思ったことがうまく話せないのは病気なの?場面緘黙の症状や治療、相談先を解説
「思ったことがうまく話せない」子どもの様子に悩む家族が増えているようです。そこで今回は、家と外では様子が違うといった「思ったことがうまく話せない」原因や治療方法について、児童精神科医の前田佳宏先生にお話を伺い、まとめてみました。「思ったことがうまく話せない」子どもの特徴や、場面緘黙の対処法など、言葉と心の問題で心配な家族に役立つ内容になっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
思ったことがうまく話せないのは病気なのか?
思ったことがうまく話せない場合、身体の病気であるケースと、精神の病気であるケースがあります。1つずつ解説していきますね。
身体の病気で「思ったことがうまく話せない」場合は脳や神経に原因が
脳や神経にダメージを受けたことで「思ったことがうまく話せない」場合があります。
例えば
- 認知症
- 脳梗塞
- 失語症
などがあります。身体の状態が気になる場合には神経内科や脳神経外科に受診されるとよいでしょう。
身体の病気ではないが「思ったことがうまく話せない」場合は精神の病気があるときも
脳や神経にはっきりとしたダメージがみつからない場合、本人が障害をもっている可能性もあります。
例えば
- 場面緘黙(ばめんかんもく)
- 社交不安症
- 自閉スペクトラム症
などがあります。今回はテレビの特集やネットで目にするようになった場面緘黙について解説していきます。
場面緘黙の症状や困り事とは?
「思ったことがうまく話せない」のは身体の病気である場合と精神の病気である場合があることがわかりました。では、思ったことがうまく話せない病気の1つ、場面緘黙とは一体どんな症状なのでしょうか。
およそ2〜4歳で発症し、家以外の場所で話せない
場面緘黙とは主に幼児期から児童期に発症するコミュニケーション障害の一つで、学校や幼稚園などの状況では声を出したり話したりすることができないことが続く状態をいいます。
「家では話しているのに、外では話せていないのはうちの子だけ?」「お友達と話せない子は見たことがないから不安」と思われるかもしれません。国内の小学生約14万7千人を対象にした大きな調査では0.21%の子が場面緘黙であったとの調査があります(梶・藤田,2019)また別の調査では、場面緘黙の子は学校の規模にもよりますが、全体の半分にあたる学校に場面緘黙の子がいると考えられています。*1
大人になっても症状が続く場合がある
場面緘黙は、子どものうちに治療や支援を受けることで、少しずついろいろな場面でよくなることがわかっています。その一方で、大人になってから思ったことがうまく話せないことを相談にくる患者さんもいるとのことでした。
大学生までは周囲から寡黙な人というイメージがあったおかげで話さなくても生活できていましたが、就活の面接など、どうしても話さなくてはいけない状況が増えたことがきっかけで受診された患者さんもいますよ。その場合、障害者就労に進むことでお仕事ができるようになりましたね。
場面緘黙の原因とは?
場面緘黙の原因は1つではなく、いくつかの原因が重なっていると考えられています。
本人に原因がある
場面緘黙の人に不安や緊張を感じやすい性質が共通すると言われています。また社交不安や分離不安のような不安症を併存している人も少なくありません。*2それ以外の要因として、ASD(自閉スペクトラム症)、軽度知的障害、感覚過敏といった他の原因との重なりも考えられます。
環境に原因がある
場面緘黙の原因には他にもこのようなことが考えられます。
- やらなくてはいけないことやその量が自分にあっていない
- 音や情報、臭いなどがつらい
- この先の展開がわからない
- 先生が怖い
- 「しゃべらなくてもいい雰囲気」がある
「親の育て方が悪かった」というのは誤りです。ただ一方で、「思ったことが話せない」のに話すことを求めすぎると本人の不安や緊張は高まりやすいので、本人にあわせた家族のサポートは必要と考えましょう。
場面緘黙の診断と治療方法は?
「思ったことがうまく話せない」症状がある場合、精神科を受診することができます。また治療法はいくつかありますので、ご紹介していきます。
場面緘黙の診断は精神科などで行える
場面緘黙は精神疾患に分類されるため、児童精神科や精神科で診断を受けることができます。また場面緘黙は学校教育法では「情緒障害」に分類、「特別支援教育」のサポートを得られます。
場面緘黙の治療法がいくつかある
困っていることに対してそれぞれ治療法があります。治療は本人の様子を観察し、本人の要望などを聞き取ることから始まります。口の動きが気になる場合は、リハビリが効果的なこともありますし、不安を減らしたい人には認知行動療法があっているかもしれません。
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前田佳宏先生への相談ページを見てみる場面緘黙について家庭でできることとは?
場面緘黙において「しばらく様子を見ましょう」はあまり好ましくありません。なぜならば、場面緘黙は本人にあったやり方で症状の改善が見られる場合が多いからです。*3「場面緘黙の専門の人に診てもらってから」と思っている家族も、
- 話さなくても安心していられる居場所を増やす
- ほんの少しずつでよいので話せた経験を重ねる
から始めてみましょう。
児童精神科医が実際にみた患者さんのケースを特別公開
実際「思ったことがうまく話せない」と悩んでいる人はどうなってしまうのでしょうか。前田先生から「場面緘黙」と診断されたお子さんのお話を特別にご紹介いたします。
ケース1:「お話をしない」小学校1年生
「子どもが学校で話をしなくなってしまって…」と心配した母親と受診したケースです。小学校に入学後、教室で友達と話をしていないことに母親が気づきました。家で子どもは話せているので、「学校でもお話してもいいんだよ?」「どうしてお話しないの?」と教えたつもりが、ますます話せなくなっていきました。医師から「話せなくても別にいいよ」「話したくなったら話せばいいから」ということを伝えられ、家族や周りの人も本人に話すことを追い詰めないようにしたところ、学校生活に慣れてきた半年ほどで少しずつ話せるようになっていったそうです。
ケース2:「声がでない お腹痛い 頭痛い」小学校4年生
幼稚園や小学校低学年まではそこまで生活に困りごとがなかったお子さんです。授業内容などで自分から意見を言わなくてはならない場面が増えたことで、家では話せるのだけど、学校で話すことができない状態が1ヶ月以上続くようになりました。また話せないだけでなく「お腹が痛い 頭が痛い」と訴えるようになったため母親と来院、そこで「場面緘黙」と診断されました。そして「学校で話さないといけない」というストレスによる体の症状が見られたため、緊張を緩める漢方を処方しました。
また、母親から担任の先生に相談してもらい、声を出さなくても簡単な意志疎通ができるようにカードでつたえることを練習していきました。その結果、トイレに行きたいという意味のカードを担任に見せることができ、家と同じように話せるわけではありませんが、担任とは簡単な言葉のやりとりを徐々にできるようになりました。
どちらのケースも学校の先生が本人の様子に合わせて対応してくださいました。学校の先生に協力を得づらいときはスクールカウンセラーに相談するのもいいですね。家族だけで抱え込まずに相談することが大切です。
思ったことがうまく話せない悩みの相談先とは
思ったことがうまく話せないと悩んでいる人の相談先はいくつかあります。たとえば
- 小児科や児童精神科などの医療機関
- 子ども家庭支援センターや精神保健福祉センターなどの市役所や福祉事務所
- 学校や教育センターなどの教育機関
- 専門家へのオンライン相談サービス
などがあります。ご自身のニーズに合わせて選んでいくとよいでしょう。「オンラインの相談に興味はあるけど不安」「料金が知りたい」など気になることもありますよね。無料の「ソクたま相談室」のコンシェルジュに相談してみてくださいね。LINE登録で相談料10%OFFクーポンもありますし、チャットでも受付中です。
まとめ
最後に前田先生からのメッセージをご紹介します。
「思ったことがうまく話せない」ということを本人は一見困ってなさそうな雰囲気を出していることも多いです。
ただ、相手から話すことを求められると無意識に体がこわばってしまうことが起きています。なので、本人がわざと話さないようにしているわけでは決してありません。
まずは本人が話しやすい状況から、ちょっとずつ練習して緊張をほぐしていく。
その無理ないチャレンジを本人といっしょに伴走できるように優しく見守る姿勢を周りがつくることを一番大事にしてもらえたらと思います。その余裕を作るために、家族だけで抱え込まずに専門家に相談することからはじめてみてくださいね。
【引用・参考文献】
*1 Matsushita,Okumura,Sakai,Shimoyama,and Sonoyama(2019)
*2 高木潤野 場面緘黙のある人の支援について 吃音、トゥレット、場面緘黙の実態把握と支援のための調査研究 厚生労働省 2021年
*3高木潤野 場面緘黙(選択性緘黙)の理解と対応 日本小児研究第80巻 第6号 2021年
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公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。