子どもを認め、信頼関係を築く先生は1日でクラスの雰囲気を変える/横浜市立日枝小学校長・住田昌治
住田昌治
横浜市の小学校で校長をつとめ、ESD(持続可能な開発のための教育)を推進する住田昌治さん。教員も子どもたちも笑顔になる学校づくりや学校組織マネジメントの取り組みが注目を集めています。そんな“いい校長先生”が考える”いい先生”とは。
目次
子どもが「生まれてきてよかった」と思える社会のための教育
私が実践しているESD(Education for Sustainable Development=ユネスコにより提唱されている持続可能な開発のための教育)とは、教員時代に出会いました。そして、2010年、校長に就任後、「いい学校をつくりたい」という思いから実践を始めました。
ESDと言葉で表すとなにやら難しそうですが、「子どもたちが、『生まれてきてよかった』と思える社会、高齢者が『長生きしてよかった』と思える社会にするために、私たちの価値観や行動、生活様式に変容をもたらす教育」を表します。
そこで、”持続可能”をキーワードに、教員同士が職員室で安心して語り合えるような空間づくり、国語や算数といった教科学習にESDの視点を取り入れたり、年間を通して”命の授業”に取り組んだりなどの授業実践など、少しずつESDのエッセンスを広げていきました。それにより、学校全体に安心感や充実感が生まれ、教員も子どもたちも元気で明るい学校づくりが実現できたと自負しています。
ESDを実践するというのは、いわゆる“学校改革”です。
それまでその学校で当たり前に流れてきた空気や教員たちのマインドを変えていくわけですから、覚悟や苦労も伴いますし、時間もかかります。
ですが、「こんな学校をつくりたい」と思ったら、自分が楽しんでワクワクしながら、まずやってみる。「失敗した」と思ったら、そこからまた修正していけばいいんです。
子どもたちを信じて任せる。できないことは無理してさせない
このようなマインドは、教員時代、ミニバスケットボールの指導を通して身につけることができたと思っています。
横浜市ではミニバスケットボールに取り組む学校が多く、中学校から大学までバスケットボールに励み「バスケットボールの楽しさを子どもたちに教えたい」と思っていた私は、子どもたちに熱心に指導していました。
しかし、「強いチームを作りたい」と夜遅くまで練習したり、練習試合をたくさんこなしたりなど“熱血指導”を行っても成果は出ません。
悶々とした日々を過ごしながらいろいろ考えるうち、「自分の指導が子どもたちのやる気を奪っていたのではないか」「子どもたちの力を過小評価し、指導者の自分が試合の前から勝つことをあきらめているのではないか」と思うようになったのです。
それを機に、練習時間を大幅に短縮し、子どもたちに「今、自分は何をすればいいのか、どうするのがチームのためになるのか」を考えさせながら練習する、子ども主導の練習方法に変えたのです。
「勝つか負けるか」だけではなく、「練習してきたことがうまく出せるかな」「この子はどんな活躍をするのかな」など、私自身がワクワクした気持ちで臨むうちに、気づいたら強くなり、勝てるようにもなってきました。
これは、学級づくりや学校づくりにそのままつながりますよね。
できないことを無理にさせる必要はないんです。誰かをコントロールするということは、結果的に、自由とか好奇心とかいろんなものを奪ってしまうことにつながるんです。
先生は子どもたちを、校長は先生たちを「信じて任せる」。それしかないと思うんです。
先生は、子どもたちが学ぼうと思ったときに安心して学べる場や環境を作る。校長は、先生たちが何かをやりたいと思ったときに、それができるような場や環境を作るのが本来の仕事なのだと思います。
いい先生は、1日でクラスをいい雰囲気に変えることができる
“いい先生”とは、子どもをよく観察し、きっかけを作ることができる先生なのだと思います。
たとえば、総合学習で子どもたちと近くの山に行ったときなど、何かを見つけて夢中で観察している子、「これはなぜだろう」と疑問や関心を抱いている子たちの思いをうまく引き出して、それらをほかの教科の授業と関連づけ、波及させていく。
子どもは本来、学びたいし、自分の思うままに知りたい、前に進みたいと思っているんです。子どもをよく観察して「きっかけ」を作ることで、子どもは自分で考え、なんとか答えを見つけようとしていくものです。
あともうひとつ、クラスのみんなが安心し、幸せになれる空間を作ることができる先生も、“いい先生”だと思います。
“いい先生“は、どんなクラスを受け持っても、年度末にはいい雰囲気のクラスに作りあげます。
極端にいうと、年度始めの最初の1日で、いい雰囲気を作る先生もいます。そういう先生たちは、子どものことをよく見て話を聞き、フィードバックをしている。
ありのままの自分をさらけ出し、「みんながこんなことをしてくれたら嬉しいけど、こんなことをしたら注意するよ」ということを、最初にしっかり伝え、子どもたちとの信頼関係を作っていくんです。
授業の準備に力を入れて熱血指導を行うとか、コンピューターに詳しいとか、そうことではありません。それぞれの子どもを一人の人間として認め、関わることができる先生。そんな先生がうけもつクラスは、ものすごく落ち着いています。
保護者からのひと言で、先生は生まれ変われる
ですが、先生も人間なので、いいところもあれば悪いところもあります。保護者には、それらをひっくるめて、先生や学校を応援してもらえると嬉しいですね。
「今日うちの子が学校から帰ってきて、〇〇ができるようになったと喜んでいました。ありがとうございます」といった言葉を保護者の方からいただけると、それだけで先生たちは有頂天になります(笑)。
「よし、頑張ろう!」とやる気が湧き、生まれ変わったように成長していける。保護者の言葉には、それほどの力があるんですよ。
<取材/構成>長島ともこ
1958年生まれ。島根県浜田市出身。1980年より横浜市の小学校に勤め始める。2010〜2017年度永田台小学校校長、2018年度より、横浜市立日枝小学校校長。ユネスコスクールに加盟し、ESDを推進。独自の切り口で実践を重ね、多くのメディアで取り上げられる。著書に『カラフルな学校づくり ESD実践と校長マインド』(学文社)『任せるマネジメント』(学陽書房)がある。