小学生の癇癪と発達障害の関係は?対応方法や原因、不安な時の相談先を専門家が解説
まだ言葉でうまく表現できない乳幼児期のみならず、小学生になっても子どもが癇癪を起こす…。そんな悩みを抱える保護者は、実は少なくないものです。そんなとき、「ウチの子は何か問題があるのではないか?」「もしかして発達障害かも…?」なんて思うことがあるかもしれません。
そこで今回は、20年以上にわたって保育・教育・障害児者支援に携わり、子どもの発達に関する専門家である三上 修吾さんに、「小学生の癇癪と発達障害の関係」や「癇癪の対応法」などについて、詳しく話を伺いました。ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも癇癪とは?
癇癪とは、大声をあげて泣き叫んだり、手足をばたつかせて暴れたり、壁などに頭を打ち付けたり、物を投げたり周囲の人に暴力を加えたり、暴言を吐いたりすることなどをさします。
子どもが癇癪を起こす背景には「思い通りにいかないことへの葛藤や不安」 「不快感」があり、その不快感を取り除きたいがために癇癪を起こすのです。
子どもが癇癪を起こすと、親はつい自分を責めてしまいがちです。しかし基本的にはそのときの状況、発育の過程での正常な反応として癇癪が起こることが多いものです。
子どもが癇癪を起こす原因とは?
乳幼児の場合
乳幼児の場合、おむつが濡れていて気持ち悪い、お腹がすいた、疲れた、眠い、痛い、かゆい、具合が悪いといったような生理的な不快感を、まだうまく言葉で表現できません。
また、「自分の思う通りにいかない、要求したいけどどう伝えればいいかわからない」といったことも多々起こります。そんな不快感がつのって癇癪という形であらわれることは、よくあることです。
小学生の場合
成長の仕方は個人により異なるため、葛藤や不安の現れとして癇癪が続き、小学生になっても癇癪がおさまらない、というケースもあります。学齢期は、本人の成長とともに理解できることも増えると同時に、幼児期に比べて取り巻く環境も広がり、外的なストレスを感じやすい場面が増えてくるなど、不安やストレスを抱える要因は多岐にわたります。ですので、たまにかっとする、という程度ならそこまで気にしなくていいと思います。
ただ、激しい癇癪がしょっちゅう起こる、親の手に負えないことが多々ある、という場合は、親としてもどうしたらいいのか不安になるかもしれません。そしてそんなケースの背後に、発達障害が隠れていることもあります。
発達障害の特性と癇癪との関係性
癇癪は、状況次第で子どもから大人まで誰にでも起こりうる葛藤や不安、不快感の現れです。そして、癇癪と発達障害とに直接の関係性があるわけではありません。
一方で、ちょっとした変更やイレギュラーな出来事があったり、自分の想定通りにならならないことがあって激しい癇癪を起こすという場合は、認知の偏りや独特さなど、子ども自身が不安を感じやすいような認知特性が関係していることもあります。
例えば、ASD傾向のある子どもの中には、様々な認知機能の凸凹によって、予期しない出来事に不安を覚える傾向があります。
またADHDの場合、その特性とされる「衝動性」が強いと、感情をコントロールすることが難しくなり、かっとなって癇癪を起こすこともあります。
他にも、親から見て癇癪とその前後の出来事との因果関係が分からなかったり、あまりに癇癪が激しい(暴力的・自分や周りをひどく傷つけるなど)、癇癪を起こす頻度が高すぎる、家族でサポートするのが難しいという場合は、保護者の負担は多岐にわたるかと思いますのでひとりで抱えず、気軽に子どもの発達に関する専門機関に相談してみるのもいいでしょう。
癇癪を起こす子どもへの対応法
癇癪を起こした直後の対応
①優しく声をかける
言葉をかけてあげた方がいいと思われる場合は、優しくねぎらってあげたり、共感してあげたりして、「ゆっくり静かに」なだめてあげましょう。ハグしたり、背中をゆっくりさすってあげたり、気持ちを代弁してあげるような声かけも効果的です。
②子どもの気持ちを代弁しながら、一緒になって怒ってみる
①の対応で癇癪がおさまらなさそうな場合は、子どもといっそのこと一緒に怒ってみるというのもおすすめです。「〇〇だったよね!イライラするね」などと代弁しながら一緒に怒ることで、感情を共有し子どもに伴走することができ、子どもの側も「自分に寄り添ってくれている」と思えたりします。
また親が癇癪を起こす(フリをしている)のを見ることで、子どもは自らの状態を一歩引いて客観視できることがあります。場合によっては、自分よりもヒートアップしている親の姿を見て、「そんな怒らなくていいんじゃない…?」なんて冷静になれたりします。
みなさんも、自分以上に怒ってくれる近しい人を見て、逆に冷静になったことはありませんか?また親自身もワーッと大声を出して一緒になって怒ること暴れることで、こっちが怒りたい気持ちを我慢してなだめるよりストレスが軽減される、なんてことはないでしょうか(笑) 。
とはいえ、これを実行にするにあたっては、事前に準備が必要です。周囲に差支えがない場所で配慮をしてから、心置きなく暴れてみましょう。他の家族に事前に許可を取っておくと、びっくりされないかもしれませんね。
また子どもが落ち着いているときに、嫌な気持ちになったら静かなところに行く、〇〇でなら思い切り発散していい、など「どこで、いつ、どのようにするか」を一緒に計画して決めるするのもいいでしょう。
③そっとしておく
言葉をかけても意味がない、または逆効果と感じられる場合は、本人と周囲の安全を確保した上でそっとしておきましょう。そして落ち着いたときに「そうだよね」「嫌だったよね」という共感の声掛けや、「自分でちゃんと落ち着けたね」といったように、落ち着けたことを褒めてあげましょう。
必要に応じて場所を移動して環境を変えるというのも、嫌な出来事を思い出す場所から離れたり、落ち着く場所で気持ちをリフレッシュするという点では効果的です。
癇癪がおさまった直後の対応
癇癪がおさまったことを「ちゃんとおさまってよかったね」「大きな声を出さずに落ち着けたね」などと褒めてあげましょう。それとあわせて、過去によくできていたことを「あのときの○○、すごかったね」などと褒めてあげましょう。癇癪がおさまってからできるだけ時間をあけずに、言ってみてあげてください。
これにより子どもは、親に自分を肯定的に受け止めてもらえた、自分の気持ちを理解してもらえた、と思えますし、かりに癇癪を通して気持ちを受け止めてほしかった時には 「癇癪よりもいい方法がある」と学べます。そういったことを繰り返しているうちに、癇癪の頻度や激しさが落ち着いてくることもあります。
癇癪を防ぐためにできること
できれば癇癪を起こしてほしくない、と思うのは親として当然のことです。では、癇癪が起こるのを防ぐにはどうしたらいいかの事例を、ここでは紹介します。
①癇癪が起こりやすい状況を把握して対策する
子どもが癇癪を繰り返しているうちに、どのような状況だと癇癪が起こりやすいのか、きっかけは何か、というのが分かってくることがあります。
例えば、特定の音が苦手な子どもの場合は、イヤーマフなどの耳栓を持ち歩いたり、その場所に行くときに事前に予告をしておくことや、必須でなければ避けることなど対策をとることで、癇癪が起こるのを防げたりします。こちらは一例に過ぎず、「いつ、どこで、誰と何をどのようにしていて癇癪が起き、それによって事後どうなったか」などを時系列で振り返ると、いくつかの仮説が想定されることがあります(この辺りは、専門家と相談するのもいいでしょう)。
②見通しを立ててあげる
「これからどうなるのか」という見通しがわからない場合不安になり、癇癪を起こす子どももいます。特にASDの子どもはそういう傾向が強いため、「○○が終わったら△△がある」「〇〇がなくなっても◇がある」「〇が起こっても◆だから大丈夫」などのように、見通しが子どもにわかり、安心して納得できるように事前に予告し、共通認識が持てることで安心し、癇癪を予防できることがあります。
私たちも様々な手がかりで、「いつ、どうなったらそれが終わり、終わったらどうなる」「〇〇になったら◆になる」という見通しをキャッチして生活しています。それぞれのお子さんにとってどういった事柄が「安心できる見通しとなるか」事前に確認できるといいでしょう。
③ルールを決めておく
子どもが癇癪を起こしていない落ち着いた状態のときに、「嫌な気持ちになったらどうするか」というルールを、あらかじめ子どもと一緒に決めておきましょう。例えば、「静かな場所に移動する」とか「深呼吸をしてみる」とかといったなどです。
実際にすごく怒ってしまうような場面で、そういったルールを守るのは難しいかもしれませんが、もしきちんと守れたらその場で「ルールを守れてすごいね・さっぱりできたね」などと、すぐに褒めてあげましょう。これにより、「たとえ不安や不快な感情がわいても、こうしたらよさそう」と子どもが認識するようになります。
専門機関に相談してみるのもおすすめ
今まで紹介してきた方法でも不安な点がありそうであれば、気兼ねなく医療機関などの専門機関に相談してみましょう。心理検査(発達検査)を受けることで、子どもの認知の得手不得手や、傾向がわかり、子どもにとっても保護者にとっても、安心できる対応を検討するヒントになることがあります。
癇癪がおさまらず、心配な時の相談先
癇癪がおさまらず、心配な時の相談先には、以下の3つがあります。
- 医療…かかりつけの小児科や、発達外来
- 行政…子ども家庭支援センターや発達支援・療育センターなど
- 福祉…児童発達支援センターなど
かかりつけの小児科
子どもの発達に関し気になることがあれば、まずはかかりつけの小児科に相談し、心理検査をとってもらいましょう。なお発達障害の診断が可能なのは、医療機関のみです。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害の早期発見・早期支援を目的とし、発達障害のある人やその家族が安心した暮らしができるよう、サポートを行っている施設のことです。発達障害の診断を受けた人だけでなく、発達障害の疑いがある人も相談することが可能です。こちらには、社会福祉士や臨床心理士といった専門家が在籍しています。
児童発達支援センター
児童発達支援センターとは、日常生活における基本的動作の指導、自活に必要な知識や技能の付与または集団生活への適応のための訓練を行う施設です。
発達支援を必要とする子どもに対し、日常生活での自立支援や機能訓練を行う福祉型と、医療ケアを併せて行う医療型があります。
児童発達支援センター①児童発達支援事業所
0歳~未就学までの発達支援が必要な子どものケアを行う、地域に密着した施設です。発達支援だけではなく難病の子や身体に障害のある子を対象にしています。
児童発達支援センター②放課後等デイサービス
障害のある子どもや発達支援が必要な子ども(小学生、中学生、高校生)の支援・療育をする施設で、主に放課後や休日、夏休み・冬休みなどの長期休暇に利用することができます。
保護者へのメッセージ
子どもの癇癪は、成長の証でもあり、発達の過程や周囲の状況次第で誰にでも起こりうるものです。また子どもが癇癪を起こすにあたり必ず原因があるため、そういった原因や癇癪が起きた背景を理解することが必要です。
子どもの癇癪に悩み、いろいろな対応をしても改善が見られない、もう手に負えないと思うこともあるかもしれません。そんなときはひとりで抱え込まず、ぜひ気軽に専門機関に相談してみてください。専門家と一緒に検討することで、癇癪の要因や子どもにも保護者にもマッチした対策を見つけられるかもしれません。その結果として、子どもにとっても保護者にとっても安心な日々が広がっていきます。
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