教育は未知にあふれている

ソクラテスのたまご

2019.08.23

『教育問題はなぜまちがって語られるのか?』 “わかったつもり” がいちばん危ない!

編集長の本棚、第4回は『教育問題はなぜまちがって語られるのか? ~「わかったつもり」からの脱却~』を紹介します。
人が誰かに物事を伝えるとき、少なからず主観が混じってしまうことがあります。これはメディアに関しても同じで、TVや新聞、ネットの情報は必ずしも公平性のある事実のみが伝えられているわけではありません。特に「教育問題」は明確な正答がないため、みんな ”わかったつもり”で語ってしまいがち…。あなたも気づかないうちに間違った情報に振り回されているかも?

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教育問題と向き合うための入門書に

いきなりですが、教育問題に関してTVや新聞でよく報道されている以下のトピックをご覧ください。

 

・学校ではいじめや不登校がかつてないほど増えている

・学校の外では少年非行がどんどん凶悪化している

・親子のコミュニケーションが少なくなり、家庭の教育力が低下している

・「不適格教員」「指導力不足教員」が増えている

・子どもたちは心の闇を抱えて、もがき苦しんでいる

・海外の教育は進んでおり、このままでは日本は世界から取り残されてしまう

 

「うんうん、たしかにそうだよね。」…と思った方は要注意!

 

今回ご紹介する本によると、

これらはすべて、特に裏付けもないままメディアを通して世間に流布したイメージ。真実とは異なる、もしくはある一面だけを見ているに過ぎない、言わば「思い込み」なんだそうです。

 

 

今回ご紹介するのは、

『教育問題はなぜまちがって語られるのか? ~「わかったつもり」からの脱却~』

 

教育社会学者である広田照幸氏と伊藤茂樹氏による共著です。

 

教育問題と言うと、学力低下、いじめ、不登校、指導力不足の教員、体罰、モンスターペアレント、教育格差、・・・など挙げだすとキリがないですが、

この本には、「それらをどう解決すればいいか」について一切書かれていません。

 

そのかわり、すべての問題に共通する「教育問題との向き合い方」が書かれているため、これから教育について学びたい・考えたいと思っている人には強くおすすめします。

 

特に本書は、大学教授が書いたとは思えないほど(…失礼)平易な文章で、とてもわかりやすく教育問題の本質を学ばせてくれます。

教育社会学の入門書として最高の一冊ではないでしょうか。

 

どうして事実にゆがみが生じてしまうのか

前述のとおり、TVや新聞、ネットに流れている教育問題に関する情報・言説には間違いやゆがみが少なからず含まれているそうなのですが、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

 

本書では、人が教育問題と向き合う際の思考の流れを以下の3つの段階(レベル)に分け、それぞれに生じているゆがみを具体例とともに解説しています。

 

①【事実認識】のレベル(問題となっている事実はなにか)

②【診断】のレベル(問題点の本質や原因、影響をどう考えるか)

③【対策】のレベル(どういう方法で問題が解決・緩和できるのか)

 

その中でも特にページを割いて論じられているのが ①の「事実認識」についてなのですが、どうして事実認識にゆがみが生じるのか、その例を同書より少しだけ引用してご紹介します。

きっと思い当たるところがあるはずです。

 

メディアの報道

以下の図は朝日新聞のデータベースから「凶悪」と「殺人」2つのキーワード両方に引っかかった記事の件数と、実際におこった殺人の認知件数を示したものです。

 

 

 

 

「凶悪な殺人」に関する事件報道は非常に増加しているにも関わらず、殺人事件の数そのものは増えていないことがわかります。

メディアの報道は「良くないこと」「びっくりすること」をクローズアップする傾向があるため、それを日々見ている僕たちは問題が深刻化しているように錯覚してしまいます。

 

それと同様、「いじめ」の問題も多く報道されているからと言って増えているとは言えないそうです。

 

 

過度に一般化してしまう

例えば、毎年1月に「荒れる成人式」がニュースで取り上げられますが、実際に荒れている会場は全国のごく一部ですし、騒ぎ回る人はさらにその中のごく一部です。にもかかわらず、いいかげんな評論家が「今の若い人たちのモラルは・・・」と過度に一般化したコメントを流してしまうことがありますよね。

 

このように、ごく一部の問題を全体の問題(誰にでも起こりうる問題)として思い込まされているケースが往々にしてあるようです。

 

 

過去を美化してしまう

「昔の学校は生き生きとしていた」「昔の先生は偉かった」「昔は家庭のしつけがしっかりしていた」「昔は暖かい家族の情緒的つながりが強かった」・・・さらには、「幕末の人は偉かった」「明治人は気骨があった」など。

 

僕らのまわりの諸先輩方だけでなく、政治家や評論家さえも過去を美化していることに気づかず語ってしまいがち。

誰しも過去のことは美化して思い出されやすいものですが、それにより事実を誤って評価してしまうと、その後の解決策もズレたものになってしまいます。

 

若い頃は「昔はよかった話」にうんざりしていたはずなのに・・・歳を取るとついつい語りたくなってしまうのはどうしてなんでしょうね。おじさんたちは十分に気をつけたほうがよさそうです。

 

 

ここでは3つだけご紹介しましたが、その他にもさまざまな内的要因・外的要因により、【事実認識】が誤っていたり、その原因の【診断】にゆがみが生じたり、的外れな【対策】が講じられてしまうことがよくあるとのことです。

 

 

教育問題についてもっと具体的に知りたい方へ

冒頭でお伝えしたとおり、本書は「教育問題との向き合い方」についての本ですが、

読み進めるうちに教育問題への興味が刺激されて、より具体的な疑問が湧き上がる方も少なくないと思います。

そんな方のために、最後にブックガイドが付いていて、教育問題のテーマごとに著者おすすめの有益な本がたくさん紹介されています。

 

<紹介している本のテーマ>

・問題行動(いじめ、不登校、少年犯罪)

・学力問題

・格差社会、貧困と教育

・若者論

・教育問題をどう考えるか、教育改革

 

著者によると、

 

実は教育問題を扱った本には、かなりクズ本が多いといえます。専門家の目から見て、中身がスカスカの本もある。それよりも悪質なのが、著者自身の見方がゆがんでいたり、情報をゆがめて伝えるような本ですね。

 

とのことですので、ゆがんだ情報に振り回されないよう、ぜひこのブックガイドも参考しながら次の一冊を見つけてみてください。

 

 

おそらく皆さんが教育に関する本を手に取るときは、

子育てに悩んだり子どもの将来について考えたときにその答えを求めて、というケースが多いかもしれません。僕もわりとそうです。

 

ただ、子どものためだけじゃなく、もっと純粋な興味から「教育問題」について考えてみるのも楽しいんじゃないでしょうか。

 

知れば知るほど疑問が湧いてきてはっきりとした答えにはなかなかたどり着かないのですが(笑)、社会問題のひとつとしてその原因や解決策を考えていると楽しいし、実は日常生活で役に立つこともいつの間にか学べていたりと、「教育問題」は身近な問題でありながらとても奥が深くて面白いです。

 

教育社会学の本は堅苦しくて難しい本も多いのですが、今回ご紹介したようにわかりやすくて面白い本もたくさんありますので、また次の機会にご紹介させてください。

 

 

片岡 武志

片岡 武志

『ソクラテスのたまご』編集長。 小学生の娘を持つ父親。『ソクラテスのたまご』の運営を通して、我が子に関わる教育について日々学んでいる。 現在、書評コラム「編集長の本棚」を連載中。

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