教育は未知にあふれている

ソクラテスのたまご

2019.10.17

わずか53ページで学ぶ教育社会学。日本の教育・仕事・家族の特殊な相関関係とは?

編集長の本棚、第5回は『社会を結びなおす 教育・仕事・家族の連携へ』をご紹介。
「なんとなく将来が不安」「ずっと仕事がんばってるのに一向に楽にならない」「引きこもりや不登校が増えている」など、日本社会全体を取り巻く閉塞感の正体は何なのか。本書は、教育社会学の観点からその原因を分析しています。
日本特有の社会のカタチを理解することが、もしかしたらあなたの教育観が変わるきっかけになるかも…。

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教育社会学者が解き明かす、社会の根深い問題

前回の記事(『教育問題はなぜまちがって語られるのか?』 “わかったつもり” がいちばん危ない!)で、
教育社会学の入門書としておすすめの本を取り上げましたが、この流れでもう一冊、教育社会学に関する本をご紹介させてください。

 

今回の本の著者は、東京大学大学院教育学研究科教授の本田由紀さん。
専門は教育社会学で、教育・仕事・家族という3つの社会領域間の問題を主に研究されている方です。


・「家庭教育」の隘路 ― 子育てに強迫される母親たち
・軋む社会 ― 教育・仕事・若者の現在
・教育の職業的意義 ― 若者、学校、社会をつなぐ

 

など多くの本を執筆されており、僕も何冊か読ませてもらいました。
さまざまなデータを用いて教育とその他の社会との関係が深く分析されていて、とても勉強になる本ばかりです。

 


その中から今回おすすめするのは、

『社会を結びなおす 教育・仕事・家族の連携へ』


なぜおすすめかというと、

たったの53ページですぐに読めてしまうのに、ものすごく濃い内容で一気に賢くなったような気持ちになるから。笑

 

 

日本人の幸福度が低いのはなぜか?(世界幸福度ランキング2019、日本は過去最低の58位)

仕事も家庭も学校も問題だらけなのはなぜか?


その原因のひとつに、“社会構造上の根深い問題”があることをこの本は教えてくれます。

 


ここでは、本の概要について(ネタバレしない程度に)簡単に紹介させてもらいますね。

 

 

日本特有の社会モデル「戦後日本型循環モデル」とは

教育・仕事・家族という3つの異なる社会領域は強固に結びつき循環している、と本書は述べています。

それが、高度経済成長期およびバブル崩壊までの安定成長期にかけて長年定着した日本社会特有のカタチ、「戦後日本型循環モデル」です。

 

※以下が、戦後日本型循環モデルの概念図

 

 

 

教育・仕事・家族という3領域をつないでいる要素を簡単にまとめると、それぞれ以下のとおりです。

 

「教育」⇒「仕事」をつなぐ要素

・新卒一括採用
・高い若年労働力需要
⇒いい成績を取っていい大学に入れば、いい会社に就職できる

 

「仕事」⇒「家族」をつなぐ要素

・長期安定雇用
・年功序列による賃金上昇
⇒長く勤めることで安定して賃金も上がり、安心して家族を養うことができる
 ※社会保障が不十分なため、家族をつくるには仕事による賃金が不可欠

 

「家族」⇒「教育」をつなぐ要素

・教育費への投資
・教育意欲(主に母親)
⇒子どもの将来のために、学校や塾などに多大の費用を注ぐ
 ※社会保障が不十分なため、質の高い教育には家庭からの支出が必要

 

 

このような価値観の循環が、社会を実質的に「まわして」いたと言えます。
これは日本以外どこの国にも存在しないモデルだそうです。

 

 

「戦後日本型循環モデル」の問題点

政府が多大な財政支出をおこなわなくても、ある意味「勝手に」循環してくれるわけですから、

一見とても理想的な社会モデルのように見えるかもしれませんね。

でも実際は、それぞれを結ぶ関係があまりに「太く堅牢になりすぎた」がために、さまざまな問題が生じるようになります。


例えば、教育においては、
「いい成績を取って、いい高校や大学に入って、いい会社に入る、そのために勉強する」という価値観が当たり前になることで、受験戦争の激化・早期化、落ちこぼれ・吹きこぼれ、競争のストレスからくる不登校などが生じました。

 

また、仕事においては、
「妻と子を養うためには、会社に従って働き続けなければならない」という状況に置かれるようになり、その結果、「社畜」や「過労死」といった言葉も生まれました。


本書は、「戦後日本型循環モデル」の特性・問題点を以下のようにまとめています。

高度成長を遂げる仕事の世界は教育機関から毎年毎年吐き出される新規学卒者を利用し、サラリーマンの夫、家庭を支える妻、ほぼ二人の子どもから成り、家制度から開放された近代家族は、仕事からの賃金収入によって全面的に支えられ、そして急激な高校進学率の上昇は家族の教育熱と出費なくしては不可能でした。
何かを最大限に活用することによって成り立つという事態は、その何かがなくては困る、つまりそれに強く依存しているということでもあります。
そのような、社会領域の一方が他方に強く依存するような関係こそが、戦後日本型循環モデルの中核的な特性なのです。

 

 

「戦後日本型循環モデル」が破綻した現在、新たな社会モデルは?

上記のとおり、互いに強く依存し合う関係だった「戦後日本型循環モデル」ですが、

令和の時代に生きる僕らは、すでにそのモデルは成り立たないことを知ってますよね?


まず変化したのが「仕事」の領域。
新卒一括採用の割合は大きく低下、代わりに非正社員が増えました。
正社員だとしても、長時間労働を強いられるのに賃金水準は低いというケースが目立つようになり、「ブラック企業」という言葉も生まれました。
いい大学を出たとしても家族を養えるだけの賃金を得られる保証のない時代です。

 

※以下、破綻した戦後日本型循環モデルの概念図

 

 

 


にもかかわらず、「男が働いて家族を養う」といった戦後日本型循環モデルの価値観だけは根深く残っています。

その結果、晩婚化・非婚化・少子化が進行・・・。
仮に家族を持てたとしても経済的に苦しい家庭も多く、教育格差が拡大・・・。

強い依存関係にあったからこそ、教育・仕事・家族の3領域すべてが厳しい状況に陥ってしまったというわけです。


では、僕たちは今後どういう社会に変えていく必要があるのか?


たったの53ページなので、結論まで全部まとめてしまいたくなりますが…
この先はぜひご自身で読んでみてください。

 

 

新しい時代を生きていくために

このように社会モデルについて俯瞰して考えた後、あらためて思うのは、

多くの人々が、「この生き方が正解だ」という社会の価値観を信じて、その循環にちゃんと乗ることにとらわれて生きてきたんだなあということ。

 

それって、もはや自分の意志で生きているとは言えないような気がしますよね…。

 

ただ、かく言う僕も「戦後日本型循環モデル」が残る社会の中で育ってきましたから、その価値観を少なからず持っていますし、そう簡単に拭い去ることのできない根深いものなんだろうと思います。


でも、そう遠くない未来、AIが世界を大きく変えてしまうと言われているように、
僕らの子どもは全く新しい社会を生きることになります。

 

子どもの足を引っ張らないために、僕ら親世代も古い循環から抜け出して価値観をアップデートしていく必要がありますよね。

 

間違っても、すでに破綻した「戦後日本型循環モデル」の価値観を子どもに押し付けることのないように…。

 

 

 

片岡 武志

片岡 武志

『ソクラテスのたまご』編集長。 小学生の娘を持つ父親。『ソクラテスのたまご』の運営を通して、我が子に関わる教育について日々学んでいる。 現在、書評コラム「編集長の本棚」を連載中。

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