの子どもは不登校につながりやすい可能性はありますが、不登校のすべての原因がHSCとはいえないのです。
同様に、HSCの子どもが必ずしも不登校になるわけでもありません。繊細な気質を持っていても、学校生活が好きな子どもはいます。大切なのは、HSCの気質が強いかもしれないと感じた時点で自己判断せず、専門家に意見を聞いて適切な支援を得ることです。
HSCの子の特徴とは?
アーロン博士が提唱したHSCの代表的な特徴は、「DOES(ダズ)」と呼ばれる4つの性質です。
D:深く処理する(Depth of processing)
微細な手がかりから多くのことを推測し、周囲の雰囲気を繊細に察知して慎重に判断する
O:過剰に刺激を受けやすい(being easily Overstimulated)
五感が研ぎ澄まされており、香りや音、物の手触りなど、さまざまな刺激に敏感に反応する
E:全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い(Emotional responsiveness)
喜怒哀楽の感情の起伏が大きく、他者の感情を身を持って感じ取る共感性に富んでいる
S:ささいな刺激を察知する(empathy and sensitive to Subtle stimuli)
人間関係や環境の些細な変化にも敏感に気づく傾向がある
HSCは、上記4つすべての側面があるとされています。しかし前述したように、HSCは病気でも障害でもありません。
HSCの子どもは「快」「不快」といった刺激からその影響を強く受けてしまい、不快感や不安を覚えやすいのが特徴です。時として突然泣き出したり激しく動き回ったりする場面が見られるケースもあります。この行動は、神経発達症(発達障害)の子どもにも見られるものです。
しかし、HSCと発達障害は全く別物の概念として定義されています。そのため、HSCと発達障害を安易に同一視してしまわないよう注意が必要です。HSCはあくまで感受性の違いで、発達障害とは異なる特性といえます。両者を混同することなく、それぞれの特徴を理解することが大切です。
一方で、HSCと発達障害には共通点もあります。「発達障害かもしれないと思ったけれどHSCだった」と同じように「HSCかと思ったけれど発達障害だった」という場合もあるため、判断に迷う場合には、やはり専門家の力を借りるのが適切です。
▼HSCの定義やセルフチェックリストはこちら
HSCの子は不登校になりやすいの?
HSCの子どもは、繊細で几帳面な一面を持つ一方で過剰にストレスを感じてしまう傾向があるため、不登校になりやすいといわれています。人が大勢集まる空間に気疲れしやすいHSCの子どもにとって、学校はストレスを感じやすい環境です。
共感性の高いHSCの子どもは、刺激に敏感に反応してしまい、徐々に行き渋りや欠席が増え、最終的に不登校に至ってしまうケースが少なくありません。また、ストレスを回避するために気分転換を求めることで、学校を休んでしまう機会が増えてしまうのも、不登校につながる要因の一つと考えられます。
HSCの子どもにとって学校は「予測不可能な刺激の多い環境」となりやすく、不登校と結びつきやすいのです。
HSCの子が学校でストレスを感じる要因とは?
不登校の子どもの声に耳を傾けてみると「学校で友達が先生に叱られているのを見るのが辛い」「休み時間の賑やかな声に絶えられない」など、何が要因なのかを自覚している事例も珍しくありません。
HSCの子どもが学校でストレスを感じる主な要因を3つご紹介します。
要因①:人間関係のストレス
HSCの子どもは繊細な心を持っているため、教師や友人との人間関係でちょっとしたすれ違いや軋轢が生じただけでも、心に大きな傷を負ってしまいます。例えば、クラスメイトからのささいな一言で深く心を痛め、人間不信に陥ってしまうケースも少なくありません。
また、教師の一言で自分を完全に信用してくれていないと感じ取り、以降教師との信頼関係が損なわれてしまう場合もあります。HSCの子は相手の気持ちを推測しすぎて疲れてしまう傾向があり、そのストレスが不登校の要因となり得るのです。
要因②:環境の変化へのストレス
些細な環境の変化に過敏なのも、HSCの特徴の一つです。
学校生活では、担任の教師が代わったり教室が移動したり、時間割の変更があったりと、子どもから見れば大きな変化が頻繁にあります。HSCの子どもはこうした変化を刺激として敏感にキャッチしやすく、強いストレスを感じてしまうのです。
例えば、席替えで机の位置が変わっただけで落ち着かなくなる子もいれば、クラス替えで精神的に参ってしまう子もいます。さらに、周囲の友達が環境の変化にそつなく適応できている様子を見て「自分は気にしすぎだ」「自分はおかしいかもしれない」と自信をなくすことで心身ともにストレスが高まり、不登校に至るケースもあるのです。
要因③:学業面でのストレス
HSCの子は完璧主義な性格の持ち主が多く、自らに高い期待をかける傾向があります。失敗しないように自分なりに気を付けるのは、悪いことではありません。しかし、思うような結果が得られないと体調を崩してしまうほど強いストレスを感じるのは、子ども本人にとって非常につらい状態です。
例えば、テストで95点を取っても「5点落としてしまった…!」と気にしてしまったり、運動会で2位になったことを受け入れられずに長く落ち込んでしまったりするケースがあります。
HSCの子どもがこうした経験を重ねると、学業面でのストレスが蓄積したり自信をなくしたりして、最終的には不登校に至ってしまう場合もあるのです。
不登校になってしまったHSCの子どもの心理とは?
不登校状態は、刺激の多い学校生活から一時的に距離を置けるため、安心できたり心が楽になったりします。その反面、同年代の子どもたちが学校へ通う時間に自分は自宅で過ごすようになると「学校から離れたこと自体」にもストレスを感じてしまいがちです。
心理①:刺激から離れられることで安心する
文部科学省が令和3年に行った調査によると、不登校の小学生のうち70%、中学生のうち69%が「学校を休んでほっとした・楽になった」と回答しています。また、同じ調査で66%の小中学生が「自由な時間が増えてうれしかった」と答えた※とのことです。
この調査を受けた小中学生のうち、HSCの子どもがどれくらいいるかは明確ではありません。しかし、どのような理由でも刺激の強い環境から距離を置けば、多くの子どもの心は休まると分かります。
※出典元:令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果|文部科学省
心理②:「学校へ行けない自分はダメな人間だ」とネガティブな思考になる
安心感を得られる一方で、学校に通えなくなると「自分はダメな存在なのか」「人並みにできない自分に価値はあるのか」とネガティブな思考にもとらわれがちです。学校に行けていない現状を自分の無力さの表れだと捉え、自尊心が損なわれてしまいます。
また、不登校状態を見た周囲から「気にしすぎだ」「不登校は怠けや甘え」とレッテルを貼られることも、更なる自己嫌悪を生み出す一因です。特にHSCの子どもは、感受性の豊かさゆえに誰かのささいな一言が忘れられない傾向があります。
心理③:家族への罪悪感から心を閉ざしてしまう
実は「勉強や友達と遊ぶのは好き」「本当は学校へ行きたい」と話す不登校の子どもは少なくありません。行きたいのに行けないもどかしいさから「両親に迷惑をかけているのではないか」と強く罪悪感を抱いてしまう子どもも多くいます。家族が理解を示していても、それでも自分が家族の足を引っ張っていると思い詰めてしまうのです。
そのため、家族への申し訳なさから心を閉ざしてしまったり、両親の期待を裏切ってしまったと思い込んで親子のコミュニケーションから遠ざかってしまったりするケースも見受けられます。こうして家族とも疎遠になってしまうと、子どもはより一層の孤立感を覚えるかもしれません。
心理④:イライラや乱暴さが現れる場合も
HSCの子どもが不登校になった場合、心理的な影響はさまざまな形で現れます。なかにはイライラ気味になったり、乱暴な言動を見せたりする子どもも。これは、学校に行けない自分に対する焦燥感や無力感からくるものです。
また、孤独感や疎外感といった複雑な心境が、攻撃的な態度や暴言、暴力行為に繋がる場合もあります。このような行動の裏側に存在しているのが、深い精神的なストレスです。
家族に対して手が出たり物を投げつけたりするなど、危険な行為に及ぶ可能性も否定できません。暴力的な症状が見られた際は、すみやかに専門家に相談するなど適切な対処が求められます。さらに、感受性の強い子どもの場合「なぜ傷付けてしまうのか」という気持ちからパニック症状や不安障害、強迫症状などがみられるケースもあります。
不登校中のHSCの子に対して親ができるフォローや接し方とは?
HSC傾向の子どもが不登校になった場合、ご家族としては「つらそうな様子を支えてあげたい」「この先、勉強はついていける?」「また学校に行ける日は来る?」とさまざまな気持ちが出てきますよね。
不登校の子どもへ、親としてご家族として実践できるフォローや接し方をご紹介します。
①気持ちに寄り添う
不登校のHSCの子どもは、心の痛みや苦しみを抱えています。そんなとき、親やご家族が自分の気持ちに寄り添ってくれる姿勢は、非常に救われるものです。
特にHSCの子は繊細な心を持っているため「大げさだ」「なぜみんなと同じようにできないの?」といった言動は、心の傷になってしまいます。そうではなく「こんなことが辛かったんだよね」「本当はこうしたかったんだよね」と子どもの気持ちを言葉で代弁して、まずは子どもを安心させてあげましょう。
また、強い言葉で叱咤したり否定したりするのではなく「味方でいる」「いつでも話を聞く」という姿勢を見せてあげるのも大切です。できれば、積極的に言葉にしていきましょう。
子どもに限らず、大人でも感受性のものさしは一人ひとり異なります。不登校は子ども自身の意思ではなく、環境に起因する問題である可能性が高いと理解すると、ご家族の心も少し軽くなるのではないでしょうか。
②プレッシャーをかけない
不登校中の子どものうち、多くは「家族はどう思っているか」「友達からどう見られているか」を気にしています。特にHSCの子どもは、他者からの過度のプレッシャーに対して非常に敏感です。だからこそ、無理に再登校を急かしたり、勉強の遅れを責めたりするような態度は控えましょう。
焦って子どもを追い詰めてしまっては、かえって子どもの心を閉ざしてしまう恐れがあります。「どうして学校へ行けないの?」「次はいつ行けるの?」と焦らせるのではなく、子どもの自発的なペースに合わせてゆっくりと見守っていく姿勢が重要です。
とはいえ、感情的に叱ってしまう日があるかもしれません。ご家族としても、焦りや心配から感情的になってしまうのは当たり前のことです。
そんなときは、気持ちが落ち着いてから「怒りすぎてしまってごめんね」と言葉で伝えてみてください。「子どもにはできるだけ不安な様子を見せたくない…」そんな場合は、専門家やカウンセラーの力を借りて自分の気持ちを吐き出す場を作るのもひとつです。
③子どもの関心や得意分野を活かせる場所を探す
不登校中の子どもやご家族は、学校へ行けないなかで自信を失くしてしまっているかもしれません。しかし「学びの場は学校だけではない」と考えると、状況の視点が少し変わりませんか?
人は心に余裕が出てくると、社会との繋がりを求めるようになります。しかし、不登校の原因がいじめなどだった場合、もう一度学校に戻るのは非常にエネルギーを要するものです。
そんな場合は、子どもの気持ちや状況に合わせて以下のような学びの場を探せます。
- 学習塾
- 家庭教師
- フリースクールをはじめとする民間の支援施設
- 教育支援センターなど公的な支援施設
- 地域のコミュニティサークル
令和5年3月には、地域社会やNPO、フリースクール関係者などとの連携を行政関係者や教育委員会へ促す「COCOLOプラン」が文部科学省より発表されました。
※参考:COCOLOプラン|文部科学省
関心のあることや得意分野での活動を通じて、子どもの個性の輪郭は少しずつはっきりしていきます。特に想像力に富む傾向のHSCの子どもは、絵を描いたり物語を書いたりする活動も適しているかもしれません。好きなゲームに打ち込んだり、宿題の課題に取り組んだりするのも有効です。
こうした活動を通して、子どもは自分にもできることがあると実感し、自信を少しずつ取り戻しやすくなります。子どもの個性や長所を見つめ直し、それを伸ばす環境づくりを心がけましょう。
再登校に向けて親がしてあげられること、するとよいこととは?
「親や家族が信頼してくれている」「味方でいてくれている」と理解すると、子どもは自己肯定感が高まり、自立の道を歩きやすくなります。ここからは、不登校から再登校に向けて、親ができる3つの対応をご紹介します。
対応①:専門家に相談する
不登校と一口に言っても、その課題の種類はそれぞれ。繊細な子どもの気持ちを日々くみ取りながらの対応は、いくらご家族でも大変です。そのため、一人で抱え込まず、適切な場所で専門家やカウンセラーへ状況を相談しましょう。
不登校の悩みは、主に次の場所で相談できます。
- 学校
- 地域の保健所
- ひきこもり地域支援センター
- 児童相談所
- 24時間子どもSOSダイヤル
- ヤングテレホン
- 子どもの人権110番
相談窓口を頼れば、不登校の背景にある生徒の気持ちや、解決に向けての糸口が見つかるかもしれません。また、教育委員会や医療機関の相談窓口を活用するのも有効です。専門家ならではの深い知識と経験から、不登校への対処法が得やすくなります。
ただし、あくまで子ども本人の意思に基づいたうえでの利用が大切です。不登校を支える負担が大きいようなら、ご家族側の悩みとして専門機関や相談窓口を活用してみてください。
対応②:少しずつ外出の機会を作る
大人でさえ外に出づらい日がある以上、子どもの不登校はなかなか大変なものです。とはいえ、外の空気に触れる習慣をつけられれば、不登校回復に向けた大きな一歩になります。あくまで「無理強いしない」を条件に、少しずつ機会を作ってみましょう。
例えば映画館や図書館は、他の人の気配を感じつつも適度な距離感が持てます。好きなお店を自由に見るだけでも構わないショッピングモールは、徐々に人混みに慣れたりコミュニケーションを取ったりする練習の場としても適切です。
なお、不登校中の子どもは、近所の人や友達に遭遇するのを嫌がる場合があります。さらにHSCの子どもの場合は、太陽の光が刺激になることも。
その際は、安全を確保したうえで、人目が気にならない夜に散歩へ出かけてみるのもおすすめです。
対応③:本人の意思を尊重する
「学校へ行く・行かない」「外出する・しない」などを判断するのは、子ども自身です。合わないと感じている環境で過ごしたり行動を起こしたりさせるのではなく、子どもなりの意思や感じ方、辛さを尊重することを目指しましょう。
しかし、現代はマスメディアの普及で不登校の対応に関する情報が気軽にアクセスできるようになった一方で、溢れる情報でかえってご家族の混乱を招きかねないといっても過言ではありません。例えば不登校では「子どもの意思を尊重して見守りましょう」と「積極的に登校を促しましょう」といった真逆の意見が混在しています。
つまり、不登校の原因は子ども一人ひとりで異なるため「その子にとって干渉が必要なのはどこまでか、どんな解決法が適しているのか」も異なるのです。
与えられた情報にただ流されるのではなく「我が子や我が家に合っているか」を慎重に考えることが大切です。
HSC傾向の不登校児には心地よいと感じられる場所の提供を
感受性が強く敏感なHSCの子どもは、学校生活の些細な刺激からストレスを感じてしまいます。性質は可視化しにくいからこそ、ときには周囲から理解を得にくいかもしれません。
しかし、HSCの特徴は、見方を変えればポジティブ要素にもなります。だからこそ、専門家から正しい情報を得ながら、子ども自身に適した対処法や生きやすい環境を検討してみてください。
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