【専門家解説】自閉症などの発達障害の子どもにおける性的問題行動とその対策とは?
発達障害の子どもへの性教育は、多くの親にとって難しい課題です。特に、発達障害特有の認知の特性や社会性の困難さがある場合、性に関する問題行動を防ぐためには、一般的な性教育の枠組みを超えた工夫が求められます。本記事では、発達障害の子どもの特性を踏まえた家庭での性教育のポイントを紹介します。
目次
性問題行動とはどんな行動か?
思春期に入ると、性に関連する問題行動が見られる場合がありますが、子どもの障害特性に起因する認知や行動の特性、周囲の環境、そして性教育の知識不足が組み合わさって引き起こされます。まずは、発達障害の子に見られる性的な問題行動とされる具体例と、それがどのように発生するかについて説明します。
性的な問題行動とされる具体例
公共の場での不適切な行動
性的な興味を持つこと自体は成長の一部ですが、問題は適切な場面かどうかを理解していないと、不適切な場で性的な行動を取ってしまうということです。例えば、公共の場で性器を触ってしまう、他人を凝視したり、近づきすぎるなどの行為があります。
他人への不適切な接触や発言
自閉症スペクトラム障害の子どもの中には、他人との距離感や社会的ルールを理解することが難しい場合があり、他人に対して不適切な身体的接触をしようとしたり、性的な発言をして他者を不快にさせるケースがあります。
ネットやメディアへの過剰な関心
中には、特定の興味に過集中する子がいます。そのため、ネットやSNSで性的な内容に過剰に執着してしまうことがあります。不適切なサイトへのアクセスがやめられない、自撮り写真を送り付けるなどの行動が問題になることもあります。
マスターベーションの頻度やタイミングの不適切さ
発達障害の子の中には、自分の行動が他人にどのような影響を与えるかを想像することが難しい場合があります。そのため、他人の目がある場所でアダルトサイトを見たり、性的な行動をしようとする場合があります。
性的な問題行動が発生する背景
社会的ルールの理解不足
他人の気持ちや社会的なルールを理解することが難しい子がいます。そのため、自分が行っている行動が不適切な状況であることに気づかない場合があります。
身体的・性的な変化への不安や戸惑い
思春期に伴う身体的変化が自己理解や感情のコントロールを難しくする場合があります。自分の身体の変化をどう扱えばいいのかわからないことで不安が増し、行動に表れることがあります。
性教育の不足
性教育が十分に行われていない場合が多く、障害のある子どもは具体的な指導を受ける機会がさらに限られています。その結果、「何が適切で何が不適切か」を知らないまま行動してしまうことがあります。
感覚過敏・感覚鈍麻
発達障害の子の中には、感覚の特性から過剰に触覚や性的な刺激を求める場合や、逆に感覚が鈍く、行動の影響を理解できない場合があります。
性的な問題行動をただの「悪い行い」として捉えるのではなく、背景にある特性や環境要因を理解することが重要です。
発達障害の子どもの性的な問題行動のよくある例
発達障害の特性から、性に関する問題行動はさまざまな形で現れます。ここでは、より具体的な事例を挙げながら、家庭や学校で見られるよくある状況を紹介します。
他人のプライベートゾーンへの過干渉
発達障害の子の中には、他者との適切な距離感を学ぶのが難しい場合があります。その結果、相手が脅威に感じるほど近づいたり、異性の身体を触ろうとする、相手の服装や身体の特定部分について相手が不快になるような直接的な質問をするなどがあります。
性的な冗談や発言の乱用
衝動性の強い子どもの中には、相手がどう思うかを考えずに話してしまうことがあります。そのため、場の雰囲気を考えず、性的な下ネタを他人に話してしまうことがあり、トラブルになるケースも少なくありません。
ストーカー行為
特定の人に対する強い興味や好意をコントロールできず、相手が嫌がっているのに付きまとったり、頻繁に連絡を取ろうとする行動が見られることがあります。特定の人や関係に固執しやすい子もいるため、これがストーカー行為と見なされる場合があります。
SNSでの露出行為
自分の体に対する羞恥心やプライバシーの概念が十分に育っていない場合、自分の裸を他人に見せようとする、自撮りで裸の写真をSNSで公開するなどをすることがあります。
不適切なスキンシップ
認知の歪みから抱きしめる、キスをするなどの行為を相手との親密さを示す行動だと誤解している子もいます。発達障害の子にとっては単なる愛情表現である場合もありますが、相手が不快に感じる場合には社会問題に発展する可能性があります。
これらの問題とされる性的な行動は発達障害の特性が関係している場合があり、適切な対応が行われないと、社会的問題行動として周囲とのトラブルが増えるリスクが高まります。
発達障害の子は思春期にどんな行動をすることが多い?
発達障害の種類によって、思春期に見られる行動や困難さはやや異なる場合があります。それぞれの特性に基づいて、どのような行動が起こりやすいのかを理解することで、適切な対応やサポートが可能になります。ここでは、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)を例に挙げて説明します。
自閉症スペクトラム障害の場合
自閉症スペクトラム障害の子どもの中でも知的障害がある場合、思春期に以下のような行動が見られることがあります。
身体の変化に対する不安からくる戸惑い
思春期に伴う身体的変化を理解することが難しく、自分の体の変化に対して強い不安を抱くことがあります。その結果、特定の服を着るのを拒む、身体の変化を隠そうとするなどの行動が見られる場合があります。
自慰行為の増加
感覚の過敏さや鈍麻さの影響から、自慰行為が繰り返される場合があります。しかし、自慰行為をどの場所で行うべきかの理解が乏しく、不適切な場面で行ってしまうことがあります。
ルールや社会的期待に対する混乱
社会的なルールや期待を理解することが難しいため、他人と自分の境界を意識できず、必要以上に近づいたり、接触をしようとする場合があります。
特定の興味への過集中
性に関連する興味が生じた場合、それが特定の対象(人物やコンテンツ)に向かい過集中することがあります。その結果、過剰な接触や一方的なアプローチを行い、相手とのトラブルに発展することがあります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の場合
ADHDの子どもは、衝動性や注意の欠如により以下のような行動が思春期に顕著になることがあります。
衝動的な性的発言や行動
場面を考えず、思いついた性的な話題をそのまま発言したり、興味を持った相手に対して突発的な接触行動を取る場合があります。
リスク行動の増加
行動のリスクを予測する能力が乏しい場合、不適切なネット利用や性的な行動に発展することがあります。例えば、アダルトサイトへのアクセス、SNSで知らない人とやり取りをするなどが挙げられます。
感情の爆発とそれに伴う行動
思春期は感情が不安定になりやすい時期ですが、ADHDの子はその傾向が増す場合があります。性に関連することに触れられた際、強い拒否反応や逆に過剰な関心を示すことがあります。
学習障害(LD)の場合
学習障害単体の場合、性についての特性が強いわけではありませんが、学業についていけないことで自己肯定感が低くなり、性的な方面で自尊感情を保とうとする場合があります。思春期は自尊感情が低下しやすい時期でもあるため、自己肯定感が低くなり性依存になるリスクは否定できません。ADHDと重複傾向にある子も少なくないため、思春期の行動には注意が必要です。
思春期はどの子どもにとっても大きな変化の時期ですが、発達障害の子どもにとっては特に難しい時期です。身体の変化や性教育のベースとなるソーシャルスキル、他人と自分の権利、権利侵害について具体的な教育が必要です。
問題行動を防ぐためにはどうすればいいのか
発達障害の子にとって、性に関連する問題行動を防ぐためには、単に「禁止」するだけでは十分ではありません。彼らの特性を理解し、具体的かつ段階的な教育や環境づくりを行うことが重要です。以下では、問題行動を防ぐために役立つ具体的な方法を紹介します。
早期から積み上げる
性教育は、その下にソーシャルスキルが積みあがっている必要があります。基本的な生活習慣や自分や相手の権利についての理解が重要になります。思春期に突然教えるのではなく、幼少期から「自分の体を大切にする」「他人の体も尊重する」といった基本的な権利を教えることで、問題行動のリスクを軽減するように努めましょう。
幼児期(3〜6歳): プライベートゾーンについて教え、自分や他人の体についての権利意識を育てます。基本的には「見せない」「触らせない」が原則ですが、病院での検査や清潔を保つために保護者に洗ってもらう場合など、例外も教えます。
小学校低学年: 自分の身体についての理解や、場面ごとの適切な行動についての社会的なルールを教えます。
思春期前後: 性的な変化や感情のコントロールについて具体的に話し、疑問に答える機会を設けます。
ルールと期待を明確に伝える
発達障害の子どもは抽象的な指示を理解するのが難しいため、性に関するルールを明確に、具体的に伝えることが必要です。
文章や口頭で説明するだけでなく、図解やイラストを使った教材を活用することで、内容をより分かりやすく伝えられます。例えば、「トイレや自分の部屋でマスターベーションを行う」といった行動ルールを具体的な場面とともに教えると理解が深まります。
適切な行動を具体的に教えましょう。例えば、「友達にいきなり触れるのではなく、まず名前を呼んで気づいてもらう」「下着を脱いでいい場所はお風呂や脱衣所、トイレ」といった具体的なルールを設定し、反復して教えます。
感情と行動の管理を教える
性的な衝動や感情の高まりをコントロールするために、運動や趣味といった代替行動を習慣にします。身体を動かすことでストレスを軽減し、問題行動を防ぐ効果が期待できます。
個人的価値観と社会的価値観の違いを理解する
家庭では性についての個人的価値観を教えることができますが、学校などの外部機関では社会的価値観しか教えることはできません。個人的価値観とは、例えば「同時に二人とパートナーシップを持つこと」や「結婚まで性行為をしない」などです。社会的価値観は、公共の場で服を脱いではいけないなど、社会的なルールです。
ネットやメディアの利用を適切に管理する
現代の子どもたちにとって、ネットやメディアは性に関する知識を得る主要な手段の一つです。しかし、不適切なコンテンツへのアクセスは問題行動を引き起こす要因となるため、家庭での管理はしっかりと行う必要があります。
性的なコンテンツや暴力的な内容をブロックする、アクセスを制限するために、フィルタリングソフトを活用しましょう。
ご家庭でインターネットの使用時間や場所を明確に決め、「リビングでのみ使用する」「親がスマホを確認できるようにする」など、子どもと一緒にルールを話し合いましょう。
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藤原美保さんへの相談ページを見てみる発達障害の子どもへの家庭での性教育はどのようにすればいい?
発達障害の子に家庭で性教育を行う際には、一般的な性教育と比べて、子どもの特性に合わせた方法や工夫が必要です。以下では、具体的な方法と意識すべきポイントを紹介します。
子どもの特性に合わせた伝え方を選ぶ
発達障害の子どもは、抽象的な概念や一般的な例え話を理解するのが難しい場合があります。そのため、具体的で視覚的な教材を使いながら伝えることが効果的です。
①教材やイラストを活用する
性教育に特化したイラストや教材を使うことで、言葉だけでは理解が難しい内容を視覚的に補強します。プライベートゾーンの概念を図示した教材や、日常生活の中で起こりうる場面を再現した教材などが役立ちます。
②場面を提示する
「もし友達があなたの身体に触ろうとしたらどうする?」といった具体的なシナリオを用意し、一緒に考える時間を設けることで、子どもが行動の選択肢を学ぶことができます。
知っている内容から知識を広げる
性教育をいきなり全て教えようとすると、子どもが混乱したり、内容を理解しきれなかったりする可能性があります。子どもの発達段階に応じて、基本的な生活習慣の内容から広げていくことが重要です。
幼少期:身体の所有感を育む
子どもが自分の体を大切にする感覚を育むために、自分の身体の名称を学び、「この部分は誰にも触らせてはいけない」「嫌なことははっきり断っていい」という基本的なルールを教えます。
小学校低学年:自分の身体の健康や権利について学ぶ
自分の身体の健康と安全を守ることや自分の身体の権利と同時に他の子の権利も教えましょう。被害者、加害者にならないためのルールを学ばせます。
思春期:身体の変化や感情への理解を深める
思春期に入ると、体の変化だけでなく、感情の変化も著しくなります。生理や射精といった身体の現象について、子どもが恐怖や不安を感じないよう、事前に丁寧に説明します。
専門家や協力者を得る
発達障害の子は、親の言動や態度から学ぶことが多いため、親自身が性について偏見を持たず、フラットに接することが大切ですが、難しい場合はカウンセラーや支援者に相談し、力を借りるのも一つの方法です。
子どもから性に関する質問をされたとき、はぐらかしたり恥ずかしがったりするのではなく冷静に、なぜそれを聞きたいのか、何か知っていることがあるのかを確認します。発達障害のある子どもの場合、聞きかじりで何のことか理解できておらず質問する場合があります。
例えば「赤ちゃんはどうやってできるの?」と聞かれた場合は、「誰かに聞いたのかな?何か知っていることがあるかな?」と本人に聞いてみましょう。
性教育をタブー視しない
もし、その質問が健全なものであれば、大人も真摯に向き合いましょう。ただし、幼いうちは難しい話をしても理解できませんし、赤ちゃんの作り方(性交渉)を説明する必要はありません。
【実際の説明例】
「細胞ってわかるかな?人間の体はたくさんの細胞でできているの。その細胞の一つに『卵子』という細胞があってね、大人の女の人の体だけが作れる細胞なの。女の人の体には『卵巣』という臓器があって、そこで作られるの。その卵子という細胞と『精子』という細胞が合わさると赤ちゃんになるんだよ」
こう説明すると、多くの子どもは解ったような、解らないような表情をします。
「知らない言葉があったかな?難しいね。だから、赤ちゃんは子どもの体にはできないの。あなたの体がもう少し成長して大人の身体に変化する時期に、今話した言葉の意味が分かるようになる。その時にこのことについてもう一度お話ししよう」と伝えると、子どもは自分の質問にちゃんと大人が向き合ってくれたことに納得します。
性教育をする側もトレーニングが必要
障害のある子どもへの性教育は、支援する側もトレーニングが必要です。子どもの質問に対しての対応の仕方や子どもへの声のかけ方、保護者との情報共有、連携の仕方など、トラブルを未然に防ぐための準備が求められます。そのための支援者養成講座やマニュアル、教材などをデジタル化し、使い方の研修を行っています。
※発達障害のある人の為の性教育プログラムはこちら
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藤原美保さんへの相談ページを見てみる定期的に確認し、復習する
一度性教育を行っただけでは、子どもがすべてを理解するのは難しいため、定期的に内容を確認し、復習することが重要です。
定期的にフィードバックを行う
子どもの行動や言動に性的な問題行動の兆候が見られた場合、すぐに修正する機会を設けます。例えば、他人に触れようとした場合には、「それは相手が嫌がることだからやめようね」と具体的に伝えましょう。
まとめ
発達障害の子どもへの性教育は、単なる問題行動の防止だけでなく、彼らの特性に寄り添いながら、子どもが健全な自己認識と他者への尊重を育むための重要なプロセスです。具体的で分かりやすい伝え方や段階的な指導、そして親自身のオープンな姿勢が、子どもの健全な成長に大きく寄与します。また、家庭だけで抱え込むのではなく、専門家や支援機関の力を借りることで、より効果的な性教育を行うことが可能です。
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