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2022.08.20

主権者教育とは? 選挙に主体的に参加する子を育てるためにできること

「主権者教育」という言葉、聞いたことはありますか? 選挙に主体的に参加する子どもたちを育てていくため学校で行われつつある教育の中身や、保護者として知っておきたい心構えとは? 長年主権者教育に取り組み、ユニークな授業実践を行うドルトン東京学園中等部・高等部社会科教諭の大畑方人さんに聞きました。

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お話を伺ったのは…

大畑方人さん
ドルトン東京学園中等部・高等部社会科教諭

1977年東京都目黒区生まれ。早稲田大学商学部および政治経済学部政治学科卒業。私立中学校・高等学校、都立高等学校勤務を経て、2021年度より現職。上智大学非常勤講師を兼務。主な関心分野は主権者教育、法教育、キャリア教育、ESD。高校公民科教科書『公共』(東京書籍)編集委員、国立教育政策研究所「評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究」協力、厚生労働省「労働法教育に関する支援対策事業」協力、国際パラリンピック委員会公認教材『I’m POSSIBLE』制作協力、NHK for School「昔話法廷」企画協力など。共著に『ライブ!主権者教育から公共へ』(山川出版社)

主権者教育で民主主義の担い手を育てる

総務省によると、主権者教育は次のように説明されています。

国や社会の問題を自分の問題としてとらえ、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育成していくこと

2015年:総務省「主権者教育の推進に関する有識者会議とりまとめ」より

ひらたくいうと、子どもたちが政治や社会のことに関心を持ち、それを”自分ごと”として考えた上で選挙に主体的に参加するなど”民主主義の担い手を育てるための教育”ということ。

2018年に高校の学習指導要領が改定され、2022年度から「現代社会」に変わる必修科目「公共」がスタートしました。

「公共」では、従来の「現代社会」で学ぶ政治、経済、法律などの知識に加え、政治的な事柄に関心をもち、主体的な投票行動につながる若者を育成するべく、主権者教育の最初の一歩のような役割を果たす科目として知られています。

高校だけでなく、小学校・中学校においても、社会科や公民科のみならず道徳、特別活動や総合的な学習の時間等に主権者教育を取り入れる動きがあります。子どもたちが社会課題について考え、課題を解決するための方法を話し合いながら、国や社会の形成に主体的に参画する力を育成することが重要だからです。

学校で行われている主権者教育の授業例

実際に小中高校で行われている主権者教育の具体事例には、下記のようなものがあります。

  • 授業で実際の選挙体験を味わう「模擬選挙」
  • 選挙制度や公職選挙法、選挙のしくみについて学ぶ「選挙出前講座」
  • 政治や社会問題についてのディベートを行う
  • 政治や社会問題についての新聞記事の中から興味を抱いた記事を切り抜き、感想を書く

ほかにも、小・中学校では、市区町村議会を体験したり、児童会・生徒会サミットを開催し、自分たちが住む街をよりよくするための方法を考えたりなども行われています。

現在、ドルトン東京学園中等部・高等部で社会科教諭を務め、主権者教育の第一人者でもある大畑方人さんは、2003年から、「時代のブームに流されることなく、政治について自分でしっかり考え、判断して主体的に選挙に参加し投票できるような大人になってほしい」という思いから、授業で実際の選挙体験を味わう「模擬選挙」やディベートを積極的に取り入れてます。

2022年7月に行われた参議院選挙前の模擬選挙授業の様子

さまざまな声を聞くことで政治的中立を確保

大畑さんが主権者教育を実践するうえで大切にしているのは、下記の「3つのC」なのだそう。

3つのC

  • Catchy=引きつけ、興味関心を抱かせること
  • Casual=日常的な課題から、普段着の言葉で対話させること
  • Cool=「社会問題を語るのはかっこいい」という価値観を根付かせること

「1つ目の『Catchy』の一例が、模擬選挙やディベートなどのアクティブラーニング型の授業です。

2つ目の『Casual』では、授業において、中学生だったら、まずは校則や部活動など身近で日常的なテーマを設定してその課題や解決法について考え、生徒の興味関心を広げるよう工夫しています。

3つ目の『Cool』では、NPOや大学生による出前授業などで魅力的な大人と出会いの場をつくり、『社会と積極的にかかわるのはかっこいい』と感じてもらえるようなプログラムを取り入れるようにしています」

また、主権者教育においては、政治的中立性の確保が重視されています。この中立性を担保するために大切なのが「S・V・O」だと大畑さんは話します。

政治的中立性を確保するための「S・V・O」

  • S=Self 生徒たち自身が作ったり考えたりする
  • V=Variety バラエティに富んだ教材を用意する
  • O=Outside 政治に関する情報が一教員だけからにならないよう、外部と連携をとりながら授業を行う

授業では、政策についての解説は必要最小限にとどめます。新聞記事を活用する場合は複数紙を取り上げ、社説も複数読み込んでもらうことで、生徒一人ひとりの考えが偏らないようにしています。

また、情報発信が一教員だけからにならず、生徒が多様な考え方に触れられるよう“外部”の声を積極的に取り入れるようにしています。

たとえば、2022年7月の参院選前に行われた模擬選挙授業の前には、『社会派クリエイティブ』を掲げ、クリエイティブディレクターとして、さまざまな広告やプロジェクトを通して社会課題の解決を目指す辻愛沙子さん(株式会社『arca 』CEO)、政治を分かりやすく発信するメディア『POTETO』の古井康介さんを特別授業に招き、政治・選挙への向き合い方についての話を聞いたり、討論したりしました。Z世代を代表するキーパーソンとの交流に、生徒たちも刺激を受けている様子でした」

日本の若者の投票率が低い原因

日本では、選挙が行われるたびに若者の投票率が低いことが嘆かれています。

2015年に公職選挙法が改正され、2016年7月の参議院選挙からは、18歳から選挙で投票できるようになりましたが、投票率をみると数値は年々、減少傾向にありました。

年代別都表率2016年7月・参議院選挙2017年10月・衆議院選挙2019年7月・参議院選挙2021年10月・衆議院選挙2022年7月・参院選
有権者全体54.7%53.68%48.8%55.93%52.05%
10代46.78%40.49%32.28%43.21%34.49%
総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」参照

10代の投票率の低さの原因として考えられるのが、「ひとつは、これまでの学校教育なのではないかと考えます」と、大畑さん。

「日本は1960年代に、安保闘争や全共闘運動などの学生運動が多く起こりました。こうした時代背景をふまえ、当時の文部省から学生の政治的活動を規制する通知が出されたのに加え、社会科や公民科の授業で選挙や政治について学ぶ際、『選挙制度や国家の仕組みなどを、知識として覚える』ことを重視した指導内容になったのです。

社会科や公民科が “暗記科目”として位置付けられてしまった結果、教科書で学んだことがリアルな政治と結びつかず、選挙や政治を身近なものとして感じられなくなってしまったことが大きいと思います。

少子化や核家族化が進み、家庭や地域で選挙や政治について話し合う機会が減ってきていることも、投票率が低い原因として考えられるのではないでしょうか」

ちなみに、欧米諸国の中でも主権者教育が進んでいると言われているスウェーデンでは、国民全体の投票率も、若者世代の投票率も共に80%前後で日本よりも大幅に高く、スウェーデンの若者は、社会への意識や関心が高いことも様々な統計から明らかになっています。

スウェーデンの学校では、模擬選挙だけでなく地域の政治家を招いた討論会が実施されるほか、選挙期間中は近くの広場に「選挙小屋」が設置され、候補者や党員が選挙キャンペーンを実施するそう。

生徒はここに足を運んで主義主張をインタビューする宿題が課せられるなど、未成年であってもできるだけ実際の政治に触れるような教育が重んじられているのです。

家庭で親ができることとは

日本の子どもたちが18歳になり選挙権が得られたとき、自ら考え投票に足を運ぶ成人になれるよう、保護者としてできることは、どんなことでしょうか。

ひとつめは、お子さんが小さい頃から、保護者の方が投票に行くときに、可能な範囲で一緒に連れて行くこと。『選挙はなんのためにあるのか』『なぜ選挙に行くのか』などについて、お子さんの年齢に合わせた形で話すのもよいでしょう。

ふたつめは、家族で政治問題や社会課題について話したり、意見を言い合ったりする機会を意識してつくること。『自分がちゃんと知って、子どもに教えないといけない』などと肩肘をはる必要はありません。小・中学生には選挙権はありませんが、主権者には変わりありません。主権者同士、親子でテレビや新聞を見ながら『ママはこう思うけど、あなたはどう思う?』など、日常会話の延長のような形で対話を重ねることが大切です。

思春期になると、『学校で選挙の勉強しているの?』などとダイレクトに親から聞かれるのをうっとうしく思うこともあるので、選挙や政治のことに限らず、お子さんが学校で学んでいるなかで興味を抱いていることをキャッチしたら、そのタイミングでひと言声をかけてあげることで会話が広がっていくと思います」

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長島 ともこ

フリーライター、エディター、認定子育てアドバイザー。妊娠&出産、育児、教育などの分野の企画、編集、執筆を行う。PTA活動にも数多く携わり、その経験をもとに、書籍『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(厚有出版)などを出版。「PTA」「広報」をテーマに講演活動も行う。2児の母。

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