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2020.06.19

【脳外科医が解説】バイリンガル脳の構造や特徴、育て方とは

母国語だけでなく外国語も巧みに操るバイリンガル。「外国語が行き交う環境で育ったから話せるんでしょ」と単に考えてしまわないでください。実は、バイリンガルの脳は、母国語しか話せないモノリンガルとは違う脳の構造になっているのです。では、その脳の構造を再現することが外国語学習のヒントになるの?ということで、現役脳外科医のDr.ニューロンがバイリンガル脳と英語学習の関係性と可能性を探ります。

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2020年度から小学3年生でも教科として英語を学ぶようになりました。今までよりも若い脳で英語を学ぶことになるわけですが、このことでバイリンガルのように英語がペラペラになることが期待できるかといえば違いますよね。

では、バイリンガル脳の構造はどうなっているのでしょうか? また、バイリンガル脳はつくること、育てることができるのかを最近の研究結果をもとに解説します。

言語を学ぶときに注目したい脳の部分は言語野

まずは、バイリンガルに限らず、人間が言語を習得するときに脳の中がどうなっているのかを解説しましょう。

下記の脳の図を見てください。言語を習得するときには、赤色・黄色で示した2つの言語中枢が深く関わっています。

運動性言語中枢(ブローカ野)

運動性言語中枢は、言語の発信をコントロールしています。この部位を損傷すると、話を理解することは可能ですが、話を順序立てて組み立て、音韻を発声することが障害されます。

感覚性言語中枢(ウェルニッケ野)

感覚性言語中枢は、言語の受信及び情報処理をコントロールしています。この部位が損傷した場合、人の話は全く理解できず、思考することも障害されます。

どちらが障害されても言語機能を失う失語症になりますが、感覚性言語中枢が障害された場合の方が、ほとんどのコミュニケーションが不可能となるため、重い症状が出ます。

本来、人は赤ちゃんのときに耳で人が話すのを聞きながら言語を習得していきますが、その際には、この2つの言語中枢から構成される言語野を働かせて言語を受信し、音を覚え、意味を理解し、自分の言葉として発するようになっていくのです。

バイリンガル脳との違いは脳の構造?

2つの言語中枢からなる言語野の場所やあり方はほとんどの人類で同じ構造をしています。母国語が日本語でも英語でも中国語でも変わりません。

しかし、2カ国語を理解して使いこなすバイリンガルと、母国語のみを使用するモノリンガルの脳を比較すると、様々な部位で脳の構造が異なることが分かっています。それが、先ほどの脳の図の青色の部位です。

バイリンガルの脳は、モノリンガルよりも青色部分の神経細胞が増えており、通常の言語野を含めたさまざまな領域とのネットワークが強化されているのです。そして、このような変化をした脳のことを、最近ではバイリンガル脳とよぶ人もいます。

【バイリンガル脳の特徴】違いは言語力だけじゃない

バイリンガル脳は、単に外国語を記憶しているだけではありません。なぜなら、外国語の知識を身に付けただけでは外国語を使いこなせませんよね。例えば、複数の言語が頭の中にあるということは、話す相手や場面によって、どの言語で使うのかを切り替える能力が必要になりますが、それを脳の中を異なる方法で活性化させることで行っています。

この切り替えスイッチ(コードスイッチング)こそ、バイリンガル脳の最も重要な機能と言われているのです。

脳の中で言語モードを“切り替える”ためには、使用しない脳の部位を抑制し、使用する部位へ注意を向けなければなりません。とても注意と集中力が必要ですが、バイリンガル脳はスイッチングをスムーズに行います。そして、このスイッチングはワーキングメモリーの増加にも役立っています。

ワーキングメモリーとは短期記憶のこと。日常のあらゆる場面で求められる力です。例えば、ワーキングメモリーが乏しいと、会話をする際に相手の話を覚えておくことができず適切な反応ができません。また、学校で課題を解く際、教科が何であれ、複数の情報を覚えておくことができれば問題を解く力は高くなります。

バイリンガルはモノリンガルよりIQが高い傾向があるというデータもありますが、知的活動の中核を担っているワーキングメモリーが鍛えられているからかもしれません。

また、バイリンガル脳は認知症を発症しにくかったり、脳卒中や外傷などで脳を損傷した場合にも回復が早かったりなの特性があるんですよ。

では、日本で生まれ育ったモノリンガルでも、自発的に英語学習をすることで脳の変化をもたらすことはできるのでしょうか。

英語学習でバイリンガル脳は育てられるか

スウェーデンの心理学者であるモーテンソンらは、18歳の成人男子に軍の通訳養成コースを3ヶ月間受講させ、受講前後の脳構造を調べる研究を行いました。

その結果、冒頭の脳の図の青い部位の大半で神経細胞が増加していました。この反応は、別の集団で医学や認知科学を同じ期間受講した人たちでは起こっておらず、外国語の学習によって起こった脳の変化であることが示されています。

また、言語の獲得能力は子どもの年齢が幼いほど高いということが常識とされてきましたが、実際には、一般に考えられているよりも高い年齢まで脳は変化することが分かっています。2018年にアメリカで70万人を対象に行った研究では、“17.4歳までは言語獲得能力は一定”だと結論付けられているのです。

ただし、このような研究では学習方法や使用する言語が一定ではないので、どのような学習の方法、内容でどの程度脳が変わるのかなどは分かっていません。

ですが、日本人が毎日60個の単語・イディオムを学ぶという英語学習プログラムを16週間行った研究でも脳の変化は確認されています

子どもをグローバルな人材に育てたいという保護者は多いでしょう。もちろん「絶対にバイリンガル脳になれる!」とは言い切れませんが、毎日継続して学習すれば、小学生からでもバイリンガル脳は形成されていく可能性はあるのです。

<参考文献>

・「Microstructural plasticity in the bilingual brain」Luo, D. et al. (Brain Lang,2019)

・「Structural brain changes as a function of second language vocabulary training: Effects of learning context」Legault, J.et al. (Brain Cogn,2019)

・「Effects of Early and Late Bilingualism on Resting-State Functional Connectivity」Berken, J. A. et al. (J Neurosci,2016)

・「On the bilingual advantage in conflict processing: Now you see it,now you don’t」Albert Costa.et al. (Cognition, 2009)

・「Bilingual Education Helps to Improve the Intelligence of Children」Mai Thanh Nguyen.et al. (World Journal of English Language, 2017)

・「Bilingualism as a contributor to cognitive reserve: Evidence from brain atrophy in Alzheimer’s disease」Tom A.Schweizer.et al.(Cortex 2012)

・「Growth of language-related brain areas after foreign language learning」  Johan Mårtensson, et al.(NeuroImage ,2017)

・「A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers」Hartshorne, J. K. et al. (Cognition,2018)

・「Dynamic Neural Network Reorganization Associated with Second Language Vocabulary Acquisition: A Multimodal Imaging Study」Chihiro Hosoda, et al.(The Journal of Neuroscience ,2013)

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Dr. ニューロン

機能脳神経外科医。大学病院に勤務し、研究、臨床、教育に携わる。子供の知性に関する研究も行い、神経心理検査なども自身で行っている。脳神経外科専門医、てんかん専門医、機能的定位脳手術技術認定医。 https://twitter.com/doctor_neuron

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