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2024.07.09

ADHDは遺伝する?ADHDの原因や遺伝の確率、診断方法などについて解説

「自分はADHDのような気がするけど、これって親の遺伝?」「自分がADHDだとすると、もしかして我が子も…?」このように、ADHDと遺伝との関連性を気にされている方は多いのではないでしょうか。

ADHDは、遺伝が関係しているといわれている発達障害です。しかし、遺伝だけが関係しているわけではありません。

この記事では、ADHDの遺伝性や診断方法、ADHDの子どもへのサポート方法などをご紹介します。「もしも子どもがADHDと診断されたらどうすれば…?」そうお悩みの方も、ゆったりとお読みください。

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記事を執筆したのは…

梅田 ミズキさん認定心理士、サービス介助士

大学で臨床心理学・産業組織心理学・発達心理学などを学び、卒業後は公的施設にて精神疾患の方のケアや介助業務、ご家族の相談対応などに従事しながら、ホームページ掲載用のコラムやミニ新聞を執筆。現在はフリーライターとして独立し、くらしにまつわるエッセイの執筆、臨床心理・発達支援・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集に携わりながら、心理カウンセラーも務めている。趣味は読書、映画鑑賞、気まぐれで向かうプチ旅行。

そもそもADHDとは何か?

ADHD(注意欠如・多動性障害)とは「不注意」「多動症」「衝動性」の3つの特性がみられる発達障害です。Attention-Deficit/Hyperactivity Disorderの頭文字を取って「ADHD」と呼ばれています。

ADHDは、かつて「注意欠陥・多動性障害」と呼ばれていました。しかし、アメリカの精神医学会が2013年に出版した「DSM-5」にて「注意欠如・多動性障害」へと変更されています。

3つの特性の主な一例は、次のとおりです。

「不注意」傾向

  • 集中力が続かない
  • 忘れ物が多い
  • ミスが多い
  • 気が散りやすい
  • 順序を立てて活動するのが苦手
  • 活動に集中しすぎて切り替えが困難(過集中)

「多動性」傾向

  • じっとしていられない
  • 順番を待つのが難しい
  • 考えずに行動してしまう
  • 相手が話し終わる前に話し出してしまう

これらの特性は、日常生活や学習、対人関係に影響を及ぼす場合があります。しかし、ADHDの方は創造性が高く、独自の視点を持っているなど、ポジティブな側面も多くあるのが特徴です。

【参考】DSM5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)

※関連記事はこちら

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ADHDは遺伝する?

ADHDだけではなく、ASD(自閉スペクトラム症)やSLD(限局性学習症)といった発達障害は、先天性の脳機能の障害だと明らかになってきています。そして、長年の研究から遺伝的要因とも関連していると考えられていますが、「遺伝する」と確定する明らかな決定打はまだありません。

ADHDは、脳の機能異常から脳内の神経伝達物質のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンに偏りが生じて発症するといわれています。実際にADHDの治療薬は、これらの神経伝達物質に作用するようになっているのです。

遺伝を除いても、環境要因として次のようなものが挙げられます。

  • 妊娠中の喫煙や飲酒
  • 低出生体重
  • 生育環境(子供の検診受診歴た予防接種歴、経済状況、ネグレクトや虐待の有無など)
  • 他の発達障害や疾患の有無

ここで強調したいのは、ADHDは親の育て方や環境が「原因」ではない点です。ADHDは脳の発達に関わる障害であり、決して親の責任ではありません。

【参考】ADHDにおける衝動性への行動-遺伝的アプローチ
広汎性発達障害の脳形態異常とその起源について

ADHDが遺伝する確率は?

前述したように、ADHDの遺伝性は明確にわかっていないものの、親がADHDの場合子どももADHDで生まれるケースは多い傾向だといわれています。

一等親、二等親、兄弟間などでの遺伝の確率は?

ADHDの遺伝について、精神神経学雑誌オンラインジャーナルに掲載の「注意欠如・多動症発症のエピジェネティクス仮説」には、次のような記載があります。

“遺伝率とは,ある形質の発現に遺伝要因がどのくらい関与しているかという割合であるが,一般的に一卵性双生児(ゲノムが100%近く一致)と二卵性双生児(ゲノムが50%近く一致)の診断一致率から求められることが多い.ADHD についてもこれまでさまざまな形で遺伝率について報告されてきた.児童思春期のADHDの遺伝率としては20の双生児研究から,76%(60~90%)という結果が示されている15).一方で成人のADHDの遺伝率は30~40%と低く報告されている7,45).これに関しては評価者の違いによるバイアスの影響が考えられている.つまり児童思春期では親か担当する教師が評価者となり,成人期では自己評価式の質問紙が使用されることが多い.成人のADHDで自己評価式質問紙を使用した研究では,有症率は,不注意症状 37%,多動性・衝動性症状38%28)であった.また臨床データによる研究としては,成人期ADHDの遺伝率 72%29)という報告がある.このように評価者効果8,36)についての検討は重要である.”

【引用元】注意欠如・多動症発症のエピジェネティクス仮説|精神神経学雑誌オンラインジャーナル

児童思春期と呼ばれる8~18歳頃の方が対象の場合は、親や先生が本人を評価し、遺伝率76%との結果が出ています。一方で、成人の対象者が自ら評価した場合は遺伝率は30〜40%となっています。つまり、対象者本人が評価するか第三者が評価するかで、評価の偏りが起きている可能性があるとの見解です。

なお、アメリカの調査では一等親、つまり親子間でADHDが遺伝する確率は最大50%との結果が出ています。また、ADHDの子供がいる場合、いない子に比べてその兄弟姉妹がADHDを発症する確率は5~7倍といわれています。

二等親、つまり祖父母や叔父叔母などがADHDの場合、子供がADHDを発症する確率は一般人口よりもやや高くなりますが、一等親ほど顕著ではありません。

これらの数字から、ADHDには確かに遺伝的傾向があることがわかります。家族間では遺伝による体質と生育環境が似ていることからこのような傾向が出るのではないかと考えられていますが、ADHDは体質や環境要因が相互にかつ複雑に影響して発現します。

とはいえ、遺伝子が一致する一卵性双生児でも100%の確率で発現しないことから、単純に親がADHDだからといって、子どもに遺伝するということではありません。

ADHDはどのように診断するのか

ADHDなど発達障害の特性や困りごとは、人によってそれぞれ異なります。そのため、外見で「ADHDだ」「発達障害だ」とは判断できません。

ADHDの診断は医療機関で

大人自身や子どもに気がかりな部分がある際にできるセルフチェックもありますが、ADHDをはじめ、発達障害の診断ができるのは医師のみです。ADHDかどうかを確かめるには、医療機関へ受診する必要があります。

セルフチェックの項目に当てはまるなど「ADHDかな?」と思ったら、できるだけすみやかに専門機関へ相談するのがおすすめです。

受診前にADHDの相談ができる場所

「医療機関を受診する」と聞くと、ハードルが高く感じてしまう方もいらっしゃいますよね。
最初から医療機関への受診に戸惑ってしまう場合、まずは支援センターへ相談して心理検査やアセスメントを受けるのもおすすめです。困りごとや特性が把握できたり、公的な支援、サービスを受けられる場合があります。

▼ADHDについての相談先

なお、診断には時間がかかる場合がありますが、正確な診断が適切な支援に繋がります。また、ADHDの特性は年齢とともに変化するケースもあるため、継続的な評価が重要です。

もし子どもがADHDだった場合はどのように育てればいい?

子どもがADHDと診断された場合、親として不安を感じるのは自然なことです。しかし、適切な支援と理解があれば、ADHDの子どもも健やかに成長して自身の個性を活かせます。

子どもがADHDだった場合のサポート

①療育などで早期からの支援を受ける

ADHDの特性は幼少期から現れるケースが多いため、早期からの支援が効果的です。専門家のアドバイスを受けながら、子どもの特性に合わせた環境づくりを心がけましょう。
特に専門家による「療育」は、ADHDの子どもの発達を支援する重要な手段です。主な療育方法には次のようなものがあります。

・応用行動分析(ABA):望ましい行動を強化し、問題行動を減らすアプローチ
・ソーシャルスキルトレーニング:対人関係スキルを学ぶプログラム
・認知行動療法:思考パターンを変えることで行動の改善を目指す療法

療育を受けるには、まずは公的な機関、または医療機関で相談しましょう。 療育センターはもちろん、子育て・発達支援課や障害福祉課、児童相談所などでも相談できます。

②学校や専門機関細やかに連携する

ADHDの子どもを育てるうえで、学校との協力は不可欠です。まず、担任の先生や特別支援コーディネーターと定期的に面談し、子供の状況を共有しましょう。学校での困難や成功体験を把握すれば、家庭での支援に活かせます。

また、個別の教育支援計画や指導計画の作成に積極的に参加し、子どものニーズに合わせた学習環境を整えることも重要です。座席の配置や課題の提示方法など、細かな工夫で子供の困りごとを軽減できる可能性があります。

さらに、通っている児童発達支援や放課後デイサービスがある場合にも、定期的な面談などで情報を共有するのが大切です。家庭と専門機関が一丸となって子どもを支えれば、ADHDの特性を活かした成長が促せます。

③子どもの生活環境を工夫する

ADHDは、常に動いてしまったり自分の体力の限界を超えて過度に集中して活動を続けてしまったりなど、多動性の特性から疲れが溜まりやすい傾向があります。他にも、感覚過敏などとの合併からストレスを感じやすく、環境への適応がうまくできないことで自己肯定感が下がってしまいやすいのも特徴です。

そのため、子どものストレスを軽減して自分に自信を持ちやすい生活環境を作ることが大切といえます。例えば、過集中で休憩を忘れて疲れすぎや水分不足、栄養不足になるのを防ぐため「1時間ごとにお茶を飲もうね」「◯時になったら食事をとろうね」など、休憩をルール化して意識的に取り入れるのがおすすめです。

また、感覚過敏から音が気になり勉強や遊びに集中できない様子が見られる場合は、テレビを消すなど部屋からなるべく大きな音を取り除きましょう。耳栓やイヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤホンも、感覚過敏によるストレスを軽減できるアイテムですので、必要に応じて利用しましょう。

その他、日常のなかで指示をする際は複数を同時に伝えるのではなく、短く具体的に伝えるのがポイント。小さな成功体験の積み重ねが、子どもの自信に繋がります。

④薬物療法

ADHDの治療において、薬物療法は重要な選択肢の一つです。中枢神経刺激薬を用いて、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで症状の改善を図ります。

薬物療法を検討する際は、小児精神科医など専門医との綿密な相談が必要です。子供の症状や年齢、生活環境を考慮して最適な治療法を選択しましょう。

服薬を開始した後は、効果や副作用を注意深く観察し、定期的に医師へ報告します。また、薬物療法は他の支援方法と組み合わせるとより効果的です。

ただし、薬物療法には賛否両論あります。ご家族で十分に話し合い、子供にとって最善の選択をすることが大切です。

⑤親のセルフケアも忘れずに

ADHDの子どもとの暮らしは、新しい発見がある一方で、親にとってエネルギーも必要ですよね。日々の対応に追われて自身の心身の健康を後回しにしがちですが、親のセルフケアも非常に重要です。

まずは、できる範囲で自分の時間を確保しましょう。趣味や運動など、リフレッシュできる活動を定期的に取り入れることで、ストレス解消に繋がります。また、同じ境遇の親との交流や、サポートグループへの参加も心強い支えとなります。

十分な睡眠と、栄養バランスの良い食事も心がけたいですね。辛いときには我慢せず、必要に応じてカウンセリングを受けるのも良いでしょう。

自分を大切にすることは、決して自己中心的ではありません。同じ境遇のご家族と情報交換をしたり専門家のアドバイスを参考にしたりすることは、育児の悩みを軽減し、新たな視点を得るきっかけになります。

ADHDの実際の支援事例

筆者が対応した事例では、7歳の男の子がADHDと診断されました。ご両親は当初、戸惑いを感じたと言います。しかし、公認心理士とともに次のようなアドバイスを伝えたところ、男の子の集中力は向上し、学校生活にも適応できるようになりました。

・視覚的なスケジュール表を作成し、日課を可視化
・宿題を小さなステップに分け、達成感を味わえるよう工夫
・週末にはサッカーチームに参加し、運動の機会を確保
・学校と連携し、座席を前列に配置するなどの環境調整を実施

ご両親は「子どもの個性を理解して適切にサポートすることで、ADHDは決して障壁ではなく、むしろユニークな強みになり得ると実感しました」と語っています。

ADHDの遺伝性が心配な場合は専門家へご相談を

ADHDは遺伝的要因が関与しており、家族歴が発症リスクに影響を与える可能性があります。しかし、それは「早期に気づいて適切な対応を取るきっかけ」になり得る重要な情報です。

ご家族自身がADHDと診断されているか症状で悩んでいる場合、子どものADHDの診断や対処法を考えるうえで重要な手がかりになる場合があります。まずは医療機関や支援センターなどへの相談がおすすめです。

ADHDの症状がある親御さんで、子どもの行動に自身の幼少期をつい重ね合わせてしまい、厳しい育て方を選択してしまうと悩まれている方もご安心ください。困りごとや苦悩がよくわかる理解者として、子どもを適切にサポートできる立場でもあるのです。

ADHDは、早期の専門的介入と適切なケアで日常生活の困りごとを軽減できます。気がかりなことがある場合は、医療機関や地域の発達障害支援センターへの相談を検討してみてください。

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梅田 ミズキ

大学で臨床心理学・産業組織心理学・発達心理学などを学び、卒業後は公的施設にて精神疾患の方のケアや介助業務、ご家族の相談対応などに従事しながら、ホームページ掲載用のコラムやミニ新聞を執筆。現在はフリーライターとして独立し、くらしにまつわるエッセイの執筆、臨床心理・発達支援・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集に携わりながら、心理カウンセラーも務めている。趣味は読書、映画鑑賞、気まぐれで向かうプチ旅行。

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