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2020.05.11

昆虫ハンター・牧田習/子どもと一緒に読もう! 虫の雑学

牧田 習さん連載「好きが仕事になりました」。4回目となる今回は意外と知らない身近な昆虫の生態、牧田さんが今までに出会って感動した昆虫、オススメの昆虫スポットなど、子どもの知識欲を高めてくれそうな虫の雑学を紹介します。昆虫好きの子もそうでない子も楽しめる内容なので、ぜひ親子で読んでみてくださいね。

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3歳の時から昆虫に魅了され、今までに捕まえた昆虫は1万2000種。それら全てを標本にしたので実家には3万点以上の昆虫が保存されています。
新種を見つけ研究論文を発表、大学では昆虫の魅力をたくさんの人に知ってもらうべくさらに知識を追求しています。
そんな無類の昆虫好きだからこそ話せる、虫のトリビア。親子で「へ~!」と楽しみながら読んでもらえたらうれしいです!

アリ、トンボ、チョウ…身近な虫ほど未知の世界が広がっている!

道端でよく見かける昆虫や昆虫採集で捕まえる昆虫というと、昆虫の中でもメジャーな部類ですよね。でも、彼らが毎日どんな生活をしているか、どんな生態を持つ虫なのかを詳しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。さっそく、紹介しましょう!

クロオオアリはメスしかいない!?

街中などで見かけることの多いのが、「クロオオアリ」という種類のアリです。実は、その全てが“メス”なんです! 

「あれ、オスはどこにいるの?」と思いますよね。

もちろん、繁殖するためにはオスが必要です。クロオオアリのオスは、巣の中でふ化してそのまま越冬。繁殖期である5月になると新女王アリとオスアリが一緒に地中から外に出て交尾をします。この新女王アリとオスアリには羽がついているんですよ。

空中で交尾を終えた新女王アリは地上に降り立ち、自ら羽を切り取って再び地中に潜り新しい自分の巣を作ります。一方、オスアリの寿命はとても短く交尾が終えると一生を終えてしまいます。女王アリはなかなか目にすることがないですが、オスのアリも1年のうち限られた期間(4月~11月)しか出会える機会はありません。

女王アリは何匹ものオスアリと交尾をするため、オスアリの数はすごく多いんです。家の周りで「羽アリが出た!」と驚くことはありませんか? 実はそれ、繁殖期のクロオオアリのオスで、家屋の害虫として知られるシロアリではない場合がほとんどです。

なぜ、女王アリがたくさんのオスと交尾をするかというと、いろいろな遺伝子をもらった方が巣全体の遺伝的多様性が上がるためだと考えられています。巣の中である病気が流行した場合、ひとつの遺伝子しかないと巣が全滅してしまうかもしれません。巣を滅ぼさないため、巣全体の病気や害虫への対抗性を高めるためにたくさんの遺伝子を残そうとするんです。

「あれ? 女王アリはどうやって誕生するの?」という疑問を持つ人も多いでしょう。女王アリも働きアリ同様にメスのアリなので、働きアリ同様に産み落とされます。しかし、種類や環境によっても異なり卵・幼虫時代に女王アリに育つように多くの栄養を与えて育てられていたり、そもそも女王アリに育つ用の卵が産み落とされたりなどいくつかのパターンがあります。

チョウやトンボの中には2500㎞以上もの距離を移動する種がいる

日本の上空には、偏西風と呼ばれる西から東に向かって吹く「ジェット気流」があります。それに乗って、東南アジアから北海道まで移動するトンボやチョウがいます。

チョウでは「アサギマダラ」という種が有名で、個体の羽に印を付けて行ったマーキング調査では沖縄や東南アジアで放った個体が、3ヵ月後には本州や北海道の山奥で発見されました。


アサギマダラ:日本全土に分布し、5~11月に見られる。体長は100㎜程度

多くの人が“赤トンボ”と言っている、街中でよく見かけるトンボは正式には「ウスバキトンボ」という名称。体がとても軽いので、東南アジアからジェット気流に乗って北海道までやって来ることが分かっています。秋~冬前にかけて旅先で産卵しますが、もともとが南の虫なので北海道や東北に行ってしまうと冬前には寒くて死んでしまいます。また、産卵が成功しても池が凍ってしまうので幼虫が育つことが難しく、なかなか定着できません。


ウスバキトンボ:体長は44~54㎜。暖かい地で発生するが、飛行力が強く日本全国で見られる

カブトムシは原生林にはいない?

巨大甲虫の一つ、カブトムシは子どもたちに大人気の昆虫ですよね。カブトムシは、実は人間ととても関わりの深い虫。人間の手が入った雑木林に依存して生きています。そのため、人間の手が入っていない山奥ではカブトムシと出会う確率は多くありません。カブトムシはクヌギやコナラを好むので、これらの樹木が豊富に植林された雑木林に多く生息します。

地球の長い歴史の中である地点から人間の生活が始まりましたが人間が誕生する以前は、カブトムシの数は非常に少なかったといわれています。人間が雑木林を作ったことで、カブトムシの数が爆発的に増えていったと考えられています。

夏になるとカブトムシを探しに行く子どもも多いと思いますが、山奥まで行く必要はありません。近場の雑木林でクヌギやコナラのような広葉樹があれば、出会える確率は高いですよ。

セミの鳴き声が大きいのは、耳がないから!?

夏になると至るところから聞こえる、セミの鳴き声。鳴き声を出すのはオスのみで、腹部にある発音器官を使いメスにアピールするために大きな声で鳴きます。オスの鼓膜は腹部にあり、その部分で自分の鳴き声や空気中に伝わる音を感知します。

「あんなに大きい声で鳴いて、耳が痛くならないのかなあ?」という感じですが、実はセミのオスは人間がすぐそばで大きな音を鳴らしても全然聞こえません! けれども、聴力が弱いというわけではなく一定の周波数帯の音しか感知しないだけ。自分(セミ)が生きるために必要な音しか感知しないということですね。

スズムシやバッタのように聴力が発達しているものもいますが、昆虫全般的に耳はそれほど良いとはいえません。

牧田 習が“感動”した世界の昆虫たち

ここでは、身近な場所から足を延ばして世界の虫や珍しい虫の世界をのぞいてみましょう。

アカエリトリバネアゲハ

美しいと感動したのが、マレーシアで見た「アカエリトリバネアゲハ」という蝶の飛ぶ姿。マレー半島やボルネオ島に住む、大型の熱帯性アゲハチョウで、前翅長は80~90mmほど、黒い羽に緑の色の模様が特徴です。アカエリトリバネアゲハはワシントン条約で採集が禁止されているため、見ることだけしかできなかったのが残念でしたが…。

オニホソコバネカミキリ

細長い体に長い触覚、発達した大顎を持つカミキリムシ。日本には900種ほど存在し、幼虫期間は主に木の中で木材を食べて育ち、成虫になると花粉や樹液などを食べます。幼虫から成虫になると大顎で木をかみ砕いて外に出てきます。木から出てくる必要があるため、細い体をしていると考えられています。【参考:『学研の図鑑 LIVE 昆虫』(学研プラス)】


※写真のカミキリムシは「シロスジカミキリ」

カミキリムシもさまざまな種を捕まえてきましたが、「オニホソコバネカミキリ」という種が印象的でした。北海道から九州まで日本全国に分布していますが、なかなか出会うことのない珍しい種で捕まえるのに3年もかかりました。ハチに擬態したかっこいいビジュアルなんですよ。

オニホソコバネカミキリ:体長は16.5㎜~34㎜。成虫は7~8月に、クワやケヤキなどの木に見られる(牧田 習さん提供)

北海道のみに生息する珍しい昆虫

北海道大学にいる間は、北海道のみにしか生息しない虫もたくさん採集しました。例えば「ルリヒラガタカミキリ」。針葉樹(スギ・ヒノキ・マツなど)を食する瑠璃色の平たい虫で、すごくかわいらしいビジュアルをしています。夕方に活動し始める昆虫で、個体数がそれほど多くはないので出会える確率も低いんです。

前回の記事で紹介した「オオルリオサムシ」、「ジャコウカミキリ」なども捕まえましたね。

昆虫ハンター・牧田 習/昆虫と共に歩んできた僕自身の話 【連載 好きが仕事になりました①】

寒い地域だと冬になると昆虫がいないイメージがあると思いますが、寒い季節でも活発に動く昆虫はいます。冬にしか活動しない理由としてはエサを巡る競争相手がいないこと、外敵が少ないことなどが挙げられます。川の近くなどで見られるカワゲラの仲間「セッケイカワゲラ」は雪が降っても飛びますし、ガガンボやハエの仲間も寒い時期に飛ぶ種もいます。


ガガンボ:“蚊”の仲間だが吸血する蚊とは違い、主に花の蜜を吸う。稲の根を食べる種は、害虫として知られる

ここまでいろいろな昆虫を紹介してきましたが写真のないものはぜひ、図鑑やインターネットなどで実物の写真や生態を観察してみてください。

牧田 習が通った昆虫スポット

国内にいながら昆虫採集でなくとも、一度にたくさんの昆虫を目にすることができるのが博物館や昆虫館。

博物館って2種類あると思うんです。世界中のいろいろな虫を展示している国立科学博物館のような施設と、地域密着型の昆虫を展示している施設。どちらにもそれぞれ良さがありますが、日本の博物館は展示がとても丁寧で、分かりやすいと思います。すごく貴重で素晴らしい物でも、海外では展示が雑な場合も少なくありません。

ここでは、僕が子どもの頃から慣れ親しんだ博物館を紹介しましょう。

兵庫県立 人と自然の博物館(兵庫県)

僕がよく通っていた博物館、通称「ひとはく」は日本最大級の公立博物館。世界中の昆虫標本が理解しやすく展示されているのが魅力です。広く総合的な展示なので、昆虫に詳しくない人や子どもも分かりやすいのではないでしょうか。小学生向けのイベントやワークショップ、セミナーなども豊富なので、1日中いても飽きません!

常設展示では、日本有数の昆虫標本収集家である江田 茂氏寄贈の27万点にも及ぶ昆虫コレクションや、兵庫県生息の昆虫標本などが見られます。実際に手に取り、間近で見ることができる標本が多いのも特長です。

橿原市昆虫館(奈良県)

地域密着型の施設で、奈良県に生息する昆虫を詳しく展示しています。生態展示室や飛び回るチョウが見られる放蝶温室、古生代から現代までの生物の進化の歴史を辿る「生き物タイムトンネル」など、聞いたり見たり、触ったりできる仕組みも盛りだくさんです。

サイトで見られる、昆虫館で飼育している虫たちの飼育日記も楽しいですよ。

最後に、昆虫と人間の共通点と相違点についての僕なりの分析を紹介しましょう。

人間で良かった…昆虫の世界はシビア!

人間は社会性のある動物ですが、昆虫の中にも、群れで生活する働きアリやミツバチ、スズメバチのような社会性のある昆虫もいます。人間社会では大きい集団になるとさまざまな個性が出てくるものですが、それは昆虫も同じ。例えば働きアリを100匹観察してみると、必ず働かないアリが一定数存在するんです。集団の中で違った個性の個体がいても、人間社会ならばみんなで仲良くやろうと考え個性を認めることを試みますよね。でも、昆虫は人間よりずっと寿命が短い。それゆえに子孫を残すこと・食べることという本能的な部分が第一です。したがって、そういった個性の強い昆虫は淘汰される、つまり集団の中で生きていくことができなくなってしまうんです。

“仲間外れ”の概念も、人間とは事情が異なります。カブトムシなら角が短いオスが角の長いオスにいじめられますが、それは見た目ではなく繁殖するための勝負であり強いオスでないと子孫が残せない、つまりこれも本能的な部分に依拠しています。

けれど、社会性のある昆虫のすごいところは、自分よりも集団を大切にすることじゃないでしょうか。人間は協調性、人への配慮はするけれど最終的には自分、“個”が大事ですよね。ミツバチの場合は外的に対して捨て身でぶつかっていきます。自分より巣を大切にしているんです。川を渡って分布を広げるヒアリは、個体同士がくっついて移動します。その間に川に落ちてしまう個体もいますが、群れの分布を広げることが第一なんです。

さまざまな昆虫の生態を観察すると、僕たち人間も学ぶところはたくさんあるんですよ。

まだまだ僕が伝えたい昆虫はたくさんいますが、それはまた今度の「虫の雑学」でお伝えしましょう! 春真っ盛り、これから多くの虫たちが活動を始めます。ぜひ親子で昆虫との出会いを楽しんでくださいね。

<構成・執筆>濱岡操緒

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牧田 習

昆虫ハンター。1996年、兵庫県宝塚市生まれ。オスカープロモーション所属。2015年北海道大学 総合教育部入学後、理学部に転部。特技は三線、小学5年生時に取得したダイビングのライセンス資格を所持。現在、昆虫ハンターとして「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)水曜レギュラー出演の他、「3度の飯より昆虫が好き」(WEBザテレビジョン)にて現在連載中! その他、 テレビやラジオなど各メディアでも活躍中。2020年4月から東京大学大学院に在学中。

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