貧困家庭は他人事?貧困の定義や実態、教育への影響を紹介。一緒に考えてみませんか
貧困家庭という言葉を聞いてあなたはどんな家庭をイメージしますか。そして、自分には関係のない世界だと思っている人はいませんか? 新型コロナウイルスの影響で多くの人が先行きが見通せなくなっている今、家族の将来に不安を感じていませんか。そこで改めて、貧困家庭の定義や実態を調査し、教育や支援はどうなっているのかを紹介します。
日本の貧困家庭の実態とは
貧困というと、アフリカの難民やアジアのストリートチルドレンなどを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、日本人の多くが最初にイメージするこのような貧困は絶対的貧困と呼ばれるものです。
絶対的貧困とは
人間として最低限の生活をすることが困難な状態のことです。例えば、家がなかったり、食べる物がなかったりして、命さえ危うい状態などが該当します。世界銀行は、衣食住に関わる最低限の所得、1日1.9ドル未満(210円程度)で暮らす人たちを、絶対的貧困者と定義しています。
一方で、日本の貧困家庭がおかれている状況は、相対的貧困と呼ばれます。
相対的貧困とは
相対的貧困とは、その国や地域が算出した相対的な水準と比較して多くの人よりも貧しい状態のことを指します。言い換えれば、多くの人が当たり前にしていることが出来ない状態が相対的貧困層であるといえます。
日本の場合、相対的貧困の水準は世帯所得(手取り収入)によって算出されます。所得が等価可処分所得の中央値の半分(貧困線)に満たない状態が相対的貧困であり、厚生労働省はその割合を相対的貧困率として公表しています。
2019年発表の「国民生活基礎調査」では貧困線が127万円。15,4%が相対的貧困率として示されています。
小中学校の1クラスに5人が貧困層!?
では、具体的に相対的貧困とはどういう状態かをソクたま世代の子どもで考えてみましょう。
前述の「国民生活基礎調査」によると17歳以下の子どもの貧困率は13.5%で約7人に1人の子どもが相対的貧困の状態にあるとされています。学校の1クラスが35人だとすると、クラスの中に5人ほど貧困の子どもがいる計算になるのです。
例えば、部費が払えない、道具が購入できないなどの理由で中学校の部活に参加できなかったり、経済的な理由で高校進学ができないなどの場合、相対的貧困状態なのかもしれません。
また、注目すべきは、ひとり親家庭の貧困率です。同調査では、子どもがいる現役世帯のうち、大人2人以上の世帯の貧困率が11.3%なのに対して、大人1人世帯の場合は48.2%。さらに詳しく見るとひとり親家庭のおよそ2世帯に1世帯は相対的貧困の状態であるとされています。
このような中で、深刻さに追い打ちをかけているのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが、2020年1~5月に行った調査によると所得が低い世帯ほど月収が減少していることがわかります。
また、非正規雇用者で、新型コロナウイルス拡大の影響で離職・転職等を行った人の割合は、男性で26.2%、女性で15.2%。正規雇用と大きな差が出ています。
新型コロナウイルスは、もともと不安定な雇用状態に置かれていた労働者に大きな影響を与え、中でも低所得世帯がより強く影響を受けていることが分かります。
子どもへの影響や貧困が他人事ではない理由とは
次に、先ほど1クラスに5人いるとされている相対的貧困の状態とされる子どもたちには、どのような影響があるのでしょうか。
親子のコミュニケーションが少ない
ひとり親家庭の場合、保護者が1人で仕事と育児、家事を行うケースが多くなります。すべてを一気に背負う親は多忙になり、親子でコミュニケーションをとる機会は減ってしまいます。
発達心理学において、コミュニケーションは、子どもの成長に欠かせない要素といわれています。内閣府の教育再生実行会議などによると、親が子どもの気持ちを認め、共感してあげることで、子どもは安心感や満足感、自己肯定感を満たすことになり、その積み重ねが自信を育んでいくとされてます。
逆に親子のコミュニケーションが少ないと、自己肯定感が低くなりやすく、自分を信じて挑戦していくことへのハードルが高くなるかもしれません。
生活習慣が身につきづらい
貧困は生活習慣にも大きな影響を与えやすくなります。
宇都宮市が行った「子どもと子育て家庭等に関する生活実態調査」(2018年)によると、歯磨きの習慣がない貧困家庭の子どもは27.5%で、貧困家庭ではない子どもの2倍以上という結果が出ています。
このような状況が続くと、不衛生な状態となり、健康面への影響が出てきます。
そして、それは子どもに対してのことだけではありません。大人の受診には医療費がかかるため病院へ行くことを躊躇し続け、結果的に入院が必要となり経済的にさらに苦しくなるケースもあるようです。
教育格差が生まれる
親が多忙な場合、子どもがきちんと宿題をしているか、学校の勉強についていけているのかを確認しづらい状況になりがちです。
もし、ついていけないとなっても塾や家庭教師への出費が経済的に難しく外部からのフォローを頼りづらい状態にあります。
日本財団が発表した「家庭の経済格差と子どもの認知能力・非認知能力格差の関係分析」(2017年)によると、貧困家庭の子どもは小学校低学年時から相対的に学力が低いことが示されています。
国語の調査結果を例にみると、生活保護世帯の子どもと経済的に困窮していない世帯の子どもの国語の平均偏差値は、7歳から9歳の子どものときには大差はないものの、10歳になると偏差値で5.5ポイントの差が出ています。その後も14歳まで偏差値5ポイント前後の差が続くのです。
この傾向は、年齢が上がるにつれさらに顕著になり、貧困家庭の平均的な学力は低下する傾向にあります。
42.9兆円の社会的損失
また、日本財団によると、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失額は42兆9000億円、財政収入の減少額は15兆9000億円とされています。
貧困家庭の場合、教育格差が進学や就職に悪影響を与えやすく、1世帯ごとの所得が少額になっていく可能性があります。そして、個々の生み出す所得が少なければ、日本経済そのものが縮小していきます。
一方で、貧困家庭が増えることで生活保護費や児童扶養手当など、国が支払う社会保障費は増えていきます。
つまり、国に入る額は減るのに出る額は増えていく…このようにしてできる社会的損失額が、およそ43兆円に達すると推計されているのです。
2020年度の日本の国家予算(一般会計)は、およそ102兆円です。つまり現在の貧困を放置していると、国家予算の半分近くの社会的損失額が発生するということ。そうなると、相対的貧困の状態に当てはまらないからといって「貧困は他人事」とはいえなくなるのではないでしょうか。
貧困家庭へのさまざまな支援とは
日本政府も貧困問題をまったく放置しているわけではありません。2013年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立し、貧困対策が推進されています。
また、貧困家庭、特に子どもの貧困の問題を解決しなくてはという志を持ったNGOや個人などの活動によって、社会全体で取り組むべき課題という認識は広がりつつあります。
食事支援
NPO 法⼈「全国こども⾷堂⽀援センター」によると、子ども食堂は全国に少なくとも3700カ所以上あるとされています。
新型コロナウイルスの感染拡大で学校が休校した際は、自宅に持ち帰って食べることの出来る弁当などを用意し、食費が増した家計を支える子ども食堂もありました。また、ひとり親家庭を対象に、企業や農家、個人などが寄贈した食品を無料提供するフードバンク事業も広がりをみせています。
居場所支援
日本財団は2016年から、学校でも家でもない、地域の子どもたちのもう1つの家である“第三の居場所”づくりに取り組んでいます。
学童施設などとは異なり、学習支援だけではなく、生活支援を行っているのが特徴で、手洗いや歯磨き、食事の配膳や片付け、整理整頓の仕方などの指導も行われています。
1人で過ごす時間が少しでも短くなるよう、放課後から最大21時まで開いていて、全国に100カ所の設置を目指しています。寄付金によって運営され、企業や自治体、NPO法人、個人と連携しながら活動の裾野を広げています。
学習支援
地域や学校と協力して、公民館や学校の空き教室を使って、大学生などが無料で学習のサポートを行う取り組みも、全国に広がっています。
NPO法人「Learning for All」は、教育委員会などと協力して学習支援拠点を設置し、放課後や土日の週1回から2回、研修を受けた大学生が子どもの学習を個別に指導しています。年間約1000名の子どもに学習支援を提供し、参加した中学3年生全員が高校に進学するなど、その成果が注目されています。
多くの団体が動き出している中、子どもたちが、目標や夢を持ち、その実現にむけて努力できる社会づくりのために、私たちも出来ることから始めてみませんか。
<参考サイト>
国際貧困ライン、1日1.25ドルから1日1.90ドルに改定/世界銀行
2019年国民生活基礎調査の概況/厚生労働省
新型コロナウイルス感染症によって拡大する教育格差/三菱UFJリサーチ&コンサルティング
自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓ひらく子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上
宮っこ 子育ち・子育て応援プラン/宇都宮市
家庭の経済格差と子どもの認知能力・非認知能力格差の関係分析/日本財団
子どもにおける健康・食生活の貧困/厚生労働省
こども⾷堂・最新箇所数調査結果発表/ NPO 法⼈全国こども⾷堂⽀援センター・むすびえ
子どもの貧困対策/日本財団
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