子どもの心に響く効果のある“褒め方”とは?
「そんなふうに褒めてくれるとやる気が出る」と言った小学生の女の子がいました。私が勤めている塾でのことです。ハッとしました。それまで全く褒めたことが伝わっていなかったなんだなあと。子どもに伝わるように、褒めてあげないといけなかったのです。今回は、子どもに伝わる褒め方と効果のある褒め方について紹介します。
目次
子どもに褒めていることが伝わらない3つのケース
効果のある褒め方の前に、子どもに伝わらない褒め方について触れておきましょう。褒める行為そのものは良いことのはずです。しかし、子どもを褒めても効果がなかったということがあります。子どもは、次の3つのような時にはかえってやる気を失ってしまうこともあります。
①誰かと比べる
A君を褒めたいと思った時「B君は90点だったけどA君は100点だね」と言ったとしたら、A君は素直に喜べるのでしょうか。A君が皆に気を配るような優しい心を持った子だとしたら素直には喜べないでしょう。「B君だって90点なんだ、僕とは10点違うかもしれないけど、B君だって頑張ってたんだよ!」と思うかもしれません。子どもを褒めたつもりでも、子どもには褒めてもらったと思えない時があるのです。この場合は、A君とB君とを比べてしまっているからです。叱る時に誰かと比べてはいけないというのは、よく言われること。褒める時にも、比べない方が良いのです。
②結果しか褒めない
「よくできたね」と褒めるのは良いのですが、子どもがそれまでに頑張っていたことも褒めてあげないといけません。私は子どもに「前は30点だったけど40点にあがったね」と言ったことがあります。褒めてはいるようですが、どうして10点上がったのかを褒めてあげないと子どもは点数ばかりを気にするようになってしまいます。何をしたのが良かったのか分からないからです。結果だけでなく努力の過程を褒めてあげないといけなかったことに、後から気付きました。「漢字の練習の時にしっかり声を出していたね」「画数言って覚えたのが良かったんだね」「だから書き順の問題が正解できたんだね」などのようにです。
③やみくもにほめる
私は「先生、本当にそう思ってるの」と子どもに聞かれたことがあります。「よくできたね。頑張ったね」と褒めたのに言われてしまいました。「あれっ!? 悪いことは言ってないはずだし、本当に思って伝えたことなんだけどな」と、とまどってしまいました。その子には、褒めたことが伝わっていなかったのでです。それはおそらく、褒め過ぎていたことが原因のひとつだったと考えられます。やみくもに褒めると不信感を与えてしまう時もあるようです。
体験から考える子どもに褒めていることが伝わらない2つの理由
子どもを叱ってばかり、あるいは親自身の感情だけに任せて怒ってばかりよりは、褒めた方が良いでしょう。
しかし、先に述べたように子どもに伝わらない褒め方もあります。私の経験から、さらに2つあると考えられます。ひとつは、“褒めた言葉に力がなかった時”。もう1つは、「子どもの性格を無視して褒めた時」です。
①褒めた言葉に力がなかった時
褒めた言葉に力がないと、子どもは褒めてもらったと思えません。私の場合がそうでした。「そんなふうに褒めてくれるとやる気が出る」と言われる前の褒め言葉には、きっと力がなかったのでしょう。無表情で声が小さく抑揚もなく、単調な褒め方だったのです。褒め言葉が、わざとらしく聞こえてしまっていたのでしょう。
先生たちの研究会で、模擬授業をすることがあります。模擬授業で子ども役の先生を褒める先生がいます。褒め言葉が事前に覚えてきたような単調でわざとらしい、セリフを棒読みしているように聞こえることがあります。褒められたとは思えないのです。この時の感覚と似ているのかもしれません。
②子どもの性格を無視して褒めた時
子どもには皆の前で褒めて大丈夫な子、皆の前では褒められることを嫌がる子の2パターンあります。それぞれの子どもに応じて、褒め方や褒める場所を変えなければいけないのです。ある女の子を褒めた時、その子の顔がみるみるうちに赤くなっていくのがはっきり分かりました。「しまった! 恥ずかしいんだ!」と思いましたが、どうにもできませんでした。
皆の前で褒めても大丈夫な子は、問題ありません。皆の前で褒めてはいけない子が問題です。どのような子なのでしょうか。例えば自分ひとりだけが褒められると「お前ばっかり褒めてもらって、ずるい」みたいに言われることを心配するような子や、自分が集団の中で目立つことを恥ずかしいと思うような子です。小学校では高学年女子に多いように感じます。もちろん、高学年女子全員がそうだというわけではありませんが。
褒める時には明るい表情で抑揚をつけ言葉に力を持たせること、子どもの性格を考えて褒めることも大切なのです。
効果的な褒め方、発達障害児にも有効な褒め方
「今まであまり子どもを褒めたことがなかった、叱ってばかりだったから難しいかも」と思う人がいるかもしれません。では、どうすれば効果的な褒め方ができるのかを考えてみましょう。
脳科学を授業や子育て、発達障害児の教育に活用するスキルを研究する平山諭先生は「褒める時には他のクラスメイトへの配慮もすべきだ」と主張しています。本人が照れくさくならない程度に、手短に褒めるのが良いそう。家庭では、兄弟姉妹のいる前でも同じでしょう。
平山先生によると、効果的な褒め方は5つ。また、これらは発達障害児にも有効な褒め方です。
①元気よく短いフレーズで褒める
短く褒めることで、子どもの記憶に褒められたことを残すことができます。一時に一事で、褒めることが有効なのです。あれこれ一度に褒めてもひとつのことしか記憶できない子にとっては、何で褒められたのか分からなくなってしまいます。そうなると、褒めたときの効果が少なく、あるいはなくなってしまうことにもなりかねません。
②名前を入れて褒める
名前を呼ばれることで、発達障害児にもはっきりと自分のことだと分かってもらえます。
③成長を実感させるように褒める
「僕(私)も、やればできるんだ」という思いを持たせることができます。
④期待して褒める
机の上に乗って降りようとしない子がいた場合は、「降りてくれるとうれしいな」と言います。降りることを期待する「お願い効果」があるそうです。
⑤事実や準備状態を褒める
良かった事実や次はこうしてほしいと伝えることで、先生や保護者が思った方向に子どもを促すことができます。子どもにしてほしいと思う行動を増やしたい時に有効です。
効果のある褒めフレーズで子どもに気持ちを伝えよう
最後に、効果のある褒め言葉を紹介しましょう。
①元気よく短いフレーズで褒める
「いいねえ!」「いいんじゃない!」「かしこい!」「最高だね!」「グッド!」「すてき!」「よくできた!」「よくやった!」「よく頑張った!」「早いなあ!」「えらい!」「丁寧だね」「素晴らしい!」「天才じゃん!」「ナイス!」「グッド!」「さすが!」「よし!」「いいぞ!」「優しいね」「上手!」「きれいだね!」「頭いいね」
②名前を入れて褒める
「ようこちゃん、いいじゃない」のように、①の中に子どもの名前を入れて褒めます。
③成長を実感させるように褒める
「できるようになってきたね」「昨日から進歩してるね」「やったあ!」「ばっちりだね」「早くなったねえ」
④期待して褒める
「ここまでやってくれたらうれしいな」「すごいな、日本一になれるよ!」「勉強に集中できたらいいね」「○分までにできたらすごいな!」
⑤事実や準備状態をほめる
「今日は声が出ているね」「鉛筆、持っているね。やる気満々だ」「もう教科書開いてたの! すごい!」「すごいなあ。話を聞く姿勢ができているね」「えらいね。宿題やっているんだね」など。①と組み合わせて褒めると、さらに効果が上がるかもしれません。
今まで、あまり子どもを褒めていなかったという人でもこれならできるのではないでしょうか。他にもまだまだ、褒める言葉はあります。どんな言葉が効果があるのかたくさん試してみてください。教師の中には、「褒め言葉」を100集めるなどの作業をしている人もいます。夫婦間や保護者同士でも、褒め言葉の情報交換をしてみても良いのではないでしょうか。
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東京都小学校準常勤講師・塾講師・ライター。30校以上の教育現場で教えてきた経験があり、進学塾では主に国語を担当。教師が集まる民間教育団体であるTOSS相模原・和(のどか)会員として指導法を学んでいる。https://www.toss.or.jp/