2020.03.19

昆虫ハンター・牧田習/虫好きから探る将来の可能性【連載③ 好きが仕事になりました】

牧田 習さんが今までに捕まえた昆虫の数は、実に1万2000種! 何よりも昆虫採集に夢中だった牧田さんですが、虫好きを将来に生かしたいという気持ちはなく“ただ、ずっと虫捕りができる環境を保ちたい”と考えていたそう。保護者の中には「子どもの好きが高じて学業や職業につながったらいいな」と考えることもあるのではないでしょうか。連載「好きが仕事になりました」、3回目となる今回は昆虫好きを生かす道について教えてもらいます。虫好きの子を持つ親でなくとも、“好き”が導く可能性のヒントが見つかるかもしれません。

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僕はあまり計画的な人間ではないので「昆虫が好きだから〇〇になりたい」といったように、進路や職業に置き換えて考えることはありませんでした。“世界中の虫を捕まえること”が僕の夢であり目標で、それが幸せだと思ってきました。でも、ブレずに好きを貫いた結果として「昆虫ハンター」としての今があると思っています。お子さんの“好き”や夢を広げる参考に、僕や周囲の経験から虫好きが歩む道をお話しします/牧田 習

 

 

昆虫ハンター・牧田習さんは大学で何を研究している?

まずは、昆虫好きが選んだ大学での研究について紹介しましょう。

 

北海道大学で研究した「昆虫分類学」とは

2015年に北海道大学・総合教育学部に入学。北海道は中学・高校時代の“虫捕りの旅”で一番、楽しかった地でもあります。北海道に移住してさらに“昆虫漬け”の日々を過ごしていたため、1年の4月時点で留年が決定してしまいました…。留年確定後、1年間は語学留学やワーキングホリデーを利用しながら海外で虫捕りをして過ごしました。

 

翌年に帰国、理学部に転部し「昆虫分類学」を専攻することにしました。分類学は生物を分類する学問、簡単にいうと虫を種類分けする学問です。昆虫の種類は日本だけでも3万、世界には2000万種近く存在するともいわれています。

 

毎年、数千種の新種が発表されていますが、僕はこれまでに5種の新種を発見しました。それらを既存の分類種(カブトムシ、トンボといった昆虫の種類)のどこに属するかを調査・研究します。新種というのは、人間によってまだ名前がまだ付けられていない昆虫のこと。研究・調査レポートを学会で発表した後、新種として認定されます。

 

僕が見つけたのは、「ホソカタムシ」の新種。3~4㎜ほどの小さな黒い虫で、台湾とニュージーランドで捕りました。

 

 


牧田さんが発見したホソカタムシの新種(提供:牧田 習)

 

ホソカタムシが昆虫の中で一番好きというわけではなかったのですが、ニュージーランドで虫捕りをするためには研究者である必要があったんです。日本だと自由に虫捕りができますが、それはかなり例外で多くの国では特別な許可がなければできません。海外で勝手に昆虫採集をして、逮捕されたという事例は少なくありません。新種を見つけて研究を進め、それについての書類が提出(研究者であるということを表明)できれば虫捕りの許可が得られますからね。

 

新種を見つけると、昆虫に自分の好きな名前を付けることができます。僕が見つけたホソカタムシには高校時代の先生の名前や、地名をつけました。

 

 

 

 

東京大学大学院では「昆虫進化学」から昆虫にアプローチ

今年の4月から、東京大学の大学院に進学します。「昆虫進化学」というのは大きく括ると虫の進化を辿る学問。「人間も虫も根源たるものがあり、そこから分かれ進化した」というのが今の科学の見解です。その見解をもとにどのくらいの時期に虫が分類していったのか、その時地球上ではどのような変化があったのかを研究したいと思っています。

 

実は、進化学を研究するもう一つの理由としてあるのが虫捕り。分類学では虫捕りの許可が得られない場所も多かったので、進化学まで広げたら採集できる範囲が増えるのではないかと考えています。進化学は、分類学よりも大きな範囲で研究します。分類の際、一番下の系統にあるのが“種”ですが、その上に「科」や「目」というグループがあり分類されます。例えばカブトムシなら「種:カブトムシ 科:コガネムシ科 目:甲虫目」となり、 進化学では「科」や「目」、さらに上の分類系統までを追求するんです。大きなグループで見るためには地球規模で研究する必要があり、いろいろな場所に虫捕りに行く理由になると考えています。

 

結局…僕の場合、全てが虫捕りにつながってしまいますね(笑)。

 

 

昆虫好きといえば、やはり研究職!

大好きな昆虫を「学びだけではなく仕事に生かしてほしい」と考える親も多いのではないでしょうか。

 

博物館の学芸員、昆虫館のスタッフ、昆虫学の大学教授など、虫好きというとこの辺りの職業がイメージできますよね。僕の周りでも目指す人が多い職種です。

 

 

 

 

博物館の学芸員

学芸員は、資料の収集や調査・研究、企画展示、博物館の案内を行う専門職員。博物館を訪れた人たちにさまざまな博物館学についてを分かりやすく伝える重要な仕事で、博物館が担う仕事はとても大きい役割があると感じています。大学で取得する人が多いですが、最近は就職後に学芸員の資格を取得させるという博物館も多いようです。僕の虫好き仲間でも博物館に就職を希望する人は多いのですが、公募で50~100倍あるほど人気の職業。なかなか狭き門のようです。

 

昆虫館のスタッフ

博物館の昆虫部門が独立したものが、昆虫館です。昆虫館だからこそできる独自の展示ができるのも魅力です。学芸員の資格が必要な場合もありますし、そうでない場合もあります。

 

大学教員

自分が一番好きな昆虫について研究し、エキスパートになれるのが大学の教員ではないでしょうか。フィールドワークなどの授業があるため、他の職業と比べても虫捕りをする時間は多いかもしれません。もちろん、授業の準備やたくさんの学生を一度に指導する大変な仕事のため、いつでも虫捕りに出掛けられるというわけではないのですが…。

 

 

昆虫好きを生かす職業は、意外な分野にも

昆虫好きが歩む道の“変わり種”というか、昆虫メインではなく農業や環境分野からアプローチする職業もあります。

 

環境アセスメント

環境アセスメントとは…

開発事業の内容を決めるに当たって、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、あらかじめ事業者自らが調査、予測、評価を行い、その結果を公表して一般の方々、地方公共団体などから意見を聴き、それらを踏まえて環境の保全の観点からよりよい事業計画を作り上げていこうという制度

環境省「環境影響評価情報支援ネットワーク」より

 

高速道路やビルを新しく作るという時“どのくらい周りの環境に影響を与えるか”、“工事の前後で生物層を調査し、どのくらい変わったか”などを調べる事業で、環境調査会社などが就職先になります。僕も学生時代、何度か環境アセスメントのアルバイトをしたことがありますが視界に入る虫を捕れるだけ捕ったり、大都会の中で行ったりするので、昆虫採集としての虫捕りとはイメージが異なります。

 

 

 

 

益虫・害虫を調査する農業施設

農業など人の生活において害となる昆虫を「害虫」、害虫を食べたり受粉を媒介したりして、農業や人の生活に役立つ昆虫を「益虫」といいます。

 

益虫・害虫についてを調査する機関があり、そこで研究員として働く道もあります。例えば稲の害虫としてイナゴが知られていますが、イナゴを捕食するクモやカマキリは田んぼにとっては益虫になる可能性があります。それがどこまでどのように影響を与えているのかを調べるんです。

 

環境アセスメントや益虫・害虫については、夏休みの自由研究のテーマとしてもオススメです。職業選択のきっかけ作りになるかもしれませんし、“好き”や“知りたい”という子どもの気持ちを掘り下げることができますよ。

 

 

海外では虫好きにスポンサーが付く!?

海外では博物館学や昆虫に対する社会的意識が高いと感じています。海外では、昆虫採集に許可申請が必要な国が多いと先述したことからも納得できるのではないでしょうか。重要なことだと多くの人が認識しているため、そこに投資することも自然なんです。スポーツ選手の場合、スポンサー契約を結ぶ人が多くいますよね。大英博物館の学芸員にはそのような感じでスポンサー契約を結んでいる人が結構いるんですよ。企業などからの投資を受け、虫捕りをして社会に還元していくという仕組みができています。

 

日本では、博物館学(動植物や鉱物・地質などの自然物を扱う学問)に対する意識が高いとは感じません。僕がタレント活動をする中で目標としているのが、海外のように博物館学や昆虫の存在意義を高めること。スポンサー契約を結んで昆虫採集ができたら、幸せだなあ(笑)。

 

 

昆虫好きを極める過程での出合いもある

虫が好きで昆虫採集をしたりいろいろ調べたりしている中で、新しい“好き”や“きっかけ”が生まれる可能性もあります。

 

僕の場合、虫捕りの移動のために利用していた電車がきっかけで、電車の時刻表集めにハマった時期がありました。もともと数字を見るのが好きなのもあったのですが、西日本にある駅は全部、時刻表を集めましたね。

 

それと、僕は小さい頃から運動が苦手だったのですが虫捕りでは長い虫網(7~10mくらいのもの)を振り回すためには筋力が必要でした。北海道では地上10m付近を飛ぶカミキリムシがいるのですが、虫網を振り回す筋力がなく、捕まえることができなかったんです…。そこで行ったのが、筋トレ。苦手なことも、好きなもののためなら頑張れるんだと感じた経験でした。

 

 


牧田さんが飼っている「コーカサスオオカブト」(提供:牧田 習)

 

 

僕のように虫が本当に好きなのであれば虫に関わる何かしらの活動ができることを前提に、そこから職業選択に進むのが大事だと感じています。職業も社会的地位も与えられるものではなく、社会で自分がつかみ取っていくもの。主体的に積極的に動き、社会の中で自分が求める条件に合う場所を見つけなければなりません。僕の場合は、タレント活動や大学院での研究活動を通して、自分が目指す社会的ポジションをつかんでいけたらいいなと思っています。

 

好きなことを仕事にできたら幸せですが、その逆が不幸せというわけではないですよね。大学時代の友人の中には、昆虫とは全く関係のない職業を選択した人も多くいます。世界中で昆虫採集をするためには、旅費や滞在費だけでもかなりの資金が必要になります。一般企業に就職して資金を貯めて、ある程度の年齢になったら海外に移住して虫捕り生活をすることを目標にしている人もいますよ。

 

小・中学生の子どもにとって、将来の可能性は未知数。好きを極めること、好きから新しい可能性を見つけること、学生時代だからこそできる経験をたくさん積んでいく中で将来の夢や目標を見つけられるんじゃないかなと思います。

 

牧田 習

牧田 習

昆虫ハンター。1996年、兵庫県宝塚市生まれ。オスカープロモーション所属。2015年北海道大学 総合教育部入学、現在は理学部に転部。特技は三線、小学5年生時に取得したダイビングのライセンス資格を所持。昆虫研究家として出演した「アウト×デラックス」(フジテレビ)で注目を集め、以降テレビやラジオなど各メディアでも活躍中。2020年4月からは東京大学大学院に進学。

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