教育は未知にあふれている

ソクラテスのたまご

2019.04.07

子どもの時限爆弾になることもある!? 早期教育の落とし穴

子どもの将来のためを思い、吸収力の高い幼児期からさまざまな経験をさせたいと考える親は少なくありません。しかし、早期教育は本当に子どもの可能性を広げているのでしょうか? すでに小学生でも遅くはありません。学習面、心身の面など多角的な視点で早期教育について考えてみませんか。

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中学受験指導で感じた早期教育の必要性

以前、大手の進学塾で高校受験の指導をしていた頃の話です。受験勉強をする中学生たちを見て、学力を伸ばすために必要なのは小学校時代の基礎学力や習慣作りだと感じたことがありました。 しかし、中学受験のために小学生を指導していると、学習習慣や考え方の習慣の差は小学校低学年の時点ですでにできていると感じることが多く、幼児教育における習慣づくりが重要だと思っていました。

 

小学生になった時点で

“相手の話を聞く習慣”

“聞いた話を覚えておこうとする意識”

“ちょっと難しいと感じたことに対して乗り越えようとする意志”

などが備わっている子とそうではない子では、同じ学習をさせていても身につく学力に大きな差があり、余計に早期教育は必要だと考えていたのです。

 

早期教育は何のために行うのかという視点

しかし、私が早期教育の必要性を感じていたのは、各種受験、特に小学校受験や中学校受験に合格する力を身に着けさせるという観点においてでした。 そもそも、人間の発達段階を考えたとき、その時期にそこまでの教育が必要かという観点が抜けていました。現代の首都圏における受験事情的な発想だけで判断をするのであれば、早期教育は必要であるということになるのだと思います。

 

ただし、本当に適切な競争なのかという点で一度立ち止まって考えなければならなければならないと思うようになっていったのです。

 

 

子どもの心身への影響も考えなければならない

受験というゴールを設定すれば、限られた時間で素早く反応し判断する力はどうしても要求せざるを得ません。これは能力開発的には必要な要素だと思いますが、身体的な負荷という点ではどうなのでしょうか。

 

アメリカの心臓病学者であるフリードマンとローゼンマンは、多くの臨床経験を元に「心臓疾患(冠動脈疾患)を発症しやすい性格」には傾向がある(※)ということを発見しました。 それは、心臓疾患を発症しやすい性格特性を「タイプA」、そうではない性格特性を「タイプB」と命名し、「タイプA」は何事にも挑戦的で、成功・達成に向けて極端な活動性を持ち、出世欲も強く、時間的切迫感を感じ、性急な行動をとりやすい性格で、「タイプB」はその逆のゆったりとして生活習慣の中でリラックスした性格であるという傾向があったというものです。

 

さらに、その心臓疾患(冠動脈疾患)を発症率で比較すると「タイプA」は「タイプB」の約2倍にもなるという傾向もあり、さらにフリードマンは「タイプA」はその猛烈さゆえに一見すると成功するように見えるが、実際には「タイプB」の方が成功しやすいと述べていて、その理由として「タイプA」は大きなストレスを受けやすく、その結果身体の不調和を起こし、仕事に支障をきたす原因を自らつくってしまうからである、としています。

 

そういった観点で振り返ってみると、現在の受験を中心に据えた早期教育は本当に相応しいのか、疑問符をつけたくなります。早期教育が求める要求に応えさせ続けるのは、果たして心身ともに健康な子どもを育てることに相応しいか、と考えると早期教育を肯定できないと感じるのは私だけではないはずです。

 

必要なのはやりたいことを伸ばすための教育

とはいえ早期教育=悪ではありません。問題は過度なストレス負荷をかけること、それを習慣化することで知識やスキルを身に付けること自体は悪くありません。 大人にとって都合が“いい子”という枠に収めるために過度なトレーニングや必要以上に急がせる教育をするのではなく、自然な体験の中で知識やスキルを身につけられる環境をつくってあげること。子どもが自分で「やりたい」と感じることを伸ばすという早期教育を行なうのであれば大いにやらせてあげるべきでしょう。

 

しかし、受験のために過度な競争意識とノルマを課し、幼児期なのに大きなストレス下に置き続けるようであれば避けるべきではないでしょうか。 それは、単純に心身への負荷ということだけではありません。早期教育で身についた思考や習慣は、その後の人生にも大きな影響を与え、大人になってからいわゆる「タイプA」の行動特性で生きることになるかもしれません。将来、心身の不調和を起こし仕事に支障をきたす原因を自ら作ってしまう可能性があり、成功を願って早期教育をしたはずが、成功を手にする前にドロップアウトせざるを得ないという結果を招く場合もあるからです。

 

早期教育を考えるのであれば、本当に子どもの将来を考えた教育なのかと懸念を抱くことを忘れずに取り組みたいものですね。

 

※マイヤー・フリードマンとレイ・ローゼンマンが1959年に行なった3000人の中年男性に対する8年半に渡る追跡調査より

 

 

諸葛 正弥

諸葛 正弥

大手進学塾で長年指導を行ない、2007年に「イラスト図解でわかるプロ教師力アップ術55」(明治図書)を出版。教育委員会・各種学校などで教員研修を行ないながら、私立中高一貫校の学校改革などを手掛けている。また、「ロボット教室」や「学習教室まなび-スタイル」の運営、「よい子を育む家」の監修なども行ない、教育について幅広く活動を行っている。

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