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2020.11.24

イタリアの教育制度とは?日本との違いや学力、留学について解説します【世界の教育シリーズ②】

世界遺産が多く、歴史や文化が薫る国、イタリア。子どもを留学させたいと考えている人もいるのではないでしょうか。では、イタリアの教育の状況は日本とはどのように違うのでしょうか。そこで今回は、イタリアの教育について紹介します。

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イタリアの義務教育とは

イタリアの義務教育は、小学校(5年間)、中学校(3年間)が法律によって定められています。ただし、近年は母親も仕事をするケースが多いため、義務教育ではなくとも幼稚園に在籍する3~6歳までの子どもが大半を占めており、イタリアの教育・大学・教育省は2023年から幼稚園も義務化することをアナウンスしています。

イタリアの小学校の特徴とは

イタリアの小学校は、正式には「Scuola Primaria(スクオーラ・プリマーリア)」という単語ですが、一般的には「スクオーラ・エレメンターレ」と呼ばれています。

その年の12月31日までに6歳を迎える子が9月に入学し、5年間在籍します。1クラスは最高で26名。通常は20名前後で構成されています。

履修科目は国語であるイタリア語のほか算数、英語、歴史、地理、理科、技術、美術、そして音楽と体育があります。1~2年生のうちは、主にイタリア語と算数を基軸に授業が進められ、社会科系の科目や理科の授業が本格的に開始されるのは3年生から。

2年生までは、国語であるイタリア語を学びながらテーマとして歴史や地理、あるいは科学の内容を読解するという方法がとられています。

さらに宗教の授業もありますが、これは任意です。家庭の事情や親の方針で宗教の授業を子どもに受けさせないケースも少なくありません。

近年は移民も多くイタリアにもイスラム教徒の子どもたちが存在します。宗教、すなわちキリスト教の授業を受けない子どもたちは、「アルテルナティーヴァ(代案)」という名前がついた道徳の授業を受けることが多いようです。

ただし、イタリアの小学校には、ある程度の子どもが集まらないと教師の確保が難しいという事情があります。

クラス内で1.2人しか宗教の授業を受けず教師も確保できない場合は、その時間は別のクラスに編入させられたりすることも多々あります。

イタリアの中学校の特徴とは

11歳から14歳の子供が学ぶ中学校は「Scuola secondaria di primo grado(スクオーラ・セコンダーリア・ディ・プリモ・グラード)」が正式名称ですが、一般的には「スクオーラ・メディア」と呼ばれています。

授業科目は、小学校で学んだ科目に加え、英語以外の外国語の履修が義務となっています。フランス語、スペイン語、ドイツ語などが選択できますが、イタリア語と同じくラテン語を母語とするスペイン語とフランス語が人気です。特に、イタリア語とは方言ほどの相違しかないスペイン語は子供たちも学びやすいようです。

また、中学校を卒業するためには国家試験である「テルツァ・メディア」に合格することが義務付けられています

「テルツァ・メディア」では、イタリア語、数学、外国語(英語+フランス語 / スペイン語 / ドイツ語)の筆記試験、そして口頭試験が行われ、不合格となると、最終学年をもう一度やり直す必要があります。

ただし、現在は95%以上が合格となるという報告もされているため、留年するケースは多くありません。

とはいえ、子どもたちにはかなりのプレッシャーがかかる試験であることはまちがいないようです。

tjevansによるPixabayからの画像

日本とは違う義務教育のポイント

イタリアは日本と同様に少子化が社会問題となっているだけでなく財源不足による教師確保の難しさも課題になっています。また、学校の在り方が日本とは大きく異なります。

【違い①】小学校には2つの時間制がある

義務教育である小学校は生徒の大半が地元の最寄りの学校を選択します。

しかし、よりよい環境を求めて、富裕層が多く住む町の公立の小学校に子どもを通わせる場合もあります。

イタリアは現在、教育のための財源が不足し教師の数が確保できない状況になっています。そのため、小学校には「テンポ・ピエーノ」と「テンポ・モードゥロ」とよばれる2つの形態が存在しているのです。

「テンポ・ピエーノ」

通常の学校の時間割をこなすクラスで、8時から16時を学校で過ごします。

「テンポ・モードゥロ」

1週間のうち1~2日は8時から16時、その他の3~4日は昼食前に下校するクラスを指します。

いずれのクラスもカリキュラムは変わらないため、必然的に後者のクラスは家庭でこなす宿題が増えるという特徴があります。

共働きが多いイタリアではもちろん、「テンポ・ピエーノ」を希望する家庭がほとんどです。しかし、定員があり、入ることができなかった生徒は必然的に短縮クラス「テンポ・モードゥロ」に入ることになります。

そこで、受け皿となるのが非営利団体による学童保育「プレ/ポスト・スクオーラ」です。学校開始前、また放課後に18時まで生徒を預かってくれる機関でたいていは学校内で活動しています。ただし有料であるため、親の負担は大きくなります。

【違い②】小学校の担任は5年間変わらない

イタリアの小学校では、担任が1クラスに3人ほどいます。ただし、1人の教師が複数のクラスを兼任することが大半です。

また、特殊な事情をのぞいては(担任教師の結婚や出産など)、小学校の5年間この担任は変わりません。そのため、担任の教師の授業の進め方や方針に同意できない父兄は子どもをほかの学校に転校させることもあります。

【違い③】公立学校にモンテッソーリ教育のクラス

イタリアに起源を持つモンテッソーリ教育。

イタリアでは公立の学校にもモンテッソーリ教育をベースとするクラスが用意されていることがあります。モンテッソーリ教育の資格を持つ教師がクラスを受け持ちます。

【違い④】教師への報酬を親が負担するケースも

教員不足のため音楽と体育を受け持つ教師の確保ができない学校も少なくありません。

学校によっては父兄の代表がクラス内で多数決を取って学校にかけあい、音楽と体育の授業を組み込むケースがあります。しかし、この場合、教師への報酬は父兄が負担することになります。

また「報酬の負担をしてまで音楽や体育は必要ない」という父兄がクラスに多数いる場合は授業が成り立たず、その年の音楽あるいは体育の授業は行われないという事態になってしまいます。

教育省の法律では音楽と体育の授業は必須となっているため、学校と父兄が揉める原因にもなっています。

Steve BuissinneによるPixabayからの画像

【違い⑤】ベジタリアンの給食が選択可能

給食代は1食につきおよそ500円、こちらも全額親の負担になります。近年増えたベジタリアンの家庭に対応するため学校によっては菜食の給食を用意しています。ただしヴィーガンの給食を選択したい場合には小児科医の証明書が必要になります。

また、富裕層が多い街の学校では近年の風潮に合わせてオーガニックの果物がおやつとして供される場合もあります。

【違い⑥】中学生は給食なしで14時過ぎに下校

日本であれば高校受験に向けてひたすら勉学に励む中学生というイメージがありますが、イタリアの中学生は14時過ぎに下校です。

中学には給食がないため、軽食となるおやつをもって登校します。日本のように高校受験のための塾もなく、時間を持て余す中学生たちの非行が問題視されています。

Free-PhotosによるPixabayからの画像

イタリアの学力が低い理由とは

学校で過ごす時間が日本と比較しても少ないイタリアの子どもたち。

経済協力開発機構(OECD)による2018年の調査では、読解力・数学・科学の順位が日本は6位なのに対してイタリアは34位、国際的に学力の低さが浮き彫りになっています。その理由はどんなところにあるのでしょうか。

【理由①】親の過干渉や甘やかし

マンマが子供を溺愛するイメージがあるイタリアでは、親が子どもの生活に干渉しすぎて親離れ子離れができないという現象がまず挙げられます。

小学校の高学年になっても宿題や翌日の授業の教科書の管理は母親が面倒を見ることも多く、子どもたちは自立心が育ちにくい環境にあります。

「嫌いならば食べなくてもいい」「嫌ならやる必要がない」という親の甘やかしによって、子どもたちのわがままに拍車がかかる結果になっているのです。

Tawny van BredaによるPixabayからの画像

【理由②】授業の進み方が遅い

1年生から担任が変わらないイタリアでは、クラスの中で学習速度が遅い子に合わせて授業を進める現象が多々見られます。

また、各学年でこなすべき勉強のカリキュラムを翌年まで持ちこしてしまうこともあり、1つのことを習得する速度は日本と比較してかなり遅いといえるでしょう。

【理由③】考えて言葉にすることを重視する授業

中学や高校を卒業する際の国家試験に口頭試験があるように、イタリアでは自分の頭で考え、それを理論立てて言葉にすることを重要視しています。

そのため、問題を解いて答えを出すというテストでも理論や言葉で伝えることに時間を割き、他国に後れを取る結果になるのも当然かもしれません。

おしゃべりなイタリア人というイメージを抱く人は多いと思いますが、幼児期から他者と討論することが習慣づけられていることもその要因の一つと言えます。

イタリアの高校・大学はどんなところ

では次に、義務教育を終えた後、子どもたちはどのような進路を歩むのでしょうか。

大学入学は高校卒業試験で決まる

中学校を卒業した子どもたちの多くは、日本の高校にあたる「リチェオ」(5年制)へと進学します。

ただし、「リチェオ」には数種類あり、ギリシア語やラテン語などの教養を中心に学ぶ「リチェオ・クラッシコ」、理系の高校「リチェオ・シェンティフィコ」を選ぶ学生が全体の55%を占めています。

そのほか、専門的な技術を中心に学ぶ「イスティトゥート・テクニコ」、また卒業後にすぐに就業することを目的とした「イスティトゥート・プロフェッショナーリ」があります。この2つも「リチェオ」と同じく5年制で日本における専門学校といった趣があります。

「リチェオ」の最終学年には、中学と同じく国家試験「マトゥリタ(成熟度を試すの意)」があり、合格することで初めて、高卒のタイトルと大学進学の資格を得ることができます

数日にわたって行われる「マトゥリタ」は、筆記だけではなく口頭試験もあり、若い世代において人生最初の難関といわれています。

ただし、大学に進学するための入学試験は、定員オーバーなどの例外をのぞいてありません。「マトゥリタ」に合格し、高校卒業の資格があれば大学に進学が可能です。

イタリアの大卒率は25~64歳のわずか4%

中世に誕生したイタリアの大学は長い歴史を誇り、現在するイタリアの国立大学の多くは、14世紀までに創立されています。

ところがイタリアの人口に占める大卒の割合は非常に低いのが現状です。

25歳から64歳のイタリア人のうち大卒のタイトルを持っているのはわずか4%。25歳から34歳という若い世代になって、その割合がようやく20%を超えるというレベルです。

ひとつにはファミリービジネスが多いイタリアでは、親の職業をそのまま引き継ぐという風習がまだ残っているためあえて大学に行かない選択もあります。

大学は3段階、卒業まで続く長い道

イタリアの大卒率が低い理由のひとつに、大学に進学しても卒業できないケースが多いことが挙げられます。

4~6年で大半が卒業できる日本と違い、イタリアの大学は自主性がものをいいます

つまり、学生が怠けていても大学側が奮起させることはありません。本当に勉強をしたい学生だけが努力を続けて卒業にこぎつけるのです。

ただし、EU内でも大卒率が低いことを考慮して、2010年にはイタリアの大学制度が改定されています。

イタリアの大学には日本のように“何年で卒業”という概念がありません卒業までに5年以上かかるのが一般的で、費用が続かず中退となってしまうケースも少なくなかったのです。そこで、最短3年で卒業資格を得られるように構造改革を行ったのですが、実際のところ、どの程度卒業率が上がったのかは定かではありません。現地では、「改革をしても実情は何も変わっていない」という声も挙がっています。

また、イタリアの大学では卒業時期が決まっていません。必要な単位を履修し、卒論の準備ができた人から順番に卒業のための厳しい口頭試験に挑戦します。いくら単位取得や卒論などの条件が満たされていても、口頭試験に合格しなければ卒業できないのです。

こうして苦労して手に入れた大卒のタイトルですが、イタリアのコネ社会や悪化する経済状況などから就職は簡単ではありません。たいていは大学卒業後に数か月のバカンスを謳歌して就職活動をするケースが多く、イタリアにおける就業年齢はかなり高いといえるでしょう。

大学(国立)の学費は安い印象

イタリアでは大学といえば“国立”であることが一般的で、数少ない私立の大学は人気も実際の入学者も低いのが実情です。

国立大学の授業料はかなり安価で、教科書代を含めて1年間の学費は3000ユーロ(約37万円)とされています。それなら通いやすいと思うかもしれませんが、イタリアは大学自体の数が少なく実家から通えるとは限りません。実家から独立をして生活する場合には家賃が必要になり、大都市の場合は家賃も高額です。

そもそもイタリアには1人用のマンションはほぼ皆無で、学生たちは数人でアパートをシェアするというスタイルが通常です。

1部屋の家賃の平均は1か月450€(55000円強)。日本と比べると大学の学費は生活費も含めてかなり安価に見えますが、イタリアの平均月収が21600€(27万円弱)、イタリア南部では1600€(20万円弱)という報告があり、親の負担は小さくないことが分かります。

martaposemuckelによるPixabayからの画像

卒業すると一族や友人を集めてパーティー

卒業が簡単ではないイタリアの大学は、卒業試験に通ると月桂冠をかぶり友人や家族から祝福を受けます。地方都市では一族の中から大学の卒業者が出ると、まるで結婚式と間違えそうな大パーティーを行う風習も残っています。

日本人が「大卒です」と口にする時以上の重みが、イタリアの大卒にはあるのです。

Sheila SantillanによるPixabayからの画像

イタリアへの大学留学には語学が必須

ここまでイタリアの教育環境について説明してきましたが、今「イタリアに留学したい(させたい)」と考えている人もいるかもしれません。

まず、大学での留学を考える場合ですが、イタリアは大半が国立大学であり、国立大学に留学する場合には、東京にあるイタリア文化会館を通す必要があります。煩瑣な手続きについては、文化会館で教えてもらえます。

ペルージャやシエナの国立大学では外国人のためのコースを設けているところもあり、イタリア語を学びつつ大学に通いたい人はこちらを目指すとよいかもしれません。

通常の国立大学であれば、当然のことながら試験は口頭、しかもイタリア語で行われることになります。教授によっては外国人であることを考慮して英語で説明してくれる場合もありますが、イタリアで大学生活を送るには「滞在許可証」の取得が必須であり、こちらはイタリア語ができないと取得が困難です。イタリアに長期滞在する場合の最大の難関となっています。

さらに、入学は簡単でも卒業は難しいイタリアの大学。無事に留学できてもかなり自主的に勉強しないと口頭試験に合格するのは難しいと覚悟しなければいけません。

しかし、風光明媚なイタリアの地で好きな学問にいそしむ時間は、日本の大学生活とは異なる貴重な経験や日本では得られない感性を育むことができることでしょう。

まとめ

イタリアの学校教育は日本の詰め込み式の教育と比べるとかなり緩く、国際的な調査からみても平均的な学力は低いというのが実情です。

その理由は、中学校、高校、大学などの試験の多くが口頭であることからもわかるように、問題を解くことよりも自分の頭の中でテーマを整理して正しく相手に伝えるという学び方に重きが置かれているからかもしれません。

こうした鍛錬を幼少期から行っているイタリア人は、長じても理論を交わすのが日常的です。受動的ではない勉強法が身についているともいえるかもしれません。

いっぽう、算数などの学力の低さは致命的で、子供だけではなく大人でもごく簡単な計算でさえ時間がかかるという現象を眼にすることも多々。

とはいえ、身近に古代ローマの遺跡やルネサンス時代の名品がごろごろしているという環境で育つ子供たちの中には、芸術的な分野で抜きんでた才能を発揮するケースも多いのです。学力や学歴にとらわれず、自分の意見と考えで自分らしい生き方を育んでいくのもイタリア教育の一面かもしれません。

<参考資料>

  • イタリア教育省

https://www.miur.gov.it/web/guest/sistema-educativo-di-istruzione-e-formazione

https://www.miur.gov.it/come-funziona-il-sistema-scolastico

https://www.miur.gov.it/web/guest/scuola-secondaria-di-primo-grado

https://www.miur.gov.it/il-sistema-universitario

https://www.miur.gov.it/web/guest/-/iscrizioni-on-line-ecco-i-primi-dati-il-55-4-degli-studenti-sceglie-i-licei-il-31-i-tecnici-il-13-6-i-professionali#:~:text=e%20Comunicazione%20%3E%20Comunicati%20%3E-,Iscrizioni%20on%20line%2C%20ecco%20i%20primi%20dati%3A%20il%2055%2C,il%2013%2C6%25%20i%20Professionali

http://attiministeriali.miur.it/media/211291/il_sistema_universitario_italiano.pdf

  • corriere della sera紙

https://www.corriere.it/dataroom-milena-gabanelli/quanto-costa-mandare-figlio-all-universita/898a5864-2c64-11e8-aa71-9a5a346d5f9b-va.shtml

  • il Sole 24 Ore紙

https://www.ilsole24ore.com/art/redditi-valore-medio-21660-euro-autonomi-doppiano-dipendenti-ADm0qDM?refresh_ce=1

  • Unitelematiche.it

https://www.miur.gov.it/web/guest/sistema-educativo-di-istruzione-e-formazione

https://www.oecd.org/pisa/Combined_Executive_Summaries_PISA_2018.pdf

https://www.oecd.org/pisa/publications/PISA2018_CN_ITA_IT.pdf

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