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現代のソクラテス
2022.05.13

「ないなら創ろう!理想の学校」公立校の先生を辞めて、新しい学校を創った理由/蓑手章吾

14年間勤めた公立小学校を辞め、2022年4月、オルタナティブスクール・HILLOCK(ヒロック)初等部を開校した蓑手章吾さん。「みんなが、学びたい場所で、喜びを感じながら学べる場を創りたい」という夢への第一歩を踏み出しました。公立小教員という安定を捨て、「実現したい教育」の場づくりへと舵を切った蓑手さんに、HILLOCK開校までの経緯や開校への思い、教育観などについて聞きました。

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蓑手章吾さんHILLOCK(ヒロック)初等部 校長

元公立小学校教員で、教員歴は14年。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』『個別最適な学びを実現するICTの使い方』(ともに学陽書房)などがある。

「新しい学びの場」づくりへの夢

公立小学校で14年勤務した蓑手章吾さんですが、大きな転換点となったのは、6年間の初任校勤務を経て特別支援学校に異動となり、重度重複学級の担任となったときでした。

「障害のある子たちの指導は初めてで、それまでの通常級の指導経験を生かせる場面が全くといっていいほどなく非常に苦労しました」(蓑手さん、以下略)

『学びとは何か』『そもそも生きるとか何か』という問いが芽生え、乳幼児心理学、脳科学、動物行動学などを夢中で学び続けた蓑手さん。

「模索する日々の中で、”ある子はiPadを渡して学習を進めてもらう”、”ある子はカタカナより先に漢字を覚えるよう促す”など、その子の『好き』に寄り添いながら、その子に合わせた指導や支援を行うことで、みんなが楽しく学べるようになることに気づきました」

その後、通常級の担任に戻り、授業の進度を学習者が自ら自由に決めていく「自由進度学習」やICTを活用した授業に取り組みながら、「みんなが学びたい場所で、喜びを感じながら学べる場をつくりたい」と、思うようになったと話します。

しかし、さまざまな取り組みを行う一方で、蓑手さんの中の公教育への違和感が徐々に膨らんでいきます。

例えば、学年制で1年のカリキュラムがほぼ決まっていること。一斉に教えること。テストで評価しその評価を通知表として渡すこと。“横並び”でほかのクラスと異なる教育を行いにくい風土が根づいていることなど…。

それでも自身がめざす教育を実践し、模索し続けていたある日、ある保護者からの声が、蓑手さんの学校教育に対する思いと、公教育との違和感を明確にしました。

「勤務校の全校保護者会で、とある保護者の方が、『公立小は、その地域に住む子どもたちが“たまたまそこに住んでいるから通う学校”です。子どもを『この学校に通わせたい』と思って通わせているわけではありません。特別な教育、個性的な教育よりも普通の教育をしてくれればそれでいいです』とおっしゃったんです。

その言葉がすとんと腑に落ちたんですよね。施設や授業を含め、『当たり前』が根底にあるのが公教育なのだと。自分が理想とする教育を公教育の中で実現しようとすると、多くの人を傷つけたり迷惑をかけたりしてしまうのかもしれないと、改めて気づかされました」

公立校を辞めて、新しい学校を創る

時を同じくして、教育界では、オルタナティブスクールの「軽井沢風越学園」、「茂来学園 大日向小学校」(共に長野県)など新しい学校の創設が話題となっていました。

「すごくワクワクして、『自分も理想とする学校をつくってみたい』と思っていた」と当時を振り返る蓑手さん。

そんな彼に、「一緒に学校を作りませんか?」と声をかけたのが、プリスクール『キッズアイランド』の創設者であり、HILLOCKファウンダーである堺谷武志さんでした。

「堺谷さんとは教育者向けのプログラムなどで面識があり、教育観も共通する部分多く信頼できる方だったので、『ぜひ!』とお答えしました。同時期にインターナショナルバカロレアの考え方を採択している私立小学校に勤務し、ICT教育にくわしい五木田洋平さんと知り合い、意気投合。新しい学校づくりの構想を本格的に練り始めました」

蓑手さんを含むヒロックの立ち上げメンバー

通知表ではなくその子のタイミングでフィードバック

2021年3月に、14年勤めた公立小学校を退職。その後約1年の準備期間を経て、2022年4月、18名の子どもたちとともに、蓑手さんを校長とするオルタナティブスクール「HILLOCK(ヒロック)初等部」がスタートしました。

HILLOCK(ヒロック)とは、英語で”小高い丘”という意味。「草原や丘を自由に駆け巡る子ども(と大人)」をイメージして名付けたそうです。

同校で行われる学びは、子ども達が自ら問いをもち、試行錯誤を重ね、失敗しながらも自ら学ぶ力を育んでいける内容。

  • ワイルド:自然にふれながら、たくましくしなやかに
  • アカデミック:探究&教科、日本語軸バイリンガルetc.
  • 東京がキャンパス:フットワーク軽く、社会とつながる

という3つの大きな特徴を掲げ、自分の興味があることを探究していく「マイプロジェクト」、ひとつのテーマをさまざまな視点や教科を横断した中から深めていく「テーマ学習」など、個性的なカリキュラムが実施されています。

「学習プログラムについては、小学校の学習指導要領をベースに、公教育の内容を7割程度の時間で行い、残りの時間で探究、SEL(社会性と感情の学習)などに取り組みます。基礎学習は自由進度学習を基本に『目標→実施→振り返り』を繰り返すことで、自己調整力をつけていきます。自由進度学習は、モノグサ(Monoxer)などのICT教材を使える環境も整えていきたいですね」

また、「HILLOCK(ヒロック)初等部」では、子どもの個性がより輝くための4つのCを大切にしているそうでテストや通知表がないそう。

4つのC

  • Confidence(自信:人と比べることなく、自分らしく)
  • Creativity(創造、表現:一歩踏み出す勇気)
  • Caring(配慮:思いやり、ユーモア)
  • Contribution(貢献:多様性、チームワーク)を大切にしています。

では、保護者はわが子の成長具合や学校の様子をどうやって知ることができるのでしょうか。

「子ども達を通知表やテストなどの“数値”では評価しませんが、『今日はこんな思いやりのある行動がとれた』『これまでは自分優先の部分が多かったけれど、今日は友達にゆずれた』などの評価は行います。そして、その子が“輝いた”タイミングで本人、保護者の方とコメントで共有し、その子ならではの成長をフィードバックしています」

通知表やテストは結果を伝えるものであり、悪い成績であっても過去に戻れるわけではないので取り戻すことができません。ですが、随時のフィードバックがもらえれば、よりよい方向へ進んでいけるように保護者もサポートすることができます。

「やりたいこと」は自然と見つかる

近年、子ども達に「やりたいことの道へ進めばいい」「学びたいことを追求すれば」という風潮がありますが、忙しい毎日を送る子どもたちには、「やりたいことを見つける余裕がないのでは」と話す蓑手さん。

「忙しいからできない」と最初からあきらめたり、「やりたいことが見つからない」など、気力を失ったりしている子が少なくない傾向が見られるのが、気がかりなのだそう。

「やりたいことは、すべての子どもたちの中で眠っていると思っています。でもそれがなくなってきてしまっているのは、いまの社会制度になんらかの原因があるのではないでしょうか。周りからの評価とか、本当はやりたくないのにやらされたりとか、束縛が多すぎるから、そこから逃避し、あきらめたり、気力を失ったりしてしまうのではないでしょうか

そんな縛りをとりはらい、自分のペースで過ごす中で、『あ、これやってみようかな』と思ってみたり、でも、いざやってみたら『ちょっと違うかな』と感じてみたり。そういう試行錯誤さえできれば、やりたいことって自然と見つかるものだと思うんです。ヒロックでは、そんな環境づくりを大切にしています」

また、教師や保護者以外に、子どもの試行錯誤をしてくれる存在(バディ:学校創りに参加してくれる仲間・先輩)がヒロックにはいます。

「バディは約100名。公立学校の先生など教育関係者、保護者の方などさまざまな属性の方がいます。それぞれが得意なこと、豊富な知識など、“特技”を生かして子どもたちの学びをサポートしてもらったり、授業のお手伝いをしてもらったりなども行っていく予定です。

子ども達が探究的な学びを進めていくにあたり、聞きにいけたり、会いにいけたりする大人が大勢いるのはとても心強いし、大人も楽しいと思うんです。バディとうまくつながり、お互いに刺激しあいながら、皆で学んだり、これからの教育のことを考えたりしていきたいですね」

オルタナティブスクールの必要性とは

ヒロックのようなオルタナティブスクールは、日本ではまだまだ少数ですが、必要性を次のように話します。

「ヒロックのような学校のあり方や運営の仕方に共鳴してくださる方が増え、うまくノウハウを共有しながら少しずつ“数”として増えていったらいいな、と思います。

そして、すべての学校のうちの1割くらいをしめるようになると、保護者の方や教員も、選択肢のひとつとして『オルタナティブスクールに通う』『オルタナティブスクールで教える』ということが検討できる状況になることで、公立の学校の負担が減り、生き生きと学ぶ子ども、大人が増えていくのではないかと思います」

長島 ともこ

長島 ともこ

フリーライター、エディター、認定子育てアドバイザー。妊娠&出産、育児、教育などの分野の企画、編集、執筆を行う。PTA活動にも数多く携わり、その経験をもとに、書籍『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(厚有出版)などを出版。「PTA」「広報」をテーマに講演活動も行う。2児の母。

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