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2019.11.12

学校があてにならないとき教育委員会は解決に動く?/いじめ探偵・阿部泰尚【第4回】 

今までに6000件以上いじめの実態調査を引き受けてきた探偵の阿部泰尚さん。いじめの専門家として講演を行うこともある彼が見て感じてきた“いじめ”について。テレビドラマではよくある「教育委員会に訴えてやるからな!」という親のセリフ。しかし、いじめの際、実際に教育委員会は力になってくれるのでしょうか? 今回は「学校と教育委員会」についてのお話です。

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そもそも教育委員会は学校運営のサポート団体

いじめに対する学校の対処が後手になると、いつまで経ってもいじめが改善せず関係者には苛立ちが募るものです。

テレビの学園ドラマなどでは、生徒や保護者が「教育委員会に言いつけてやる」などと学校や教師を脅すシーンがあったりします。また、いじめの電話相談でも、いじめの解決になかなか動き出さない学校を動かすために保護者が教育委員会に相談したという報告を受けることもありますし、インターネットで“いじめの解決”と検索しても、学校が動かない場合は教育委員会に働きかけるべきといった方法が出てきます。

以上のことを考えると、学校にとって教育委員会は恐ろしい存在のように思えますが、それは間違いです。教育委員会は保護者の味方ではありませんし、誰の味方でもありません。

文部科学省によると、教育委員会の意義は「政治的中立性の確保」「教育の継続性、安定性の確保」「地域住民の意見の反映」の3つです。“ いじめに関して機能する”といった記載はありません。つまり、教育委員会は学校運営のサポートを主体とした団体で学校の自治を尊重するものなのです。

極端な例でいえば保護者がいじめの解消のために教育委員会に助力を願っても、教育委員会は学校長からの要請を優先するのです。 教員と教育委員会は人事交換をしているケースもあり、会社でいう部署のような扱いになっている地域もあります。

ですから何か問題が起こった時に、教育委員会が人事権を行使して学校を指導するということはあまり考えられません。学校と教育委員会の関係は、上も下もないのが実情です。

教育委員会もいじめについて考える組織

以前、私が担当した事例で、学校長が頻繁に交代し、いじめの情報が引き継がれなかったことが原因で後任の学校長が判断ミスをしてしまい、いじめが解決できなかったことがありました。

このとき、教育長に「いじめを解決してほしい」という小学生からの手紙と状況を整理した報告書、被害を受けた物品などの写真を渡したところ、教育長は小学生からの手紙に返事を書いてくれました。

いじめが裁判に発展した場合、手紙のやり取りは教育長にとって不利に働くこともあります。実際、弁護士や教育委員たちからは、手紙のやり取りを制止する声もあったようです。

ですが、この教育長は「子供の気持ちに応えられないならば教育長を辞しても構わない」と手紙を書きました。 この教育長は、その後もいじめの解決などについていろいろな働きをしていました。

教育委員会はいじめを予防し、解消していくためにどうすればよいのかを考える組織であることは間違いありません。

また、教育委員会や学校の設置者としての地方公共団体の役割は、いじめ防止対策推進法にも記載されています。いじめを予防するための対策を行い、いじめ防止連絡協議会がある場合などは学校と連携していじめの防止と解消の活動をしたり、必要があれば第三者委員会などの設置をすることができます。

私立校は教育委員会の力が影響しない

ちなみに「いじめ防止対策推進法」は、インターネットで検索すれば誰でも気軽に読むことができます。条文も多くはありません。

一度読んでもらうとわかると思いますが、いじめの解消は簡単なことではありません。国を含めて学校や教育委員会、保護者や当事者、警察や法務局、地域など様々な人や機関が協力し連携して解消していかなければならないことなのです。

教育委員会を学校の天敵とするのは誤りで、むしろいじめに立ち向かうために協力、連携していく関係です。 ただし、私立校は教育委員会の力が影響しません。

私立校の場合は、学校運営側である校長や教頭などの管理職、その上位組織としての理事会で構成されているケースがほとんどです。理事には保護者が入っていることもあり、いじめについての定義を知らなかったり、基本的な対策も知らないこともままあります。

なにか問題が起きた場合は、地方自治体の長への報告をすることもありますが、通常は「私学振興課」が助成金や補助金などを主に管理しています。

つまり、いじめについて別組織が協力連携するという仕組みは、制度上、整備されていません。 ですから、いじめ対策に積極的でない私立校では、いじめが常態化してしまう傾向があります

「いじめはない」と言い切る学校は疑ってみる

どんな学校でも「100%いじめはない」と言い切ることは、各種データから見て現実的だとはいえません。仮にそのような学校があれば、全国的ないじめ対策の成功事例としてモデル化されていることでしょう。

学校を選ぶ際に「当校にいじめはありません」といわれたとしても、嘘と考えてまず間違いはありません。逆に「いじめについては予防教育をしていますが、起きてしまうことはあります。その代わり、早期に発見し、早期に解消するように対策をしています。」とアナウンスしてくれる学校であれば、いじめの実態をしっかり把握し解消のために努力しているのでしょう。

私立校は、教育委員会などの組織がないだけに独自の取り組みで退学などの処分の行使も可能だということも知っておくとよいでしょう。

阿部泰尚

特定非営利活動法人ユース・ガーディアン 代表。 1977年、東京都中央区生まれ、東海大学卒業。 2004年に、日本で初めて探偵として子どもの「いじめ調査」を行ない、当時ではまだ導入されていなかった「ICレコーダーで証拠を取る」など、革新的な方法を投入していき解決に導く。 それ以来、250件を超えるいじめ案件に携わり、NHK「クローズアップ現代」をテレビ朝日、TBSラジオ、朝日新聞、産経新聞他多くのメディアから「いじめ問題」に関する取材を受け、積極的に発言をし続けている。日本テレビ「世界仰天ニュース」でもいじめ探偵として取り上げられている。 著書に「いじめと探偵」 (幻冬舎新書 2013/7/28)。日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー、国内唯一の長期探偵専門教育を実施するT.I.U.探偵養成学校の主任講師・校長も務めている。

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