プライベートゾーンをどう教える?子どもへの適切な性教育を専門家が解説
近年「プライベートゾーン」という言葉を耳にすることが多くなってきたと思います。子どもの性被害を防ぐための取り組みとして、文部科学省もプライベートゾーンについての教育に力を入れており、保育園や幼稚園などでも取り上げられることが増えてきました。しかし、「なんとなく大事そうだけど、子どもにどうやって教えればいいの?」と疑問に思っている方も少なくないのではないしょうか。保護者の中には自分の子ども時代にはあまり馴染みのなかった概念だけに、戸惑いを感じる方もいるでしょう。そこで今回は、プライベートゾーンとは何か、なぜ子どもに教える必要があるのかを、解説していきます。さらに、子どもへの伝え方や、日常生活の中で気をつけるべきポイントをご紹介します。
目次
プライベートゾーンとは?
プライベートゾーンの概念は、英語圏を中心に1980年代から広まりました。「プライベートゾーン」とは、他人にみだりに見せたり触らせたりしてはいけない、体の部分のことです。
一般的には、水着で隠れる部分と口がプライベートゾーンにあたります。プライベートゾーンは、自分の許可なしには他人が見たり触ってはいけない身体のパーツです。具体的には口、胸、性器、臀部とされていますが、プライベートゾーンを覆っている下着もプライベートゾーン同様に他人に見せたり触らせたりしてはいけません。
なぜ子どもにプライベートゾーンを教えることが大事なのか
子どもにプライベートゾーンを教えることは、単に体の部位の名称を覚えること以上の、深い意味を持っています。それは、子どもが自分自身の体と心を大切にし、危険から身を守る力を育むためです。イギリスの教育研究者スーザン・J・コペルらの研究(Copl, S. J., & O’Reilly, K. (1985). Teaching children about personal safety. Child Abuse & Neglect, 9(4), 443-452.)では、子どもへの性暴力の予防教育プログラムの中で、プライベートゾーンの概念を用いて、子どもたち自身が自分の体を守るための具体的な方法を指導することの有効性をしめしています。
①性被害を知る
子どもを狙った性犯罪は非常に多く、後を絶ちません。
子どもが「これはおかしい」「嫌な感じがする」と感じた時に、拒否したり、身近な大人に助けを求められるようになるためには、日頃からプライベートゾーンについて話し合い、安心できる関係性を築いておくことが大切です。残念ながら加害者がいなくならない限り性被害はなくなりません。重要なのは、被害に遭った際にも自分が「権利侵害を受けた」ことを理解でき、正しい対処法を知っておくことです。
②身体の所有権を教える
プライベートゾーンの教育を通じて、子どもに自分の身体が自分自身のものであるという「身体の所有権」について学ばせましょう。これにより、子どもの自分の身体に対する権利意識が高まります。アメリカ心理学会(APA)は、子どもの権利に関する声明の中で、子どもが自分の身体に対する自律性を持つことの重要性を強調しています。(American Psychological Association. (2005). Resolution on the rights of children and youth.)
いつから教えるのがいいのか
プライベートゾーン教育を始める最適な時期は、子どもが自分の体や周囲の世界に興味を持ち始めた時です。具体的には、2〜3歳頃からが目安となります。
この時期の子どもは、自分の体の名前を覚え始めたり、トイレトレーニングを始めたりする時期でもあります。日常生活の中で自然な形でプライベートゾーンについて触れる機会が多いため、教えやすいタイミングと言えます。
しかし年齢はあくまでも目安となり、子どもの発達段階や理解力など個人差に合わせて、柔軟に対応することが大切です。子どもが理解できる言葉で、繰り返し伝えましょう。
また性教育は積み上げていくものです。一度教えたら終わりではなく、成長に合わせて段階的に情報を広げ教えていくことが重要です。年齢が上がるにつれて、より具体的な状況を想定した説明や、インターネット上の危険性など、年齢に応じた視点からの教育も必要になります。
子どもにプライベートゾーンについて伝える際のポイント
プライベートゾーンについて子どもに伝える際には、以下のポイントを意識しましょう。
①科学的(医学的)な言葉で具体的に伝える
ペニス、肛門、外性器など正しい体の名称を使って具体的に伝えましょう。正確な言葉を使うことで、子どもは自分の体を正しく認識し、理解を深めることができます。
②触れる場合はプライベートな場所に限定する
子ども自身が自らのプライベートゾーンに触れるのは問題ないですが、触れる場合は
・清潔な手で触れる
・プライベートスペースで触れる
ということを守らせましょう。プライベートゾーンはプライベートな場所以外では触れないようにすることを徹底させ、プライベートとパブリックの違いも理解させましょう。
③他者へ触れることも教える
プライベートゾーンの教育と併せて、「安全なタッチ」「安全でないタッチ」「してほしくないタッチ」についても教えることもおすすめです。「安全なタッチ」は、抱っこや手をつなぐなど、愛情やお互いが安心できる触れ合いです。
一方「安全でないタッチ」は、叩かれたり、ぶつけられたり、痛みを感じる触れ合いです。「してほしくないタッチ」は自分が「触られたくない」「嫌だ」と不安を感じるような触れ合いです。助けを求められるように、具体的な例を挙げて説明しましょう。
④プライベートゾーンを触られる必要がある場合を教える
プライベートゾーンは基本的に他人に触らせてはいけませんが、例外があることも教えましょう。それは身体の健康と安全を守るために必要な場合です。例えば、医師の診察や治療、衛生を守るために親が体を洗う時などです。
⑤「やめて」と言える力を育む
子どもが自分の意思をはっきりと表現できるように、「やめて」と言える力を育みましょう。日常生活の中で、子どもが自分の意見を言える機会を増やし、それを尊重する姿勢を示すことが大切です。ロールプレイなどを通して、嫌なことをされた時に「やめて」と言う練習をするのも効果的です。
⑥信頼できる大人を教える
万が一、子どもが被害に遭ってしまった場合に備えて、子どもが信頼できる大人を教えておくことも重要です。親だけでなく、祖父母など、子どもが安心して相談できる大人を複数人挙げておきましょう。子どもが助けを求めやすい環境を作っておくことが大切です。
⑦人との関係性の理解
例えば「知らない人」が、子どもとどんな関係性の人か分からない場合があります。「宅配の人は知ってる人?知らない人?」と訊ねるなど関係性をチェックする質問をすることも重要です。
子どもにどう教えるのがいいのか
子どもにプライベートゾーンを教える際には、理解力、年齢や発達段階に合わせた方法を選ぶことが大切です。
またプライベートゾーンだけがクローズアップされがちですが、実は自分の身体すべてが大切であり、どのパーツであっても自分の許可無しに他人は触れてはいけないのです。自分の身体の健康と安全を守るため以外は触れられるのが嫌な場合は拒否する権利があることを教えましょう。
未就園児(2〜3歳)
この時期の子どもには、お風呂の時間などに、体を洗う際に体のパーツの名称を言いながら洗ってあげましょう。ペニスや肛門も肘や肩などと同様に体の名称だと自然に理解する事ができるので、プライベートゾーンがどこなのかも伝えやすいと思います。
※この年齢の子どもにおすすめの絵本『だいじ だいじ どーこだ?』遠見才希子 (著),大泉書店
幼児(4〜6歳)
この時期には、安全なタッチと安全でないタッチ、してほしくないタッチの違いについても教え始めましょう。
「抱っこや手をつなぐのは「安全なタッチ」、あなたが不安な気持ちになるタッチは、「してほしくないタッチ」、痛かったり、押したり、持っている物を奪い取ったりは「安全でないタッチ」と、具体的な例を挙げて説明しましょう。また、プライベートゾーンを触られてもいい例外(医師の診察など)があることも伝え、子どもが混乱しないように配慮しましょう。
プライベートゾーンについて子どもにわかりやすく伝えるために、教育番組やyoutubeを活用するのも良いでしょう。文科省が「いのちの安全教育」の動画を対象年齢別に作っています。幼児でも理解できるものがあるので、一緒に見ることをおすすめします。
学童期(7歳以降)
この時期には、プライベートゾーンを守ることの重要性を改めて強調しましょう。そして加害者にならないことを教えることも重要です。いきなり他者に触ることは良くありません。例えば気づいてもらいたい時は名前を呼ぶなど、場面に合わせてこんな時どうする?など具体的な例を挙げて説明しましょう。また、外などで子どもが困った時はどうするかなど、信頼できる大人の存在を場面ごとに確認することも大切です。
なお当サイトの姉妹サイト「ソクたま相談室」では、子どもに家庭の中でどのように性教育をしていいか、といったことを相談可能です。
この記事を執筆した藤原美保さんに相談してみませんか?
ソクラテスのたまごの姉妹サービス「ソクたま相談室」なら、オンライン上で藤原美保さんに子育ての悩みを相談できます。
藤原美保さんへの相談ページを見てみるトイレやお風呂などで親が子どもの体に接する際に意識したいこと
トイレやお風呂など、日常生活の中で親が子どもの体に接する機会は多くあります。これらの場面は、プライベートゾーンについて教える良い機会であると同時に、親自身が子どものプライベートゾーンを尊重する姿勢を示すことが求められる場面でもあります。
①声かけをする
子どもの体に触れる前には、「おしりを拭くよ」「体を洗うよ」など、声かけを心がけましょう。突然触られると、子どもは驚いたり、不安になったりすることがあります。事前に声かけをすることで、子どもは心の準備ができ、安心して身を任せることができます。そして保護者も自分の身体を触られるときは子どもに許可を取らせるように習慣づけておきましょう。
②断られることを受け入れる練習をさせる
よくあるのが、保護者は子どもに触られる事を無条件で受け入れなくてはいけないと思っているということです。
ですが時には断ることも必要です。外出先などで「今は触ってほしくない。家の中でなら、いいよ」などと伝えましょう。
保護者の身体は保護者のものです。子どもに自分以外の体は自分の思い通りにはできないということを段階的に理解させましょう。
③同性介助を基本とする
子どものプライベートゾーンを扱う際は、できるだけ同性の親が対応し、性被害は誰にでも起こるリスクだということを意識しましょう。
④第三者に介助を任せる際は、子どもに丁寧に説明し、了承を得る
やむを得ない事情で、親以外の第三者に子どもの介助を任せる場合は、事前に子どもに丁寧に説明し、了承を得ることが重要です。介助者に対しても、子どものプライベートゾーンの扱い方について、事前に説明しておくことが大切です。
まとめ
今回は、プライベートゾーンの基本的な概念から年齢に応じた教え方、日常生活での注意点までご紹介しました。子どもにプライベートゾーンを教えるということは、単に体の部位の名称を覚えさせることを指すわけではありません。子どもが自分自身を尊重し、自分の身体の権利を理解し侵害されないために、そしてもしも侵害されたときにきちんと対応するためにも、とても大事なことなのです。
またプライベートゾーンについて学ぶことで、子どもは他者の体の権利を尊重することや社会のルールを守ることの大切さを学ぶことができるのです。 子どもたちが、被害者にも加害者にもならずに健やかに成長していけるよう、プライベートゾーン教育は、大人が社会全体で取り組んでいくべき重要な教育と言えます。
この記事を執筆した藤原美保さんに相談してみませんか?
ソクラテスのたまごの姉妹サービス「ソクたま相談室」なら、オンライン上で藤原美保さんに子育ての悩みを相談できます。
藤原美保さんへの相談ページを見てみる子育てのお悩みを
専門家にオンライン相談できます!
「記事を読んでも悩みが解決しない」「もっと詳しく知りたい」という方は、子育ての専門家に直接相談してみませんか?『ソクたま相談室』には実績豊富な専門家が約150名在籍。きっとあなたにぴったりの専門家が見つかるはずです。
子育てに役立つ情報をプレゼント♪
ソクたま公式LINEでは、専門家監修記事など役立つ最新情報を配信しています。今なら、友だち登録した方全員に『子どもの才能を伸ばす声掛け変換表』をプレゼント中!
療育20年、放課後デイ10年運営のベテラン。子どもの「できない」に悩む親へ、行動の原因と対策に徹底的にサポート。幼少期にこそできる家庭内療育を提供。発達障害の子への性教育も。 これまでに、『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること 』(PHP研究所)と2冊の本を執筆。現在も出版に向け本の執筆をつづけている中、子育てのポータルサイトにて発達障害の子の子育てコラムを連載中。