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2019.11.19

昆虫ハンター・牧田 習/昆虫と共に歩んできた僕自身の話 【連載 好きが仕事になりました①】

北海道大学理学部4年、来年の4月からは東京大学大学院に入学予定の牧田 習さん。幼少期から好きだった昆虫を追求し続け、昆虫ハンターとしても活躍しています。保護者の中には「子どもが昆虫好きで”好き”を共有したいけれど、自分は苦手」という人も多いのではないでしょうか。牧田さん連載「好きが仕事になりました」では、昆虫を通して親が子どもと関わるヒントになる情報、子どもに教えたくなる昆虫の知識などを紹介。第1回目は、牧田さん自身がこれまで歩んできた昆虫ライフ、幼少期からこれまでの道のりについてお話してもらいます。親だけでなく、ぜひ子どもと一緒に読んでみてください!

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はじめまして。昆虫ハンターの牧田 習です。今回からスタートする「好きが仕事になりました」では昆虫好きの方、昆虫好きのお子さんがいる親御さんだけではなく、昆虫が苦手という方にも興味を持ってもらえるような内容を提供したいと思っています。ただの昆虫トークではなく親子で共有できるようなテーマ、昆虫を通して広がる世界を伝えていければと思っています。

一つのことにしか取り組めない。それが僕の場合“昆虫”だった

僕が昆虫好きになったきっかけは、3歳の時に祖父が持ってきてくれたミヤマクワガタとの出会い。人間以外の生き物、ロボットでもないのに動いているということに感動したんです。「どうして動くんだろう? すごい!」って。そこから祖父が虫捕りに付き合ってくれてクワガタムシ・カブトムシ・バッタ・カマキリなど身近な虫を捕まえる生活が始まり、どんどん夢中になっていきました。

昆虫に夢中になってから、生活がガラリと変わりました。全てが虫中心。もちろん、学校でも“この問題が終わったら遊んでいいでしょ”と先生に許可を取り、小学生の時は校内にあるビオトープでずっと虫捕り。皆が授業を受けている間、校長先生と虫の話をしていることもあったしある意味、学校公認だったのかもしれません。

虫捕りに友達を誘うということはなくて、虫と向き合う時はいつも一人でした。自分が楽しいと思うことを他人が楽しいと思うとは限らないし、その逆もしかり。“自分は自分、他人は他人”と思っていました。家族も祖父以外は昆虫が苦手だったんですが、そんなことも気にしていませんでしたから。

また、両親がせっかく遊園地に連れて行ってくれても、乗り物に乗らず虫探し(笑)。何と言われようと好きなものは好き、興味がないことに関しては一切スルーで「自分がしたくないことは絶対にしない」というポリシーがあったんです。基本的に両親も「好きなことをしたらいい」というスタンスで、昆虫ばかりに熱中していることに対して何も言わなかった。いま思えばとても理解のある両親ですよね。

僕は、基本的に何か一つのことに集中すると他のことに目が行かなくなるくらい執着してしまう性格なんです。全てを完璧にできる人っていっぱいいますけど、自分はそんなに器用な人間じゃない。自分の好きなことを極めるのが一番ラクだし楽しいと思って生きてきました。昆虫以外だと算数の計算にハマった時は、解き始めたらそれ以外のことは何日もしない。家族旅行で訪れた沖縄では三線の魅力に引かれて夢中で練習、コンクールで受賞するまで腕を磨きました。

全てのモチベーションは“昆虫”がきっかけに

小学6年生からは私立中学受験のために入塾しましたが、「偏差値の高い学校に行きたい」といった野望のようなものはなく「自分が入学できるところでいい」という程度でそれほど勉強に熱中するということはありませんでした。中学に入学してからは中高一貫校で高校受験がなかったということもあり再び虫捕りに集中、この頃から標本作成にも取り組むようになりました。もちろん、昆虫とばかり向き合っていたわけですから学校の成績は下がりました。両親には「次のテストで〇点以下だったら虫を取り上げるよ」と言われましたが、中学生にとって大学は遠い未来のことだし勉強に対するモチベーションが湧いてこないんですよね。

でも、高校に入ると何となく大学や将来のことも考えなきゃならない。大人になってただ虫を捕るだけでは生活できませんからね。“今の虫捕り中心の生活”を将来につなげるものとして考えたのが北海道大学への進学。なぜなら中学・高校時代に日本中、虫捕りの旅をしたのですが北海道での虫捕りが一番楽しい経験だったんです。“オオルリオサムシ”というものすごくきれいな虫を捕まえたことがあって「もう一度会いたいな。北海道で虫捕りがしたいなあ」って思ったんです。

しかも、これまで昆虫好きを共有できる友達がいなかったのですが北大には「昆虫研究会」というサークルがある! ここなら虫好きの友達が初めてできるんじゃないかと思ったのも北海道大学を選んだ理由のひとつです。両親には「やっとスイッチが入ったか」と言われましたが、勉強が嫌いだったわけではなく虫捕りに忙しかっただけ。“北海道で虫捕りをする”という気持ちが勉強へのやる気スイッチだとは思ってもいなかったんじゃないでしょうか(笑)。

大学入学後は、再び昆虫漬けの生活。そもそも、北海道に住んで昆虫を探すことが目的でしたからね。でも、初めて知り合いの全くいない土地での生活がスタートしたわけですから戸惑いはありました。中高6年間、同じ仲間と過ごしてきたということもあり、知らない人だらけの知らない土地にポンと放り込まれた感じがして…。環境の変化への不安もあって大学にはあまり行かず昆虫採集ばかりしていたら、大学1年の4月の時点で既に留年が確定してしまいました(笑)。

提供:牧田 習

北海道大学に進学するきっかけとなった「オオルリオサムシ」は、北海道特産種。夜行性で日中に出会うのもなかなかない珍しい虫で、緑や青に輝く様がとても美しい。

留年という逆境が将来のビジョンにつながった

世間一般的に言えば留年は挫折になるのかもしれませんが、僕はそうは思わなかった。だったらその1年を使って外国に行こうと思い立ち、ワーキングホリデーを利用してフィリピンへ旅立ちました。語学学校に入学して勉強、それ以外は虫捕りの日々。

半年くらいフィリピンに滞在した後、ニュージーランドへ移動。フィリピンよりお金がかかるので日本食レストランで2週間ほどアルバイトをしてお金を貯めながらニュージーランド全土を巡りました。そこでオークランド大学の昆虫学者に出会い、大学の研究室のデスクを貸してもらって昆虫の研究や英語での論文の書き方を教えてもらったこともありました。ニュージーランドで新種の昆虫を発見した後、論文発表までたどり着けたのはこの出会いのおかげです。

その後、日本に戻って再び大学生活に戻った時には将来のビジョンも明確に見え始めていました。「いつかは世界中を飛び回れるような昆虫学者になりたい」と。

北海道大学では2年次に専攻が決まります。昆虫を研究するなら農学部や理学部の生物科が一般的なのだと思いますが、僕は理学部の数学科を専攻しました。人とは違った視点で昆虫を研究したいと思ったんです。昆虫と数学って全く関係ないように思うんですが、人間も昆虫も生物という構造物なので、数式で表すことができるんです。

2020年4月からは東京大学の大学院生になります。僕の夢は教授や研究職というポジションではなく、ただただ好きな虫を捕っていたいだけ。生きていける程度のお金がもらえる身分でいられたら自分的には満足です。

たかが虫、されど虫。

昆虫という一つのものからいろいろな出会いや経験、発見をすることができました。僕の世界を広げてくれたのが、昆虫です。図鑑に載っている虫は世界に存在する虫の中のごく一部。多くが図鑑に載っていない名前のない虫だったり、まだ見つけられていない虫だったりなんです。

一生を費やしても、一人では全ての新種を発見することは難しいでしょう。だったらより多くの人に昆虫の魅力が伝えられればと始めたのが昆虫タレントとしての芸能活動です。メディアを通してたくさんの人に昆虫のおもしろさを伝えて、昆虫を探す仲間が増えていってくれたら本望です。

<取材・執筆>濱岡操緒

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牧田 習

昆虫ハンター。1996年、兵庫県宝塚市生まれ。オスカープロモーション所属。2015年北海道大学 総合教育部入学後、理学部に転部。特技は三線、小学5年生時に取得したダイビングのライセンス資格を所持。現在、昆虫ハンターとして「猫のひたいほどワイド」(テレビ神奈川)水曜レギュラー出演の他、「3度の飯より昆虫が好き」(WEBザテレビジョン)にて現在連載中! その他、 テレビやラジオなど各メディアでも活躍中。2020年4月から東京大学大学院に在学中。

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