小学校のプログラミング教育に必要なのは家庭でも伸ばせる国語力
“プログラミング=理系”と思っていませんか? しかし、コンピューターに的確な指示を与えるために必要なのは、国語力。プログラミング教育には文系の要素もとても重要なのです。“プログラミング教育とは、プログラミング的思考を鍛えること”と達成することも、鍛えることも難しい目的にばかり目を向ける前に、まずは子どもの国語力に注目しましょう。塾講師経験を経てプログラミン教室を主宰する福井俊保さんが、プログラミング教育と国語力の関係、そして、家庭でもできる国語力の鍛え方を解説します。
そもそも国語力とはどんな力のこと?
以前、下記の記事にも書きましたが、プログラミング教育の目的は、“プログラミング的思考を鍛えること”や“プログラミングの仕組みが身近な機械にも使われていることを理解すること”とされています。
なぜ小学生にプログラミング教育が必要なの?授業例や令和に求められる力とは
しかし、一方で「国語力を鍛えよう!」という議論も文科省でおこなわれていることを知っていますか?
そもそも国語力とはどんな力なのでしょう。文科省の資料やこれまでの経験を踏まえて私が考える国語力とは、ものごとを理解するための根幹となる力です。例えば、人に何かを伝える時、相手が伝えたいことを理解する時にも欠かせません。
ただし、“国語力=コミュニケーション能力”ではありません。コミュニケーション能力は、人に伝える技術だけを指しており、会話や文章の中身よりも伝え方を重視します。
一方、国語力は、文章を読んで、考えて、人に伝える力です。伝える技術だけではなく、読んで理解し、正確に伝える、自分の考えを表現する力なのです。
私のプログラミング教室では、国語力をつけるために「読むこと」と「書くこと」に力を入れています。「読むこと」と「書くこと」ができれば「聞くこと」と「話すこと」もできるようになっていくことでしょう。
「読むこと」とは?
まず、「読むこと」ができるようになるためには、文章を正確に理解できなければなりません。そして、そのためには、以下の3つのことが必要です。
- いかに言葉を知っているか(語彙力)
- 文章の構造を正確に把握できるか
- 文と文の関係を正しく理解する
「文章なんで誰でも読めるじゃないか」と思うかもしれませんが、これら3つが本当にできているかをわが子に照らし合わせてみてください。なんとなく意味を理解して、読めていると思っていませんか?
文章を理解するということは小学生にとっては、意外と難しいもの。長い文章を読んでいくと、何の話だったか分からなくなるということもあります。上記3点を理解しながら長い文章も理解できるようになれば国語力が高いということになります。
「書くこと」とは?
基本的には読むことができるようになれば、書くこともできるようにもなるわけですが、よりよい文を書こうと思ったら、書く練習は必要になってきます。
つまり、自分の考えを正確に表現するには、練習が必要になってくるわけです。
文を練習するときは、まずは、
- 主語
- 述語
- 修飾語
の使い方を意識してください。
この3つが正しく使えるようになって、初めてしっかりと文として成り立ちます。さらに、文と文を正しくつなげて文章にするためには、接続詞を上手に使っていくということも大切。そして、その言葉が何を指しているのかが誰にでも分かるように指示語を使えるようにすることも意識しましょう。
このように、「読むこと」「書くこと」をしっかりと練習していくと国語力を高めていくことができます。
プログラミングと国語力の関係とは
ここまで国語力の説明をしてきましたが、それでも国語力とプログラミングはなかなか結びつきませんよね。
実は、私がなぜ教室に国語力を取り入れている理由は、前回(下記)の記事でも紹介し、小学校のプログラミング教育でも使用されるプログラミングソフト「スクラッチ」は、日本語でプログラミングしていくからです。
なぜ小学生にプログラミング教育が必要なの?授業例や令和に求められる力とは
プログラミングをしていくためには、コンピューターへ正確に命令を出さなければいけません。
例えば、何か課題があれば、その課題を正確に読み取る力が必要になります。条件がいくつかあれば、その条件を正確に理解していなければ、プログラミングできません。つまり、正しく「読むこと」が必要です。
さらに、日本語でコンピューターに指示を伝える際には、「何が・何を・どうする」といった、正しく「書くこと」を意識しなければ命令が出せないのです。
「そんな当たり前のことを…」と思う人もいるかもしれませんが、大人でも意外とこうした命令を性格に出すのは難しいものです。いかに難しいのかは、次の事例を一緒に考えて実感してみてください。
プログラミングの事例
私の教えるプログラミング教室では、算数をプログラミングしており、例えば、こんな問題があります。
問:「1を10回足す」というプログラミングをしてください。
例えば、電卓のように「1+1+1…」と1を足していくことを10回繰り返せばいいですよね。
上の濃いオレンジ色の枠内にある「0」の部分に「1」を入力すれば、緑色の囲みにある「+1」が10回くりかえされて答えが出せるプログラムです。
スクラッチでプログラミングする場合、「何をどうする」ということを意識しなければなりませんが、この問いの場合は、「『〇+1=』という計算を10回くり返す」というプロセスを理解して、上記のようなプログラムになります。
このプログラムであれば、たとえ、「1を1000回足す」という問いだったとしても、“「10」かいくりかえす”の数字を“「1000」かいくりかえす”に変えれば、答えを算出することができます。
では、次の問題の場合はいかがでしょうか?
問:「52から5を引けなくなるまで引く」というプログラミングをしてください。
足し算と同じプロセスで「52から5を引く」と設定しましょう。
さて、おかしなことに気づいた人もいるのではないでしょうか?
実は、上記のプログラミングは、答えである「10かいくりかえす」ということが入ってしまっています。回数が分かっているなら、プログラミングしなくてもいいですよね。
では、どうすればいいのか分かりますか?
ポイントは、「引けなくなるまで」という文言です。コンピューターは、「引けなくなる」というのがどのような状態を指しているのか理解できません。例えば、「3-5=-2」でも引くことはできると考えられますよね。
しかし、人間の場合は、「引けなくなるまで」という言葉の指す意味が「0~5の数字になるまで」だと察することができます。これが、人間とAIの違いです。
では、「0~5の数字になるまで」ということをどのようにコンピューターに指示すればよいと思いますか? この問いでは「5よりも小さくなるまで引いていく」という言葉に置き換える作業が必要になります。
つまり、このようなプログラミングになるのです。
このプロセスには、文に書かれたことを正しく理解し(=読むこと)、より正確性のある文をつくる(=書くこと)という国語力が関係しています。
このような国語力を生かせば、数字が変わってもそのまま使えるプログラムを組み立てることができるのです。
家庭で簡単にできる国語力鍛えるトレーニング
国語力がプログラミングに必要であるということは、分かってもらえたのではないでしょうか。実は、このような「読むこと」「書くこと」というのは、日常の中でも鍛えることができます。
国語力のところで説明したように、必要なのは文で理解し、文で表現できるようになること。そうしたことは、親子の会話の中でも実現できるのです。
普段の会話を思い出してください。例えば、食事中に醤油を取ってほしいときに子どもが「アレ取って」なんて言っていませんか?
こんな何気ないひとことでも、主語・述語を意識して文で会話するようにさせてみましょう。
「アレ取って」
↓
「ママの目の前にある醤油を私(子ども)の前に置いて」
また、小学生は「最悪!」「やばい」など、単語で会話を成立させてしまうものですが、「何が最悪なの?」「やばいってどういう風にやばいの?」など、文で正確に表現できるように「なぜ?」「どんな風に?」など、具体的な表現をしやすくなる言葉をなげかけてみてください。かなり国語力が向上すると思いますよ。
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プログラミング教室スモールトレイン代表。1976年生まれ。横浜市立大学大学院博士後期課程単位取得退学。 大学では数学、大学院では文系(国際政治)を学ぶ。大学院時代から中学受験塾で4教科を15年間指導した後、子どもたちが「考える力」を身につけるためのプログラムを開発したいと思い、プログラミング教室「スモールトレイン」を開校。著書に「エラーする力──AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育」(自由国民社)などがある。 スモールトレイン https://www.smalltrain.com/