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2023.12.22

意外と身近な子どもの性被害。その深刻な実態と知っておくべき対処法とは?

今、子どもの性被害に対する世の中の関心が高まっています。それにともない、「自分の子が被害に遭わないか心配」「性被害を防ぐ方法を知りたい」といった親御さんの声も聞かれるようになりました。そこで今回はそんな不安や疑問を解消するために、性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事の福井裕輝先生に、子どもの性被害についてお話を伺いました。性被害の実態や被害が分かったときの対処法などを詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。

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監修者

福井裕輝(ふくい・ひろき)先生
障害専門医療センター(SOMEC)代表理事・精神科医

1999年京都大学医学部卒業後、京都大学医学部附属病院に勤務。医学博士(京都大学)。専門は司法精神医学、神経科学。2003年法務省 京都医療少年院、2007年厚生労働省 国立神経センター(現・国立精神・神経医療研究センター)を経て、2010年性障害専門医療センターを設立。性犯罪歴・性依存のある人や、ストーカー行為を繰り返す加害者の診療にあたる傍ら、司法精神科医として犯罪者たちの精神鑑定を行う。内閣府「性犯罪被害者支援に関する検討委員会」「性犯罪被害者等のための総合支援モデル事業審査委員会」委員、警察庁「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」委員などを歴任。
著書に「子どもへの性暴力は防げる!−加害者治療から見えた真実−」などがある。

性障害専門医療センター(SOMEC)とは…日本で唯一の性障害治療専門機関。東京以外にも、大阪・福岡と支部がある。

子どもの性被害はどのくらいある?

実は子どもの性被害は、昔から少なからず起こっていました。ただ以前は、表に出てこないケースがほとんどだったのが、最近になってニュースで取り上げられるなどの機会が増えたため、性被害が増えたように感じるようです。

性被害の件数については、令和4年では20歳未満が被害にあった性犯罪(強制性交等、強制わいせつ)は2776件ありました※。ただし、この件数は統計としてあがっているものもありますが、被害が表に出ていないものもかなりあると考えられます。

特に家庭内で起こった性被害については、「知られたら恥である」「家庭内で隠しておこう」という意識が働くためか、ほとんどが表に出てきていません。なお家庭で起こる性被害は、実の父親や義理の父親、叔父、祖父、またきょうだい間の場合は兄が加害者となるケースがよく見られます。

※<参考資料>(警察庁・子供の性被害統計データ)

子どもの性被害における加害者の特徴

ぱっと見では他の人と変わらない普通の人である場合がほとんどであり、これといって特徴があるわけではありません。なかには社会的地位が高い人もいますし、就いている職業もさまざまです。そういう意味では、加害者とそうでない人を見分けることは、残念ながら難しいといえます。

ですので日頃から、いつ自分の子どもが性被害者になってもおかしくない、いくら注意していても性被害に遭う可能性があると考えておいてください。そして万が一被害に遭ってしまった時の対処法を知っておきましょう。

全人口の約5パーセントは小児性愛者

あまり知られていないことですが、全人口の約5パーセントは、小児性愛者(13歳未満の幼児や小児に対して、5歳以上年長の者が性嗜好を継続的に抱くこと)であると言われています。さらに教員や塾講師など子どもに関わる仕事をする人に限定すれば、その割合は約10~20パーセントにもおよびます。「意外と多いな」と思った方もいるのではないでしょうか。

またこの小児性愛者には「純粋型」「非純粋型」があります。

  • 「純粋型」とは…生まれつき子どもにしか性的欲求がわかない人のことで、ほとんどが遺伝によるものです。
  • 「非純粋型」とは…大人に性的関心はあるが、何らかの原因で性的欲求が子どもに向かう人のことを指します。

「非純粋型」の人で性加害をする場合、フラストレーションが溜まったからとか、成人女性に相手にされないからなど、原因はさまざまです。その結果として弱者である子どもに性的関心が向いてしまうのです。

性加害者=小児性愛者ではない

ただし、「小児性愛者だからといって必ずしも子どもに性加害をするわけではない」ため、小児性愛者であることと性加害は、わけて考える必要があります。小児性愛者はLGBTなどのように、数ある性的嗜好、性的マイノリティのひとつだと捉えてください。

また「子どもへの性加害者は、必ずしも小児性愛者ではない」ということも、認識しておきましょう。その場の流れで性加害におよぶ人、子どもに対して性的嗜好以外の理由で加害をする人が少なからずいるのです。

どんな人がどんな手口、シーンで性加害をするケースが多いのか?

大きくわけて、家庭の外で起こる場合と家庭内で起こるケースの2つにわけられます。

家庭の外での性被害

家庭の外で起こる場合は、子どもにもともと関心があり、子どもにしか性的欲求がわかない人によるものが多いのが特徴です。先ほど説明した、小児性愛者の「純粋型」タイプですね。例えば学校の教室で、生徒と2人きりになった隙に体を触ったりしたり、盗撮したりといったことなどがあり、事件としてニュースで報道されることも多々あります。

また事件にはならなくても、学校帰りの人気のない場所で子どもを狙って公園のトイレなどに連れて行き、わいせつな行為をするということもあります。そういった行為をすることはダメであると頭では分かっていても、冷静にコントロールできずに性加害におよんでしまうのです。

家庭内の性被害

また、家庭の中で起こるケースもかなりあります。その場合、実の親が実の子どもに対してであったり、義理の父親が義理の子どもに対して加害するケースが目立ちます。

家庭内の場合は、子どもに対して性的欲求があるというよりは心理的にはDVに近く、子どもを支配したい、征服したいといった感情から性加害におよぶことが多いようです。家庭内であることもあり、子どもが被害に遭っても隠し通されてしまうことが大半で、まだまだ実態が明らかになっていない部分があります。

男の子と女の子のどちらの方が、性被害に遭いやすい?

統計として出ている数では、男の子より女の子の被害者の方が多いです。また加害者が逮捕されるなど事件化するものについては、ほとんどが女の子が被害に遭ったケースです。これは、性加害者のほとんどが男性であることからも、理解できます。

ですが、だからといって男の子が被害に全然遭わないかというと、決してそうではありません。

決して少なくはない男の子の性被害

男の子の場合、被害に遭っても親に言わないことが多く、また言ったとしても真剣に聞いてもらえなかったり、笑ってやり過ごされてしまうことが多々あるようです。例えば、「知らないおじさんにトイレに連れて行かれた」というようなことを親に言っても、女の子の場合であれば親は慌てて対応しようとするけれど、男の子の場合は何もしないで終わってしまう、なんてことも少なくありません。

そのため男の子の性被害は女の子の性被害よりも表に出にくく、データとしてはあがっていなくても実際は結構被害に遭っていると考えられますまた男の子が性被害を受けた場合、将来的に加害者の側になってしまうことも多いものです。性被害に遭うことで性的な発育に悪影響をおよぼし、性的な関心がやたら高まることがその原因として考えられます。
                    
ですが万が一男の子が性被害に遭ったとしても、被害を親に打ち明けてきちんと受け止めてもらえて、適切なサポートを早期に受けることができれば、加害者の側に回ることは少ないと言われています。

こういったことをふまえて、男の子の性被害も女の子と同様に、深刻に受け止める必要があります。

子ども同士でも起こる性被害と性加害

性加害をするのは大人だけではなく、子どもの場合もあります。学校や塾など子どもが集まる場所で起こることもありますが、兄が妹に対してなど、きょうだい間でもよく見られます。なおきょうだい間での性加害は、「執拗に繰り返す」といった深刻なケースが目立ちます。

きょうだい間で起こる性加害・被害を防ぐためにできること

きょうだい間で性加害・被害が起こった家庭を見てみると、機能不全を起こしていることがよくあります。例えば両親が不仲であったり、父親がいつも不在であるといったことなどです。子どもにとって安心、安全な場所として家庭を維持していくことが、いかに大切であるかということが分かります。

またきょうだいに性加害をする場合には、家庭の外でも問題行動を起こしていることがよくあります。そういったサインを見逃さず、日頃から子どもたちの様子をよく観察するようにしましょう。

性被害が分かったら親がすべき3つのこと

被害発生直後に親がやるべきことは以下です。

  • 「ワンストップ支援センター」に連絡をする
  • 身体は洗わずそのままの状態にしておく
  • 着ていた服や下着を洗わずに別々のビニール袋に入れておく

被害が分かったらできるだけ早く「ワンストップ支援センター」に連絡しましょう。なお、接触のある性被害直後の場合は、体を洗いたくなるかもしれませんが、できるだけそのままの状態にしておいてください。被害の証拠として、必要になることもあるためです。そして被害にあった時に着ていた服や下着も洗わずに、それぞれを別のビニール袋に入れておきましょう。

ワンストップ支援センターとは?

ワンストップ支援センターとは、性被害者に対して、被害直後からのサポートを可能な限り1か所で提供する支援施設のことで、全都道府県に設置されています。

ワンストップ支援センターでは、被害直後の子どもの精神状態に配慮できるよう、専門家が丁寧に対応します。専門家は警察に相談するかどうかの判断も含めてサポートしてくれますし、どういったことが子どものトラウマになりうるのかなども分かっているので、まずは連絡をしてください。

ワンストップセンターでは以下の5つのサポートをしてくれます。

1:協力関係にある医療機関において、緊急避妊薬の処方や、妊娠・性感染症の検査等について安心することができるよう、サポートします。

2:医療機関等において、必要な治療や心理的支援を安心して受けることができるようサポートをします。

3:警察での支援、捜査、証拠採取等に関する情報の提供、警察に同行するなど、相談する際のサポートを行います。

4:弁護士等と連携しながら、法的な手続き等のサポートを行います。

5:その他、安心して安全に生活することができるよう、必要なことを一緒に考えてサポートします。

引用元:内閣府・男女共同参画局「性犯罪・性暴力とは」

被害を打ち明けられたらどんな声をかければいい?

まずは打ち明けてくれたことを疑ったり否定することなく静かに受け止め、「話してくれてありがとう」「あなたは悪くない」と伝えてください。

「どうしたの?何があったの?」など根掘り葉掘り聞きだしたくなるかもしれませんが、そこはぐっとおさえましょう。いろいろ聞かれることで子どもの心の傷口を広げ、さらなる心理的ダメージを与えかねません。

被害を言えない子どもに表れる変化、影響は?

性被害に遭っても、子どもが親になかなか言い出せないケースも多いもの。ですがそんな場合でも、ぱっと見て分からなくても、よく観察すると子どもに何らかの影響が出ていると気づけることもあります。

小さい子ども(小学生以下)の場合

子どもの年齢が低ければ低いほど、心身に症状として出やすい傾向にあるようです。お腹や頭が痛くなったり、頻尿やおねしょが見られる、といったことがあげられます。また感情が不安定になって睡眠に影響が出たり、夜遅くまで起きているなど生活リズムが乱れる、なんてこともあります。

また年齢が低いと、性被害に遭ったこと自体を理解できないことも多いのですが、だからと言って成人したら忘れるかというとそうでもありません。性被害により子どもの頃に受けた精神的ショックを長期間にわたって引きずり、中高年になっても心の傷として残っていることもあります。

中高生の場合

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中高生ぐらいの年齢になると、非行に走るというサインがあらわれることがあります。不特定多数の異性と関係を持つ、夜遅くまで外出する、飲酒や喫煙をする、といったことです。もし子どもが急に非行に走るようになった、なんてことがあれば、もしかしたら背後に何か隠れているかもしれません。

また性被害を受けると精神面に大きな影響をおよぼすため、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や摂食障害、強迫性障害、パーソナリティ障害などになることもあります。重症のケースでは統合失調症やうつ病になることもあるため、いつもとのちょっとした違いも見逃さないであげてください。「いつもと何か違う、おかしい」と感じたら、それは性被害に遭ったサインかもしれません。

子どもを性被害から守るため、普段から親ができることとは?

防犯グッズを持たせたり、死角になりやすい場所に行かせない、子どもと他人の大人が1対1になる環境はできるだけ避けさせる、といったことはよく言われていますし、実行している親御さんもいることでしょう。

ですがもっと基本的なこととして、子どものちょっとした変化にすぐ気づけるように、普段から家庭内のコミュニケーションを大事にし、子どもの話をしっかり聞いてあげることも大事です。

そして子どもが小さいうちから、プライベートゾーン(性器や胸、おしり)は見せない、触らせないといったことや、それ以外の部分でも触られたくないときは「嫌である」「やめてほしい」と言っていいのだと、教えましょう。また性被害にもし遭ってしまった場合、親にそのことを知られたくないと感じる場合があることを考えて、ワンストップ支援センターなどの相談の場所があるということも、さりげなく伝えましょう。

参考:性教育に関する記事

被害に遭っても決して子どもを責めないで。一番つらいのは子ども

子どもが性被害を受けたときは、大人ができるだけ早く気づいてあげることが何より重要です。早めにケアしてあげることで、その後の心身への影響が少なくなる可能性が上がります。

そして、被害を知っても決して子どもを責めないでください。「本当なの?」「そんなことありえない」などと子どもの話を疑ったり、否定することはせず、話したくない場合は無理に聞き出さないようにしましょう。子どもを質問攻めにすることで、子どもの記憶に影響を与える場合もあるので注意が必要です。

子どもの性被害はいつ起きてもおかしくはない

身のまわりで子どもが性被害に遭う可能性は、私たちが考えている以上に高いということを、まずはきちんと認識する必要があります。

日本だと、例えば子どもの登下校などで親が付き添うことは、基本的にはありません。ですが子どもだけの状態で外にいるとなると、どうしても性被害に遭うリスクが生じます。登下校だけではなく、公園で子どもだけで遊ばせる、ひとりで習い事に行かせる、という場面なども同じです。

子どもが性被害に遭うことは決して珍しいことではなく、日常的によくあることなのです。そしてその逆に、自分の子どもが性加害者の立場になることもありうる、ということも理解しておきましょう。

<参考資料>

内閣府・男女共同参画局「性犯罪・性暴力とは」

「警察庁」ワンストップ支援センター設置促進のための手引作成

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