定時制高校とは|どんな人が通う?全日制との違いや学費、学校の選び方を解説
全国の定時制高校の数は640校で全国にある高校の11.4%にあたります。実際にはどんな人が通い、どんな学校生活を送るのでしょうか。全日制・通信制との違いや学費、学校の選び方、卒業後の進路などを分かりやすく解説します。
目次
定時制高校と全日制高校の違いとは
定時制高校とは全日制高校とどのような違いがあるのでしょうか。通う期間や時間、過ごし方などを紹介します。
定時制高校とは?
定時制高校が誕生したのは1948年。当時は、中学卒業は就労を選択せざるを得ない子どもが多く、全日制高校に通うことができない人への教育の受け皿として始まりました。
毎日登校するという点は全日制高校と同じですが、大きな違いは授業時間が短いこと。多くの学校では、1時限の授業時間は約45~50分で、1日の4時限目までとなっているようです。
定時制高校を卒業するためには、①必要な単位を取得②3年間以上在籍することが条件とされていますが、定時制高校の多くは4時限制です。単位をすべて取得するには4年間かかるのが一般的とされていますが、近年は3年間で卒業できるシステムを用意している学校もあります。
定時制高校の時間帯は?
保護者世代は、定時制高校というと夜間に通うものというイメージがあるかもしれませんが、定時制高校には下記のように3つの時間制があり、昼間に通うケースも増加傾向にあります。
定時制高校3種の時間制
- 夜間定時制:夜の時間帯に授業を行う。17時頃から始まるケースが多い。
- 昼間二部制:昼食を挟み朝と昼の時間帯に授業を行う。9:00~12:00、13:00から15:00までなど。
- 三部制:9:00~13:00、13:00~17:00、17:00~21:00などの三部制。
学校によって登下校時間はさまざまですが、おおむねこのように分類されています。
定時制高校の「学年制」と「単位制」とは?
また、定時制高校には「学年制」と「単位制」の学校があります。
「学年制」とは、学年ごとに必要な単位を取得しなければ進級できない制度です。出席日数やテストの点数が足りない場合は進級できず、留年になることもあります。
「単位制」とは、卒業までに必要な単位数を取れば卒業できる制度です。目標とする卒業年数内に単位が取れていない場合は、卒業ができません。
定時制高校はどちらかといえば学年制を取っている学校が多いようですが、授業数が少なめに設定されているためほとんどの定時制高校は4年間通うことになります。
取得する単位数を増やすことができる単位制を取り入れている学校であれば、授業数を増やし3年間での卒業が可能になります。学校によって違いがあるので確認しておきましょう。
定時制高校には給食がある
意外かもしれませんが、定時制高校には給食があります。これは、「夜間課程を置く高等学校における学校給食に関する法律(以下「法」という。)」が制定されているためです。
登校してすぐに給食を食べることで、授業へ向かう姿勢や意欲が高まること、先生や同級生と食事を共にすることで学校生活が豊かになることを定時制高校の教育期間としての役割のひとつとしています。
定時制高校に通っている人の特徴
では次に、実際に定時制高校にはどのような生徒がいて、どのように過ごしているのか紹介しましょう。
高校卒業資格取得のために入学する人が多い
文部科学省の資料によると、定時制高校への入学理由は、高校卒業資格の取得を目的とする生徒が一番多いとされ、次いで「自分のペースで学習が進められると思ったから」と答える生徒が続きました。
また、同資料で定時制高校に在籍している生徒の属性をみると、これまで不登校経験がある場合が39.1%、特別な支援を必要とする場合が20.1%とされ、心療内科に通院歴のある生徒も9.1%いるとされています。
定時制高校といえば、就労と学業の両立というイメージが先行しがちですが、最近では上記のように、人間関係の悩みや、身体的・精神的事情から定時制高校を選ぶ生徒も一定数出始めているといえるのではないでしょうか。
定時制高校に通う半数以上は10代
定時制高校は15歳以上であれば入学ができます。そのため、幅広い年齢層の人が在籍しています。
しかし、文部科学省が平成23年度に行った調査によると、定時制高校へ入学した生徒の約8割が中学校新卒者となっており、在学生の多くは10代、次いで20代以降は10~20%、30代以降は2~3%となっており、実際は年齢の近い生徒と机を並べることになる場合が多いようです。
定時制高校の約1割が退学している
文科省が平成22年度に行った調査によると、定時制高校の学生は、約11%が中退するというデータがあります。
では、なぜ中退になるのでしょうか。文科省が翌年に行った調査では、退学する最も多い理由は、進路変更。次いで、不適応となっています。
定時制高校に入学してみたものの毎日登校する生活や周囲の環境になじめず転校するケースも少なくないことが推測できます。
定時制高校の入試とは
定時制高校へ入学するとき、試験はどのような内容になるのでしょうか。また、入学してからの授業内容はどのようなものなのでしょうか。
定時制高校は全国で公立262校、私立13校と、ほぼ公立です。
東京都教育委員会の資料によると、学校によって違いはあれど「国語・数学・英語」の3教科による入試がほとんどのようです。
ただし、居住地や学校によって違う場合もあるので受験したい学校の入試についてはきちんと調べる必要があります。
定時制高校の学費について
定時制高校の入学金や毎月かかる学費はどれくらい必要になるのでしょうか。
定時制高校の初期費用や学費は?
定時制高校には公立と私立があります。公立の場合は全日制の高校と同じように授業料は私立に比べると安いです。私立高校は入学金がかかり、毎月の授業料の他の諸費用もかなりかさみます。
ですが、就学支援金制度を使うことで家庭の年収や納税額に応じ減額されることになっています。
定時制高校の入学料、毎月の学費の目安は?
では気になる学費はいくらかかるのでしょう。
定時制高校の学費はおおまかに分けると、授業料と学校徴収費の2つに集約されます。
今回は東京都の例を参考に具体的な学費を紹介しますが、給食がある定時制高校に通う場合、年間合計で約17万円ほど学費がかかります。
ただし一定の条件を満たせば、学費の減免が受けられますので、詳しくは管轄の教育委員会や定時制高校に問い合わせましょう。
- 入学料:2100円
- 授業料
学年制:年額 32,400 円、単位制:1 単位当たり 1,740 円
- 学校徴収金
(授業や校外学習等の学校教育活動に必要な経費。教科書代などの経費(積立金)、給食費、生徒会活動に必要な経費(生徒会費)やPTA会費
給食あり:年額140,800円、給食なし:年額66,000円
私立高校は特に学校によって大きな差があります。このほかにも、給食費・教材費・PTA会費・生徒会費・冷暖房費・施設維持費など様々な諸費用がかかるケースがあり、金額は学校によって大きな差があるようです。
定時制高校の学生の就業状況は?
定時制高校へ通う生徒は、日中は就業しているのでしょうか。昭和57年のデータによると定時制高校へ通う生徒の約70%が正社員、約14%がパート社員として、合わせて約85%の定時制高校の生徒が就業していました。
平成28年度のデータになると、正社員として就業しているのは約2.2%、パートやアルバイトなどは約46%、そして50%以上が無職という状況です。
上記のデータからもうかがえるように、近年では定時制高校の生徒であっても、就業している生徒は半数に留まっています。
時代により就業状況に変化が生じている背景には、自分のペースで学習がしたいといった理由で定時制高校に入学する生徒や、卒業後に大学や専門学校等に進学する生徒など、必ずしも就労を中心に定時制高校を選んでいない生徒の増加が要因として考えられます。
定時制高校卒業後の進路について
定時制高校を卒業したあとは、どのような道へ進む生徒が多いのでしょうか。
卒業後の進路は専修学校や大学等への進学者が増えている
定時制高校の卒業生が選ぶ進路は、「就職」「専修学校(専門課程)進学」「大学等への進学」という3つの選択肢が主流です。
実際に以下で示す、20年間の卒業生進路の内容を比較しても、ベスト3の項目はこの20年間で変化はありません。
<定時制高校 卒業生進路ベスト3>
平成4年 | 平成14年 | 平成24年 | |
---|---|---|---|
第一位 | 就職(71.7%) | 就職(31.4%) | 就職(30.4%) |
第二位 | 専修学校(専門課程) 進学(6.4%) | 大学等進学(12.1%) | 専修学校(専門課程) 進学(16.3%) |
第三位 | 大学等進学(3.8%) | 専修学校(専門課程) 進学(11.7%) | 大学等進学(13.8%) |
しかしこの20年間で大きく変わったのは、就職者の割合が大幅に減っており、専修学校(専門課程)や大学等への進学者の割合が相対的に増えていることです。
こうした進路の変化にともない、受験に向けた学習に力を入れる定時制高校も増えているそう。各学校によって進路の特色は異なりますので、受験したい定時制高校に問い合わせることをおすすめします。
定時制高校卒業後に就職をする場合は?
では定時制高校の卒業生で就職を選んだ学生は、どのような就職先に就くことが多いのでしょうか。
文部科学省の学校基本調査によると、定時制高校卒業生の就職先は、サービス業と生産工程従業(工場勤務など)が多く、実に約58%もの学生がどちらかの業種に就くとされています。また女子学生にはない男子学生の特徴として、建設業への就職も挙げられます。
就職する学生のうち約7割もの学生は、ハローワークや学校の紹介によって就職先を決めている様子。また在籍中にアルバイトをしながら、卒業と同時にアルバイト先へ就職することも多いです。
定時制高校のメリット・デメリットは?通信制との違い
定時制高校にはメリットとデメリットがあります。全日制高校や通信制高校との違いをメリット、デメリットの両面からしっかり確認しておきましょう。
定時制高校のメリット
日中は通えないという人でも高校卒業を目指せる
定時制高校は夜間に授業を受けることができるため、日中は他のことをしたいという人にも通いやすいです。もともとは就労している人を対象としてスタートした定時制高校だからこそ、アルバイトや仕事をしながら高校卒業したい人には適しています。
また、起立性障害などで朝起きる生活が難しいという人でも選択しやすい進路になっています。
自分に合った学習スタイルが選べる
前述したように、定時制高校には夜間定時制と昼二部制のスタイルがあり、授業時間も短いです。全日制の学校のように朝から夕方まで一日中拘束されるのが苦手、という人にとっては柔軟に学習スタイルを選べるというメリットがあります。
また数は少ないですが、単位制を採用している定時制を選べば、学年の枠に縛られることもありません。じっくり年数をかけて勉強することも、必要な単位を凝縮して取得することも可能になります。
幅広い人と交流ができる
定時制高校に通っている人は、全日制に比べて多様であり、複雑な背景事情を持っていることがあります。不登校や障がい、心の病気などを持ちながら、進学したいという気持ちを持つ人たちとの出会いもあるかもしれません。
もし、全日制の環境の中でマイノリティとして苦しんでいるなら、定時制高校へ進学して仲間を探す方法もあるでしょう。定時制高校は、通学日数が多いため、通信制高校に比べて友達を作る機会も多くなります。
定時制高校のデメリット
通学できない人には難しい
定時制高校は授業時間数は短いものの、基本的には通学する必要があります。そもそも家から出るのが苦痛である、集団が苦手、という人にとっては、通学して集団で学び、給食を食べる、というスタイルがつらくなる可能性はあります。通学自体が難しいという場合は、通信制高校の方が適しているでしょう。
通信制高校にもスクーリングという通学が必要なシステムはありますが、通学に必要な日数は少ないので定時制高校や全日制高校ほどの負担にはならないでしょう。
卒業・進学が難しいことがある
前述した定時制高校の中途退学率を見ればわかるように、定時制高校は約11%が中途退学しています。
全体の中退率は令和4年度で約1.4%(※令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要)となっているため、定時制高校の中退率は全体の10倍ほどになっていると考えられます。
また、定時制高校では様々な事情の人に合わせるために授業時間が短かったり、簡単な内容を中心に勉強が進むことがあります。その分進学を望む人には、物足りなかったり、学力不足を感じることもあるかもしれません。
学校卒業後は就職する人が多いため、学校が就職支援に重きを置いていることもあるでしょう。その際は、塾や通信教育、家庭教師などで不足分を補うことを考える必要があります。
最近では定時制でも進学希望をする人が増え、進学サポートをする学校も出てきているため、最初からそのような定時制高校を選んで進学する手もあります。
卒業までの期間が長引く可能性がある
定時制高校は全日制に比べて授業時間が短くなること、ほとんどが学年制を採用していることから、卒業までに4年かかるケースが多いです。中学からそのまま進学したとすると、同級生が高校を卒業してもまだ高校生のままということになります。
このような状況が負担になるという場合は、学年制ではなく単位制の定時制高校を選ぶ必要があります。なお通信制高校は単位制のシステムを導入しているところが多く、卒業単位数を満たせば3年で卒業することが可能になります。
定時制高校の選び方
定時制高校はどのように選べばよいのでしょうか。
公立の定時制高校は、基本的には暮らしている地域や勤務地によって決まります。
そのほか、下記のような点も学校選びのポイントになるようです。
- 学校の特色を十分理解して選ぶ
定時制高校にも普通科と専門学科とがあります。選択した学科によって学習内容も違います。学科をよく考え選びましょう。また、授業時間や給食時間についても学校によって違ってきます。自分の生活リズムや仕事がある場合は就業時間との兼ね合いも確認しておきましょう。
- 卒業後の進路を考えて選ぶ
その学校の卒業後の進路などを、学校へ質問したり公式ホームページなどを見て調べてみましょう。就職の実績のほか、進学が可能な学校もあります。
- 学費をよく調べる
定時制にも公立と私立があり学費は違います。また、2020年4月からは高等学校など就学支援金制度がスタートしています。必要な学費や支払い方法をよく確認して おきましょう。
- 給付金や奨学金について調べる
経済的な不安を抱えず安心して高校生活が送れるよう、一定の条件を満たすと受け取れる「奨学給付⾦」や、都が資格試験や勉強合宿等の費用を現物給付方式で負担する「給付型奨学⾦」といった制度があります。各都道府県によって異なりますので、内容を確認しましょう。
- 支援金制度について調べる
年収910万円未満の世帯には、授業料が無料になる「就学支援金」制度が導入されています。単年ごとに条件等が変更する可能性がありますので、よく調べましょう。
- 授業内容や時間帯について調べる
授業内容(学科)や授業時間帯は学校によってさまざまな特色があります。また複数の学科がある学校では、各学科によって授業時間帯が異なる可能性がありますので、注意が必要です。公式サイトや説明会でよく確認しましょう。
- 部活動があるのか
定時制高校の中にも学校によって部活動を行っている高校があります。学校の資料を取り寄せたり、公式サイトを見たり、説明会などで質問するなどしてみましょう。
- 応募方法や出願方法を確認しておく
応募する際に必要な書類や、出願方法、試験の内容などを確認しておきましょう。
かつては「働きながら夜間に通う学校」という印象が強かった定時制高校ですが、最近では昼間に開講する学校や専修学校、大学等への進学者も増えており、多様性が広がっています。
1日の授業数は4時限までと決められているため、自分のペースで学習を進め高校卒業資格を取得したいという子にも、定時制高校は進路の一つとして考えられるのではないでしょうか。
定時制高校は各学校によって学科や授業時間、部活動など特色が異なるため、資料請求やオンライン説明会を活用して、わが子にあった一校を見つけていきましょう。
<参考資料>
夜間定時制高校の給食~食事の楽しさが学業の糧となる~/埼玉県福祉部社会福祉課 龍前航一郎
定時制課程の学費などについて/東京都立福生高等学校 定時制課程
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