長期のオンライン授業と外出自粛で起きた子どもの心の変化、衰えてしまったこと
村田かなこ
日本よりもはるかに厳格な感染対策が行われていたベトナム。いつも賑やかだった街からは人が消えて、学校は長期にわたるオンライン授業が行われていたそう。ベトナムの首都であるハノイ市で小学生姉妹を育ててきた村田さんが感じたこととは?
目次
ベトナムの日本人学校の環境とは
夫の海外赴任のため、2017年4月に家族でベトナム・ハノイ市に移住した村田さん一家。子どもたちは、小学2年生と年長の姉妹。それぞれ日本人学校と日本人向けの幼稚園に通わせました。
「娘たちが通っていた日本人学校は、小学校と中学校が一緒になっており、ピーク時には500人弱の子どもが通う大所帯です。
授業は文科省のカリキュラムに沿って行われますが、独自のカリキュラムとしてベトナム語の授業があるほか、英語の授業も日本の公立校よりは多く組まれていて、小学生でも7時間授業の日も多かったですね」(村田さん、以下略)
ただ、1日の授業時間が長いのは、学力強化のためではなく、長期休みが日本の学校よりも長いためです。特に春休みは、転勤の辞令が出る時期のため、新しく赴任してくる家族、帰国する家族のために長くとられているほか、ベトナムの暦に合わせて旧正月にも1週間程度の休みがあるそう。
「新型コロナが学校生活に影響を及ぼし始めたのは、長女が小学4年生、次女が小学2年生だった2020年の1月末か2月ごろです。旧正月の長期休みからそのまま休校になり、そのまま春休みへ突入し、まるっと2~3ヵ月休みになりました」
新型コロナの影響でほぼ引きこもりのような日々
2020年の春は、学校が休校になるだけではなく、飲食店も閉まり、街には人はあまりいなくなったそう。
「散歩しているだけで罰金、不要不急な用事で家族以外の人と集まっても罰金という状況だったので、子どもはずっと家にいるしかありませんでした。
日本では、子どもが公園で遊ぶのはどうなのか、という論争があったようですが、そもそもベトナムは、日本のように子どもが公園で遊んでいるのをあまり見かけません。学校への登下校も学校のバスか、保護者がバイクで送迎するのが一般的なので、子どもだけで街をうろうろしている姿もあんまり見たことないですね。
現地の学校は、日本の学校の校庭のような広い場所もないので、子どもが体を動かす必要性についてはあまり重視されていない印象です」
さらに、日本では誰か新型コロナに感染した場合、行動を制限される(隔離生活をしなければならない)のは濃厚接触者までですが、ベトナムの場合は、2020年春の頃、濃厚接触者はF1で、F1と濃厚接触した人がF2という感じで広げていき、最終的にF5の人まで隔離されていたとのこと。
「しかも、隔離先を写真で見たところ、軍の施設内の広い部屋に鉄パイプの2段ベッドがずらっと並べられていて、お風呂も大きな水がめのようなところに手桶がひとつ置いてあるような場所で『知らない間にF5に該当していたら…』と思うと、人と接触することが怖かったです」
ですが、厳格に締め付けたおかげで感染者が減って、新規感染者数は連日ゼロという日が続くようになり、学校も再開。
「すっかり普通に過ごしていたんですが、2021年の旧正月明けから、また感染が広がって学校はオンライン授業になったり、休校になったり、数日だけ登校できたりということを繰り返し、2021年度は4月に2週間だけ登校して、その後はずっとオンライン授業になりました。
長期のオンライン授業でストレスは限界
オンライン授業は毎日4時間行われました。日本では、一般的にオンライン授業は数週間でした。ベトナムのように長期間となると、子どもは慣れてサボってしまいそうですが…。
「小6の長女は、ノートを書くフリをしてマンガを読んでいて、私に怒られてましたね(笑)。ですが、小4の次女は真面目で不器用なので、ぼーっとしながらも画面の方向を見ていましたね。集中力はやっぱり続きませんよね。先生が教科書を読むために当てても、『え?どこだっけ?』みたいな場面がよくあると娘たちが話していました。
子どもたちは、『登校したい』『学校に行きたい』という子もいれば、『オンライン授業のほうがいい』『もう学校に行くのめんどくさい』と言っている子もいて、それはそれで親は心配していましたね」
心配なのは、勉強に関することだけではありません。村田さんは、母娘で10月に日本に帰国しましたが、一番の理由は長女に訪れた変化です。
「年齢的に徐々に反抗期が始まっていて、2021年度が始まる頃には結構生意気になっていたんです。でも、5月いっぱい学校がオンライン授業になったときに反抗的な態度がなくなってしまったんです。
反抗期って、人から大人っぽく見られたいところがある気がしますが、人の目がないから『お母さん、もうついてこないでよ』みたいな言動が引っ込んでしまったのかなと思います。
もしくは、私と娘たちの3人でずっと過ごすので、『母親に逆らったら生きづらくなる』という本能が働いたのかもしれませんが(笑)。どちらにせよ、精神的な成長が後退してしまったようで、大丈夫かな?と思っていました。
一方、小4の次女は、すごくガマン強く、穏やかで、静かな性格なので、彼女自身はガマンしていたところがあるのだろうけど、親からみると安定感抜群で、オンライン授業期間も日々を淡々と過ごしていました。こだわりがないんですよね」
もともと活発で、友達と過ごすのが大好きで、おしゃべりしたり運動したりするのが大好きだった村田さんの長女。外出できないストレスもあいまって日本に帰って、学校に行きたいと言うようになりました。
「あと数ヵ月で小学校を卒業のタイミング。一緒に過ごしてきた友達と卒業をさせてあげたいと思っていたのですが、『友達がひとりもできなくてもいいから学校に行きたい』と繰り返すので日本へ入国できなくなる前に帰国しました」
日本へ帰国しても日本人学校に籍を置いたまま、オンライン授業を受けている家庭もあったそうですが、村田さん一家は日本の小学校へ編入することにしました。
学校生活に必要な子どもの力とは
帰国後、2週間の隔離期間を経て、日本での新たな生活を始めた村田さん母娘。ふたりとも新しい学校にもすぐになじむことができて楽しい学校生活を送っているようでしたが、長期にわたるオンライン授業で思わぬ“気付き”がありました。
「オンライン授業だと先生がずっとしゃべってて、当てられた子だけがミュートを解除して発言するので、ずっと静かな授業だったんですよね。それが、対面授業だと先生が何か言うと、子ども達があちらこちらで自由に発言しますよね。だから、次女は『対面授業が久し振りすぎて、なんかうるさい!って感じるようになっちゃった』と話してました。(取材当時)通い始めて1ヵ月以上経ちますが、未だに慣れないようです。
あと、人と接触するのって楽しいけど疲れますよね。学校で友達や先生と接する体力がまだ十分に戻ってないようで、コロナ前は7時間授業が終わったあとでも帰宅して走り回ったりしていたのに、今は下校すると「疲れた」と言って昼寝するようになってしまい、とにかく気力、体力が落ちていると感じています」
ベトナムにいるときから体力の低下は心配していたそうですが、気力の低下は学校に通い始めて初めて気付いたことでした。
オンライン授業では分からないこととは
体力、気力の低下を感じつつも、編入してよかったのは修学旅行です。
「コロナの感染が広がってから、運動会の練習だけして本番がないなど楽しい行事はなくなっていて、長女は『どうせやらないなら、もう期待させないでよ』という感じだったんですよね。ですが、日本の学校に通い始めて、修学旅行に行けるようになってすごく喜んでいます」
ほかにもオンライン授業を経て、改めて感じた学校に通う意味とは?
「学校で教えてもらっているのは勉強だけじゃなかったということを噛み締めています。学校は子どもが成長する上で欠かせないいろんなことを学べる場所なんですよね。
あと、人それぞれがもついいところに気付いたり、人に敬意を持ったりすることが、オンラインだけではちょっと難しいかなと思います。
例えば、『この子、手芸が上手で自分でつくったものを持ってきている』とか、『この子、絵がとても上手』とか、『この子は、この教科はあんまりだけど運動はすごくできるんだ』というちょっとした、友だちのすごいところがオンラインではなかなか気づきにくいんじゃないかなと思います」
ほかにも、「コミュニケーション力を育んだり、人との社会的な付き合いを学んだりするために学校は大切な場所だと感じています」と話す村田さん。
昨年、私たちはオンライン授業という新たなスタイルを知りました。今後、もし登校かオンライン授業かの選択を迫られるようなことがあったとき、日本よりも長期間でオンライン授業を体験した村田さん母娘の話も思い出してみてください。
<取材・文/浜田彩(ソクラテスのたまご編集部)>
フリーライター。グラフィックデザイナー、フリーペーパーの編集・企画職などを経て 夫の転勤に伴ってドイツ、ベトナムで2人の娘を育てながらフリーライターとして活動。2021年10月に帰国。ベトナムでは現地の遺跡を日本人向けに案内するボランティアガイドも行っていた。