インターナショナルスクール出身の映画監督が、「日本の公立小学校」を舞台にドキュメンタリーを制作したわけ
コロナ禍で公立学校の教育システムの不安定さが露見したことで、私立小学校や国際教育に一層注目が高まっています。そんな中、あるドキュメンタリー監督が「日本人らしさのルーツ」を求めて公立小学校を1年にわたって取材・映画化しました。
山崎エマさんは、日本人の母とイギリス人の父の間に生まれ、自身も日本の小学校とインターナショナルスクール、そして海外の大学を卒業した国際色豊かな経歴をお持ちの映画監督。そんな山崎さんが、なぜ「日本の公立小学校」を舞台に映画をつくろうと思ったのか、その背景や思いをお聞きしました。
目次
日本の学校を撮影しようと思ったわけ
ーー山崎さんが日本の教育を受けたのは小学校だけなのですよね。なぜドキュメンタリーの舞台として日本の小学校を選んだのでしょうか。
「私は大阪府の公立小学校に通い、その後、中高は神戸のインターナショナルスクール、大学はアメリカに進学しました。
日本の公立小学校をドキュメンタリー作品の舞台に選んだのは、私という人間の基盤は、小学校時代にできていたのではないかと思ったからです。
というのも、アメリカで仕事をしていると『時間を守ってえらいね』とか『仕事が丁寧だね』とほめてもらうことが多かったのですが、私としては特別なことは全くしていないんですよ。たぶん日本だったら当たり前のことを、あちらではよくほめられました。
そうした私の経験と、最近海外で評価されている『日本人の姿』のルーツを考えたときに、小学校という場所が浮かびました」
ーー確かに、小学校ではそうした基本的な生活習慣や社会のルール、協力することの大切さをしっかりと教えられますよね。
「そうですね。小学校卒業後に入学したインターナショナルスクールでは、より個性が尊重されたように思います。もちろんどちらが正しいというわけではないのですが、重要視されることや目指すものが違うのかなと感じます。
インターナショナルスクールやアメリカの学校だと、みんなで足並みをそろえるというよりも、『資本主義社会で勝ち抜ける人材』になることを目指しています。もちろん、現代社会ではそれもすごく大事です。
一方で、日本の小学校は、6年生が入学したばかりの1年生のためにどんなことをしてあげようとか、1年生はそのお礼に6年生にどんなことをしようといった活動がありますよね。そうした経験を重ねることで、『誰かのために』『自分で考えて』という考え方が身につきます。映画の撮影総時間約700時間の中で、そうした姿はたくさん見られました」
印象的だったのは、子どもたちが自分の役割に「責任」と「誇り」をもっている姿
ーーそもそも、山崎さんの記憶の中の小学校はどんな場所でしたか?
「私が通っていたのは25年ほど前で、まだまだ昭和の気配が残っていました。ブルマを履きましたし、先生もとても厳しかった記憶があります。
しかし、今回の映画撮影で見た小学校は私のイメージとは大きく異なり、子どもをほめ、頑張りを認める姿をよく見かけました。コロナ禍という時代の転換期だったこともあり、学校の中全体が大きく変わろうとしている瞬間を収められたように思います」
ーー撮影は2021年だったのですよね。まさに社会全体が迷いながらも時代に適応しようとした時期です。
「先生たちも、子どもたちのためにルールの中で試行錯誤しながら学習の場をつくっていたのが印象的でした」
ーー子どもたちの姿で印象に残った姿や場面はありますか?
「一番は、委員会活動に一生懸命取り組む5、6年生の姿です。子どもたちが自分の選んだ委員会の中で責任と誇りをもって、友達や下級生のためにいきいきと活動しているのはとても印象的でした。
委員会活動って、学校の中でとても大きな役割を担っていますよね。時には学校の中の大事な仕事を任されるときもあります。
これは海外の方に説明してもなかなか伝わらないシステムなんですよ。『子どもが学校の中で仕事を任されるの? どうして?』という反応が返ってきます(笑)。
でも、当の子どもたちは決してやらされているのではなく、自分からやりたい!と手を挙げて、誇りをもって自主的にやっているんですよね。私自身、小学生のころの委員会活動では、子どもなりに必死に与えられた役割を全うした記憶があります。『みんなのために何かしたい』という気持ちが自然と育まれるすばらしいシステムだと改めて感じました」
小学校で見た子どもと大人のギャップはどこで生まれているのか
ーー小学校での撮影で、エマさんの感じた「日本人らしさ」の根幹となる姿は見られたと思いますか?
「まさに私が海外でほめられた礼儀正しさや人に迷惑をかけないようにする考え方、時間をしっかり守る意識などは、まちがいなく小学校の時点で育まれていたと感じました。
しかし、小学生の子どもたちから見えた『自分から』『主体的に』という姿が、日本の大人の姿と直接リンクするかというと、決してそうとは限らないのではないか、と思いましたね。どちらかというと受け身であったり、周りの目を気にしすぎてしまうのが日本人の気質です。
この原因がどこにあるのかは分かりません。思春期の人間関係によるのかもしれないし、それ以降の受験や進路選択によるものかもしれません」
ーーそう言われると、確かに中・高校以降は何となく他人の目を気にして、「自分から何かする」ことをためらうことが多かったような気もします。
「小学生のころに確かに育まれていた『自分のできることをしよう』という気持ちはとても素敵なことだし、そういったことを学校で学べるのは海外ではなかなかないことだと思います。そうした日本の誇れる部分を大事にしていけるといいなと思いますね」
学校という社会の中で精いっぱい生きている人々に注目してほしい
ーー映画は今秋以降に公開ですね。最後に、映画の見どころをお教えください。
「リアルな小学校ですから、子どもたちや先生方にとっては日常の場です。ドラマのような刺激的なことが毎日起こったりはしません。そんな静かな日々の中で、少しずつ成長する子どもたちを撮らせていただきました。
映画では、日常の中で精いっぱい生きる子どもや先生たちの『尊さ』を感じていただければ嬉しいです。『学校』という誰もが知っている場所で起こる、小さな奇跡のような瞬間をぜひ観ていただきたいです。
また、海外の方にこの映画を観ていただければ『こういう教育があるから日本ってこんな国なんだな』と、日本のよさの理由を知っていただけるのではないかなと思います」
プロフィール
山崎エマ
ニューヨークと東京を拠点とするドキュメンタリー監督。日本とイギリスにルーツをもち、その両方の視点を生かした作品を制作している。Yahoo!JAPAN「Docs for SDGs」にて新作ドキュメンタリー作品が公開中。
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1991年生まれ、ライター兼編集。小学生向けファッション誌のほか、小学校教員向け専門誌の編集を経て、2022年にフリーに。小学校教育や性教育、10代のトレンドなどについて執筆している。夫と猫の3人暮らし。