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2019.12.26
2020.08.22

児童精神科医が回答/能力差に悩む兄弟には、親から子へのアプローチを見直してみよう

周りの人には相談しづらいこと。保護者だけで抱えて悶々としてしまう悩み事。そんなことがどんな家庭にもいくつかあるのではないでしょうか? そこで、今回から始まるのが「専門家が答える 親子の悩み相談室」。第1回目の質問は、兄弟間トラブルと親の接し方について。“まえまえ先生”こと児童精神科医の前田佳宏医師が、さまざまな悩みをサポートします。

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【今回のお悩み】

年子の兄弟(小5・小4)の母です。最近、学業、運動神経、社交性の何をとっても弟のほうが優秀ということに気付いた兄が消極的な姿勢を見せたり、自分を卑下したりするようになってきました。親として兄弟を比べる発言はしないようにしていますが、弟は兄の変化に気付き、できるだけ自分が目立たないように、全力を出さないようにと気を遣っているようです。この状況が二人にとって良くないことには気付いています。今後、それぞれが自分らしく成長していくためには、親としてどう接すれば良いのでしょうか。

では、“まえまえ先生”こと児童精神科医の前田佳宏医師の回答を見ていきましょう!

視点を兄弟関係から親子関係にスイッチしよう

実は、心理学の中では兄弟間の話であっても兄弟の関係よりも親子(今回の例では母と子)の関係を重視します。相談者の方は、兄弟が互いに意識し合っていることも心配されていますが、まずは、親子間でのアプローチで兄弟それぞれの気持ちを変えていくことを考えていきましょう。つまり、兄弟間で心配事を解決するのではなく、親と兄、親と弟という関係の中で改善を目指していくのです。

親と子の関係を見つめ直すために、まず知ってほしいのが、家族療法という心理療法のひとつです。

家族療法とは…

個人や家族が抱える困難や悩みを家族というシステムの中で解決に向けた援助を行っていこうとする対人援助方法論のこと。

国の文化や育ってきた環境によって、それぞれが思い描く家族の役割は異なります。例えば、長女として育てられた女性が女の子を産んだ場合、自分が背負ってきた長女としての役割・責任を同じように背負わせがちですが、その役割・責任が世界中の全ての家庭でまったく同じということはあり得ませんよね。

このように家族の誰か(多くは親)が、過去に体験された家族の役割や期待を現在の家族に当てはめることを家族療法では“投影”と言います。

これは、親と子、という役割でも同じことがいえます。親は親であろうとし、子どもに対して“わが子”としての役割と期待を求めます。そして、子どもは親の望む役割と期待に応えようとします。

今回の場合は、相談者自身が、まずは自分の中の家族観を見つめ直してみてください。子どもに対して無意識に役割を与えていたり、自分が親から受けてきたような期待を無意識にわが子に抱いていませんか? もし、抱いている場合はどんな期待をかけているか、自分自身の兄弟への思いを把握しましょう。

兄と弟それぞれが、どうして今のような行動をとっているのか、ヒントが隠されているかもしれませんよ。

小学4、5年生は自分の立ち位置を意識し始める世代

今回の相談では、兄が小学5年生、弟が小学4年生だと書かれていますが、10歳前後というのは、ちょうど周りが見えるようになってくる年齢周りと比べることによって自信を失いがちな時期です。学校という社会の中で自分はどんな立ち位置なのか? 勉強は? 絵の才能は? 運動能力は? さまざまな点で自分と周囲を比較し始めることでしょう。

この社会の単位は、家庭にも置き換えられます。親が求める役割や期待に関わることで子どもが自分と周囲を比べた場合、例えば、親が無意識に「勉強はできたほうがいい」と思っていたら、テストでなかなか100点がとれない兄は、100点のテストを持って帰ってくる弟と比べてしまい、家庭の中で自信をなくしていきます。極端な話かもしれませんが「この家族では認められない」と思って、家庭以外の場所に逃げたり、非行に走ってしまうかもしれません。

では、親はどうすればよいのか。次からは、相談者の家庭の兄と弟に分けてアプローチを解説していきましょう。

【兄へのアプローチ①】否定で終えずに認めること

親は子どもを認めて、自己肯定感を守ってあげるようにしましょう。例えば、結果と過程、行動と気持ちを切り離して認めてあげるのです。


子どもがテストで頑張っても結果が出なかったとき、「ダメだったね」とだけ言うと、子どもは「自分はダメなんだ」という認識になってしまいます。

しかし、「結果はダメだったけど、(気持ちは)がんばろうとしたんだよね」と子どもを認める言い方に変えたり、「がんばったのに残念だったね」と同じ立場に立った言葉かけをしたりして、「せっかくのがんばりをどうすれば点数に結びつけられるのか」ということを子どもと一緒に考えるのもいいですね。

また、子ども自身が自分を何で評価しているかは、親からしたら「そんな事だと思わなかった」という場合もあります。診療でさまざまな子どもの話を聞いていますが、なかには、自分の気持ちを話すことで“お母さんの自分に対する評価が変わってしまうかもしれない”、“迷惑かけちゃうかもしれない”と親に本音を話せない場合もあります。

子どもの本音が知りたいなら、まずは、お母さんから「あなたは〇〇に対して〇〇という気持ちなのかなと思っていて、そのことに対してお母さんは△△だと思っているよ」と胸の内を話してみるのはひとつの方法です。そうすると子どもは「お母さんはそういう風に思ってくれるんだ。自分のことを考えてくれるんだ」と思い、安心して自分のことを話しやすくなります。

【兄へのアプローチ②】自己肯定感を保てる言葉がけを

相談に出てくるお兄さんのように自信がなくなっている子どもへ声をかけるなら「結果や行動に左右されずに、自分は自分で居ていいんだ」という自己肯定感をもたせることを念頭に置いてほしいですね。「苦手なものがあっても、それであなたの価値は変わることがない」「得意・不得意なことがあるからといって、あなたに対する見方は変わらない」ことを伝えましょう。

あと、「チャレンジすれば自分の成長につながるんだ」という自己効力感を持ってもらえるよう「チャレンジしているあなたが成長していくところをちゃんと見ているし、応援をしているよ」と伝えるのもいいですよ。「チャレンジするのはすごいね。しかも苦手なことにチャレンジするのは、すごいことだよね」と伝えることで「自分はチャレンジしていい(人間な)んだ」「チャレンジするだけでも大事なことなんだ」と考えていけるようになっていきます。

もし、親の言葉をひねくれて捉えてしまうタイプの子には、「いいね」「すごいね」という言葉より、「ありがとう」と感謝を伝えてみてください。「あなたがチャレンジしていることが、お母さんはうれしいよ。ありがとう」と伝えるんです。

今、目の前のことをがんばるということは、よりよい将来につながっていますよね。そうやって将来に向けてがんばっている姿を見ているのがうれしい、見させてくれてありがとう、という思いは、子どもからは否定できないあなたの感情なので素直に受け取りやすいと思いますよ。

【弟へのアプローチ】抱えている荷物をもらってあげる

一方、自分の能力を抑えているように見える弟に対しては、お兄ちゃんと同じように本音を聞き出したうえで「家族を大事にしたいという気持ちをもってくれている、気遣ってくれていることをお母さんは分かっているよ」ということを伝えられるといいですね。「協力してくれてありがとう」「家族を気遣ってくれてありがとう」という感謝も伝えましょう。

今回のケースでは、弟が「兄のケアをしなきゃいけないんじゃないか」と思ってがんばっている傾向があります。そういう場合は「お兄ちゃんに関しては私たちがケアするから大丈夫だよ」「お兄ちゃんに対してあなたが無理してがんばらなくていいんだよ」「お母さんがいろんな人と相談しながらケアしていくからね」ということを伝えていいと思います。

「あなたがイキイキとやりたいことをやって、自分の才能を伸ばしていくことをお母さんはうれしいと思っているよ」ということをハッキリ言ってあげてほしいですね。

この先、高校、大学受験など兄弟間の格差が表に出てくることが必ずあります。今回は弟が気を遣っていましたが、兄が弟をいじめるようなケースもあります。しかし、共通して言えることは、兄弟間のトラブルは親の管轄であるということ。兄弟のどちらかがそこに対し過剰なケアをしなくてもいいということを伝えることが大事です。

それぞれが自信をもって成長していくために

兄弟から話を聞くときは、別々に時間をつくってそれぞれの話を聞きましょう。家の中だと話しずらいのであれば、カフェなど特別な場所に連れ出すのもいいですね。

また、その場にいない兄弟のことを話すときには、言い方に気を付けましょう。例えば、親が「お兄ちゃんはダメな人だから」と話すと、弟は「(お兄ちゃんを)ダメと思っていいんだ」と認識してしまいます。「どちらも私の子だから大事にしたいと思っている」というスタンスで話してくださいね。

家族という組織の中で兄弟が互いを意識し、比べてしまうのは自然なことです。ただ、どこかの面で優劣がついたからといって、どちらも親にとって大切な存在であることは変わらないという姿勢を子どもたちに見せることが大切です。

また、今回の悩みをきっかけに、兄弟それぞれとの親子関係を見直すことは、兄弟の将来にもいい影響を与えていけるかもしれません。

できないことがあると「ダメな子」と言われて育った子は、社会に出たときに「自分はこれもダメだし、あれもダメだ…」「自分が認められるはずがない」と自分を卑下してしまいがちです。

しかし、子どもの頃に家庭の中で「自分はできないこともあるけど、がんばって挑戦することはいいことだし、挑戦を続けることが自分の成長につながる」ということを知っている子は、社会に出て壁にぶつかったときに「今の自分にはできないことだけど挑戦をしてみよう」と思えるようになっていきます。

ひとつの記事では伝えられることに限度があります。すべて解決はしないかもしれません。もし個別のケースで困りごとがあれば、子ども家庭支援センターなどの相談機関を利用することをおすすめします。

お子さんのことで悩むというのは、それだけお子さんのことが大切だからだと思います。その気持ちがお子さんに伝わりますよう私は応援しています。

<構成・執筆>ソクラテスのたまご編集部

下記の記事では、同じ質問に公認心理士の佐藤めぐみさんもアドバイスしています

公認心理師がアドバイス/デキる弟といじける兄。どうやって育てていけばいい? 

前田佳宏

前田佳宏

医師8年目の児童精神科医。通称まえまえ先生。精神保健指定医。HSP、発達障害、愛着障害などに悩む児童と大人の人々に日々向きあっている。認知行動療法、家族療法、マインドフルネスはもちろん、ポリヴェーガル理論を含めた身体心理学と内的家族システム療法をアレンジしたアプローチを好む。人生の悩みを相談しあえるっていいよねと言いあえるコーチング学習サロン『しなここラボ』を立上げ、価値を押し付けず問いを深めあう哲学対話『ゲーテカフェ』を主宰。カフェと旅と作品鑑賞が好き。LINE@:https://lin.ee/dY8flX HP:https://littleringed.org

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