失敗しても挑戦を続け、人間的な魅力を感じる先生に子どもはワクワクする/マモル代表取締役・くまゆうこさん
くまゆうこ
いじめの早期発見・解決を目指す、いじめ報告相談プラットフォーム「マモレポ」を開発運営する「株式会社マモル」のくまゆうこさん。一方で、新しい教育を行う先生を応援する「マモルティーチャープロジェクト」も展開しています。そんな彼女が考える“いい先生”とは?
目次
“いい先生”にはチャレンジ精神がある
みなさんは、“学校の先生”と聞くとみなさんはどんな人をイメージしますか? なかには、「既存の枠組みから脱せない人」「新しい事を好まない人」など、ネガティブな言葉が浮かぶ人もいるかもしれません。
ですが、いろいろな先生方とお話をしてみると、熱心な人も多いし、とても面白い人も多いんです。特に「マモルティーチャープロジェクト」で紹介している先生方は、起業家レベルのバイタリティがあるんですよね。
1クラスが30人だとすると、30人をまとめながらそれぞれのいいところを引き立てるというのは、すごく大変なことですよね。それができる先生と言うのは、巻き込み力もすごいですし、リーダーとしての資質がとても高いと感じます。
例えば、埼玉県の公立小学校で校長を務める田畑栄一さんは、子どもたちがネタを作り、漫才を披露する
「教育漫才」という新しい教育に取り組んでる方で、積極的に挑戦していく先生です。だからこそ、新しいコンセプトである「マモレポ」もいち早く学校に導入してくださいました。
また、東京都の小学校教諭の庄子寛之さんは、昨年、休校などで世の中がコロナでざわついていたときに「コロナ禍でどんな授業を行っていくか」を話し合うオンラインイベントをやろうと言って、実際に2000人ほど集めたんです。2000人ってすごいじゃないですか? どうやったらできるかを常に考え、いろんな人を巻き込み行動していく先生です。
東京都「城北中学校・高等学校」で数学を教えている清水団先生は、Twitterでどんどん数学の問題をアップしたり、数学の質問を受け付けて答えたりしています。多くの先生は基本的にSNSはあまりやらないし、やるとしても先生というてことを隠して匿名で行うのですが、清水先生は実名で行い、それが子どもたちからの信頼につながっています。上手にSNSを使っているんですよね。
リスクを恐れる先生たちも少なくない中で、リスクを恐れずに発言し、自ら進んでいこうとする先生たちと話していると「私も負けられないな」という気持ちになります。
そもそも、先生自身が挑戦をしていないのに子どもに対して「挑戦をしなさい」と言えないと思いますし、子どもたちが一緒にいてワクワクするのは新しいことに挑戦しようとする先生だと思います。
学校以外の世界との交流があるかどうか
また、“いい先生”の条件のひとつだと思うのが、学校以外の人々と交流があるという点です。
「マモルティーチャープロジェクト」で紹介している先生方は、学校以外の場で異業種の方との接触を持っている人も少なくありません。
やはり自分の知らない事を子どもたちに伝えるのは難しいと思うんですよね。教師の仕事しか知らなければ、ほかの仕事に対して先入観で話してしまうことがあるかもしれませんし、分からなくて何も言えなくなってしまうかもしれません。
ですが、さまざまな業界を知っていて人生経験も豊富だと子どもに対しての発言は変わっていきますよね。
先生と協力していじめの早期発見、解決へ
私が運営している「マモレポ」は、自治体が導入すると、学校から子どもに支給されているタブレットで使うことができ、いじめの当事者や気づいた子どもが好きなときに連絡できるサービスです。
残念ながら、人が集まる学校という場には、どうしても争いごとが起きてしまうし、争いをゼロにするのはたぶん難しいと思うんですよね。ですが、争いがどんな方向で進んでいくかに関して先生の力はすごく大きいと思います。
先生が見て見ぬ振りする学校・クラスはいじめが起こりやすいですし、エスカレートしやすいです。「いじめはいけないことだ」「殴ってはいけない」ということを、早期発見をして叱れる先生でなければいじめは悪化します。
ですが、子どもたちからは、いじめについて先生に報告しようと思っても先生が忙しくて捕まらないという声を聞きます。先生がずっと職員室にいると、職員室に行く勇気がない子は声をあげられません。そんなときに、「マモレポ」を活用して、いじめの早期発見に役立ててほしいのです。
いい先生たちから感じる先生という仕事への誇り
先生の中には、現状の「マモレポ」のサービスについて「もっとこうしたらどうか」と建設的な意見をくれる方がいて勉強になります。一方で否定的な意見をくださる方もいます。ですが、どなたも根底にあるのは、「子どもたちのため」という思いなんです。子どものことを一番に考えているからこそ、導入するなら子どもたちにとって一番いい形で取り入れたいと考えているんです。
また、世間では教育現場のブラック体質が指摘されていますし、私も「先生って大変だな」と思うんです。ですが「マモルティーチャープロジェクト」で紹介している先生方は「大変」とは言わないんですよね。これまでの経験を踏まえて、力の抜き方や効率化が分かっているのかもしれませんが、どんな業種でも、「仕事が大変」という人もいれば、「仕事は大変だけど楽しい」という人がいますよね。
その違いは、その仕事が好きかどうかや、楽しさを感じられるかだと思うんです。楽しんで仕事をしている人は「仕事が大変」とは言わないですよね。
失敗することは誰にでもある
ただ、意外なのは「マモルティーチャープロジェクト」で紹介している先生は、先生になったばかりの頃は、気合入れすぎたり、保護者からすごく怒られたり、失敗した経験がある人も多いんですよね。失敗したからこそ一皮むけて今のような考えになられているんです。
だからこそ、失敗する子どもの気持ちが分かるし、受け入れることができるのかもしれません。宿題を忘れるのも、忘れたことがある人は、なんで忘れてしまうのか気持ちわかりますよね。
失敗をしているというのは、保護者にも大事なのかもしれません。私もひとりの保護者として思います。これは私自身がダメな保護者だからかもしれませんが(笑)。
例えば、「先生は子供たちの手本でなければならない」というような意見もありますが、親だって子どもの手本になることはなかなか難しいですよね。だから、先生に対してだけそんなことを言わなくてもいいなと思うんです。
先生もちょっと抜けていていいと思うし、失敗してもいいと思います。むしろ、そういった人間らしいところがいいんじゃないかな。
学生時代、私の印象に残っているのは数学のおじいちゃん先生で数学以外の人生の話みたいなものがすごく良くて、例えば、多数決の話になったときに「数が多いものが正解とは限らない」みたい事をボソッと言う先生でした。
いい先生かどうかということを考える際、勉強の教え方が上手かどうかということはもちろんあると思いますが、学習面だけであれば塾の先生でもYouTubeでもいいと思うんですよね。学校の先生は、プラスして人間的魅力が感じられると子供たちにとって楽しいし、ワクワクすると思います。
株式会社「マモル」代表取締役(https://mamor.jp/)。2015年、海外で開発されたいじめ通報アプリに触発されて、自分が携わってきたITをいじめ問題の解決に結びつけるため「マモル」を設立。児童生徒がネットを通じていじめについて通報できるプラットフォーム「マモレポ」をリリース。一方で、学校コンサルティング、いじめ・ハラスメントのセミナー登壇、執筆を行う。