自閉症は遺伝する?自閉症の原因や遺伝の確率、子どものサポート方法などについて解説
「子どもが自閉症かもしれない「これから妊娠出産を考えているけれど、身内に自閉症の人がいるから遺伝するのではないか」 このように、自閉症が子どもに遺伝するかもしれないと気になり、不安になる方は多いのではないでしょうか。 この記事では、自閉症には実際に遺伝が関係しているのか、自閉症になる原因はあるのか、また子どもが自閉症だった場合、具体的にどのようにサポートしていけば良いのか、 といったことについて詳しく解説していきます。
目次
そもそも自閉症とはなにか
自閉症とは、生まれつきまたは乳幼児期のケガや病気などにより、脳機能の発達に影響が出る発達障害のことです。また「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」 の総称を自閉スペクトラム症(ASD)と言います。数十年前は、自閉症というと「知的障害」をともなう症状を意味していましたが、現代では知的障害をともなわなくても「自閉症」と診断されることがあります。
自閉症とひとことで言っても、日常生活に大きな困難をもたらすような状態の子から、少し療育や日常生活で工夫をすればほぼ問題なく生活できる状態の子までおり、様々です。
なお、一定の診断基準を満たしてれば「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断されますが、「スペクトラム」とは「連続体」という意味で、自閉症の特性がみられる子なら、重い症状でも健常児に近い症状でも、「連続体」という意味で使われているのが現状です。
自閉症の診断基準とは?
自閉症の診断基準とは、以下のA~Dを満たしていること、とされています。
A:社会的コミュニケーション相互関係における持続的障害がある
1.社会的・情緒的相互関係の障害(人の気持ちや表情が読み取れない、相手の意図がわからない、など)
2.他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーション(ノンバーバル・コミュニケーション)の障害(冗談が通じない、字義通りに受け取ってしまう、態度で示してもわからない、など)
3.年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害(クラスメートでも丁寧語で接する、反対に対人関係のとり方の幼さがある、など)
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動がみられる
1.常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方(その場でぴょんぴょん跳ねる、手をひらひらさせる、など)
2.同一性へのこだわり、日常動作への融通のきかない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン(いつも同じ道を通って帰らないと気が済まない、朝から決まったルーティンがある、など)
3.集中度・焦点付けが異様に限定的であり、固定された興味がある(電車の時刻表や型番にやたら詳しい、など)
4.感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心(空調の音も気になる、強い光が苦手、など)
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある
D:症状は職業やその他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている
この診断基準自体がわかりにくいかもしれませんが、これらに該当するかどうかで考えてみると、幅広く当てはまる子が出てきます。
自閉症は遺伝するのか
自閉症は遺伝的要因が大きいと言われており、200以上の感受性遺伝子と、ほぼすべての染色体に関連する細胞遺伝学的異常が関連しています。
しかし、遺伝的要因は「障害のなりやすさ」を想定しているだけで、遺伝子の変化だけではここ数十年の自閉症の増加の原因として説明できません。
ただし小児・発達期の脳が多様な要因の影響を受けやすいこともあり、実際のところ自閉症の発症には遺伝的要因だけではなく、環境的要因も深く関与しているのです。遺伝的要因が「自閉症のなりやすさ」だとすると、環境的要因は「自閉症になる引き金」と言えます。
自閉症そのものが遺伝するわけではない
また「自閉症」という障害そのものが遺伝するというよりも、自閉症の特徴がいくつもあり、その一部が遺伝する、という考え方をするとわかりやすいでしょう。
たとえば自閉症の特徴として、
①こだわりが強い
②話が通じにくい
③言葉の遅れ
④マイペース
といったものがあるとします。
そして父親が自閉症で上記4つの特徴を持っていたとして、母親がこだわりは強いけれど自閉症ではないとします。
また、この両親により子供が3人生まれたとして、長男は①の傾向が強く、次男は①と②が見られ、三男は①から④まですべてに当てはまったとします。
その場合診断基準に当てはめると、長男と次男は自閉症っぽい特徴があっても診断基準を満たしていないために自閉症と診断されず、三男だけが自閉症である、ということになるのです。
また自閉症の個々の特徴も、遺伝したりしなかったりとバラバラです。
自閉症になる確率は?
それでは、実際に子どもが自閉症になる確率は一体どのくらいなのでしょうか。
自閉症の発症頻度は1000人中3人程度と言われており、日本自閉症協会によると、国内の自閉症である人の数は約36万人で、男女比はおよそ4対1となっています。
【参照元】自閉症と遺伝の関係:遺伝専門医が解説する最新の研究(ミネルバクリニック)
ただし「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名は、重い自閉症から健常者に近い自閉症まで幅広く用いられていることにも注意が必要です。実際には、発達障害ボーダーラインと言われている人も多くおり、診断はつかないけれど「自閉症かもしれない」という子どもも少なからずいるのです。
女の子の自閉症は見落とされるケースも多い
また、女の子の自閉症は「ソーシャルスキルが欠如していないケース」が少なくないという報告もあり、診断が難しい場合があります。
【参照元】Why Many Autistic Girls Are Overlooked(Child Mind Institude )
女の子の中には、早くから「他人との違和感」について気づき、環境の中で「過剰適応」している子も少なくないのではないかと私の臨床経験からも感じます。
上記の理由から、おそらく実際に報告されている数よりも自閉症である人の数はもっと多いのではないか、そして女の子の自閉症ももっと多いのではないかと予想されます。
<女の子の発達障害に関する記事はこちら> 【女の子の発達障害】ADHD・ASDの特徴や年代別の悩み、親ができるサポートとは
一等親、二等親、きょうだい間などでの遺伝の確率は?
これまでは二卵性双生児で自閉症の遺伝の確率は0~28%、一卵性双生児では60~98%ほどと言われていました。しかし、2011年の大規模な双生児研究において、二卵性双生児の自閉症の遺伝の確率はもっと高いのではないか、という結果が出たとのことです。
ただ一等親での自閉症の遺伝する確率については、正確な数値は出ていません。また二等親での自閉症の遺伝する確率については二卵性双生児の研究では10~30%という説もありますが、これも正確なところはわかっていません。
なお、第二子以降で自閉症の子どもが生まれる確率は、自閉症の子どもがすでにいる親の方が、そうでない親に比べると高いとされています。いくつかの研究では、自閉症の子どものきょうだいが自閉症になる確率は18~20%であると報告されています。ただし、遺伝的背景や環境要因、自閉症の子どもが何人いるかによっても確率は変わってきます。
【参照元】自閉症ASDが親から遺伝する確率は?原因と検査方法も解説(ミネルバクリニック)
遺伝以外に自閉症の原因として考えられることは?
ここまで、自閉症と遺伝の関係についてお伝えしてきました。では、遺伝的要因以外に自閉症の原因となりうるものがあるのでしょうか。あくまで可能性がある、という程度ではありますが、考えられるものついて挙げてみます。
①多胎児である
多胎児は、低体重で生まれてくることが多いです。特に早産で脳が十分発達しきっていない状態で生まれてきたり、脳が十分発達しきっていないほどの低体重で生まれてくると、自閉症になる確率が上がります。
②妊娠中の感染症
妊娠中に妊婦が感染症にかかると、お腹の子が自閉症(に限りませんが)などの障害になる場合はあります。特に、胎内で脳が発達している時期に感染するとそのリスクが上がります。
③父親が高年齢
父親の年齢が高いと、自閉症の子どもが生まれる確率が上がるという研究結果もあるようです。なお母親の年齢についての研究結果は今のところ出ていません。
④乳幼児期の子どもの脳の外傷・病気
発育途中の子どもの脳はとても繊細です。頭を強打したなどでその後の発達に影響を与えることがあります。また、子どもが低年齢の時に重病にかかると、その後脳機能の障害が生じることもあります。
⑤その他環境要因
農薬の影響、PM2.5など、子どもが胎内にいる時の環境要因で自閉症になるのではないか、という研究結果も出ているようです。
出生前診断で自閉症かどうか分かるのか?
妊娠中に胎児の発育や異常の有無などを調べる検査を行い、その検査結果をもとに、医師が行う診断のことを出生前診断と呼びます。
この出生前診断でわかることは、 ①染色体疾患(ダウン症、18トリソミー、13トリソミー)にまつわる成長障害、呼吸障害、摂食障害などの身体的特徴 ②染色体疾患にともなう合併症(心疾患、消化管奇形、口唇口蓋裂など) という、染色体疾患にまつわるものになります。 染色体疾患の出生前診断にはNIPT(非侵襲的出生前診断検査)というものを使いますが、これは自閉症の確定診断には適していないと断言されています。
【参照元】自閉症は出生前診断で事前に調べることは可能?検査方法と対象者について解説
子どもが自閉症だった場合のサポート方法について
では、自分の子が自閉症だと分かった場合は、どのように子どもをサポートしていけばいいのかについて、紹介します。
療育を受けさせる
もし子どもが自閉症だとわかったら、できるだけ早く療育を受けることをおすすめします。その理由は、子どもの苦手なことを少しでも軽減し、得意な領域を広げてあげるためです。療育で伸ばせる能力は、大きく分けると以下の4つがあります。
①言語能力(発声・発音を促す、語いを増やす、コミュニケーションのしかたを学ぶなど)
②粗大運動(主に運動能力。体幹をきたえ、立つ、歩く、走る、跳ぶ、しゃがむなど)
③微細運動(手先の使い方を学ぶ。物をつかむ、道具を使って食べる、手先でつまむ、字や絵をかくなど)
④ソーシャルスキル(対人関係スキルや社会のルールを学ぶ。お友達とのやりとり、交通ルール、集団の中で指示を聞くなど)
<ソーシャルスキルに関する記事はこちら> ソーシャルスキルとは?12の種類や発達との関係、子どもとできるトレーニング方法
こういったことをできるだけ早期に、児童発達支援や地方自治体の発達支援センターや病院などで受けることによって、子どもの社会での過ごしにくさを減らすことができますし、幼稚園や保育園などの集団活動に入っていく際に、ある程度言葉が理解できたり、自分でできることが増えていれば、子どもの自信にもつながります。
また、専門家に子どもをみてもらうことによって、子どもの育て方の相談や、具体的なアドバイスをもらうこともできます。
かかりつけの病院やお住まいの地方自治体(市区町村)の障害福祉課で相談すると、どこで療育を受けられるなど紹介してくれますので、ぜひ問い合わせてみてください。
療育で行われる支援とは?
療育の現場では、その子の課題に合わせて個別療育または集団療育を行います。そして子どもとの遊びの中で課題となっている能力の習得を目指します。
たとえば言語が課題になっている子どもの場合、45分療育を行い、5~10分保護者とのフィードバックを行います。
療育の中で、
・ごあいさつ
・絵本の読み聞かせ(子どものレベルに合ったもの)
・絵カード
・パズル
・好きなもので遊ぶ(療育施設にあるおもちゃなど)
・ごあいさつ
という形でプログラムを組んでいきます(あくまで一例です)。
ジェスチャーでも単語でも、どんどんほめて自信につなげていきます。そして、療育者とのやりとりが楽しいと子どもが思えるような環境づくりをしていきます。「お話ができると楽しいね」と思えるようになってきたら、子どもも何らかの形で意思を伝えてきます。
そしてパズルやおもちゃなどを使った遊びの中でも、「かして」「ちょうだい」などのやりとりが出てくるよう促していきます。また「これは~だね」など、さりげなく言葉かけをしていくことで少しずつ言葉の理解が進んでいきます。
食べ物の絵のカードを見せた場合、子ども自身がよく食べるものや好きなものは反応が良いことも多いため、そういった細かいところも保護者へのフィードバックでお伝えしていきます。
このような感じで、最初の頃はほぼ発語がなかった子どもでも、少しずつ言葉が出てきたり、意思表示ができるようになるのです。
家で子どもにできるケア
療育の時間は、子どもにとっては生活のほんの一部です。大半の時間は家で過ごすので、家でのケアはとても重要になってきます。
そのため家でもできれば時間を作ってあげて、子どもと遊びながらたくさん会話したり、療育でやってみたことを一緒に練習してみてください。
怒らずできる限りほめてあげて
ただし、子どもがうまくできなかったからと言って親が怒ってしまうと逆効果になってしまいます。療育に熱心な保護者の中でも、あまりに熱心すぎて子どもに多くを求めすぎてしまう方もいます。そうなると、子どもも療育を受けることも嫌になってしまいますし、家でその練習をすることを拒絶するようになるかもしれません。
子どもと関わる上では、少しでも子どもの良いところを見つけてたくさんほめてあげて、子どもに自信をつけさせてあげることが大事である、ということを頭に置いてください。
たとえばおはしが上手に使えなかったら、「何でちゃんとできないの!」と怒ってしまうと子どもは萎縮してしまい、かえってうまくできなくなります。そのうちに、おはしを使うことが嫌いになってしまうかもしれません。
そんな時は、たとえば親指と人差し指の力を強化するという意味で洗濯ばさみをつまむ練習をしてみるなど、「どういう力や能力があればおはしが使えるのか」を分析してみましょう。どうすれば良いかわからなければ、療育者に相談してみてください。
また子どもがその行動をうまくできなかったとしても、チャレンジしたことをほめてあげましょう。そして「また一緒にチャレンジしていこうね」という雰囲気づくりを家で心がけると、子どもの能力はぐっと伸びていきます。
また、子どもがどうしても危ないことをしたがって注意せざるをえない時も実際にはあるでしょう。そんな時は「~してはいけません!」ではなく、肯定文で「~しようね」と促してあげるのがポイントです。
まとめ
ここまで、自閉症は遺伝するのか、もし自分の子どもが自閉症だったらどのように育てれば良いのか、といったことなどについて解説しました。自閉症は遺伝的要因があるとはいえ、その確率やどの要素が遺伝するかについては、今後の研究が待たれるところでしょう。
私たちにできることがあるとすれば、生まれてきた子どもを心身ともに健やかに育ててあげることです。
また自分の子どもが自閉症だとわかったら、できるだけ早く療育を受けさせてあげてください。そして療育者と協力し、療育者を上手に頼りながら育児のヒントをもらい、家でも応用していくと良いでしょう。その時は、とにかく「子どもをほめて、子どもに自信をつけさせる」ことが何より大事です。子どもがのびのびと生きていけるようになることを目指しましょう。
子育てのお悩みを
専門家にオンライン相談できます!
「記事を読んでも悩みが解決しない」「もっと詳しく知りたい」という方は、子育ての専門家に直接相談してみませんか?『ソクたま相談室』には実績豊富な専門家が約150名在籍。きっとあなたにぴったりの専門家が見つかるはずです。
子育てに役立つ情報をプレゼント♪
ソクたま公式LINEでは、専門家監修記事など役立つ最新情報を配信しています。今なら、友だち登録した方全員に『子どもの才能を伸ばす声掛け変換表』をプレゼント中!
臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義) など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。