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2020.07.09

現場はますます混乱!? 文科省の運営許可取り消しで「eポートフォリオ」はどうなるの? 

数年前から、大学入試への活用が広がりつつあるのがeポートフォリオ。高校生が学習記録をはじめとするさまざまな活動をデジタル化して残すためのツールですが、2020年7月、文科省が主サービスである「JAPAN e-Portfolio」を運営する社団法人に対して許可を取り消す方向で調整していることが判明。そもそもeポートフォリオとはどんなサービスでどんな問題点があったのか考えてみましょう。

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高校生活の記録をデジタル化するeポートフォリオとは

eポートフォリオとは、ざっくりいうと定期テストや実力テストの結果などのの学習の成果や、そこに至るまでの過程、部活動や課外活動の内容、ボランティアの実績などをひとつにまとめてインターネット上でデジタル化したファイルのこと。

高校生活を通してがんばってきた活動内容(学校行事や課外活動における行動、部活動での活躍ぶりなど)、取得した資格・検定などについて詳しく記入し、PRできる“学生の履歴書”のようなものです。

高大接続改革とeポートフォリオの関係とは

eポートフォリオが普及されてきた背景には、高校・大学・大学入試を一体化させる“高大接続改革“が関係しています。

未来の社会を予測することが困難な現代では、新たな価値を創造していける力が求められています。そこで、文部科学省が行おうとしているのが、“学力の3要素(知識・技能/思考力・判断力・表現力/主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)”を育成し、評価するための仕組みづくり(高大接続改革)です。

高大接続改革では、高校で上記にある“学力の3要素”を育成し、大学ではその力をさらに伸ばしていけるようにします。そのためには、高校と大学をつなぐ大学入試でも問題の正誤を見るだけでなく多面的、総合的に入学希望者を評価していこうということなのです。

また、高大接続改革には3本の柱がありました。

  • 記述式問題の導入
  • 英語民間試験の導入
  • 主体性のある学びの評価

上から2点はすでに延期などが決まっており、残る1点に関わるのが、eポートフォリオを活用することで高校時代に勉強以外の活動(部活動、課外活動・学校外の活動など)を学力の結果だけでは測れない主体性を調査書(eポートフォリオを含む)などで評価するということでした。

高校時代にどんなことをがんばり、どんな成果を得てきたのかなどを高校や生徒自身がまとめやすく大学側も評価しやすいのではないかということでしたが、今回の許可取り消しの流れにより3本の柱とも暗礁に乗り上げたことになります。

eポートフォリオの高校生活での2つの役割

また、eポートフォリオの役割は大学入試の添付書類としてだけではありません。eポートフォリオには、大学入試の調査書・活動報告書として以外にも2つの役割があるといわれてきました。

自己分析や学習を振り返るきっかけに

自分の学習や高校生活について客観的に振り返ったり、冷静に自己分析したりすることができます。

その上で、まだ勉強が足りないということであれば「もっとがんばろう」というモチベーションにつながったり、アピールすることが少いと感じられれば「毎日を充実させるために何か行動を起こそう」と考えることもできます。

つまり、eポートフォリオを見直すことで、自分自身のアピールポイント・マイナスポイントをしっかり把握し、良いところはさらに伸ばし、悪いところは改善することができるというわけですね。

周囲から適切な協力を得やすい

eポートフォリオは、高校の先生や保護者と共有することで周囲から適切な指導を受けやすくなったり、客観的な視点からのアドバイスを求めやすくなったりします。その結果、自分自身の足りない点に気づけて改善できたり、大学入学試験に向けての受験勉強の計画を立てやすくなるという話でした。

大学入試のeポートフォリオ活用状況

では、実際にeポートフォリオは、大学入試でどのように活用されているのでしょうか。現状を調べてみました。

約100校の大学が「活用する」ことを表明

eポートフォリオツール「Japan e-Portfolio」のホームページによると、現在、全国の大学で、インターネットを用いた出願が広まってきており、2020年度の大学入試では、約100校がeポートフォリオを活用しています。

引用元:「JAPAN e-Portfolio」について/文部科学省

2020年3月末時点では、群馬大学、大阪教育大学、同志社大学など11校の大学が、eポートフォリオを合否の判断材料として用いたとしていますが、ほとんどの大学が参考程度に留めていたというのが現状です。

大学側のeポートフォリオ活用例

eポートフォリオは、大学入試においてどのタイミングで判断材料や参考材料にされていたのでしょうか。

出願条件をチェックするために

大学及び学部によっては、出願条件として、「英検2級を取得していること」「TOEICで600点以上を取っていること」などの項目が設けられている場合があります。

従来は、これらのチェックは、一人ひとりの出願書類を確認するという手作業で行われていましたが、eポートフォリオを大学のシステムと連携させることで出願条件を満たしているかどうかをスピーディに確認することができるとのことでしたです。

合否のボーダーラインに並んだときの参考に

2つ目のeポートフォリオの活用法は、「ボーダーラインに並んだ受験生たちの合否を比較検討する」ということです。

つまり、筆記試験の結果、合否ギリギリラインに並んだ受験生たちがいた場合、どの学生を合格にするか、eポートフォリオの内容を加味して決定しているという大学もあったとされています。しかし、現在、各大学がeポートフォリオにどれだけの比重をかけて合否判定をしているかは公表されていません。

文科省が許可を取り消す方針の「JAPAN e-portfolio」とは

それでは、今回、文部科学省者が運営許可を取り消す方針を示した「JAPAN e-portfolio」とはどんなシステムだったのでしょうか。

JAPAN e-Portfolio

「JAPAN e-portfolio」とは、一般社団法人教育情報管理機構が文部科学省から運営を許可されて提供しているサービス。サイトなどシステムの開発と運用はベネッセコーポレーションが受託しています。

運営の目的は、学校の授業や行事、部活動、資格・検定や学校内外を問わず活動したさまざまな成果を記録することができ、高校卒業以降の学び・成果につなげていくためということ。また、それらの蓄積した「学びのデータ」は、個別の大学への出願に利用することができます。

ただ、同サービスはこれまでも個人情報を扱う上でのセキュリティを不安視する声や、ベネッセが運営する他サービスとの連携できる共通IDを使うなど公平性を問う声も上がっていたほか、今年2月には、萩生田文部科学大臣が運用の見直しについて言及し、文部科学省が機構に是正を要請していました。

ポートフォリオ自体浸透していなかった!?

また、旺文社が昨年の夏に全国の高校生を対象に実施した調査によると高校生の約7割が「ポートフォリオを利用していない」という結果に。これは、ポートフォリオ全体であり、eポートフォリオだけでなく紙に書きまとめたりするものもすべて含めての内容です。

さらに、ポートフォリオを知っているかどうかの質問に対しては、回答者698人中34%が「ポートフォリオを知らない」、35%が「ポートフォリオを知っているが記録をつけていない」、30%が「ポートフォリオに記録をつけている」となりました。

しかも「ポートフォリオに記録をつけている」と回答した生徒も約7割が「学校で指定されたwebのポートフォリオ」を使用し、生徒自身が能動的にサービスを選択する割合は 1 割程度。ポートフォリオを導入する本来の目的であったはずの“主体性”とはどうなったんだろう…と唸りたくなるような調査結果でした。

反対、不安を訴える声も多かった!?

また、今回の報道では、運営許可の取り消し理由として「入試に利用する大学が少なく、財政上の安定が見込めないことなどから」とされていましたが、これまでもインターネット上には、「大学受験の混乱を招く原因になるのではないか」「部活やボランティアをどう点数化するのか」などeポートフォリオ拡大に疑問を投げかける教育関係者の声もありました。

ほかにも、“はるかぜちゃん”こと女優の春名風花さんは、Twitterに下記のように投稿。

未来を生きる若者のひとりとして、ポートフォリオとAO入試の拡大に反対します。学力以外で華やかなアピールポイントをたくさんつくることが出来るのは、主に富裕層の子供たちです。貧困家庭で放課後に家事を手伝っているような子供には、大人ウケするボランティアや社会参加をする余裕などありません。

経済的な格差が子どもの未来に直接的に影響してしまうのではないか、子どものたちの行動が点数化されてしまうのではいかということに疑念を抱いています。

今後“主体性のある学び”はどこへ向かうのか

文部科学省は、2022年度の大学入試をめどに、高校生が大学や専門学校に出願する際に必要な調査書を電子化することを明言し、各大学に対しても高校生の主体的な学びを重視して合格者を決めるように求めていましたが、今回の社団法人への許可の取り消す流れを踏まえると方針が変わっていくことも想像できます。

これまで時間と労力をデータ入力に費やしてきた現場の教員の苦労を思うと言葉も出ませんが、ただでさえ新型コロナの影響で日々ほんろうされている受験生たちがシステムの変更、方針の転換に振り回されるのはいたたまれません。

また、eポートフォリオの背景にある“主体性のある学び”は、小中学生の新学習指導要領でもいわれていることです。高校入試でも前述の“学力の3要素(知識・技能/思考力・判断力・表現力/主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)”を重視する傾向があり、中には、作文や小論文、グループ討論、プレゼンテーションなど、入学希望者の“主体性のある学び”に着目した選抜方法が用いる学校も出てきています。

今後、文科省が“主体性のある学び”というものをどう捉え、扱っていこうとするのかについては深い議論が望まれるとともに注目をしていきたいですね。

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浜田彩

エディター、ライター、環境アレルギーアドバイザー。新聞社勤務を経て、女性のライフスタイルや医療、金融、教育、福祉関連の書籍・雑誌・Webサイト記事の編集・執筆を手掛ける。プライベートでは2児の母。

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