発達障がいをもつ子どもが疲れやすいのはなぜ?原因や改善に向けた対処法を解説
「学校から帰ると疲れ切っている」「疲れた、とよく言っている」など、発達障がいをもつ子は疲れやすい傾向があるといわれます。発達障がいの特性と疲れやすさの関係に着目して、その原因や親子でできる対処法について、子どもの発達に詳しい公認心理士の鈴木こずえ先生が解説します。
目次
発達障がいの種類と特性
発達障がいとは、中枢神経系の機能障害を原因とする、生まれながらに持っているハンデのことです。環境が直接的に影響しているものではありません。特徴として、発達の遅れや発達のアンバランスさがあります。代表的なものの特性や困りごとを取り上げてみます。
発達障がいの3つの分類
- 注意欠陥多動症(ADHD)・・行動を統制する発達の遅れ
- 自閉スペクトラム症(ASD)・・社会性の発達の遅れ
- 限局性学習症(LD)・・読み書き計算などある学習の習得の遅れ
発達障がいの特性
ASD・ADHDなどの発達障がいをもつお子さんの特性の一つに、認知発達の不均等性があります。得意な力(能力)、苦手な力(能力)があり、その差が非常に大きくなることがあります。LDのお子さんは、知的発達全般に遅れはありませんが、学習に関わる能力(読む、書く、計算する、推論するなど)のうち、特に苦手なものがあります。
カテゴリー化された能力は、WISC-Ⅴなどの知能検査で測定することができます。この能力のアンバランスさが、今回のテーマである『疲れやすさ』に繋がっていますので、覚えておいてください。
<関連記事>WISC検査については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
【年齢・発達過程別】発達障がいをもつ子どもの特徴や困りごと
お子さんの年齢・発達過程によって様々な困りごとが生じます。例えば、ASDをもつお子さんを見てみましょう。
乳児期
周りの大人が話しかけたりあやしたりしても、視線が合わず反応が薄い、相手を意識しにくいなどがあります。言葉(特に意味語)の習得の遅れが見られることがありますが、それ以前に母子間における非言語的コミュニケーションの成立の難しさがあります。
感覚の違いなどを含むお子さん独自の世界観からくる楽しみ方があり、一般的な『楽しみ』を共有することが難しいことがあります。抱っこを嫌がる赤ちゃんもいて、人に関わってもらう心地よさや楽しさを持ちにくいことがあります。
幼児期
睡眠障害や癇癪・パニックが多くなります。パニックは周囲が予測できないことも多く、サポートがないとお母さんが疲弊してしまいます。すべてのお子さんに生じることではなく、就園前までは「人見知りがなくおとなしかった」「非常に育てやすかった」という感想をも持つ保護者の方もいます。
就園後
初めて家族以外の集団に入るため、不安や緊張が強くなります。初めての行事で見通しが持てないと動けない、お友達との関わりで一方的に話してしまい、やり取りの成立が難しい、などが見られます。
一番でないと気が済まないなどのこだわりや、興味の限定なども出てきます。 皆と一緒にいること、同じ行動をとることにストレスを感じることがあります。
就学後
集団生活の中で他者との共同作業が多くなります。相手の表情や意図をくみ取って自分の言動を調整していく練習の場・時期です。目に見えないものをイメージする力が弱く、状況把握が苦手なお子さんにとっては、非常に分かりにくい日常となり、上手くいかないと感じることが多くなります。
また総合的な言葉の力が必要となる高学年以降は、言葉の使い方の間違いや誤解から、会話がかみ合わず、結果対人トラブルが増えることもあります。曖昧な表現、比喩的表現は理解しにくいようです。
思春期
中学生になると個人・集団共に活動量がぐっと増え、要求されるスピードもあがります。元々環境の変化に弱いお子さんにとっては、そのような大きな変化の中で、中学の学習や生活についていくことが大変厳しくなる人もいます。
その上、他者の言動を被害的に受け止めやすくなる、暗黙の了解を理解する弱さなどから、思春期の複雑な人間関係への対応に苦慮します。進路を決める上では、自己理解の難しさ(過大評価、過小評価)や現実検討力の弱さなどが課題となります。
このように、多くの困りごとに直面しやすい発達障がいをもつお子さんが、疲れやすくなるのは当然なことだと思われると思います。
<注:お子さんによって違いがあります。ここに書かれていること全てが、発達障がいをもつお子さんに当てはまるわけではありません。『発達障がいのAさん』ではなく『発達障がいをもつAさん』というように一人ひとりの困りごとを見てあげることが大切です。>
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鈴木こずえさんへの相談はこちらから発達障がいをもつ子どもが疲れやすい原因とは?
発達障がいをもつ子どもが疲れやすい要因はいくつかあると言われています。代表的な4つを見ていきましょう。
- 感覚過敏からくる疲れやすさ
- 過集中からくる疲れやすさ
- 視覚的情報の処理が得意なことによる(=視覚刺激の入力からくる)疲れやすさ
- 認知的なアンバランスさからくる疲れやすさ = エネルギーの消耗が大きい など
1.感覚過敏
発達障がいをもつ子は、音、光、匂い、味など、五感の感じ方が非常に繊細です(過鈍もあります)。具体的な例を見てみましょう。
感覚の種類 | 刺激となるものの例 |
---|---|
音 | ・パソコンを叩く音やノートに鉛筆で書く音 ・教室の中のざわざわした騒音(小さい音でも) ・小さい子の鳴き声や話し声(高い音など) ・食器がぶつかる音 など |
匂い | ・給食など大勢での食事の匂い ・マスクの匂い など (一人の食事や家での食事ではあまり気にならないこともある) |
光 | ・太陽の光や蛍光灯の光 ・壁全体が真っ白な部屋(反射の眩しさ) など (暗い所から明るい所に急に出たときのようなまぶしさがずっと続く) |
触覚 | ・首元や袖口、足元などがつまっている服(シャツの第一ボタンなど) ・服についているタグ、靴下や服の刺繍 ・マスク(顔に当たる) ・中学、高校の制服(非常に重く感じる) など |
聴覚過敏に関しては、大きな音だけが苦手だと誤解されることもありますが、音楽の合唱は大丈夫、映画館の音は大丈夫、というように音の種類や場所の特徴なども影響するようです。
触覚過敏に関しては、中学になり制服を着なければならない時に問題となることが多いです。小学校の時は、タグを外す・心地よい素材・大きめのサイズなどで工夫し、締め付けのない楽な服で登校できた状況が一変します。
また、苦手な刺激や刺激の強弱は人によって違いますし、その日の体調・天候(気温)・湿度など外部要因によっても違ってきます。
このように、発達障がいをもつ子は、さまざまな感覚刺激により疲れが生じます。感覚過敏研究所の加藤路瑛さんの言葉をお借りして感覚過敏のつらさを表現すると、『感覚過敏のつらさは靴に入った小石』のようなものです。靴に小石が入り、ずっと気になっている状態で日常を過ごすことをイメージしてみると、つらさを少しでも理解することができますね。
<関連記事>感覚過敏については、こちらの記事で解説しています。
2.過集中
興味の限局化があり、興味関心があることは何時間でも続けることができます。トイレに行くことも忘れてしまうほどです。長い時間集中しているため身体は疲れていますが、『ちょっと休憩しよう』ができません。その結果、疲労がたまり次の行動に影響を与えてしまいます。
一方で興味のないこと、嫌なことは全くやらない(0 or 100)ということがあります。興味関心は一貫していることもあれば、次々と移っていくこともあります。
3.視覚的情報の処理
視覚優位があるお子さんの特性として、視覚的情報の処理能力の高さが挙げられます。これは、お子さんの得意な力にもなりますが、一方で疲れやすさに繋がることがあります。
私たちが日常的に得る情報の8割は視覚的情報と言われています。しかし、その情報の全てが今の生活や活動に必要なわけではありません。今必要な情報だけを取捨選択し、そこに注意を向け効率的に情報を活用しています。
発達障がいをもつお子さんは、その取捨選択が上手くできず、見ているもの全てが気になってしまう、インプットされてしまうような感覚で、外にでると視覚的刺激量に圧倒され疲労してしまう、ということがあります。また、注目する対象の選択が困難なだけでなく、ある一部だけに着目し全体を見ることが苦手なことも、状況把握の弱さに繋がり、疲れる要因の一つと言われています。
<関連記事>視覚優位については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
4.認知的なアンバランスさ
能力をカテゴリーに分けた時、得意な力(能力)と苦手な力(能力)が多少あることは自然なことです。しかし、発達障がいをもつお子さんは得意な力と苦手な力の差が大きい傾向があります(検査に表れないこともあります)。では差が大きい=能力間のアンバランスさがあるとなぜ疲れやすくなるのでしょうか。
5歳0か月~16歳11か月までの子どもを対象にした知能検査「WISC-Ⅳ」「WISC-Ⅴ」では、子どもの知的発達水準や能力の凸凹(得意・不得意)を知ることができます。WISC-Ⅳ・Ⅴそれぞれを例に、能力間のアンバランスさと疲れやすさの関係について見てみましょう。
WISC-Ⅳの検査結果の例
WISC-Ⅳでは、4つの能力の差が分かります。車で説明してみましょう。3つのタイヤ(=合成得点)が高性能でも1つのタイヤがパンクしている状態で走り続けることをイメージしてください。ガソリン・電気を多く消費しますが、スピードは出ないし長く走り続けることはできません。燃費が非常に悪いですね。
WISC-Ⅴの検査結果の例
WISC-Ⅴでは、5つの能力の差がわかります。ガラスのコップで説明してみましょう。ギザギザに割れたコップに、水などの液体をいれることをイメージしてみてください。高いところまで水は入らず、一番低いところで満杯となり流れてしまいます。
以上の例は、どちらもお子さんが抱えている目に見えない『やりにくさ』を見える化したものです。日常生活に置き換えると、活動する時に非常に多くのエネルギーを使いますが、その割にパフォーマンスが悪く、思うような結果(成果)に繋がりません。発達障がいをもつお子さんは、非常に疲れやすい日常を送っていることが理解できると思います。
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鈴木こずえさんへの相談はこちらから疲れやすさの改善には「エネルギー量の見える化」が鍵
「エネルギー量の見える化」とは?
「エネルギー量の見える化」とは、疲れやすい原因の中の「4.認知的なアンバランスさからくる疲れやすさ」に焦点を当てて、自分の持っているエネルギーの量を視覚的に提示し、その量で何をどこまでやるか(できるのか)、優先順位や活動量を決めていく方法です。
期待できる効果
発達障がいをもつお子さんの中には、自分の気持ちや体の感じに注意が向かなかったり、向けてもなかなか感じられなかったりします。そのため、身体は疲れているのに、「疲れた?」と訊いても『大丈夫』『全然つかれてない』と答えます。本人に自覚がないので、無理な計画を推し進め、ある時いきなりバーンアウトしてしまう(=ガス欠の状態)になることがあります。お子さんも周囲もビックリですね。
エネルギーの見える化をおこなうことで、エネルギー配分ができ、そのような状況になることを防ぐことができます。
「エネルギー量の見える化」の具体的なやり方
事前準備
- 自分が持つ「エネルギー」について説明する
- 日常的に使えるMAXのエネルギー量が「100%」ではないことを伝える
- 自分が使えるエネルギー量を数値化してもらう
1.自分が持つ「エネルギー」について説明する
まずお子さんの周りにある身近なものや興味のあるものを使って、エネルギーの説明をします。スマホの充電を使うことが多いですが、車好きなお子さんには車のガソリンや電気メーターで説明します。
「自分のエネルギーを効率よく使えれば、今よりももっと好きなことができるようになるよ」や、「エネルギー切れを防げば、絶対にやりたかったことが突然できなくなったりしないよ」などと伝え、モチベーション作りをします。
2.日常的に使えるMAXのエネルギー量が「100%」ではないことを伝える
次に、日常的に使えるMAXのエネルギー量を伝えます。100%ではありません。スマホやiPhoneのフル受電も、90%を維持する機能がありますね(過充電を防ぎバッテリーの寿命を延ばす『いたわり受電』『最適化機能』のこと)。
MAX90として実際使える量は80、学校から帰ってきた時は、『疲れやすさから』からすでにかなりのエネルギーを消費していること(残30~40%ほど)をサポートする援助者側が理解しておくことが大切です。
3.自分が使えるエネルギー量を数値化してもらう
そして、今自分にどのくらいエネルギーが残っているか、数値化してもらいます。この時80や70など高い数値を出してきても、一回目はそれを基に計画を立てていきましょう。結果を振り返り、計画通りに実行できなかった理由を考える貴重な機会となります。
【例で解説】具体的な手順
準備するもの
- 計画を書き込むホワイトボードやマグネットシート
(貼ったり剥がしたりしやすいものがおすすめ) - ポイントシール(〇シール)
- ポストイット
手順
- やらなければならないこと・やりたいことに必要なエネルギー量を見積もる
- 必要なエネルギー量の見直しをする
- 自分が持つエネルギー量を振り分け優先順位をつけて並び替える
1.やらなければならないこと・やりたいことに必要なエネルギー量を見積もる
ポイントシール(〇シール)のひとつの〇=10(%)のエネルギー量とします。ここでは、学校から帰ってきたときのエネルギー残量=40(%)として計画を立てます。
⑩ ⑩ ⑩ ⑩ の4個が使えますね。
まず、その日の予定をポストイットに書き出し、使用するエネルギー量を〇シールで示します。初めにやらなければならないことを書き、その後やりたいことを書くとよいですね。
例)学校から帰ってきてやらなければならないことは、やりたいことは?
2.必要なエネルギー量の見直しをする
ここで一度、必要なエネルギー量の見直しをしてみましょう。
見直しのポイント
- エネルギーとは心的・体力的・時間的負荷の総量である
- 楽しいことや、毎日行う習慣化されたもの、時間をあまり要さないものは、使うエネルギー量が少なくてすむ
今回の例では、ゲームは一日にできる時間が決まっていることを前提としています。推し活(例えばグッズ作り)は100均で買い物をしたりする準備時間や、熱中する可能性があるので時間を多く見積もっています。その上で、もう一度必要なエネルギー量を考えましょう。赤字が訂正後のエネルギー量です。
3.自分が持つエネルギー量を振り分け優先順位を並び替える
その後、見直したエネルギー量に合わせてシールを貼ります。最後にシールの合計が40になるようにポストイットを選び、優先順位を考えて並び替えます。ここでは、2パターン作りました。
上記は一例です。ポストイットの項目も食事・入浴以外はお子さんにより様々です。同じやり方で週末や1週間の予定を立てることもできます。お子さんと話し合って色々工夫・応用してみてください。
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鈴木こずえさんへの相談はこちらから「エネルギー量の見える化」で疲れやすさを改善した事例
中学生の事例:
休日の過ごし方に課題があり、色々詰め込み過ぎて疲れてしまい、結果平日の活動に支障が出ていた中学生に、エネルギーの見える化を試みました。
最初は自分に残っているエネルギー量を把握することが難しかったのですが、オーバーワーク気味は感じていたので、一つずつ活動(予定)を減らしていき、体調・気分よく過ごせる活動量を探っていきました。
次に何にどのくらいエネルギーを使っているかを想定し、エネルギー配分を意識して計画を立て、やってみて振り返る、を繰り返しました。結果、あれもこれもやりたい(やらなければ)と詰め込み過ぎることはなくなり、最後は、予測不可能な事態に備えて、エネルギーを使い切らずに残しておく、というアイディアを出してくれました。素晴らしいことですね。
自分で計画を立て、エネルギーの状態や配分がわかることが大切
この「見える化」で大切なのは、お子さんの意見を取り入れて、お子さんが自分で計画を立てていく練習をすることです。最初から上手くはい行きません。振り返りをしながら、失敗を繰り返しながら、徐々に自分のその時のエネルギー量(体調や気分によっても変わります)やエネルギー配分が分かるようになります。保護者の方はあくまでもサポーターです。そして忘れてはならないのは、この目的は、勉強の時間を増やす、ゲームの時間を失くすことではなく、疲れやすさの改善のための「エネルギー量の見える化」です。
最後に、小学生低学年のお子さんや、算数障がいをもつお子さんには、数字を使うときに注意が必要です。使用できるエネルギー量=〇の数が書かれたシートを事前に作成し、暗算しなくてもシートの上にシールを貼っていくことでエネルギー配分ができるようにすると、負担にならず進めることができるでしょう。
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