中1ギャップとは|克服し、不登校にならないために親ができる8つのサポート【事例も紹介】
小学校から中学校という大きな環境の変化に心や体がついて行かない「中1ギャップ」。元気がないわが子に「不登校になってしまいそう」と不安に思う人もいることっでしょう。そこでスクールカウンセラーとして多くの中学生に寄り添ってきた田村節子さんに聞いた親としてできることを紹介します。
中1ギャップとは
実体はつかめていないのに、言葉がひとり歩きしている感もある「中1ギャップ」。一体どんな状態のことをいうのでしょうか。
「実は、世に言われる“中1ギャップ”という状態には、具体的かつ明確な定義はありません。中学校へ進学して“新しい生活環境に適応しづらいことで生じる課題”、それを総称して『中1ギャップ』とよんでいることが多いと思います」と話すのは長年にわたりスクールカウンセラーとして多くの中学生と接してきた田村節子さんです。
子どもたちはその課題のせいで
- おしゃべりだった子が急に話さなくなった
- 自分の部屋からあまり出てこなくなった
- 朝になると体調が悪くなる
などの変化を見せるようになり、保護者は「学校になじめていないの?」「このままで大丈夫?」と不安になります。
また、「中1ギャップ」といっても中2になったから悩みや課題がパッと解決するようなことはなく、ずっと悩みを抱えたままの子やどんどん深刻になっていく場合もあります。
「ただし、中学生といえば、ちょうど反抗期や第二次成長期の時期。親に対する態度や距離感に変化が出てくるときなので親がセンシティブになり過ぎる必要はありません。新しい環境になれば緊張したり、気持ちが張りつめて疲れたり、これまで通りに行かないのは当たり前のことです。大切なのはその状態を本人の力で乗り越えられるかどうかということです。保護者や周囲はあまり騒がず冷静に状況を見守る姿勢が必要です」(田村さん)
中1ギャップの原因とは
では、中学生には具体的にどのような環境の変化、課題があるのでしょうか。
田村さんによると、子どもたちが適応するのに苦戦するのは、主に「学習面」「心理面・社会面」「進路面」「健康面」の4つの分野だといいます。
学習面
定期テスト制になり、クラス順位・学年順位などで自分の立ち位置が数字ではっきりと出てしまう中学校。勉強の難易度も上がり、これまで勉強に苦手意識がなかった子であっても自信を喪失することがあります。
「親が子どもより勉強熱心になったり、成績によって兄弟、友人間で比較したりすることが子ども苦しめているケースはよくあります。成績で優劣をつけられることで自分自身にダメ出しをして落ち込んでしまう子は少なくありません」(田村さん)
また、教員が教科担任制になることも子どもの精神的負担も大きくしているそう。
「子どもは大人の態度を見て、その場でどうふるまえばいいのか(その場のルールのようなもの)を学びながら慣れていきます。小学校では、その対象が学級担任ひとりでよかったのに、中学になると教科によって教員が違い、教員によって考え方や評価のポイントが違います。それぞれの教員がどんなタイプなのかを学び、慣れていくまでに時間も労力もかかります」(田村さん)
心理面・社会面
小学校高学年から中学生くらいにかけては、“メタ認知(※)”が育つ時期です。自分自身を客観的に見る力が養われる一方で他人との差に劣等感を感じることもあります。
※自分自身を客観視する能力
「『成績が下がった』『友人は部活で活躍しているのに』という目に見える分かりやすいことから『あの子は先生と仲良くなって質問もできるのに、自分は無理』など内面的な日常のささいなことまで、子どもは他人と自分の位置と比較して『自分はダメだ』と思い込みやすい時期です。この劣等感や自己分析をプラスに転換できるようになるまでには経験と時間が必要です」(田村さん)
また、担任や教科担任、部活の顧問や先輩、クラスの友人など、すべてが新たな人間関係になりゼロから構築しなければいけません。自分では普通にしているつもりなのに先輩から注意されたり、これまで仲良くしてきた友人とうまくいかなくなったり、難しい場面が増えてきます。
「思春期は、親から精神的に独立するために親に秘密を持ち、友人との結びつきが強まります。それが当然の成長過程ですが、その友人との付き合いがうまく行かないと孤独感が強まり精神的に不安定になってしまいます」(田村さん)
また、中学校入学のお祝いでスマホを手に入れる子が多く、最近ではSNSでの悩みも深刻になっているそうです。
「文章だけのやり取りで誤解が生じたり、学校とネットで仲良くする相手が変わったり、人間関係がより複雑になります。家に帰った後もやり取りが続くので気の休まる時がなく、友人ともスマホともうまく距離を取るのが難しいようです」(田村さん)
進路面
中学に入ったばかりでは、まだ高校進学の悩みにまではいたらないものの「将来の夢が持てない」「自分の興味ある分野が分からない」などの悩みを持つ子も出始めます。
「ほかにも、小学生の頃の憧れや夢が自分の成績・能力では叶えられないかもしれないという理想と現実のギャップや親の期待に苦しむのも中学生ならではの悩みです。中学2,3年へと進むにつれて初めての受験を前に漠然とした不安を持つケースも多々見受けられます」(田村さん)
健康面
中学生になると大半の子が第二次性徴の時期を迎えます。女の子は生理になり胸が出てきますし、男の子は声変わりをしたりヒゲが生えたりと、内面・外見の両方に変化が訪れます。
「体の変化に対する悩みや疑問や劣等感があってもデリケートな悩みなだけに誰にも相談できない子もいます。また自分の容姿への悩みが本格化するのもこの時期です。大人からすれば取るに足らない悩みでも、子どもは深刻なコンプレックスを抱えてしまいます」(田村さん)
コンプレックスがあるからこそ素直な気持ちが出せずに、誰かを仲間外れにしたり、いじめが過激になりやすかったり、人間関係にひずみが生まれることもあります。
本当にあった「中1ギャップ」の事例
次に田村さんが実際に見てきた「中学ギャップ」が派生して起きた事例を紹介します。なお、事例はプライバシー保護のために本筋が変わらない程度に加工してあります。
<事例1>異性への感情がこじれるケース
A君とB子さんは親同士も仲の良い幼なじみで仲のいい友だちでした。しかし、中学生になり、違う小学校から来たC子さんがA君のことが好きなったことで話は複雑に…。なかなかA君に話しかけられないC子さんはB子さんにやきもちを焼き、B子さんを仲間外れにし始めました。なぜいじめられるのか身に覚えのないB子さんは、教員に相談しますが、C子さんは自分の恋心を隠すので、なぜいじめが起きたのかという原因が不明なまま解決が難しくなりました。
「前述の通り、中学生になるとメタ認知が育ち、劣等感を抱きやすくなります。さらに、人間関係を構築していく上で誰かいじめの標的にしたり、悪口を言うことで結束力を固めることがあります。あまり知られていないのですが、このような理由で中学生になると異性への想いがいじめにつながるケースが増加します」(田村さん)
<事例2>先輩・後輩の暗黙ルールのケース
その中学校では、3年生は体操服のジャージのファスナーを全開してOK、2年生は真ん中まで下げてOK、1年生は首元まで閉めないといけないという暗黙のルールがありました。しかし、何も知らない1年生のD美さんは、暑かったのでファスナーを全開にして部活に参加。それを見た部活の先輩から呼び出され、「生意気だ」と言われてしまい、部活が憂鬱になってしまいました。
「大人からすると“くだらない”と思えることでも、子どもの世界では厳格なルールは数多くあります。ルールの細部までチェックする必要はありませんが、“こういうこともある”“先輩後輩関係には理不尽なルールがある”ということは、親が学生時代の話をするなどして子どもの頭の片隅に入れておいてもいいかもしれませんね。さらに、このような理不尽なルールをなくすのは子どもだけの力では難しいので、学校全体での対応も必要だと思います」(田村さん)
<事例3>親のひと言でやる気ダウンになったケース
勉強も運動もがんばっていたE君。初めての通知表では1教科のみ4で、あとはすべて5という好成績! しかし、喜んでもらえるだろうと思って母親に見せたところ「惜しかったね、あと一つでオール5だったのに…」と母親はため息。それ以降、勉強へのモチベーションが下がり、成績も下降気味になっていきました。
「お母さんは彼をけなすつもりはなく、何気なく出た一言だったはず。しかしE君の受けたダメージの大きさを考えると、この“何気ない一言”の重さは計り知れません。中学生が認識する“自分の立ち位置”は、成績だけではなく親から認められているかどうかもによっても大きく左右されます。親は“結果ではなくプロセスを認める”という気持ちが重要です」(田村さん)
親ができる8つのサポートとは
ここまで読んでいて自分の学生時代を思い出した人も多いのではないでしょうか。中一ギャップの原因はよく分からないグループによるいじめ、部活内の理不尽なルール、大人からの心ない対応…。すべてよくあることと思ったかもしれません。
「中1ギャップ」は、新しい学校生活に慣れていくことや時間経過で解消できる場合がほとんどですが、稀に長引いてしまい学校を休みがちになったり、友人との関係が構築できないまま辛い気持ちで中学生活を送ったりするケースもあるそうです。
では、そうならないために保護者ができることはないのでしょうか。田村さんに中学生を見守る保護者ができる8つのサポートを教えてもらいました。
【サポート1】安心感のある家庭づくり
学校や部活を楽しめるのも、辛いことに耐えられるのも、頑張るべきところで力が出せるのも、すべては家庭での安心感があってこそ。「自分は大切にされている」「何かあったら助けてもらえる」「ここに帰れば、いつでも笑顔の家族がいる」という安心感が子どもには不可欠です。
「人は不安を抱えているとイライラして人間関係や仕事、勉強に悪影響を与えることがあります。家庭が安定し、安心できる場であることが非常に大切です」(田村さん)
【サポート2】ケンカをしても無視はしない
家族だからこそのケンカや意見のぶつかり合いはあるでしょう。だからといって挨拶を無視したり、いつまでも機嫌が悪いままだったりするのはよくありません。
これが家庭内で行われていると、「機嫌が悪ければ人を無視してもいい」「ケンカ相手は傷つけていい」と子どもは学びます。無意識に友人を傷つけるようになり、学校での人間関係にヒビが入りかねません。
「この話をすると、子どものことを無視はしないけど、夫婦ゲンカの後はお互いを無視していた…という保護者の方がいます。ですが、夫婦間でも無視はダメです。夫婦のやりとりから子どもは人との接し方を学んでいますよ」(田村さん)
【サポート3】表情・体調・睡眠のサインをキャッチする
中学生のわが子に心配して話しかけても「別に…」「大丈夫」「うるさい」とシャットアウトされてしまうことはありませんか? 子どもが自分の状態を言葉で教えてくれないのであれば、子どもの表情や体調から読み取るしかありません。
<チェックポイント>
- 暗い表情が多くないか
- 表情が乏しくなっていないか
- 最近あまり笑わなくなったのではないか
- よく頭痛、腹痛を訴えていないか
- よく疲れた様子を見せていないか
- 食欲は減っていないか
- よく眠れているか
表情はなかなかウソをつけないので本心を知るヒントになります。また、不安を抱えていると頭痛・腹痛・疲労感など身体的な症状が出たり、食欲がなくなったりします。
また心配なことがあると、人は熟睡しにくくなります。「最近、明け方は寒いけど熟睡できている?」 など、日常会話の中で睡眠の様子を聞き出すことも、悩みの有無のバロメーターになります。
「食欲不振や睡眠障害の状態が2〜3週間続いているようなら、小児科でもいいのでかかりつけ医を受診して相談しましょう。顔色だけで判断すると、中学生は多少の睡眠不足ではクマはできず、肌ツヤも衰えません。そこはバロメーターにならないと覚えておきましょう」(田村さん)
【サポート4】話しやすい相手でいる
子どもの様子がおかしいと、保護者はすぐに原因究明したくなり問い詰めてしまいがちです。しかし「これが理由」と断定できるものが無い場合や、本人が自覚していないことも多いので、聞かれてもうまく答えられない可能性もあります。
「普段から『何かあったら教えてね』『一緒に解決しよう』と声をかけておき、モヤモヤしたら相談できる相手がいるという安心感を子どもに持たせましょう」(田村さん)
子どもが話し始めたら、聞き役に徹して子どもの本当の気持ちを引き出します。せっかく開いた心の扉を閉じさせないように、大人の「待つ」姿勢が大切です。
「根掘り葉掘り聞こうとする詮索系の質問は拒否反応を示しますが、体を気遣われる質問は嫌がらず、比較的素直に答えることが多いはず。好きなおやつを買い置きしたり、身体によい料理を作ってあげたり、『心配している』という家族の気持ちを本人に伝えてください」(田村さん)
【サポート5】子どもの話を勝手に広めない
「親に相談したら、次の日先生が話を知っていた」「先生に話したら悩みの相手にチクったと責められた」など、誰かに相談することで事態が悪化したり、子どもの信頼を損なうケースがよくあります。一度信頼を失うと子どもは悩みを話さなくなるので注意が必要です。
学校や友人の悩みは「相談したら広まるのではないか」「相手に伝わってしまい、問題がより大きくなるかも」という心配の方が先立ってしまわないよう、最初に「誰にも言わない」「誰かに伝えるときは、必ず前もって断る」ことを子どもに約束し必ず守りましょう。
その点、スクールカウンセラーや国や自治体などの専門機関であれば、情報漏洩は絶対にないことを理解させることも大切です。煮詰まった膠着状態に風穴を開けるには専門家の話やアドバイスは有効で、もしかしたら話を聞いてもらうだけですっきりするかもしれません。
今はチャットや電話で気軽に相談できる専門機関があることを知らせ、「親や友人ではない人に相談してもいい」ことを伝えておくのも効果的です。
【サポート6】子どもの行動を制限しない
教師や親など「権威のあるもの」から距離をとりたくなるのが思春期の特徴。「友人と群れる」のは成長の過程では必要なことなので、友人と遊びに行ったり長話をしたり、友人とのコミュニケーションは危険がなければなるべく制限せずに見守ります。スマホの利用方法に関しては、家庭内で話し合ってルールづくりをしましょう。
【サポート7】親がポジティブなイメージを持つ
口に出さなくても、保護者が持つイメージは子どもに伝染するもの。例えば、保護者が学校や教師にマイナスのイメージを持っていたら、子どもは学校や教師を信頼できなくなります。心の底から賛同できなくても、最低限子どもの前で教師の悪口を言わないなど、不信感を顕にするのはやめましょう。学校や教師に不満があったら、直接相談するかスクールカウンセラー等へ相談しましょう。
「また子どもの将来や未来に対して、『いいことがたくさん起こる』『未来が楽しみ』というポジティブなイメージを持っていると、前向きな行動が増え、将来にプラスの印象が子どもに伝染しますよ」
【サポート8】自分の行動の責任を取らせる
悪い行動の責任はもちろん、よい行動の責任も子どもにあります。これは保護者が口出しし過ぎているとできません。
悪いことがあったときに「あなたに責任がある」という保護者は多いと思いますが、「勉強をがんばったから成績が伸びた」「部活をがんばったから大会でよい結果が出た」など、よい行動の責任も子どもにあります。
子どもの努力が実を結んだときに、「こうしたらもっとよかった」「次はこうするといい」などと余計な言葉をかけるのはやめて、子どもがしみじみと「自分はがんばったな」と喜べるよう、見守りに徹しましょう。
まだまだ幼さの残る中学生。少しずつ自立し、紆余曲折を経て親から巣立っていく子どもたちを、静かに・確実にサポートし、中1ギャップを乗り越えていく姿を頼もしく見守りましょう。
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大学卒業後、編集プロダクションや業界新聞などを経て、フリーの編集ライターへ。街紹介サイトや子育てサイトでの記事執筆で、トータル1000件以上の学校や子育て支援施設、ママサークルなどを取材。現在は実用本の編集・ライティング、人物インタビューなどを中心に活動中。2人の息子の母。