2020.01.15

公認心理師が教える/能力差に悩む兄弟への親の接し方【連載① 専門家が答える 親子の悩み相談室】 

周りの人には相談しにくいこと。保護者だけで抱えて悶々としてしまう悩みごと。そんなことがどんな家庭にもいくつかあるのではないでしょうか? そこで、今回から始まるのが「専門家が答える 親子の悩み相談室」。子育て心理専門の公認心理師で自身も一児の母である佐藤めぐみさんがさまざまな悩みをひもとき、出口へとやさしく案内してくれます。

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【今回のお悩み】
年子の兄弟(小5・小4)の母です。最近、学業、運動神経、社交性の何をとっても弟のほうが優秀ということに気付いた兄が消極的な姿勢を見せたり、自分を卑下したりするようになってきました。親として兄弟を比べる発言はしないようにしていますが、弟は兄の変化に気付き、できるだけ自分が目立たないように、全力を出さないようにと気を遣っているようです。この状況が二人にとって良くないことには気付いています。今後、それぞれが自分らしく成長していくためには、親としてどう接すれば良いのでしょうか。

 

 

背景に見えるのは日本人特有の「自己観」

お母さんご自身がお子さんたちを比べる発言はしないよう心がけてきた分、余計にどう改善していったらいいのか悩まれていると思います。ここではまずはじめに、日本人特有の「自己観」が影響しているということから説明しましょう。

 

心理学的に、日本人を含めアジア人と欧米人では自分の価値観の見出し方が違うといわれています。

 

【アジア人が持つ「相互協調的自己観」】
“仲間の中にきちんと納まっていることを良しとする”考え方。自分が他者としっくりなじんでいることに自分の価値を見出します。

【欧米人が持つ「相互独立的自己観」】
自分らしさがあることを良しとする考え方。他者とは違うユニークな自らの特性に自分の価値を見出します。

 

自己観は、色で表現すると分かりやすいでしょう。“一つの輪にさまざまな色が混在してうまくいく”と考えるのが欧米人が持つ「相互独立的自己観」。その子の持つ特色が全く違っていても仲間でいられると考えます。一方、アジア人の持つ「相互協調的自己観」では“輪の中では他者と同色系でありたい”と考えます。身近なところでいうと、日本人は流行の物、皆と同じ物を持ちたがる傾向がありますよね。

 

相互協調的自己観、相互独立的自己観のどちらが良いというのはありません。ただ、この自己観ゆえ、日本人は“他者の鏡”に映る自分を見て、自分を捉えることが多いんです。「みんなと一緒」を良しとするあまり、違いに対して非常に敏感になってしまう。つまり、兄弟間においても日本人特有の自己観が大いに影響し、お互いの違いを意識してしまうと考えられます。

 

私はヨーロッパに住んで20年くらいになりますが、日本人と欧米人では考え方が違うなと普段から感じます。例えば、ママ友同士の会話。日本人の場合「お宅の〇〇ちゃんは算数がよくできるね。うちの子は算数が苦手で…」とまずは相手を褒めて評価することから入り、わが子の苦手なことに目を向ける。欧米では個々は違うものという前提があるので、子ども同士を比較するような会話が少なく、たとえ苦手なものがあっても、それを克服する以上に強みや得意なことを生かせばいいという発想があるように感じます。

 

子どもたち自身も同様に、自分ができないことばかりに気持ちを向けず、好きなことや向いていることに力を注ぐので、日本の子よりも楽観的に物事をとらえている印象があります。

 

つまり、兄弟間の差に悩むというのは親の接し方以前に日本人が持つ特有の自己観=「相互協調的自己観」が影響している部分も大きいといえるでしょう。

 

 

 

 

<違う専門家の見解はコチラ>
児童精神科医がアドバイス】デキる弟といじける兄。どう育てていけばいい?

 

 

兄の自己肯定感の低さは親の接し方だけがベースではない!

親が比較しないように気を付けているにも関わらず、兄が劣等感を抱いてしまう。その場合、親以外から受けている影響も大きいのではないかと考えられます。

 

「相互協調的自己観」により日本人は“他者を鏡にして自分を見る”、つまり“他者の鏡を見て自分の立ち位置を決める”傾向にあります。他者というのは3歳までは主に両親なわけで鏡は多くても3~4個。しかし、小学校に入れば自分を映してくれる鏡は一気に増えます。“A君の鏡に映った僕”、“B君の鏡に映った僕”。皆が自分のことをどのように見ているのかが、自分の評価につながります。

 

今回の兄弟間のお悩みは日本の思想、社会全体の比較の文化というものが家族間で起こっているという印象を受けました。日本人の良さの一つとして協調性の高さが挙げられますがその分、“個性”がいじめや偏見の対象になるということがあります。人との違いに敏感なため、“輪からはみ出す”ことに不安や恐怖を抱く人も多いんです。

 

小学5年生ともなると家庭以外、友達や教師、近所の人など、外から受けた影響も多大にあるでしょう。したがって、家庭でのフォローに加え学校に相談してみるのも一つの手段だと思います。どこまでケアしてくれるは学校や先生によっても違うかと思いますが、「そういうことを気にしている」と認知してもらうだけでもいいんです。何も言わないと気が付いてもらえない場合が多いので、多くの人を味方につけるという意味でも、学校に状況を相談してみるのも良いのではないでしょうか。

 

 

 

 

子どもを褒める時は“人間の強み”を評価しましょう

親ができることとして、まずは自分を卑下してしまっているお兄さんのフォローアップを行いましょう。例えば子どもを褒める時、テストの点数や成績の順位などで評価するといったことはないでしょうか。数値で可視化できるものは目に留まりやすいため、褒めたり叱ったりする対象になりがちです。しかし、そうすると子どもの中に物事の良し悪しを数値で判断する癖が身につきやすくなってしまうのです。

 

親は“質”の部分、努力を褒めてあげましょう。テストで良い点数を取ったのなら“点数そのものではなく、なぜ高得点が取れたのか”という過程を褒めることが良いといわれています。成功に至った努力、心理学的に言われている“人間の強み”に注目します。

 

人間の強みとは“数字に強い”、“漢字をよく知っている”といった能力的なもののことではありません。協調性や誠実さ、正直な性格といった内面、人間の質的な部分の強さを指します。そういった強みはお兄さんもたくさん持っているはずなので、彼の質的な強みに注目してあげてください。

 

また、「あなたがいてくれるだけで私たちはうれしい」という存在自体を肯定してあげましょう。親も子も存在することが当たり前になってしまい、“そこにいてくれること”の幸せを忘れてしまいがち。原始的な部分、生きていてくれるだけで良かったという気持ちはその子の存在を全肯定している状態ですので、そういう感覚をもう一度見直してみることも大切ですね。

 

次に弟さんへのフォローアップについてですが、その状況によっても対処は変わってきます。

 

  1. 弟さんがお母さんに「お兄ちゃんに気を遣って、全力が出せない」とハッキリ伝えている場合
    この場合は、「気にしなくていいんだよ」と言ってあげてください。

  2. 親が何となく感じているが弟さんから何もメッセージを受け取っていない場合
    もしかすると親にそう見えているだけという可能性もあるので、この場合はあえてお母さんから弟さんに何か伝えるということはしない方が良いでしょう。

 

ただし、遠慮して自分の力を発揮できないというのはもったいないので、弟さんに対しても可視化できるものではなく頑張っている過程など質的な部分を褒めるように普段から心掛けてください。

 

 

 

 

子どもの変化に気が付くのは素晴らしいことです

カウンセリングをしていると「きょうだいには100%、平等でいなきゃ!」と思っている親が非常に多いと感じます。でも、親も人間。「上の子が反抗期だから、素直な下の子の方がかわいく思える」「上の子の受験勉強に付き合って、下の子に構ってあげられなかった」など、きょうだいの一方に意識が傾くのはよくあることです。

 

大切なのは、そのことに親自身が気が付くこと。どんな時も平等にと思っていると苦しくなっていまいますが、一つひとつの出来事に向き合おうとする気持ちが大切なんです。親だけで悩み、向き合うのが難しいという時は学校の先生やママ友、仕事仲間、カウンセラーなど、セカンドオピニオン的に他者の意見も聞いてみてだくさいね。自分だけでは気が付かなかった別の視点やアプローチ法に気が付けることもありますから。育児においては、何となく目をつぶってやり過ごすのではなく、気づいた段階の介入が大切です。

 

お母さんはきっと、自分の接し方に問題があったのではないかと悩んでいるかもしれません。しかし、日本人が持つ「相互協調的自己観」というものが前提にあるということ、子ども自身の自己評価は親だけではなく周りからの影響も多大にあるということは覚えておいてくださいね。そして、お母さん自身が自分の接し方を振り返り「大丈夫かな?」と気にかけるのはとても素晴らしいこと。フォローの第一段階、子育てを見直すということができているんですから。

 

 

 

 

<違う専門家の見解はコチラ>
児童精神科医がアドバイス】デキる弟といじける兄。どう育てていけばいい?

 

佐藤めぐみ

佐藤めぐみ

公認心理師、オランダ心理学会認定心理士。欧米の大学・大学院で心理学を学び、「ポジティブ育児メソッド」を考案。現在は公認心理師として、育児相談室・ポジカフェでの心理カウンセリング、ポジティブ育児研究所での子育て心理学講座、メディアや企業への執筆活動などを通じ、ママをサポートする活動を行う。ドイツ在住。中学生の娘の母親として子育てにも奮闘中。

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