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2023.08.03

雑誌の煽り文句「ママっぽく」「ママ向け」これが全ての元凶かと思う

インスタグラムで育児にまつわる情報を発信している「ソクたまアンバサダー」。そんなアンバサダーのみなさんに、子育てや教育について、それぞれの視点で執筆してもらうコラムです。今回は、
知育インスタグラマーとして活躍中の、論文ママさいとうさんの子育てコラムをお届けします。

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独身の時、かかとが5センチ以下の靴は一足も持っていなかった。
比喩ではない。本当に一足もなかった。

ビーチサンダルでさえウエッジソールタイプのものを選ぶ徹底ぶり。

脚が短いのと太いのがコンプレックスで、自分を5センチ以上底上げして見せるのが常だった。

一番のお気に入りは銀座で買ったクリスチャンルブタンの12㎝ヒールで、5分も歩けば足がクソ痛くなる凶器みたいな靴だったけど、それでも満足だった。とにかく服よりカバンより、美しい靴が大好きだった。

今そのルブタンは、私の手元にはない。

息子を産んでしばらくして、ルブタンにさよならをした。……とまぁお洒落な言い方をしたけれど、言ってしまえばメルカリに出品した。

10万以上した靴が1万円で「お値引きいいですか」と言われたのはなんとも切ないものがあったけど、もうきっと履く事もないし……と、二つ返事でOKした。


「妊娠したのだからスニーカーを買わなければならない」

当初はそれがとても悲しくて、でもお腹の赤ちゃんの安全の為に、ヒールを履き続けるという選択肢は私の中にはなかった。(中にはそういう方もいると思う)

夫がスニーカーをプレゼントしてくれ、ヒールのない靴の楽さにぶったまげた私は、あっという間にスニーカーの虜になる。

全然疲れない!ヒールがないってマジ最高!!


「あと1分で電車来るヤバい!」と思った時には走れるし、つま先に刺すような痛みもないし、なんならタップも踏める。何より「沢山歩ける」という絶対的安心感、ハンパねぇ……。

かつて愛した、かかとについた細い棒は、もはや私の心を1ミリもときめかせなかった。

やがてファッション誌は育児書にすり替わり、まだまだ着れると思っていたお気に入りの服たちは、出産して体型が戻る頃には信じられないくらい似合わなくなった。

身体のラインが出るような服や、デザイン重視の服よりも,、動きやすく、シンプルで「違和感のない」服ばかり選ぶ。

ライフステージが変わっていくにつれ、趣味や持ち物が形を変えていくのは当然。少し寂しいけれど、ま、今は育児が一番だし? 服だって公園で走れるかどうか、汚れても洗えるかどうかが最重要事項だし。着れればなんでもいいや。

……なんて思いつつ、SNSを開けば目に入るのは「ママっぽくない」服を着こなすお洒落なママ達。

決して「お洒落なママ服」ではない。あくまで「ママらしからぬお洒落な服」だ。

恐らく彼女たちは、母親になろうがそうでなかろうが一貫して自分の好きを体現しているのだろう。そこに他者が口を挟む余地は一切ない。

彼女たちがそれを躊躇なく選べて、私が選べない、この差は何なんだろう。

「母親のくせにそんな恰好して」というのは決して誰かに言われたわけではなく、全て私の脳内で生まれた雑音である。ゆえにそんな言葉を誰かにかけられる前に、自分でさっさと「ママっぽい服」を選んで着始めた。

「母親らしく」を過剰に意識し、周囲に溶け込むことが最優先だと思っていた私は、それこそが良い母親で、それこそが正義だと思っていた。

もちろん乳児期には授乳もあるし、「マジで今は服どころじゃない」という時期もあった。それも「自分らしさ」を隅に置く事に抵抗がなくなった要因だったと思う。

でも1~2年ほど経って、それらのアイテムが私自身を全く幸せにしないことに気付く。

なぜわざわざテンションの上がらない服を着なければいけないのか、よく分からなくなっていた。

物心ついた幼少の頃から、私にとっては服もメイクも「自らの意思で選ぶべきもの」だったはずだ。

そういうわけで心機一転。最近は自分の着たい服を着て、したいメイクを心掛けている。


まだ頭のどこかで「自分らしさ」に歯止めをかける事があるけど、特に着たくもない服を着ていた以前と比べたら、かなりの進歩。

雑誌やネット広告のキャッチコピーにありがちな「ママ向けコーデ〇選」「男の子ママを可愛く見せるママファッション」などは全部大きなお世話である。

「ママっぽく」なくても好きな服着たらええんじゃ!

他にも世間には「婚活ファッション」「モテコーデ」など、誰かの顔色を伺う服が存在する。それらは「モテたい」「結婚したい」という目的があるので全てが悪とは思わない。

が、結婚出産を経てもなお、我々はこういったことを続けていかなくてはいけないなのか。一体それはいつまでなのだ。


加えて以前は、こんな問題もあった。「変な人に絡まれる回数激増問題」


例えば、同じマンションの若い男と鉢合わせた時のこと。
その男は私に向かって「気持ち悪」と言ってそばにあった自分の箱かカバンか何かをガンガン蹴り始めた。(初対面)しかも笑いながら。


こんな危ないヤツが同じ敷地内にいるなんて稲川淳二もびっくりの恐怖体験である。

(やだなぁ~やだなぁ~)と、思いながら息子の手を引いて刺激しないようあくまで平静を装って逃げた。熊に遭遇した時ってこんな感じかもしれない。

また別の時、たまたま駅から家まで一人で歩いていると、私のすぐ前を歩いていた別の若い男が「ついてくんなや! 気持ち悪いなぁ!」と言って突然ブチギレ始めた。

「ん?どうしたどうした?」と思って辺りを見回すと、私以外誰もいなかった。(マジか)こちらも怖すぎて咄嗟に旦那に電話した。息子がいなくて良かった。


ていうかこれほどまでに若い男から気持ち悪がられる私って一体何なの。どんだけ気持ち悪い存在なの…。

他にも変なおじさんに後ろから突然苦言を申されたり、知らないおばあさんにパーソナルスペースガン無視した距離感ゼロの絡まれ方をされたり。

独身の時、このような種類の方々と絡むことはほぼなかった。だけど我ながら納得してしまうほどに、楽さ重視の地味な服、伸びっぱなしのプリン頭。そして我が子を隣りに携えた姿は、今思うとなんというか、とても弱そうだった。

男なら筋肉をつければ恐らく絡まれることはないだろう。

女の場合、言い返してきそうか、そうでないかは割と重要である。そういう意味で幼い子持ちの女は、守るものがある分ターゲットになりやすい。それが弱そうな女ならなおさら。

ググると同じような経験をしている人もたくさんいて、自衛のために金髪にしたとか、でっかいサングラスやピアスなどの強アイテムを身につけると書かれていて、だいぶ納得してしまった。

魔除け効果。ファッションにはそんな機能もある。皮肉なことにそれを教えてくれたのが、子持ちになってから遭遇する、数々の「ヤバい人」だった。

先日駅で、白髪の老女が真っ赤なマニキュアをしているのを見て「素敵だな」と思った。その日帰って、ソッコー楽天を開いて真っ赤なネイルシールをポチった。


私は原色が恐ろしく似合わない。だから原色の服は持っていない。
だけどおばあちゃんになったら、真っ赤なコートを着てみたいと思っている。
それが60代以降の私の「武装」になると、割と本気で思っている。

生前私の祖母は、髪の毛を紫色に染めていた。田舎だったのでそんな髪の色のシニアは滅多にいなかったけど、私はそれを密かにかっこいいと思っていた。

もしかすると、祖母のあの紫色の髪の毛は、私にとっての真っ赤なコートと同じなのかもしれないな。


TPOは守っても、世間からうっすら押し付けられる「ママ向け」に従うつもりは二度とない。

同じく60歳になっても70歳になっても絶対、「おばあちゃんっぽいかどうか」で服は選ばないと、改めて誓った。

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