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2023.09.02

教員の負担軽減、授業の質の向上も。「教科担任制」のメリット・デメリットを小学校の現役教員が解説!

「小学校で教員をしています」と名乗ると「全教科教えているの?すごいね!」と言われます。小学校の教員=全教科教えるという、広く知れ渡った教育体制。今そのシステムが変わり始めています。小学校高学年から導入が始まった教科担任制。教科担任制の学校で働く筆者が感じたそのメリット・デメリットについてご紹介します。

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導入スタート! 小学校での教科担任制って?

小学校といえば、担任の先生が、国語に算数、社会に音楽…と全ての教科を受け持ち、1日中クラスの子どもたちといっしょに過ごすイメージがあることと思います。

しかし今、少しずつその体制が変わりつつあります。2022年度から小学校の高学年において、教科担任制の導入が始まりました。群馬県や兵庫県など一部の地域において自治体独自の取り組みとしてすでにスタートしていた教科担任制が全国に広がろうとしているのです。

ここでいう教科担任制とは、一部の教科について、その教科の専門である教員が受け持つ制度を指します。全ての教科において担当が変わる完全教科担任制である中学校とは異なり、一部の教科且つ小学校5・6年生のみが対象となるのが特徴です。

基本的には担任の教員が授業を進めますが、一部の教科のみ他の教員が代わって授業を行うことになります。特に、「英語」「理科」「算数」は、専門性が必要なこと、系統的な指導の充実が望ましいことから、優先的に教科制の導入がすすめられることになりました。

教科担任制は、教員の専門性を生かしたよりわかりやすく質の高い授業を行い、児童の学力向上を目指すことを目的として導入されました。また、中学進学に向けて教科担任制に慣れることや複数の教員の視線で見守ることで、中1ギャップなど不登校の原因を抑制する効果にも期待が寄せられています。

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教科担任制のメリット

では、教科担任制を取り入れることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。実際に教科担任制の学校で働く教員として感じていることも交えてご紹介したいと思います。

1.授業の質の向上

全教科を教えることができる小学校免許を持っているとはいえ、「中学校の教員免許は国語科です」「大学時代は体育の専攻で……」など、教員にもそれぞれ専門教科や得意分野があることが多いです。

私は国語専科として勤務していますが、体育は自信がありません。逆上がりができない私が鉄棒を教えるよりも、体育専科の教員による指導の方が、子どもたちの上達が早いのは火を見るよりも明らかです。指導方法や理論、教科に関する知識などの専門性に長けており、それらを複合的に生かして指導できるからです。

また、ピアノ伴奏・英語の発音など、教員の技術が子どもたちの学びに大きく影響する場合もあります。教員が自身の専門性を生かして授業を組み立てることで、より学びの深い授業、質の高い指導を展開することができ、児童の学力を向上させることにつながります。

また、クラスの枠を超えて授業を行うため、クラス間での学習内容や進度に違いが生じることを防ぐこともできます。

2.中学校とのギャップを軽減

「中1ギャップ」という言葉が広く知れ渡っているように、中学進学後に、環境の変化にうまくなじめない子どもたちは一定数存在します。

その要因の1つとして、完全教科担任制であることも挙げられています。小学校で担任の先生1人とじっくり付き合ってきた環境から、教科ごとに先生が入れ替わることに慣れない子どもたちもいるのです。

そこで、小学校のうちから、一部の教科においてのみ教科制を導入し、いわゆる“慣らし運転”をしておくことで、そのギャップを軽減することができます。

3.複数の教員の視点での指導

教科担任制を導入することで、1つのクラスに対して授業に訪れる教員の数が増加します。複数の教員で子どもたちを見ることによって、多面的な理解・指導が可能になります。

事実、他の教員と児童情報を共有すると、自分では気が付かなかった児童の良さを耳にすることが多くあります。さまざまな視点を持った教員が関わることで、その子の良さを認められる場面も増えるはずです。

また、担任と相性が合わない場合においても、窓口となる教員や信頼できる教員と出会い、関係を築くことができるのも大きなメリットでしょう。学級王国のようにクローズな運営ではなくなるため、複数の教員が関わる中で、発達障害やいじめ、交友関係のトラブルなどにも気が付きやすくなります。

4.教員の負担軽減

昨今、教員の業務負担が話題となっています。小学校では、英語の授業やプログラミング教育の導入が開始し、研修や授業準備などの負担がさらに増えているのが事実です。教科担任制では、同じ授業を複数のクラスにわたって展開できるので、授業準備に割く時間を削減することが可能となります。

「明日の授業の準備をしよう!」という時に、国語と算数と理科と……と何教科にもわたっていくつも準備するよりも、国語を3クラス=1コマ分準備する方が時間や負担は削減できますよね。教える教科が限定されるので、1つの授業の教材研究や準備に専念できるのです。

また、その教科が自分の専門教科であればなおさら知識や経験を生かして準備をすすめることができるので、準備がスムーズです。

教科担任制のデメリット

授業の質向上が期待され、児童にとっても、教員にとっても魅力的に感じる教科担任制。しかし一方で、導入するにあたっての課題や検討事項、留意点もあります。

1.教員同士の情報共有が必要

教科担任制において必須になるのが、教員同士の連携です。教員同士で密に児童情報を共有しなければ、この制度は成り立ちません。授業をする上では、そのクラスに在籍する子どもたちの特性や健康状況、交友関係などを把握しておく必要があります。そして、それらは刻々と日々変化していきます。

「1時間目の算数の時間は具合が悪くて保健室で休んでいた」「3時間目の英語の時間に友だちと大きなケンカをした」など、担任の知らないところで起きる出来事もあります。

教科担任制では、担任の教員と過ごす時間はまちがいなく減ります。「知らなかった!」なんてことにならないよう、授業の引継ぎの際や朝の時間、放課後の時間などには、教員同士で積極的にコミュニケーションをとる必要があるのです。

2.時間割・授業時数・授業者の調整が複雑化

従来通り、学級担任が全ての授業を受け持っている場合は、「行事で算数の時間がなくなったから、来週の理科を算数に変えよう」「突発的なトラブルが起きてしまったから、次の時間に全体で指導しよう」など、担任の裁量で調整が可能です。

一方で、教科担任制の場合、子どもたちだけではなく、授業担当の教員の時間割も考慮しなければならないため、時間割の調整は容易ではありません。時間割を入れ替えたり、変更したりするには、事前に計画や相談が必要となります。

授業に訪れる教員が学年をまたいでいる場合は、よりいっそう複雑化します。祝日や行事が重なり特定の授業の時数が少ないなどの状況に対応するのも一苦労です。

また、授業の組み方によっては、教員数を増やす必要がある場合もあります。ただでさえ、昨今話題となっている教員不足。人材を集めることにも労力が必要そうです。

大きな教育改革の1つ、小学校での教科担任制。5・6年生にのみ導入された、この教科担任制の取り組みは、児童の学力向上に功を奏すか―。現行では従来通りの1~4年生にも導入が進んでいくのか―。動向が気になるところです。

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堀之内梢

国立大学教育学部卒業。専門教科の国語を愛し、教科担当制の私立小学校にて勤務。好きな教材は「おにたのぼうし」。好きな文法は品詞分類。学級担任として、多くの子ども・保護者と関わる。現在は教員業の傍ら、教材執筆者・ライターとしても活動中。プライベートでは1児の母。

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