なぜいじめがなくならないのか 原因は学校? 教師? 誰のせい?/いじめ探偵・阿部泰尚【第2回】
今までに6000件以上いじめの実態調査を引き受けてきた探偵の阿部泰尚さん。いじめの専門家として講演を行うこともある彼が見て感じてきた“いじめ”について解説します。今回のテーマは「いじめの原因と実態」について。実例のケースも交えながら、保護者としていじめをどう捉えていけばいいのか考えてみましょう。
目次
いじめの原因は被害者にあるのか
いじめに対する議論の中で「いじめられる方にも原因がある」という不毛な意見があります。
実際にいじめの事例でよくあるのが、「出しゃばり」という理由で被害者を無視をし始めた後、暴力に発展するというものです。
ひとつ具体例を出してみましょう。
あるクラスで学級委員を決める会議があり、多くのクラスメイトは成績優秀、スポーツ万能、誰からも人気のあるA君を推薦したいと考えていました。ですがA君は自ら立候補することなく、誰かに推薦されるのを待っていました。
そんなとき、お調子者のB君が学級委員に立候補してしまいました。クラスメイトの大半はB君に対して「空気を読んで欲しい」と思いながらも立候補することに反対することもできず結局学級委員はB君に決まってしまいました。
その後、A君の友人たちが「Bってムカつく」と言い始め、B君への無視が始まりました。B君はこれまで普通に仲良くしてくれていた友達が離れていってもくじけず、無視を我慢し続けました。
そんな状況でも、幼馴染のCさんだけはB君と仲良くしてくれていましたが、今度はCさんが属するグループもクラスの中で無視されるようになってしまったのです。B君は自分以外の人が被害を受けるのが我慢ならず、A君とその友人たちに抗議しますが聞き入れられず、逆に暴力を受ける羽目になってしまいました。
いじめで疲弊していくのは被害者と助けたい周囲
この事例では、幸いなことに教師がすぐに気づきB君らは職員室で話を聞かれることになりました。
A君らは「Bが悪いことをしていたから懲らしめた」と発言。B君は否定しますがA君らは複数です。教師は判断が付かず、この問題をいったん不問にすることにしました。その日から、B君はA君らから日常的に暴力を振るわれることになったのです。
A君らは全員で否定すればいじめの加害者になることもなく、喧嘩ということで不問にされると学んでしまったのです。 暴力というものは一度リミッターが外れるとエスカレートしていきます。 だんだん目撃者も増え、Cさんは学校が行ういじめのアンケートにそのことを書いて報告します。
教育委員会から報告を受けた学校長は学級担任にクラスの様子をヒアリングしますが、要領を得なかったため個別面談を実施することになりました。
B君は毎日の暴力に肉体的にも精神的にも強く疲弊しており、Cさんらも同様に精神的苦痛を味わっていました。いじめの被害者と被害者をフォローする立場の人たちは、エネルギーを消耗してしまうのです。
一方、A君らはもちろん何も行動を起こさなかった傍観者層はまったく変化が見られませんでした。 果たしてB君には毎日暴力を受けるほどの落ち度はあったのでしょうか。また、B君をいじめてよい理由はあったのでしょうか。A君らは正しい行動をしたのでしょうか。
加害者の意思、選択でしかいじめは始まらない
人をいじめていいという権利は誰にもありませんし、許可もされていません。もし、それを肯定する意見があるとすれば、非常に危険な思想です。B君をいじめた行為は決して許されることではなくA君らの行動は誤りです。誰かがきちんと指摘し、正しい道へ導いてあげる必要があります。
いじめは、加害者の選択の結果でしか起こりません。どのような事例でも、いじめ以外で解決できる方法は必ずあります。加害者がいじめを選んだだけのことで、いじめの原因について論じること自体がそもそも不毛なのです。
大事なのは加害者がどうしていじめという手段を選んでしまったか、ということです。 先ほど挙げたケースでは、A君がクラスの代表になりたいと思いながらも推薦を待って格好つけたという落ち度があります。本来であれば自ら立候補しておけばよかったでしょうし、友人たちに推薦してもらうよう頼んでおけばよかったでしょう。また、B君をサポートすることでさらにクラスメイトの信頼を勝ち取るという方法もあったかもしれません。
実は、この事例は小学六年生が起こしたいじめ事件です。小学生といえども巧みにいじめを隠ぺいすることがわかります。
アンケートの実施がない学校はいじめ対策に消極的
文部科学省の調査データでは、いじめを発見する一番のきっかけになったのはアンケートだといわれています。次いで保護者からの通報で、学級担任が発見したというケースは少数です。
学校で行ういじめのアンケートは年1~3回ほど行われており、学校長が個別面談をするところもあります。いじめの予防とまではいえなくても、積極的な対処をしているといえるでしょう。もちろん学校教員は忙しい中でアンケートのフィードバックで行動を起こさねばならないとなると業務に負担がでますがアンケートは必ず実施すべきです。
アンケートを実施しなければ、いじめを発見するきっかけの半分を失うことになるのです。
特に小学校高学年からはいじめが顕在化してくるため、この年代でアンケートがない学校はいじめ対策に消極的であると考えて間違いありません。いじめに対抗する行動が何もなければ、確実にいじめは蔓延化し、いじめを原因とした不登校も増えていきます。
なお、アンケートは匿名で記入し封をして提出します。アンケートに何を書いたか誰にも知られることがないので、安心していじめを通報できるシステムとなっています。
この背景には、いじめを容認する子供の率は約8割、いじめはできればなくなってほしいという子供の率は約9割というデータがあります。つまり、子どもたちは、いじめがあるのは仕方ないと思っているが、できればなくなって欲しいと思っているのです。
「いじめのない学校」は実態を把握できていないだけ!?
また、学校や親がいじめを発見できていないということもやはりあります。
文部科学省教育政策研究所が行なっている、小学4年生から中学3年生までの6年間を追跡した問題行動調査によると、仲間はずれなどの軽度のいじめをしたこともない、受けたこともないと答えた子どもは全体の1割以下だったそうです。 正確には6年間の間に一度もいじめに関与しなかった子どもは9.6%だったのです。
裏を返せば、9割の児童にはいじめの経験があるのです。 このことから「いじめがない」という言葉には、あまり信用がないことがわかります。だからこそ、いじめがないかアンケートで調べたり面談を行ったりする必要があります。個別面談などで困ったことがないか学校が把握してサポートする体制も絶対不可欠です。
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特定非営利活動法人ユース・ガーディアン 代表。 1977年、東京都中央区生まれ、東海大学卒業。 2004年に、日本で初めて探偵として子どもの「いじめ調査」を行ない、当時ではまだ導入されていなかった「ICレコーダーで証拠を取る」など、革新的な方法を投入していき解決に導く。 それ以来、250件を超えるいじめ案件に携わり、NHK「クローズアップ現代」をテレビ朝日、TBSラジオ、朝日新聞、産経新聞他多くのメディアから「いじめ問題」に関する取材を受け、積極的に発言をし続けている。日本テレビ「世界仰天ニュース」でもいじめ探偵として取り上げられている。 著書に「いじめと探偵」 (幻冬舎新書 2013/7/28)。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー、国内唯一の長期探偵専門教育を実施するT.I.U.探偵養成学校の主任講師・校長も務めている。