子どもの爪を噛む癖をやめさせたい! 原因や病気の可能性は?【児童発達のプロが解説】
自分でも認識している癖や誰かに指摘されて気が付いた癖など、大人でも人それぞれ“癖”はあるのではないでしょうか。子どもの気になる癖としてよく挙がるのが、“爪かみ”。何がきっかけとなってこのような癖が身に着いてしまうのでしょうか。単なる癖なのか、それとも何か心理的問題を抱えているのか…。その原因や防止策について解説します。
目次
子どもが爪を噛むきっかけになったものは?
子どもの爪かみは“癖”として身に着いてしまう前に、何かしらのきっかけがあるはずです。
ここでは、きっかけとして考えられるものの一例を紹介します。
①爪が刺さるのが気になる
爪が伸びているときやカットした後が滑らかでなく、何かに引っかかっている感触になるのが気になりかみ始めることがあります。
②爪を切るのが面倒でかむようになる
自分で爪を切るようになると、面倒・うまく切れないといった理由でかみ始めることがあるようです。自分で爪を切っていない子どもでも、爪を切られる行為が嫌で先にかんで短くしてしまうこともあります。
③親や周りの大人の爪かみを見て無意識に覚えた
身近な大人が爪かみしているのを見て無意識に自分もかみ始め、そのまま癖になってしまうこともあります。
④指しゃぶりの延長で爪をかむようになる
乳児期から幼児期にかけて指しゃぶりをする習慣があった子どもは、その延長で爪かみが始まることがあります。指しゃぶりをやめるように言われているうちに目立ちにくい爪かみが始まり、年長~学齢期以降で定着しやすいようです。
他にも、幼児期にタオルやお気に入りの人形を持っていると落ち着く習慣があった子どもが、学齢期になって手放すように言われたことで代わりに爪かみを始めることもあります。
こんなときに子どもは爪を噛む! 癖になる原因とは?
子どもの爪かみは、どんなときに出現するのでしょうか。特定の状況下でかむ子どももいれば、一日の中で度々かんでいる子どももいます。
本章では、爪噛みが癖になる原因について解説します。
緊張や不安な気持ちの時
授業中に発言をする順番をドキドキしながら待っている時、友だち関係で不安があるときなどに爪かみをして気持ちを落ち着けようとする子どもがいます。自分にとって不快な気持ちを和らげるための行動です。神経質な子どもに多く見られます。
筆者が支援をしていた子どもの中では、特に気持ちを言葉に表すのが苦手な子どもがこのような状況での爪かみが増えていました。緊張や不安な気持ちを感じても他者に頼って解決できないため、自己解決の手段として爪かみをしていたようです。
退屈な時
他にやることがない時、手持ち無沙汰なときに爪かみをすることが多いようです。
歯で物をかむときには、歯根膜にある圧センサーで圧を検出して力の調整を行ないます。「口は突き出た脳」ともいわれ、とても敏感です。その刺激を快感と感じ、退屈なときに刺激を取り入れようと爪かみをしていると考えられます。
集中している時
テレビを見ている時や、勉強やゲームに集中しているときに爪を噛む子どももいます。一つのものに集中していると知らず知らずのうちに手が口に運ばれ、癖の出現になります。手持ち無沙汰になっていたり、テレビ=爪かみといったパターンになってしまっていたりすることも考えられます。
環境が変化した時
入学やクラス替え、弟や妹の誕生などの大きな変化はもちろんですが、仲良しの友達の転校、習い事の急なスケジュール変更など大人にとっては些細な変化でも、子どもにとっては大きなストレスになることがあります。
子どもは言葉や状況の理解、経験を元にした見通し立てがまだまだ未熟です。そのため、ルーティンの中で過ごすことに安心感を覚えます。
環境の変化によって常に緊張と不安を感じている間は、一度消失していた爪かみが出現するといったこともあるでしょう。
子どもの爪噛みは親の愛情不足なの?
一昔前は“爪かみ=親の愛情不足”といわれることもありましたが、育児放棄や暴力などの極端な例を除き、愛情不足や育て方の問題とは一概にはいえません。
爪かみの背景にあるのは“歯でかむ感覚が快感になる”、“ストレスを緩和する材料として行う”、“言葉で表現できない代わりに行う”というもの。
また、幼いころ爪かみをしていた経験のある人から「愛情は十分に受けていたけれど爪かみがやめられなかった」という意見も聞かれます。
親の関わり方として気をつけなければいけないのは、爪かみに対して強く叱ったり人格を否定するような言い方をしたりしないということ。余計にストレスがかかると、隠れてかんだり他の行為に移行したり、よりひどくなったりする恐れがあります。
子どものチック症状については、以下の記事で詳しく解説しています。
子どもの爪噛みの多くは単なる癖。 けれどこんな症状には要注意!
爪かみに対して、どのような解釈をするかは研究者や医師によって異なるようです。しかし、身体も心も未熟な子どもの爪かみは癖の一つと解釈されることが多いようです。
ただし、中には気になる症状や状況もあります。ここでは、気をつけて見ていきたい症状について解説します。
歯並び、かみ合わせが悪くなる
硬い爪をかむと、歯が少しずつ動いて前歯の真ん中に隙間ができる場合があります。また、前歯の先端がすり減ったりかみ合わせが悪くなったりすることも…。かみ合わせが悪いと、虫歯や体全体のバランスが悪くなる原因になります。
深爪になる
深爪になると指先を爪でガードできないため、痛みや出血の原因になります。巻き爪にもなりやすく、強い痛みを伴います。また、指先に痛みの刺激があるとますます気になって爪をかむこともあります。
爪の形が変形する
長い期間、爪かみを続けていると爪の形が変形してしまいます。でこぼこになるだけでなく、ひどくなると爪に縦線、横線、色素沈着、白斑などを生じます。
思春期になると、爪の変形にコンプレックスを感じる人もいるようです。幼い頃に爪かみをしていた女性からは、「爪の変形が治らず後悔したため、自分の娘の爪かみ癖は絶対にやめさせたい」という話を聞いたことがあります。
傷口からの細菌感染を起こすことも
爪かみによって指に傷口ができてしまうと、細菌に感染しやすくなります。腫れ上がって痛みを伴い、まれに骨髄炎(細菌感染を起こし、骨が破壊される病気)を起こすことも…。
海外では、爪かみによる指先の傷口から細菌感染し敗血症で救急搬送をされたり、死亡するといった事例も報告されています。
子どもの爪を噛む癖は見守る? それともやめさせる?
子どもの爪かみを見守っていた方が良いのか、やめさせた方が良いのかは悩むところでしょう。爪かみについてはさまざまな見解があり、答えは一つではありません。
身体的な影響はなく年齢に応じて徐々に減っている場合、時々しかかんでいない場合、人前ではかまないなど子ども自身で調整できている場合は、爪や歯の様子を見ながら見守っても良いかもしれません。
気をつけたいのは傷や感染、顎や歯の異常などの身体的な影響。すぐに対応しなければいけない場合は、大人が手を貸してやめさせた方が良いと思います。
また、徐々に爪かみがエスカレートしている場合や思春期になっても治らない場合は、親が介入できる年齢のうちにやめさせる対応をしていきたいところです。
筆者が支援をしていた爪かみ癖がある子ども達への対応は、爪かみの背景と程度によって判断をしていました。本章では、その経験に基づいた見解を解説しましょう。
緊張や不安が高い、敏感、神経質な子どもの場合
爪かみを精神的な安心材料としている子どもの場合は、単に爪かみをやめさせるだけというのは避けた方が良いでしょう。
やめさせることでさらに不安が強まり、他の物で代用したり身体的支障を来たしたり、ひどい場合は自傷行為にもつながりかねません。
子どもの性格や様子の変化を観察し、爪かみをするようになったタイミングを知ることが、対応を判断するときのヒントになります。必要に応じて、学校の担任や習い事の指導者に相談することも大切です。
こういった子どもの場合は、
- 安心する声掛けをする。
- 頻繁にハグをする。
- 子どもが安心する物を身に着けさせる。
- かんでも良い物を提案する
といった代替を考えると良いでしょう。
気持ちをうまく言葉にできない子どもの場合
普段から言葉が少ない、言葉の発達が遅い、おしゃべりだが言いたいことを理解されにくいといった子どもの場合は、ストレスを常に抱えている可能性があります。
不安や緊張が高まっても言葉で発散できず、爪かみによって落ち着こうとしているのかもしれません。
そういう子どもの場合は、大人が気持ちを汲み取り「こう思っているのかな?」と代弁してあげると良いでしょう。叱咤によってやめさせることは、悪影響が大きいため避けた方が良いと思われます。
人より感覚を感じにくい子ども、落ち着きがない子どもの場合
感覚というのは人によってそれぞれ異なり、人よりも極端に感覚を感じにくい(鈍麻)な場合、より強い感覚を入れたがることになります。
爪かみだけでなく、人によっては常に走り回る、高い場所から跳び降りる、クルクルと回転する、水を見続けるなどが見られます。好みの感覚を入れたがり、一度入れるとなかなかやめられないのです。
誰にでも大なり小なりあることですが、一般には癖や遊びの範囲に留まります。しかし、人よりもその鈍麻な場合は、簡単にやめることができません。
近年、その特性を「センソリーニーズ(感覚嗜好)」として捉える考え方が広まってきました。センソリーニーズとは、その子どもが必要としている感覚をニーズをして捉え、容認できる方法を考えることです。
例えば、かむ感覚が必要な子どもが爪かみによって傷を作ってしまう問題がある場合は、爪かみの代わりに容認できる方法を考えます。かんでも問題のないおもちゃ・専用のグッズ・タオル・ガムなどを代替品にする方法が考えられます。
センソリーニーズの考え方は、「行動を抑制するのではなく、代替品を使うなどの方法で、行動を調整できるようにしていく」というものです。人よりも極端に感覚を感じにくい場合は、このような方法を選ぶと良いでしょう。
子ども自身が爪かみをやめようと試みているのに、やめられず苦しんでいる場合
爪かみは、医療用語では「咬爪(こうそう)癖」「咬爪症」と呼ばれています。
爪かみに用語があるというと心配になる親は多いかもしれませんが、学童期の子どもにとっての咬爪癖は特別な癖ではありません。多くの子どもは無意識に爪をかむ癖をもっており、カナダのカルガリー大学の調査によれば、7〜10歳の子どものうち28〜33%に爪かみ癖があり、10代になると45%になるのだそうです。
しかし、爪かみによる傷がひどく、本人がやめたくてもやめられない場合。また、そのことに大きな苦痛を感じ、日常生活に支障を来たしているといった場合は病院を受診するのも一つの方法です。「身体集中力反復行動」(身体に対する繰り返し行動)として位置付けられ、家庭内の対応でうまく行かないときの解決策を提案してくれるはずです。
子どもの爪を噛む癖をやめさせる5つの方法
では、爪かみ癖をやめさせる必要がある場合にはどのような方法が有効なのでしょうか。
ここでは、米国皮膚科学会(AAD)が発表した「爪をかむことを止めるヒント」を参考に、筆者が支援の中で使っている方法を紹介します。
爪かみの癖をやめさせる具体的な方法
- 爪は短く切っておく
かむ部分を少なくすると、かみたい気持ちが起こりにくくなります。 - 好みの絵を描いたばんそうこうを貼る
かむ部分が見えないことで、かみたい気持ちが抑えられます。また、子どもが好きな絵を描いてあげることで、絵を汚さないようにしたいという気持ちになります。 - 爪をかむ習慣を別の習慣に置き換える
爪をかみたくなったら代わりにかんでも良いものを使ったり、ストレスボールやプラスチック粘土などで遊ぶことでかみたい気持ちを抑えます。手を使った遊びをすることで、手を口に近づけないようにできるのです。 - 自分が爪かみをしたくなるきっかけを知る
爪のささくれといった身体的なものや、退屈・ストレス・不安などの精神的なものなど、何がきっかけで爪かみをしたくなるのかを知ることが大切です。その状況をどう避けるか、どうやって爪をかむのをやめれば良いかを知っていきます。この点については、親や大人のサポートが必要です。 - 爪をかむことを徐々にやめてみる
まずは“両手の親指の爪だけかまないようにする”、“学校ではかまない”などの約束をします。それに慣れたら、かまない指やかまない時間を増やしていきます。
子どもが爪を噛む背景を知るのが大切
前章に示した通り、子どもが爪かみをする背景によって対応の方法は異なります。単なる癖なのか、不安や緊張といった精神的なものなのか、感覚が鈍感だからなのかといった背景を考える必要があります。
単なる癖であれば、
- 本人に爪かみの自覚があるか。
- やめようとする意欲があるか。
- 痛みや恥ずかしさを感じているか。
という点が最初のポイントになります。
やめようとする意欲がない場合は、なぜやめるべきなのか(傷や爪の変形の原因になるなど)を伝え、親子で協力するかたちを取るのが理想的です。
子どもの行動の背景を知って対応するのは、爪かみに限ったことではありません。子どもは物事を分析して考えたり、それを伝えたりする能力が未熟です。筆者は支援の中で、解決したい問題そのものだけでなく、原因やきっかけに目を向けられるよう常に意識しています。
例えば爪かみへの対応であれば、どんな場面で・どの程度爪かみをし・本人の自覚があるかなどを記録します。また、爪かみ以外に癖はないか・触覚的な遊び(粘土や水遊びなど)・運動感覚的な遊び(トランポリンやブランコなど)に苦手や執着はないか、食事の好みに一定の食感を好むなどの特性はないか、言葉やコミュニケーションに苦手さはないかといった全体像を把握します。
その上で家庭や学校、友達関係で心配事はないか、神経質や不安が高いといった心理的側面はないかを把握します。
背景を詳しく知ることで、やめさせるためにはどんな声掛けをすべきか、代替品は何を選べば良いのか、環境を変えることはできないかといった対応方法が分かってくるのです。
また、家庭よりも学校での爪かみが多いと感じる場合は担任に様子を教えてもらい、家庭と学校、必要に応じてその他の機関と情報共有するのも良い方法だと考えます。
子どもの爪かみに戸惑ったり、不安になったりする親は多いと思います。「愛情が足りないのではないか」と自分を責めたり、何度強く言っても繰り返すためイライラの原因になったりすることもあるでしょう。
けれど、爪かみはたくさんの子どもが経験しているもので、中には親自身も爪をかんでいたという人もいるはずです。
爪かみの背景は、子どもによってそれぞれ違います。また、年齢や環境によって背景が変わることもあります。爪かみ行動そのものではなく、解決の糸口を見つけるためにまずはその背景に目を向けてみてくださいね。
【参考資料】
- 埼玉県保育士会 特別研修会Ⅰ「発達が気になる子どもの理解と対応 ~感覚統合の視点から~」うめだ・あけぼの学園作業療法士 酒井康年
- 境 玲子・飯田 美紀「皮膚・毛髪への“身体集中反復行動” ─抜毛症,皮膚むしり症,皮膚の掻破行動─」
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