“いじめ”ってなに? いじめの定義や種類を解説します【連載 いじめのトリセツ Vol.1】
わが子がいじめの被害者になる、わが子がいじめの加害者になる。子育て中の親なら、そのどちらの可能性も考えたことがあるのではないでしょうか。今回からスタートする本連載では「一般財団法人 いじめから子供を守ろう!ネットワーク」東京代表の栗岡まゆみさんに、さまざまな角度からいじめについて教えてもらいます。
いじめの定義とは
いじめって何?
この問いかけに、子どもたちは手を挙げて答えてくれます。
「はーい、人の心を傷つけることです」
「うざい。きもい。死ね。とか言います」
「給食のときに、ゴミを入れたりすること」
「仲間に入れないことです」
無邪気な表情でそう話す、そのシビアな現実に驚かされます。この「いじめって何?」の問いかけに明確に答えることから、いじめ問題の解決はスタートします。
平成25年に制定された「いじめ防止対策推進法」では、“いじめ”を次のように定義づけしています。
児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人間関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものをいう。なお、起こった場所は学校の内外を問わない
いじめ防止対策推進法第二条
つまり、“被害者が心や体に苦しさや痛みを感じたらいじめ”と定められたのです。
子どもたちが“いじり”や“ふざけ”と捉えているような行為であっても、対象の子どもが苦痛を感じ、「嫌だ」「つらい」「やめてほしい」と感じていたら、その行為は“いじめ”となることをこの法律は定めています。
また、行為をされた子どもが仕返しされることを恐れて「自分はいじめられていない」と言った場合でも「いじめではない」と判断するのではなく、本当に苦痛を感じていないのか子どもの様子を観察・確認し、子どもの心と命を守る必要があります。そのための定義なのです。
いじめ防止対策推進法が制定されるきっかけとなったのが、平成23年に起きた大津のいじめ事件です。
被害者である中学男子生徒に「いじめではないか?」と確認したけれど、本人が「大丈夫」と答えたために対応されることなくいじめはエスカレート、命を失っています。
また、次は私にとって忘れられない事例の一つです。
平成24年、品川区の中学1年生の男子児童が「鉛筆折られた」と相談しました。担任はクラス全体に注意を促しましたが、「大したことはない」と判断。いじめはそのまま、エスカレートしていきます。それから数ヵ月後「お父さん、行ってらっしゃい」の言葉を最後に、自宅で命を絶ちました。
クラスのほぼ全員による、「うざい」「キモイ」「死ね」の暴言、男子生徒による殴る蹴るの暴行など壮絶ないじめが行われていました。
男子児童の夢は、デザイナーでした。
この男子児童が自殺した当日、私は隣の区でいじめ防止授業をしていました。その後、新聞社からの取材を受けた際「品川で自殺があったのをご存知ですか」と聞かれました。「なぜだ」と気が動転したまま何が起きたか知りたく、教育委員会に駆け込みました。そこには、下を向いて何も語らない重苦しい何十人もの職員。
「今は対応できません」と顔なじみの職員の悲痛な声。教育現場で、命を失った重みを痛感しました。「守りたかった」と胸がつぶされそうで、足が震えました。今も「教育現場の子どもたちを守りたい」という願いとして、多くの区民に記憶されています。
「鉛筆折られた」という最初の訴えの対応を誤らなければ、命を失うことはなかったであろう、忘れられない事件。「このくらい、大したことはない」と大人が思い、小さないじめを見逃し対応を誤る。それがいじめのエスカレートへとつながり、命を失うことにもなるということを教えられました。
いじめはどの子どもにも、どの学校にも起こり得るものなのです。
国立教育政策研究所の調査で明らかになったのは、小学生の9割近くが仲間はずれ・無視・陰口の被害を受け、加害経験も同様の傾向であるということ。“誰もが被害者・加害者になり得る”ということです。
令和3年度のいじめ認知件数は61万5,351件で、前年に比べて万8,188件(19.0%)増加しています。小学生も中学生も、言葉によるいじめが約60%を占めているのです。テレビのバラエティ番組やアニメ、周りの大人、周りの子どもたちの言葉を真似て、簡単に乱暴な言葉を使う子どもたちが増えているように感じられます。
しばしば“昔のいじめと現代のいじめは違う”といわれます。
アニメ『ドラえもん』の「のび太」と「ジャイアン」が、いじめられっ子といじめっ子の例えとして挙げられたのは昔のこと。現代のいじめは、悪質で巧妙です。1対1ではなく、1対集団です。外からは見えにくいネットいじめの存在、そして9割の児童生徒がいじめた経験といじめられた経験があるという調査結果は、いじめっ子といじめられっ子がある日突然入れ替わり、どこでも起こるという状況を表しています。
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栗岡まゆみさんへの相談ページを見てみるいじめの種類は主に6つに分けられる
いじめには、主に以下の6つの態様・種類があります。文部科学省の調査結果から見ていきましょう。
(引用)※本文中の数字(p31)
令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
①言葉による暴力
言葉の暴力とは、冷やかし・からかい・悪口・脅し文句・嫌なことを言われることを指します。
具体的には、
- 「死ね」「うざい」「キモイ」「バカ」「消えろ」「バイキン」など、存在を否定するような言葉。
- 容姿や言動について「デブ」「チビ」など不快なことを言う。
- 真面目に掃除をすることや休み時間に勉強をしていることを冷やかしたりからかったりする。
- 発表するとやじる、笑う。
- ひそひそ話をする。
- 「親や先生に言いつけたらひどい目に合わせるぞ」などと脅かす。
などが挙げられます。
また、“あだ名”で呼ぶことも相手が「嫌だ」「やめてほしい」と思えばいじめになります。いじめ防止の観点から、校則であだ名を禁止する小学校も増えています。
こんな事例があります。
何人かのクラスメイトからあだ名で呼ばれていたA君。あだ名は、友情の証だと思っていたそう。しかし、グループの輪の中に自分だけは入れないように否定される行為が繰り返され、いじめられていることに気付きました。
仲の良さをはき違えた度を越した行為や言葉で相手が傷つくと、やはりいじめと捉えられます。
②集団による無視・仲間はずれ
令和3年度は小学校で6万1,904件(12.4%)、中学校で9,400件(9.6%)認知されています。
遊びや活動の際に、
- 集団の中に入れない。
- わざと会話をしない。
- 席を離したり、避けるように通る。
- グループ分けでメンバーの中にわざと入れない。
といったように、まるでそこに存在しないかのように無視をすること。
いじめを受けた子どもは精神的に苦痛や孤独を感じ、追い込まれていきます。
休憩時間や放課後の部活動、昼食時のグループ…教員がいないところで行われることが多いため、発見の遅れや事実を確認しにくいことがこのいじめの難しさです。
ある中学校での事例です。
バスケットボール部の1年生の生徒が、レギュラーを獲得しました。1年生の中で一人だけレギュラーになったことを面白くないと感じた同級生が無視するようになり、それがきっかけでその他の同級生からも完全に無視され孤立。それが1年続き、2年生になったある日、シューズに落書きがあるのを母親が発見していじめが判明しました。
集団による無視でも、顧問や教員がいないところで行われると外からは見えにくく発見が遅れます。
③肉体的な暴力
肉体的暴力はぶつかられる・たたかれる・蹴られるといったものですが、“遊びの延長に見えるもの”と“強い痛みを伴い場合によってはけがを伴うもの”に分かれます。
【軽くぶつかられる/遊ぶふりをしてたたかれたり蹴られたりする】
令和3年度は、小学校で12万5,309件(25.0%)、中学校では1万4,039件(14.3%))認知されています。
具体的には、
- わざとぶつかるように通行する。
- 通行中に足を引っかける。
- 遊びと称して技をかけたり、たたいたりする。
- 遊びの中で笑い者にしたり、からかったり、命令する。
- 遊びの中でいつも同じこと(かくれんぼの鬼など)をやらせる。
- 髪の毛を引っ張る。
- 水や泥をかける。
- プロレスごっこの強要。
- つねる。
- 鉛筆やコンパス、画びょうなどを突き刺す。
などの行為です。
次は、ある小学校で起きた事例です。
登下校の際、数日にわたり数人の児童から“足を踏まれる行為”を受けました。その児童は、心身ともに苦痛を感じ担任に報告しましたが、事実関係を確認して「足踏み遊び」の中で起こった行為と判断。その後、児童が学校を欠席し父親の訴えからいじめであると判明しました。
子ども同士の遊びの延長に見えても、相手が苦痛を感じ「やめてほしい」と思うことを繰り返せば、いじめなのです。
【強くぶつかられる/強くたたかれたり蹴られたりする】
令和3年度は小学校で3万1,582件(6.3%)、中学校で4,824件(4.9%)認知されています。
例えば、
- かなりの痛みを感じる強さでたたいたり、足で蹴ったりする。
- プロレスや柔道、相撲などの技を一方的に強い力でかける。
といったものです。
以下は、ある小学校で起きた事例です。
仲良しグループ数名が、休憩時間中A君にプロレス技を一方的にかけているのを教師が見かけ、「いじめではないか」と注意。けれど、みんなが「プロレスごっこをしている。いじめじなんかしませんよ」と言い、A君自身も「みんなでじゃれているだけです」と答えました。教師は「小学生によくあること」と認識しましたがその後、無視や嫌がらせはエスカレート。A君は学校に行けなくなってしまいました。
遊びのつもりでも、それがエスカレートして重大事件に発展するケースもあるのです。
④金品を要求される
令和3年度は小学校で4,452件(0.9%)、中学校で856件(0.9%)認知されています。
具体的には、
- 現金を巻き上げる。
- 買い物で無理におごらせる。
- 買い物でお金を支払わせる。
- 「ちょうだい」「貸して」としつこく言い、物を無理やり取る。
などの行為です。
⑤金品を隠される・盗まれる・壊される・捨てられる
令和3年度には小学校で2万5,692件(5.1%)、中学校で4,881件(5.0%)認知されています。
具体的には、
- 借りた筆記用具を返さない。
- 筆箱の鉛筆を何度も折る。
- 教科書・ノート・体操服などを隠す。
- 教科書やノート、机に落書きする。
- 書写や絵画等の作品制作中に用具を隠す。
- 作品を壊す。
- 掲示物(書写や絵画等の作品)にいたずらする。
- 自転車を故意に壊す。
などの行為です。
⑤精神的な暴力
令和3年度は小学校で4万8,184件(9.6%)、中学校で7,927件(8.1%)認知されています。
具体的には、
- 人前で服を脱がせる。
- 脅して万引きさせる。
- 「家からお金を持って来い」と脅す。
- ゲーム中にパスが渡らないようにしり、ボール拾いをさせる。
- 使い走りをさせる。
- 一人で掃除や後片付けをやらせる。
など、嫌なこと・恥ずかしいこと・危険なことをしたりさせたりする行為です。
⑥SNSなどネットを利用した誹謗中傷
令和3年度は小学校で9454件(1.9%)、中学校で9783件(10.0%)認知されています。
同じ調査の令和元年の結果は、小学校で5608件(1.2%)、中学校で7823件(7.3%)でした。3年の間に、特に小学校で件数が顕著に増えていることがわかります。
内閣府による「令和3年度⻘少年のインターネット利⽤環境実態調査 調査結果(概要)」によると、小中高生のインターネット利用率は97.7%。また、小学生96.0%、中学生98.2%、高校生99.2%がインターネットを通したコミュニケーションを行っていることを明らかにしています。
過去(2019年)の小中高のインターネット利用率は93%。また、小学生41.8%、中学生75.3%、高校生90.1%だったことをふまえると、驚異的な伸び率であることがわかります。
利用率の増加に伴い、ネットによるいじめも増加しており、近年は特に問題視されているいじめの種類でもあります。
具体的には、
- 「ムカつく」「うざい」など書き込む。
- LINEグループからわざと外す。
- サイトに名前を挙げて「お金を盗んだ」などのうそを書き込む。
- 携帯電話で裸の写真を撮り、インターネット上のサイトに掲載する。
- チェーンメール
特定の児童生徒を誹謗中傷する内容のメールを作成し、複数の人物の生徒に送信。児童生徒の誹謗中傷が、学校全体に広まったというケースがあります。 - なりすましメール
第三者になりすまして簡単に送信できるので、クラス内の複数の児童生徒になりすまして「死ね」「キモイ」といったメールを特定の児童生徒に何十通も送信したケースがあります。
掲示板への個人情報の掲載や書き込みは、不特定多数の人が閲覧できます。そのため全く関係のない人からの誹謗中傷を一斉に受けてしまう可能性もあり、エスカレートすると被害が短期間で極めて深刻なものとなり得るのです。いじめをされた側は精神的に追い込まれ、不登校や自殺未遂などの重大な事態に陥ることもあります。
LINEグループなどは保護者や教員などの身近な大人が把握しにくく、発見することの難しさがあるでしょう。
いじめの判断基準とは
まるでゲームのように、いじめを行う子どもたち。
「このくらい、ちょっとふざけてただけだよ」「いじめとふざけは、何が違うの?」こんな問いに答えを出すことが、教育の現場や家庭では求められます。
その問いに対する答えは、シンプルです。
ここまで何度も解説してきたようにふざけや遊びのつもりでも、いじめられた側が「つらい」「やめてほしい」と思ったらそれはいじめです。
『みずいろのマフラー』という絵本があります。小学校で講演を行う際、よく取り上げています。
登場人物は、ぼく・ヤンチ・ヨースケ。ヨースケは力が弱くて走るのが遅く、算数が苦手。ぼくとヤンチがイヤな役を押しつけても、ヨースケは少し困った顔をしながらも言いなりになります。ある日の学校からの帰り道、ぼくとヤンチがいつものようにヨースケが負けるまでジャンケンをして、ヨースケにランドセルを持たせているところをヨースケのお母さんに見つかってしまいました。
くすのきしげのり著・松成真理子絵『みずいろのマフラー』(童心社)より
私が子どもたちに「みんなだったら、ヨースケのお母さんになんていうかな? なんて答えるかな?」と問いかけると、すぐにあちこちから元気に手が挙がります。
「じゃあ、その時のヨースケの気持ちはどうだったかな?」と私が問うと、
「悲しかった」
「嫌だった」
「学校に行きたくなかった」
「やめてほしいと思った」
「一緒に遊びたくなかった」
小学1~2年生の子どもたちが、元気に答えてくれました。低学年には状況を理解するのが少し難しいかと思いましたが、こちらが予想していた以上にみんな真剣にしっかりと状況を理解し、相手の気持ちを想像して言葉にしてくれたのです。
そして、子どもたちにいつも話すのは
「『このくらい、いいんじゃないの?』とか『ちょっとふざけただけ』とか『遊びのつもり』と思っていたことが、実は相手の心の限界を超えて『つらい』『やめて』『嫌だ』と思っていることがあるんだよ。言葉にできない相手の気持ちを理解する、そんな優しさが大切なんだね」
ということ。
いじめた側の子どもは、必ずといっていいほど「いじめじゃない。ふざけてただけ。遊んでいただけ」と言い訳をします。けれど、いじめられた側が「つらい」「やめて」と思っていたらいじめです。
大人は子どもたちの相手のつらい心に寄り添う、優しい心を育てることが大切です。
いじめの判断基準を大人がぶらさないことでいじめられた側を守り、いじめた側の子どもの心を反省させ守ることになるのです。
いじめの種類によっては罪に問われることも…
いじめで尊い子どもの命が失われたというニュースが何度、新聞記事の一面に掲載されたことでしょう。二度と、一番安全であるべき学校の中でこのような痛ましい事件は起きてほしくありません。そしてそれは、全ての親の心からの願いではないでしょうか。
いじめ加害者は、たとえ子どもであっても法的責任が発生する場合があります。
刑法41条では、14歳以上の子どもに刑事責任能力があることを明記しています。その場合は家庭裁判所に送致、保護処分(保護観察・少年院送致・児童自立支援施設等送致)に付されます。14歳未満は処罰されることはありませんが、刑罰法令に触れる行為(触法事件)は警察・児童相談所から家庭裁判所の審判を受ける場合があります。
文部科学省は警察への通報・相談に係る基本的な考え方として、
「学校や教育委員会に対して必要な教育上の指導を行っているにもかかわらず、その指導により十分な効果をあげることが困難な場合、その生徒の行為が犯罪行為として取り扱われるべきと認められるときは、被害児童生徒を徹底して守り通すという観点から、学校においてはためらうことなく早期に警察に連絡して、相談して連携を取ることが重要」
としています。
そして、いじめが抵触する可能性がある刑罰法規の例について
- 強制わいせつ(刑法第176条)
- 傷害(刑法第204条)
- 暴行(刑法第208条)
- 強要(刑法第223条)
- 窃盗(刑法第235条)
- 恐喝(刑法第249条)
- 器物損壊(刑法第261条)
を挙げています。
ここでは先に解説したいじめの種類がどのような罪に問われるのか、例を挙げながら具体的にみていきましょう。
いじめの態様と刑法について
【強くぶつかられる、強くたたかれたり蹴られたりする肉体的暴力】
同級生のお腹を繰り返し殴ったり蹴ったりする行為は、刑法第208条「暴行」に該当します。
また、顔面を殴打して顎の骨を折るけがを負わせるといった行為は、刑法第204条「傷害」に該当します。
昭和61年中野冨士見中学校2年生の男子が自殺した事件では、使い走り(パシリ)を拒むと平手打ち。また、教師も加わった「葬式ごっこ」が行われていました。警視庁はいじめ加害者16人を傷害暴行容疑で書類送検しています。
平成23年滋賀県大津市の市立中学校2年生の男子生徒(当時13歳)がいじめ行為を受けて自殺した事件では、滋賀県警は男子生徒を「あおむけにして口の上にハチの死骸をのせた」「口に粘着テープを貼って手足をはちまきで縛る」「顔にペンで落書き」「殴る蹴る」といった一連の行為に、暴行罪・器物損懐罪・恐喝罪など13件の犯罪行為を立件しました。
滋賀県警は元同級生であるいじめ加害者の3名を暴行容疑で書類送検、大津家庭裁判所は平成26年に2名を保護観察処分にしています。1名は当時13歳で刑事罰の対象にならず、児童相談所に送致されました。
この事件が教育現場に与えた影響は大きく、この問題が契機となり平成25年に「いじめ防止対策推進法」が施行されました。
青森県矢巾町中学校2年生の男子(当時13歳)が平成28年に自殺した事件では、胸ぐらをつかむなど6件の暴行が明らかになりました。生活記録ノートには3ヵ月の間「づっと暴力、づっと悪口」「生きるのにつかれてきたような気がします」「ボクがいつきえるかわかりません」「市(死)ぬ場所はきまっている」「氏(死)んでいいですか」などの教員とのやり取りがありました。14歳1人を暴行容疑で書類送検。13歳1人を児童相談所に通告しています。
【軽くぶつかられる、遊ぶふりをしてたたかれたり蹴られたりする肉体的暴力】
相手にけがを負わせたり強い痛みが生じないような場合であっても、刑法第208条「暴行」に該当します。例えば、プロレスと称して同級生を押さえつけたり投げつけたりするような行為です。
平成22年川崎市の中学2年男子(当時14歳)が自ら命を絶ちました。遺書には、4名の加害者の実名がありました。生徒会の役員として活躍するなどクラスの人気者で、将来の夢は警察官になること。「真っすぐに正義を貫くタイプだった」と同級生が証言しています。友人のいじめをかばったことでその矛先が自分に向き“いじられキャラ”として、いじめにあっていました。
一方的にやられるプロレスごっこや、羽交い絞めにされて下着まで脱がされる。殴る蹴るの暴力は、日常的に行われていました。「遊びだと思った」「把握していない」といじめ行為を認識しなかった学校はその後、第三者委員会の設置で事実を認定。3名が暴力行為違反で書類送検後、横浜家庭裁判所に送致、少年審判で保護観察処分となりました。13歳の1名は、児童相談所に通告されました。
【精神的な暴力】
嫌なこと・恥ずかしいこと・危険なことをされたりさせられたりする、冷やかしやからかい・悪口や脅し文句・嫌なことを言われるなどのいじめは、相手に肉体的な傷やけがを負わせることはありません。しかし、こういった精神的な暴力に該当するいじめも、罪に問われることは大いにあり得るのです。
例えば「断れば危害を加える」と脅し、汚物を口に入れる。嫌がっているのに土下座させるといった行為は、刑法第223条「強要」に該当します。「断れば危害を加える」と脅して性器を触れるといった行為は刑法第176条「強制わいせつ」に該当します。
また、「学校に来たら危害を加える」と脅す、「金を出さないとボコボコにする、監禁する、家に火をつける」などの発言は、刑法第222条「脅迫」です。
校内や地域の壁・掲示板に実名を挙げて「万引きをしていた」「気持ち悪い」「ウザい」などと悪口を書くのは、刑法第230条「名誉棄損」、刑法第231条「侮辱」にあたります。
平成31年、岐阜市の中学3年男子が自殺。第三者委員会で同級生らの聞き取りや目撃証言で事実を確認し、いじめが主な要因の自殺と認定されました。10分の休み時間に、男子トイレの和式便器の前で無理やり土下座をさせました。一人はたたく(暴行)、現金を脅し取った(恐喝)疑いです。
岐阜県警は同級生の男子生徒1人を暴行と恐喝、強要の疑いで書類送検。別の男子生徒2人も強要の疑いで逮捕しています。
【金品を要求される、金品を隠される・盗まれる・壊される・捨てられる】
断れば危害を加えると脅し、現金を巻き上げる行為は刑法第249条「恐喝」に該当します。
金品を隠す・盗む・壊す・捨てるといった行為は、刑法第235条「窃盗」に該当。
自転車を故意に破損するような行為は、刑法第261条「器物損壊等」です。
平成28年、福島第一原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒(13歳)が、いじめを受けて不登校になりました。生徒と家族は東日本大震災の2011年に福島県から横浜市に自主避難。その直後から転校先の市立小学校で名前に「菌」をつけて呼ばれるなど、複数の児童からいじめを受けていました。第三者委員会の調査で、小学5年加害児童10人ほどと遊園地やゲームセンターなどに行き遊興費の他、食事代や交通費も含め1回5万~10万円の費用を10回近く負担。児童2人に一緒に遊ぶためのエアガンを買ったこともあり、親のお金総額150万円以上を持ち出していました。
「お金持ってこいと言われたときすごくいらいらとくやしさがあったけど、ていこうするとまたいじめがはじまるとおもってなにもできずにただこわくてしょうがなかった」「ばいしょう金あるだろうと言われてむかつくし、ていこうできなかったものくやしい」「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」と心境を手記にしています。
第三者委員会は生徒側から相談を受けていたにも関わらず適切な対応を学校がしなかったと判断、「教育の放棄に等しい」と批判しています。
【SNSなどネットを利用した誹謗中傷】
特定の人物を誹謗中傷するため、インターネット上に実名を挙げて「万引きをしていた」「気持ち悪い」などの悪口を書く行為は刑法第230条「名誉棄損」、刑法第231条「侮辱」に該当。
平成29年に埼玉県の高校2年生の女子生徒(16歳)が自殺。第三者調査審議会は、「Twitterの書き込みをきっかけに自殺を考える精神状態に至った」と報告。女子生徒が数人しか見られないようにしていた書き込みを、当時交際していた男子生徒の妹がTwitterに暴露、「どんな顔して学校に来るのかが楽しみ」「(女子生徒の)味方はいない」などと書き込んだことなどをいじめと認定しています。
平成30年、八王子市の市立中学2年生の女子生徒(13歳)が駅で電車に飛び込み、2週間後に死亡しました。第三者委員会の報告書で夏休み中、けがで陸上部を休みがちになる中、家族旅行に行ったことをSNSに投稿したことで、上級生から「自慢ですか」と非難されその後不登校、転校後も不登校は続きました。両親宛ての遺書には「部活でのトラブル」「周りが助けてくれなかった」「学校に行きたかった」という趣旨の文章がありました。現在、いじめと自殺の関連について再調査が行われています。
ネットいじめは外から見えにくく被害者は、24時間誰が書き込んだか分からない恐怖に陥り、精神的に追い込まれます。この怖さはまさに犯罪だということを、子どもたちが理解する必要があるのです。ネットモラルを教育することが命を守り、自らが加害者になることを防ぐ抑止力になります。
「わが子をいじめから守りたい」「いじめられる側にも、いじめる側にも絶対にしたくない」
これが、全ての親の心からの願いです。これまで起きた事例を見て分かる通りいじめは犯罪、絶対に許されない行為です。
善悪の価値観が、子どもを守ります。子どもだけでは解決しないのがいじめ問題です。
「いじめられた側にも、問題がある」「けんか両成敗」「お互いに話し合う」などの誤った大人の判断も、子どもの命を失わせるものになりかねません。
「うちの子に限って」という言葉も、いじめには通用しません。いじめから子どもの心と命と未来を守るためには、まず親が、大人が、いじめについて正しく知ること。これが、いじめから子どもを守る力になります。シリーズで“いじめから子どもを守るために、親が、大人ができること”を読者の皆さんと考えていきたいと思います。
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栗岡まゆみさんへの相談ページを見てみる【参考資料】
学校において生じる可能性がある犯罪行為等について(文部科学省)
「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」
令和2年11月 文部科学省初等中等教育局児童生徒課
【引用事例】
「いじめの問題に関する資料について」(岡山県)
「事例から学ぶいじめ対応集」平成21年3月 奈良県教育委員会
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