2020.04.10

スクールロイヤーとは?新たな制度とその実態について弁護士・鬼澤秀昌さんにインタビュー

2020年度から各都道府県、政令指定都市など全国に配置することを目指して、地方財政措置が講じられたスクールロイヤー。しかし、「いつ、何をしてくれるの?」「結局、学校を守ったり、隠蔽を助けたりするんじゃないの?」「直接相談できるの?」など、いまいち実態をつかめていないという人も多いのではないでしょうか。そこで、スクールロイヤー(弁護士)の鬼澤秀昌さんに話を聞きました。

  • rss
  • google
  • bing

2020年4月から地方財政措置が講じられたスクールロイヤー制度。言葉の響きから考えると弁護士が問題のある教員の悪い証拠集めをしてギャフンといわせたり、いじめ事件の加害者に説教をして反省を促したり、そんなドラマのようなイメージを抱く人がいるかもしれません。しかし、実際はどうなのでしょう。

 

2019年4月から全国より一足早くスクールロイヤー制度を取り入れている東京都江東区。同区のスクールロイヤーを務める弁護士の鬼澤秀昌さんに現実のスクールロイヤーについて話を聞くと、基本的には、弁護士が先頭に立って問題解決のために動くようなことはなく、あくまで学校に助言をする立場のよう。

 

まだ制度として不明瞭な点があるものの、学校のトラブル対応に大きな変化が期待できそうです。

 

お話を伺ったのは/鬼澤秀昌さん(弁護士・スクールロイヤー)

 

東京都出身。司法試験合格後、教育系NPO法人の常勤スタッフとして勤務。その後、大手法律事務所を経て、2017年に「おにざわ法律事務所」を開業。第二東京弁護士会・子どもの権利委員会、日本弁護士連合会・子どもの権利委員会、学校事件・事故被害者弁護団などに所属。2019年4月より東京都江東区のスクールロイヤーも務めている。

 

 

そもそもスクールロイヤーとは?

そもそもスクールロイヤーとは、どんなことを行う人なのでしょうか。

 

日本弁護士連合会による「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」内(意見の趣旨)では次のように記しています。

 

各都道府県・市町村の教育委員会,国立・私立学校の設置者において,学校で 発生する様々な問題について,子どもの最善の利益を念頭に置きつつ,教育や福祉等の視点を取り入れながら,法的観点から継続的に学校に助言を行う弁護士(以 下「スクールロイヤー」という。)を活用する制度を構築・整備するよう求める。

 

引用元:「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」

 

つまり、スクールロイヤーとは、学校で問題が起きたときに “子どもの最善の利益を念頭に置きつつ”法的な根拠をもって、福祉的な視点も取り入れつつ学校にアドバイスをする弁護士ということ。

 

また、スクールロイヤーが学校への助言、指導をする案件は下記が想定されています。

 

(1)子どもの問題行動、親子の問題、その他子どもに関わる問題

触法、非行、暴力、性被害等の問題行動

いじめ

児童虐待

不登校

少年鑑別所、児童自立支援施設、少年院等への入所者

出席停止及び懲戒処分

障害のある児童生徒への対応

重大な少年事件やいじめ、自殺事件等が発生した場合

貧困問題

 

(2)保護者対応

①保護者の行き過ぎたクレームと教員のストレス

②子どもの最善の利益の視点からの指導・助言

③教員の負担軽減と健康管理

 

(3)体罰、セクハラ、指導上の問題等への対応

 

(4)学校事故への対応

①事故の予防と法的責任の確認と対応

②事故の調査

 

(5)学校におけるコンプライアンスの実現と紛争の予防

 

引用元:「実践事例からみるスクールロイヤーの実務」(日本法令)42~43ページ

 

いじめ、学校・教員と保護者のもめごと、不登校、体罰など、学校にまつわるトラブルは挙げ始めればキリがありません。また、近年ニュースにもなる教員間のパワハラやセクハラ、教員の過重労働など、幅広い項目でスクールロイヤーの活用が期待されています。

 

スクールロイヤーの事例が満載! 鬼澤さんの著書はこちら

 

 

スクールロイヤーはどこにいるの?

直訳すると“学校の弁護士”となるスクールロイヤーですが、鬼澤さんによると、弁護士が学校に常駐するわけではないそう。

 

「『現場(学校)に常駐してほしい』という声もありますが、学校教育法一条に定める学校が全国に約5万6000校ある中、弁護士の数は約4万人。そのうち、学校現場に関わる弁護士に限定するとさらに少なくなり、全校に弁護士を配置するのは難しいのです」

 

では、スクールロイヤーはどこにいるのでしょうか。

 

「教育委員会等に職員として活動するケースもありますが、多くの場合は、普段は、自分の事務所で弁護士としての通常業務を行いつつ、相談があったときにアドバイザー的な立場でスクールロイヤーとして学校に入ることになります」

 

学校で問題が発覚し、学校や教育委員会では対応しきれなかったり、問題が深刻化していく可能性があったりした場合、教育に詳しい弁護士がスクールロイヤーとして相談を受けるという流れのよう。

 

ただし、相談に至るまで流れにもまだ決まった形があるわけではないようで…。

 

「スクールロイヤーが配置されるのは教育委員会ですが、それが市区町村なのか都道府県なのかは、現場のニーズや財政状況、弁護士の数など地域の事情によって違います。

 

また、教員や校長が直接電話で連絡できる地域もあれば、一旦教育委員会に話を通してからではないと相談できない地域もあります。学校から直接相談したほうが早いですが、教育委員会が知らない話を現場と弁護士で勝手に進める事が果たしてどうなのかというのは難しいところです。組織的な意思決定と早期解決のための迅速な対応をどう両立させるかということは課題の一つです」

 

 

 

情報収集と事実関係を整理する力は弁護士ならでは

スクールロイヤーになる以前から学校で起きる問題に弁護士として関わってきた鬼澤さん。

 

これまでの子ども・学校関係の事件に関わってきた経験からすると、「学校側がうやむやにしようとしたり、適当な対応をしなかったりしたせいで炎上しているケースも多かった」そう。

 

「問題が起きたとき、学校や教員は当事者同士の話し合いで解決しようとする傾向がありますが、ただ話し合っても問題は解決しません。まずは事実関係の整理が必要です」

 

事実と感情が入り交じりやすい学校のトラブル。適切な対応をするためには、実際に起きた出来事と学校の対応、被害者・加害者双方の家庭の状況など事実や背景を正確に情報収集し、課題がどこにあるのかをはっきりさせることが大切です。その点、情報収集や事実関係を整理することのプロである弁護士のスキルがかなり有効。

 

「集めた情報を整理し、解決までの道筋を立てた上で『被害者側にこう働きかけたらどうですか』『この点は謝罪したほうがいいですよ』『加害者側にはこういうサポートをしたらどうですか』『この窓口に相談したらどうですか』など、法律的知見を基に学校側にアドバイスをするのです」

 

ちなみに、スクールロイヤーが助言をするのは学校に対してのみ。情報収集する際にでも、実際に保護者や子どもと顔を合わせることはないそうです。もし、学校との話し合いの場に弁護士を同席させたい場合は、別途、自分で代理人を依頼することになります。

 

 

 

スクールロイヤーは学校の味方ではない

しかし、保護者に会うこともなく、見えないところで学校に助言すると聞くと、「学校の味方ということ?」「学校に都合の悪いことは隠蔽するんでしょ」と考えてしまう人もいるのではないでしょうか。

 

しかし、あくまでスクールロイヤーは“子どもの利益のため”に動く中立的な立場です。

 

「学校側が不適切な対応をしていたら、当然『それはやめた方がいい』と言いますし、子どもの利益の観点から保護者の言っている事が正しければ『何で保護者の声を受け入れないんですか』とアドバイスする事もあります。また、『学校側が有利なように隠蔽するのではないか』という話もよく言われますが、スクールロイヤーではなく顧問弁護士でもそれはしないと思います。

 

私もスクールロイヤーとしての業務以外に学校の顧問弁護士もしていますが、間違っていることは『違法ですよ』と伝えますし、違法なことを適法にする権限は弁護士にはありません。弁護士も違法なことを隠蔽して罰せられるようなリスクは背負いません」

 

 

また、違法ではなくても学校が保護者に対して間違った先入観で接するようなことがあれば指導もします。

 

「例えば、学校側がモンスターペアレントと呼ぶ保護者対応もありますが、大切な子どもが傷ついていたら、親が多少強い言い方になるのは当たり前。保護者から過剰と思える要求があっても『過剰だから拒否しましょう』ではなく、「どうしたら環境が良くなるかを考えましょう」と助言するのがスクールロイヤーです」

 

学校側が保護者に対して「面倒な親」だと思っていれば、その思いは親に伝わり、問題が大きくなることもあります。

 

「環境をよくしていくためには、学校側がモンペという先入観を捨て、要望の内容と理由を丁寧に聞き取り、事実と要求を正確に捉える必要があります

 

要求のすべてを受け入れるわけにはいかなくても、単なるクレーム処理と考えるのではなく背景にある事情を汲んで、必要があれば福祉的支援(スクールソーシャルワーカーなど)につなげていくことも考えていきます」

 

 

 

加害者を罰するのがスクールロイヤーではない

 

また、“子どもの利益のため”という定義に当てはまる子どもとは、たとえいじめであっても被害者だけではありません。

 

「当然、被害者の子どもは尊重しないといけませんが、スクールロイヤーの立場では、加害者の子どもにも教育を受ける権利はあると考えます。実は、スクールロイヤーにとって難しいのはこの部分。

 学校で起きたトラブルが法律的に、どの法律に触れているのか、どこが問題なのかという判断は、弁護士には難しいことではありません。ただ、この先、どう助言してトラブルが再発しない環境を作っていくのかが、学校、教育に知見のある弁護士の腕の見せ所だと思っています」

 

スクールロイヤーの重要な役割は、「殴ったからいじめです」「殴って怪我させたから傷害罪です」と加害者を糾弾することではないと鬼澤さん。

 

「『傷害罪だから警察に行くべきだ』と言うのではなく、警察と連携して対応するのかどうかも含めて、この子にとって何がベストなのかを考えなければいけません。

 本当にむしゃくしゃしていたから殴ったのか、生育発達的に傾向があるからなのか、家庭的な背景があるのではないかということまで情報収集して、考えた上でどう対応するのが妥当なのかを考えていきます」

 

 

弁護士ならではの綿密な事実確認や法的根拠に基づく助言を福祉的な視点も含めて行い、学校や子どもの環境調整をサポートしていくスクールロイヤー。最後に文科省によるスクールロイヤーの全国区への配置により、どの程度活用されていくのか予測を聞いてみると…。

 

「スクールロイヤーの導入に法的拘束力はなく、スクールロイヤー用の予算が国から上乗せされているわけではありません。財政面を考えると各自治体次第かなと思いますが、地方財政措置が講じられたことで、都道府県・政令指定都市の教育委員会としては予算要望をしやすくなったと思います。

 

学校現場だけでトラブルに対応しきれていなかったり、教員の負担が大きすぎたりする傾向があり、今後スクールロイヤーの出番は増えていくと思います」

 

「ソクラテスのたまご」編集部

「ソクラテスのたまご」編集部

教育に関する有識者の皆さまと一緒に、子を持つお父さん・お母さんでもある「ソクラテスのたまご」編集部のメンバーが、子どものために大人が知っておきたいさまざまな情報を発信していきます。

\ SNSでシェアしよう /

  • rss
  • google
  • bing
  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう

    最新情報をお届けします