コミュニケーション障害とは?特徴・症状や発達障害との関係、生活しやすくなる工夫について専門医が解説
「他の子と会話ができない」「人見知りが強い」「コミュ障である」など、我が子や自分のコミュニケーションについて不安に思ったことはありせんか。友だちと会話が続かない、気付けば自分のことだけ話している、「人見知り」や「コミュ障」は治るのかなど、我が子に対しての不安も多いことでしょう。
そこでこの記事ではコミュニケーション障害について、またコミュニケーションに難しさを抱える子にどう関わったらよいかなど、児童精神医の前田佳宏先生にお話を伺いました。今日から保護者ができる支援方法もご紹介していますので、ぜひ子育ての参考にしてくださいね。
目次
コミュニケーション障害とは?
コミュニケーション障害とはどんな障害なのでしょうか。医学的な用語として「社会的(語用論的)コミュニケーション障害」という診断名がありました。これはアメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」で「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」というカテゴリー内にある診断名です。この障害についてまとめてみました。
社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害とは
診断には次のすべてを幼少期から持続的に満たしている必要があるとされています。
- 場所や相手に合わせてコミュニケーションをとることが困難である
- 例え話やユーモア、曖昧な表現の意図がわからない
- 相手と挨拶する、情報を共有するといったコミュニケーションをとることが難しい
- 会話のルールがわからない
児童精神科外来では社会的(語用論的)コミュニケーション症のケースはそこまで多くありません。自閉スペクトラム症や知的障害の傾向があるけど、それらの診断がつくほどでもない。けれども、相手に合わせたコミュニケーションができないというパターンは社会的(語用論的)コミュニケーション症という診断になります。
コミュニケーションだけが難しいとなれば、社会的(語用論的)コミュニケーション症という診断名がつくこと。そして、コミュニケーション以外にも困っていることがあれば、他の障害かもしれないのですね。
精神障害や発達障害を持つ人も病状によって相手とのコミュニケーションが難しくなる場合があります。社会的コミュニケーション症と自閉スペクトラム症は定義的に近いのも特徴です
「コミュニケーション障害」という医学的な診断名はつかないけれど、人とコミュニケーションをとることに悩まれている人は一定数いらっしゃるようです。
コミュニケーション障害といわゆる“コミュ障“との違い
自分からは他人に声をかけることが難しい、人と話を合わせることが難しいといったいわゆる「コミュ障」は、コミュニケーションの障害を持っている人なのでしょうか。「コミュ障」や「人見知り」と「コミュニケーション障害」の違いについて前田先生に伺いました。
「コミュ障」や「人見知り」はその本人が思い込んでいる状態
一般的に使われている「コミュ障」「人見知り」という状態は、主観的、つまり本人の思い込みで使っている言葉です。また悪い意味で「コミュ障」「人見知り」という言葉を相手に使う人もいますよね。この場合も言葉を使う人がその人について勝手に考えて使っている状態です。家でも学校でも、他のいろいろな状況でコミュニケーションに難しさがある人が「コミュニケーション障害」になります。
「人見知り」は「人見知って」しまえばいい人
「人見知り」の人は相手がどんな人なのかわからないから「人見知り」をしてしまうわけです。「人見知り」の人で相手がどんな人かわかると話せるようになるなら、それはコミュニケーション能力自体に障害はないですよね。
相手がどんな人かわからない時は、どんな人でも多少おそるおそる話しかけたりするもの。どんな人なのかわかると、少しずつコミュニケーションがとれるようになるのは自然なことですよね。相手について情報が少ないことで不安になることと、コミュニケーションのやり方に問題があることはたしかに違うかもと知ることができました。
「コミュ障」「人見知り」の人はコミュニケーション障害が隠れているかも
家でできているコミュニケーションが、学校ではできない。反対に学校ではやりとりできているのに、家ではできないというケースも問題がありますよね。「コミュ障」や「人見知り」とみられる行動があって、それぞれの場所でコミュニケーションに問題があるなと本人以外が感じているのであれば、その人にコミュニケーション障害が隠れている可能性はあるかなと思います。
コミュニケーション障害の種類と症状・特徴
「社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害」以外にも「コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群」にはいくつか種類があるとのこと。どれもコミュニケーションに困るという点は共通しているそうなのですが、どのような障害なのでしょうか。わかりやすくまとめてみました。
言語症/言語障害
耳などの感覚器官には原因がないのに、言葉をつかって話したり書いたりすることが難しい障害です。言語省/言語障害の人は、言葉の数が少ない・正しく文章の組み立てができないことで、相手にうまく伝えられない様子が見られます。
語音症/語音障害
身体や神経の異常はないのに、言葉をはっきりと発声することが難しいことが特徴です。言葉をつかったコミュニケーションが難しく、思ったことを相手に伝えられないので、生活や仕事で困ってしまいます。
小児期発症流暢症/小児期発症流暢障害/吃音
会話の際に、言葉が出にくい・言葉の一部を繰り返す・言葉が途切れてしまうのが特徴です。ほとんどの人が幼い時に発症しています。吃音を強く意識するとストレスや不安が高まってしまい、症状が悪化しやすいです。
特定不能のコミュニケーション症/特定不能のコミュニケーション障害
上記3つと「社会的(語用論的)コミュニケーション症/社会的(語用論的)コミュニケーション障害」や他の障害には当てはまらないけど、コミュニケーションが難しい状態があるときに、この診断がつくことがあります。
子どもの口を動かす様子をみて、小児科の先生が吃音かどうか教えてくれるケースもありますよ。
発達障害とコミュニケーション障害の関係とは?
コミュニケーションに困る障害はいくつもあることがわかりました。そして、前田先生のお話には自閉スペクトラム症といった障害名が出てきていますね。
自閉スペクトラム症は、以下のような特徴が幼い時から続いている場合に該当します(診断基準:1は必ず当てはまる、2〜4の中から2以上当てはまること)
①社会的コミュニケーションや非言語コミュニケーションをキャッチすること・人とやりとりを続けることが苦手。
②繰り返し常に行う行動がある。
③変化が苦手で、パターンだと行動しやすい。
④強い興味関心。
⑤感覚刺激に対して敏感、または鈍感。
世間一般的に発達障害イコールこだわりの障害というイメージがあります。発達障害とコミュニケーションの障害はどんな関係があるのでしょうか。前田先生からは自閉スペクトラム症だけでなく不安障害についてもお話を伺うことができました。
社会的コミュニケーション障害と自閉スペクトラム症は似ている
話の流れや状況から何が起こっているかを観察することが苦手なので、社会的コミュニケーション障害の人はコミュニケーションに困ってしまう。自閉スペクトラム症の人も、本人が経験したことがない場面だと状況の見通しが立たなくて、自分がどう動けばいいのか、分からなくなりやすい。どちらの障害もコミュニケーションに困るポイントは似ています。
人以外のものも想像することが難しい人たち
自分の置かれている状況や、相手がどう思っているかなど、わからないことだらけだから、社会的コミュニケーション障害も自閉スペクトラム症もコミュニケーションに苦労する。相手の気持ちを想像して会話をしてみましょうと言われてもうまくいきづらいです。
不安症は人に対して不安を持つ
不安症とは日常生活を送る際、不安でどうしようもない状態になることを言います。DSM-5では「不安症群」と呼び、以下の種類があります。
①パニック症
②社交不安症
③広場恐怖症
④選択性緘黙(かんもく)
⑤分離不安症
⑥限局性恐怖症
⑦全般不安症
コミュニケーションの場面で、自分が相手からどう思われているのだろう、と相手に対して強い不安を持っている場合は不安症です。相手の表情や行動をみて、自分は嫌われているのではないかなどと、不安が尽きません。それは社会的コミュニケーション障害や自閉スペクトラム症とは違いがあります。
うまく会話ができない原因とは?
相手の気持ちが分からなくてコミュニケーションができないのか、不安でコミュニケーションができないのかで診断名が変わってくるのですね。新しい視点です。コミュニケーションがうまくできない原因についてさらに解説していただきました。
原因1:自分に対して相手がどう思っているか不安だから
不安症の方は「相手がどう思っているのだろう」と 相手のことにすごく関心を持つのが特徴でしたね。メッセージの返信が遅いといった相手の行動も「嫌われているから返信が遅いので」っていう不安になる。そこで、自分がいつも思っていること以外の仮説、例えば「返信が遅いのは、家にスマホを置いてきたからかもしれない」と別の考えを持つのが大切です。この仮説がないからうまく会話ができないので、仮説をいくつか持てたらいいですよね。
原因2:見通しや状況、相手のことがわからないから
社会的コミュニケーション障害や自閉スペクトラム症の人は、相手の気持ちを想像することが苦手な人たちだから、相手に合わせた臨機応変な言葉かけが難しいです。気遣いのある言葉が言えず、相手の気持ちも考えずに、ついつい自分の話ばかりをして相手に距離を置かれてしまうこともあります。
原因3:ジェスチャーなど言葉ではないところがわからない
相手の表情や態度といった言葉ではないところ(例:アイコンタクトやジェスチャーなど)をうまくキャッチしていないことも原因です。人は普段、相手の表情や態度から会話の文脈を読み取るのですが、そういった相手の表情や態度をうまくキャッチしていないから、相手と話す内容がちょっとずつ変わってきてしまう。その結果、会話ができない状態になっているのです。
コミュニケーション障害の診断は支援が必要な時に行う
周りの状況を読み取ったり、相手のことを想像したりすることで人と会話ができているのですね。改めてコミュニケーションはすごいやりとりの連続なのだなあと思えてきました。
では、コミュニケーションに難しさがある子どもは診断名をつけるべきなのでしょうか。まだ幼い子どもに診断名をつけるのは抵抗がある保護者も多いことでしょう。そんなデリケートな問題、障害名をつけることについてもお話を伺っています。
診断はあくまで支援を受けるためのものであって、支援が必要ないレベルであったり、本人が診断を受けることでつらくなる状況であれば、無理に診断をつけることはないかなと思います。診断がなくても支援が受けられることがあります。大人になるまでにコミュニケーションで困ることが減れば診断の必要もなくなります。
うまく会話ができない子どもへの接し方のコツや生活の工夫、相談先
診断名をつけるかつけないかという悩みが、コミュニケーションで困ることを減らさなければ、という悩みに変わった保護者も多いのではないでしょうか。うまく会話ができない我が子と、これからどんなやりとりをすればよいのか。前田先生には今日からできる子どもへの接し方や生活の工夫について教えていただきました。
うまく会話ができない人の支援にソーシャルスキルトレーニング(SST)というのがあります。 SSTは人と関わるときに必要なスキルを学べます。SSTを取り入れている放課後等デイサービスや児童発達支援につながるのは大事かなと思いますね。
・放課後等デイサービスとは…
学校に通っている原則18歳未満の子どもが利用できる支援施設です。学校が終わった後やお休みの日に通うことができ、その子にあった支援計画に沿って活動します。
・児童発達支援とは…
障害のある子どもがそれぞれの特徴に合わせて支援をうけることができるサービスです。施設ごとに特徴があり、本人や家族にあわせた支援計画に沿って活動します。
相手の気持ちがよくわからない子は状況のパターンを学べるといいですよね。「こういう状況だったらこういうことがあり得る。だから返事はすぐしよう」「相手がこういう表情をした時は怒っているかもしれないから、まずはあやまろう」とかね、人とのやりとりを1つずつパターンとして覚えていくことで適切なコミュニケーションがしやすくなります。
確かに、私たちも「顔を横にプイッとされたら、まずはごめんと言おうかな。そのほうがいいことが多いし」などパターン的なやりとりがありますものね。納得です。
コミュニケーション障害をまとめると…
ここで、コミュニケーション障害についてまとめてみました。
・コミュニケーション障害自体にも、原因がさまざまあり、それぞれで対応が変わってくる。相手の気持ちを想像して不安なのか、相手の気持ちを想像できないのかで、診断名が異なる。
・社会的コミュニケーション症はソーシャルスキルトレーニング(SST)などを受けることで改善することができる
保護者の方へのメッセージ
最後に我が子がコミュニケーション障害かも? と感じている保護者に向けて、前田先生のメッセージを紹介します。
一人で何とかしようとするのではなくて、我が子のコミュニケーションの様子について他の人と話せる場所を作っていくことが大事ですよね。心療内科で精神科医にみてもらうことについてハードルが高いと感じるのであれば、学校の先生やスクールカウンセラーでもいいですね。児童支援施設や放課後等デイサービスを受けるために診断書がいる場合は、診断書をもらうために医療機関に行くのもいいです。コミュニケーションが苦手そうなら、SSTなどを使ってコミュニケーションを学べる場所とつながることもいいと思います。
終始穏やかな表情でインタビューに応じてくださった前田先生。コミュニケーションに難しさがあるお子さんについて優しい口調でとても丁寧に解説してくださったことが印象的でした。また、将来どうしていったらよいのかと悩む保護者に対して温かいだけではなく、くっきりとした道筋を示してくださいました。この記事がコミュニケーション障害に悩む親子にとってのコンパスとなりますように願いを込めて。
この記事で回答している前田佳宏先生に相談してみませんか?
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前田佳宏先生への相談ページを見てみる子育てのお悩みを
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公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。