人との違いを学び、感情を成長させることに学校の存在意義がある/アンガーマネジメントファシリテーター・長縄史子
長縄 史子
普段、自身の経験を交えながらアンガーマネジメントを用いた子育てのアドバイスをくれるアンガーマネジメントファシリテーターの長縄史子さん。今回の長期休校で子どもたちの学習の遅れが懸念される中、「学校=勉強(学習)するところ」という固定概念について疑問を抱き、保護者のひとりとして改めて学校の存在意義について考えてくれました。
結論からいうと、私が考える学校の存在意義は大きく2つあります。
- 学校は、“異”を学べる貴重な場。
- 様々な感情交流を通して長期的に心の成長を育める場。
このような意義があるからこそ「学校は行けたほうがいいよね」と考えています。
「学校は、“異”を学べる貴重な場」とは
私自身、子ども時代に親の転勤で小学校2回、中学校3回の転校を経験して人以上に多くの人に出会うチャンスがあったことで、強みになったことがあります。
それは、自然と“多様性”が受け入れられるようになったということです。人によっていろいろなものの考え方、感じ方があります。伝え方もそれぞれ。「それはおかしい」「間違っている!」と決めつけるのではなく「どうしてそういう考えに至ったのか」「どんな気持ちでいるのか」「どうしたら折り合いがつくか」と考えてながらコミュニケーションを通し、互いの違いを受け入れつつどうしていけばいいかを考えて動いていく力が身に付いていったように思うのです。
最近は、“多様性を認めよう”という流れになってきていますが、妥協ではなく納得しつつ他者を受け入れることは、核家族化している家庭の中で学ぶことはもちろん、大人になってから後から身につけようとしてもなかなか難しいことだったりします。
学校は、“同じことを学ぶ場”のように一見思いがちですが、人を通して“異”を学べる場なのだと思っています。
「様々な感情交流を通して長期的に心の成長を育める場」とは
教員たちは時数計算をし、学習指導要領の下、カリキュラムマネジメントをしながら懸命に教えてくれています。そのおかげで子どもの基礎学習力が身に付き、科目に関心を持ち大人になって学びを深めるきっかけになることもあります。
ただ、現代は子どもたちがネットを活用しながら短時間で効率よく学習ができたり、理解不足の部分だけを個別に学んだりすることが可能な時代です。学校=勉強(学習)するところという考え方は変わっていくだろうと思います(もちろん、すべての家庭にネット環境が整っているわけではないため教育を受ける権利と機会が保障される必要はあります)。
しかし、自分の子ども時代を振り返り「学校生活で思い出すことは何か?」と考えてみると、あれだけ毎日椅子に座って学んできたはずの勉強(学習)についてはほとんど覚えていません。
それよりも思い出すのは、「友達とどんなことがあったのか」「クラスでどんなことに取り組んできたのか」など、喜びや楽しみ、悔しさや達成感など心が動いた出来事です。
喜びの共有は一瞬かもしれません。不安や心配などの悩みや悔しさからの脱却には解決まで時間を要します。友人とのいざこざも少し勇気が要りますが、コミュニケーションはいつからでもやり直しができます。
このように自分の感情と向き合い、時間をかけたり、周りに協力してもらったりしながら、関係性を修復していくことも学校という場だからこそできることだと思っています(もちろん、いじめのように精神的にも肉体的に身の安全が保てないときには学校から離れる方がいい場合もあると考えます)。
これらのことから、学校は様々な感情交流を通して長期的に心の成長を育める場だと私は考えています。
自分はそのように学校生活を送ってきたのに、自分が親になると忘れてしまいがちです。“休校=勉強する場所が家になっただけ”と考えて、子どもに「勉強はいつするの」「勉強は終わったの」と思わず口から出てしまうものです…(反省)。
学習そのものは学習コンテンツで学べる時代になってきましたし、これから子どもたちはAIの時代に生きていかないといけません。しかし、学校という場はこれからも無くなることはないでしょう。だからこそ、改めて学校という場を考えたとき、学校は“相互理解や感情理解を深める場”であり、“人を学べる生きた場”であって欲しいなと思っています。
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会(東京)アンガーマネジメントファシリテーター。子育てや教育・福祉・司法関係において、心に触れる実践的なアンガーマネジメントを伝え、一人一人が大切にされる教育社会を目指して怒りの連鎖を断ち切るために活動を続けている。著書に「マンガでわかる怒らない子育て」(永岡書店)「イラスト版子どものアンガーマネジメント~怒りをコントロールする43のスキル」(合同出版)などがある。 https://www.angermanagement.co.jp/